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旅立ち
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ガートランドの宮廷魔術師、ヘルガからの鳩が帰ってきたのは、エリアスの腕の中でまどろんでいた朝明けの頃だった。
「ヘルガからだわ!」
鳩には手紙が付けられており、「船を介して、チェシャーフィールド公国」に向かうように。というメッセージが書かれていた。
エリアスはその手紙をセシリアから受け取ると、
「チェシャーフィールドなら、ルーレシアとは敵国だから、そちらから、我が祖国に向かう方が安全ですね」
「ええ。ヘルガに私がチリアにいる事を伝えてと、鳩を送ったの。だけど、私たちが既に会っていることをヘルガは視えていたようね」
「それで、鳩が来たんですね?」
「ええ」
エリアスはハインリッヒの影がフィニアンによって追い払われただろう事を知っていたが、あと2週間ほどで、ハインリッヒがチリアに訪れた後、ここにセシリアがいないとわかれば、再び影たちを放つ事を知っていた。
「今、このメッセージがきたということは、すぐに発った方が良さそうですね」
「ええ。私は何も持って行くものがないから、今すぐでも大丈夫よ」
セシリアはフィニアンとの旅に持って来た少しばかりの私物と洋服を宿屋に置いたままにしていたが、取りにいかなければならないほど、重要な物ではない。
セシリア本来の姿に戻ってしまった現在、外を歩くのは良いアイデアではなかった。
「では、少しばかりの旅の準備を私がしますから、セシリア様はここでお待ちいただけますか?」
「ええ。わかったわ」
「その前に食事をこの部屋に運んで来ますから、少々お待ちくださいね、姫?」
「ありがとう。エリアス」
エリアスは宿屋の下の飯屋兼酒場から、セシリアと自分の分のパンと果物を持ってくると、
「できるだけ、急いだ方がいいので」
とりんごを1つ掴んで、部屋を後にした。
セシリアはシャワーを浴びて、体を拭いた後、元の服に着替えようとしたが、フィニアンの宿にあった筈の洋服やセシリアの私物が皮袋に詰められて置いてあったので、首を傾げながら、それに着替えた。
食事はエリアスが帰って来てから一緒に取ろうと思っていたので、テーブルにある水差しに手を伸ばしたが、そこに手紙がある事に気づいた。
セシリアへ
君との生活で孤独を癒すことができた。君との生活がずっと続く事を願っていたが、
私は君の笑顔を守る方を選ぶ事にした。
君の荷物は魔法で運んで置いた。
ハインリッヒに気をつけて。
別れの挨拶はなしだよ。また会う日まで。
エリアスと幸せに。
フィニアン
「まあ!」
深淵の森の魔術師、フィニアンがセシリアの荷物を魔法で運んでくれたのだった。
それからまもなくして、エリアスが部屋に戻って来た。セシリアの服と、旅に必要な物を買い揃えて来たようだったが、セシリアの荷物が魔法で運ばれた事を聞いて、微笑んだ。
「良かったですね」
「ええ。これで支出が減るわ。あまりエリアスに負担をかけたくないの」
「あなたを幸せにするために私がいるんですから、遠慮はしないでください。私たちは夫婦になるのですから」
セシリアはエリアスの腕に抱きしめられながら頷いた。
「ありがとう。エリアス」
「次の船は後2時間で出ます。チェシャーフィールドとガートランドはわずかながら国交がありましたから、そこで数日過ごして体調を整えてから、我が祖国へ参りましょう」
「ええ」
セシリアは美しい空色の瞳でエリアスを見つめた。
「チェシャーフィールドは普通とは違う国ですので、私のそばから離れないでくださいね?」
「わかったわ」
二人は旅の支度を終えると、テーブルに座って、食事を取りながら、今後の予定を話し合った。
「ヘルガからだわ!」
鳩には手紙が付けられており、「船を介して、チェシャーフィールド公国」に向かうように。というメッセージが書かれていた。
エリアスはその手紙をセシリアから受け取ると、
「チェシャーフィールドなら、ルーレシアとは敵国だから、そちらから、我が祖国に向かう方が安全ですね」
「ええ。ヘルガに私がチリアにいる事を伝えてと、鳩を送ったの。だけど、私たちが既に会っていることをヘルガは視えていたようね」
「それで、鳩が来たんですね?」
「ええ」
エリアスはハインリッヒの影がフィニアンによって追い払われただろう事を知っていたが、あと2週間ほどで、ハインリッヒがチリアに訪れた後、ここにセシリアがいないとわかれば、再び影たちを放つ事を知っていた。
「今、このメッセージがきたということは、すぐに発った方が良さそうですね」
「ええ。私は何も持って行くものがないから、今すぐでも大丈夫よ」
セシリアはフィニアンとの旅に持って来た少しばかりの私物と洋服を宿屋に置いたままにしていたが、取りにいかなければならないほど、重要な物ではない。
セシリア本来の姿に戻ってしまった現在、外を歩くのは良いアイデアではなかった。
「では、少しばかりの旅の準備を私がしますから、セシリア様はここでお待ちいただけますか?」
「ええ。わかったわ」
「その前に食事をこの部屋に運んで来ますから、少々お待ちくださいね、姫?」
「ありがとう。エリアス」
エリアスは宿屋の下の飯屋兼酒場から、セシリアと自分の分のパンと果物を持ってくると、
「できるだけ、急いだ方がいいので」
とりんごを1つ掴んで、部屋を後にした。
セシリアはシャワーを浴びて、体を拭いた後、元の服に着替えようとしたが、フィニアンの宿にあった筈の洋服やセシリアの私物が皮袋に詰められて置いてあったので、首を傾げながら、それに着替えた。
食事はエリアスが帰って来てから一緒に取ろうと思っていたので、テーブルにある水差しに手を伸ばしたが、そこに手紙がある事に気づいた。
セシリアへ
君との生活で孤独を癒すことができた。君との生活がずっと続く事を願っていたが、
私は君の笑顔を守る方を選ぶ事にした。
君の荷物は魔法で運んで置いた。
ハインリッヒに気をつけて。
別れの挨拶はなしだよ。また会う日まで。
エリアスと幸せに。
フィニアン
「まあ!」
深淵の森の魔術師、フィニアンがセシリアの荷物を魔法で運んでくれたのだった。
それからまもなくして、エリアスが部屋に戻って来た。セシリアの服と、旅に必要な物を買い揃えて来たようだったが、セシリアの荷物が魔法で運ばれた事を聞いて、微笑んだ。
「良かったですね」
「ええ。これで支出が減るわ。あまりエリアスに負担をかけたくないの」
「あなたを幸せにするために私がいるんですから、遠慮はしないでください。私たちは夫婦になるのですから」
セシリアはエリアスの腕に抱きしめられながら頷いた。
「ありがとう。エリアス」
「次の船は後2時間で出ます。チェシャーフィールドとガートランドはわずかながら国交がありましたから、そこで数日過ごして体調を整えてから、我が祖国へ参りましょう」
「ええ」
セシリアは美しい空色の瞳でエリアスを見つめた。
「チェシャーフィールドは普通とは違う国ですので、私のそばから離れないでくださいね?」
「わかったわ」
二人は旅の支度を終えると、テーブルに座って、食事を取りながら、今後の予定を話し合った。
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