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魔術の憂鬱
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チリアの商店街を回ってみて、鏡に映るセシリアの姿が全く別の女の子に見えているらしいことが、わかり、フィニアンに尋ねた。
「あなたの安全にためにそうしたのです。ルーレシアの皇太子に捕まりたくないでしょう?あなたをあそこから連れ出すことはできても、あの皇子を相手に守りきることは私には無理ですからねえ。ごまかすので手一杯です」
「ええ」
確かに。エリアスは大陸で1、2を争う魔術師だとエリアスがいっていたが、魔法騎士ではないのだ。たくさんの兵士を相手にセシリアを守りきることはできない。
「城からいなくなればあの皇太子があなたを探すのは目に見えてましたから、ちょっと細工をしておきました」
呑気な声で、仕事が終わった魔術師のローブから普段着に着替えながらフィニアンがいう。
セシリアは鏡の中の己の姿を覗き込みながら会話を続ける。
いつもと変わらない金髪とブルーの瞳。
「私の目には全然変わってないわ」
「ええ。私とあなた以外には全く別の姿に見えるように魔術をかけてあります」
ではやはり、あの時、エリアスはセシリアとはわからなかったのだ。
よかった。軽蔑されたわけではなかった。
「その魔法での私は、どのように見えているの?」
フィニアンが詠唱を唱えると、黒髪に緑の瞳のふくよかな少女が写った。少し縮れ気味の髪、そばかすだらかの顔、人懐っこい顔だとは思うけれど、決して美人でも可愛くもない。
「まあ、本当に別人なのね…」
「ええ。少しでも似ていたら意味がありませんしねえ」
「ええ、そうだけど」
目の前の少女の姿が見慣れた自分の顔に戻る。
エリアスがわからなかったとしても無理はない。全くの別人だから。
「元に戻すことは無理かしら?」
「できますが、ルーレシアの皇太子に見つかってもいいんですか?」
「それはっ!」
もしエリアスとこの姿で再び会うことができたとしても、全く違う姿の「私」を愛してくれるかしら?
セシリアは自信がなかった。彼がセシリアを愛していることはわかるけれど、
それは「見かけ」も含めたセシリアである、と思うからだ。
セシリアは贔屓目に見ても決して可愛いとはいえない少女の姿を見て、少し落ち込んだ気分になった。
「何も問題はないでしょう?私にもあなたにも普段にあなたのままですし」
「そうだけど」
「戻すのは危険です。私とこのままの姿で過ごすことが一番安全です」
「…‥…」
「さあ、お腹が空いたでしょう?晩御飯を食べに行きましょう!」
「ええ」
「この調子でいけばもうすぐ深淵の森に帰れます」
「…‥…」
このまま深淵の森に帰り、この姿のままでひっそりと生きて行く?
エリアスに嫌われたのでないとしたら、やはりそれは無理だと思った。
私はエリアスと生きて行きたい。
それがたとえ自身を危険にさらすことになっても。
あの騎士の腕の中で共に死に絶えることになっても、一緒にいたいと思うのだ。
エリアスに連絡を取らなければ。私がここにいるという事を知らせなければいけない。
ヘルガを介してなら、それは可能だろう。
でも、この姿のセシリアでも彼は受け入れてくれるだろうか?
「セシリア?」
「なんでもないわ」
彼がどういう反応をするかどうかなんて、会ってからじゃないとわからないわ!
セシリアは、気を取り直して、いつもの定食屋に急ぐ魔術師の後を追った。
◇ ◇ ◇
その夜、通信用の鳩にガートランドまでの行き方と内容を念話で伝えた。ヘルガの国の言葉で、「セシリアはチリアの深淵の魔術師の元にいますとエリアスに伝えて」と。セシリアの国では魔力の使えない人間がほとんどだが、王家の人間からわずかながらに念話ができるのだ。それも直接ではなく、動物を介さないとならなかったが。ほとんど動物の寄り付かない塔では使えない手段だったけれど。これをヘルガに送ろう。ヘルガならば、エリアスの居場所がわかるだろう。
お願いね。
セシリアは手紙のついていない鳩を空に放った。
それから、王家に伝わる「願いを現実にする方法」を眠りに落ちる前にやって見る事にした。セシリアにはわずかな魔力しかないけれど、願いを現実にする方法なら知っている。それは自分が実際にその場面にいる事をイメージして、その感情を「感じる」のだ。イメージを実際に体験するから自分の姿は見えない。セシリアは大好きなエリアスに抱きしめられている自分を想像した。彼の声、彼の匂い、彼の温もりを現実のように感じて、幸せな気分の中で眠りについた。
「あなたの安全にためにそうしたのです。ルーレシアの皇太子に捕まりたくないでしょう?あなたをあそこから連れ出すことはできても、あの皇子を相手に守りきることは私には無理ですからねえ。ごまかすので手一杯です」
「ええ」
確かに。エリアスは大陸で1、2を争う魔術師だとエリアスがいっていたが、魔法騎士ではないのだ。たくさんの兵士を相手にセシリアを守りきることはできない。
「城からいなくなればあの皇太子があなたを探すのは目に見えてましたから、ちょっと細工をしておきました」
呑気な声で、仕事が終わった魔術師のローブから普段着に着替えながらフィニアンがいう。
セシリアは鏡の中の己の姿を覗き込みながら会話を続ける。
いつもと変わらない金髪とブルーの瞳。
「私の目には全然変わってないわ」
「ええ。私とあなた以外には全く別の姿に見えるように魔術をかけてあります」
ではやはり、あの時、エリアスはセシリアとはわからなかったのだ。
よかった。軽蔑されたわけではなかった。
「その魔法での私は、どのように見えているの?」
フィニアンが詠唱を唱えると、黒髪に緑の瞳のふくよかな少女が写った。少し縮れ気味の髪、そばかすだらかの顔、人懐っこい顔だとは思うけれど、決して美人でも可愛くもない。
「まあ、本当に別人なのね…」
「ええ。少しでも似ていたら意味がありませんしねえ」
「ええ、そうだけど」
目の前の少女の姿が見慣れた自分の顔に戻る。
エリアスがわからなかったとしても無理はない。全くの別人だから。
「元に戻すことは無理かしら?」
「できますが、ルーレシアの皇太子に見つかってもいいんですか?」
「それはっ!」
もしエリアスとこの姿で再び会うことができたとしても、全く違う姿の「私」を愛してくれるかしら?
セシリアは自信がなかった。彼がセシリアを愛していることはわかるけれど、
それは「見かけ」も含めたセシリアである、と思うからだ。
セシリアは贔屓目に見ても決して可愛いとはいえない少女の姿を見て、少し落ち込んだ気分になった。
「何も問題はないでしょう?私にもあなたにも普段にあなたのままですし」
「そうだけど」
「戻すのは危険です。私とこのままの姿で過ごすことが一番安全です」
「…‥…」
「さあ、お腹が空いたでしょう?晩御飯を食べに行きましょう!」
「ええ」
「この調子でいけばもうすぐ深淵の森に帰れます」
「…‥…」
このまま深淵の森に帰り、この姿のままでひっそりと生きて行く?
エリアスに嫌われたのでないとしたら、やはりそれは無理だと思った。
私はエリアスと生きて行きたい。
それがたとえ自身を危険にさらすことになっても。
あの騎士の腕の中で共に死に絶えることになっても、一緒にいたいと思うのだ。
エリアスに連絡を取らなければ。私がここにいるという事を知らせなければいけない。
ヘルガを介してなら、それは可能だろう。
でも、この姿のセシリアでも彼は受け入れてくれるだろうか?
「セシリア?」
「なんでもないわ」
彼がどういう反応をするかどうかなんて、会ってからじゃないとわからないわ!
セシリアは、気を取り直して、いつもの定食屋に急ぐ魔術師の後を追った。
◇ ◇ ◇
その夜、通信用の鳩にガートランドまでの行き方と内容を念話で伝えた。ヘルガの国の言葉で、「セシリアはチリアの深淵の魔術師の元にいますとエリアスに伝えて」と。セシリアの国では魔力の使えない人間がほとんどだが、王家の人間からわずかながらに念話ができるのだ。それも直接ではなく、動物を介さないとならなかったが。ほとんど動物の寄り付かない塔では使えない手段だったけれど。これをヘルガに送ろう。ヘルガならば、エリアスの居場所がわかるだろう。
お願いね。
セシリアは手紙のついていない鳩を空に放った。
それから、王家に伝わる「願いを現実にする方法」を眠りに落ちる前にやって見る事にした。セシリアにはわずかな魔力しかないけれど、願いを現実にする方法なら知っている。それは自分が実際にその場面にいる事をイメージして、その感情を「感じる」のだ。イメージを実際に体験するから自分の姿は見えない。セシリアは大好きなエリアスに抱きしめられている自分を想像した。彼の声、彼の匂い、彼の温もりを現実のように感じて、幸せな気分の中で眠りについた。
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