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本編

サーティス様は俺様

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アリステア様との婚約パーティーがすんで、ホッとしていたわたくしに飛び込んできたニュースは意外なものでしたわ。

「ちょ、ちょっとお父様、どういうことですの?」

「すまない、レティシア、宰相という立場上、きっぱりと断れなかった」

「わたくしは、アリステア様と婚約しているんですよ?」

「それは向こうも了承済みだ。とりあえず、会いに行ってきていくれるな?」

「…行ってきっぱりお断りしてきますわ!」

わたくしは無理やりセットアップされたサーティス様のお茶会に抗して出席することになりましたの。


*****

別に好みの相手でないからといって、どうでもいい格好をしていけるわけではありませんもの。アリステア様の婚約者ということは王家の代表としても見られる可能性もなきしにもあらず、ですから。

「お嬢様、何かあれば、サーティス様を眠らせましょう」

サラスがとんでもない提案をしてきたけれど、

「まあ、お話をするだけなら、問題はないわ。あの方も王族でしょう?変な行動は起こさないと思うわ」

そういいながら、肌の露出の少ないドレスを着て、北の国のお茶会の開かれる公館に入っていくと、期待していた他の貴族はいなくて、サーティス様とわたくし(そしてサラス)だけのお茶会がセットアップされていましたわ。

「サーティス様」

「レティシア、会いたかった。さあ、君のために特別の席を用意した。菓子も異国から取り寄せた」

「サーティス様、ありがとうございます。わたくしこの度、シャルトル公爵家のアリステア様と…」

「知っている。ルクレツィアの王族との約束を果たすことにしたのだよね?」

わたくしの言葉を遮って、サーティス様がいう。

「ええ。ですから、婚約者以外の方と2人きりでお茶会は…」

「我が国では全く問題にならないから、心配ない」

「いえ、わたくしの国では問題になります。褒められたことではありませんわ」

「公爵家から公爵家に嫁に行くよりも、王家の側室としての暮らしの方が、いいと思うが。経済的にもだが、ルクレツィアとの関係もより良くなる」

「わたくしは王族ではありません。他国との関係は大切ですが、ブラッドフォードに生まれた者としての義務は、自国の王家と交わされた約束を守ることのみですわ」

わたくしはテーブルにある色とりどりの異国のお菓子に手をつけることもなく、はっきりとサーティス様の誘いを断った。

「男女の恋は約束などに制限されることではないと、思うけれど。我が側室になれば必ず幸せにしてやる」

「サーティス様、ありがとうございます。でもわたくしは異国に嫁ぐつもりはありませんの。それにもうわたくしはアリステア様のものです」

「まだ結婚はしていないだろう?」

「ええ。でもわたくしの決心は変わりませんわ」

「レティシア、君はまだ私のことを知らないからそんなことがいえるのだ」

「サーティス様、わたくしは他国の王家の側室になる器ではありませんわ。貴族の娘としては失格かもしれませんが、一夫多妻制は私には合いませんわ。それにサーティス様の側室の方々は他国の王族の姫がほとんどではありませんか」

「我が国の男爵家の令嬢もいる。だから問題ない」

サーティス様は何故かドヤ顔でわたくしの間違いを訂正しましたわ。

「いえ、わたくしが、気にするのです。わたくしは好きな殿方を他の方とシェアするのは好みません」

わたくしの言葉に顔を赤くさせたサーティス様がいう。

「それは、私に対する愛の言葉ということか?」

「サーティス様」

「私を独り占めしたいのはわかるが、王族の義務としてたくさんの子孫を残すことが大切だから、それは無理だ。でもお前を1番に可愛がることはできる」

「いえ、そういうことをいっているわけではないのです」

「そういうことだろう?」

だんだんサーティス様との距離が近くなってきていますわ。息遣いもわかるぐらいに。

近すぎますわー!

「あの、サーティス様」

サーティス様はわたくしの手を掴むとその指先に口づけをされましたわ。

「あっ…、あのっ、わたくしは婚約者のいる身です。このようなことをなさっては!」

「少しぐらいいいだろう?気ににすることはない」

「いえ、わたくしが、気にします!」

わたくしは空いてる手をなくす為に扇を広げましたわ。

他国の殿下の手を振り払うことはできませんもの。

「殿下の側室なんて畏れ多いお言葉ですわ。わたくしとアリステア様の婚約は成立しております。なので、サーティス様の元に嫁ぐことはできませんわ」

「レティシア、私に任せておけ。何とかする」

「いえ、もう決まったことは覆せませんわ。わたくし達の婚約は王家でも承認されていることですし」

サーティス様はわたくしの家と王家の約束の詳細について知らないけれど、膨大な魔力を持っていることを知られた上で、王家が他国の王族にわたくしを渡すことはありませんわ。サーティス様の国では魔力の持つ者が王族と少数の貴族を除いてほとんどいない為、魔法道具の開発が進んでいる国だけれど、膨大な魔力を持つ者を他国に手放すことは政治的にも我が国に何の特にもならないからですわ。

「必ず、君の気持ちを変えてみせる。私が本気になって落ちなかった女はいない」

「国際問題になるのでお断りいたします」

そしてわたくしは異国のお菓子を肴にサーティス様の恋の武勇伝を聞くことになったのでした。

まあ、好きでもないお方の恋愛遍歴を聞いても心は動きませんでしたわ。

とりあえずサーティス様にもう会うのは止めようと決心した出来事でした。
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