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カボチャとナッツのメープルサラダ
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すべての夢はどこに繋がっているのか。
彼を目覚めさせてはいけない。
これは警告だ。
人がどこにもいない街。
気候から、地中海あたりだと思う。
日本にしては湿気が少ないし、建物が平べったくて全体的に黄色っぽい。
もちろん、地理の資料集しかみたことがない僕の当てずっぽうの知識だけど。
「カタツムリの天敵はハリネズミなんだってさ」
夢の中で、少女に出会った。
「あんた、誰?」
目の前に突然現れたのではなかった。
突然この不思議な場所に現れたのは自分の方だ。
「あなたはツカサ君ですよね」
見覚えがない。
「あー、そういえば。はじめまして、なんでした。この世界はあなたが見ている夢なんですが、繋がっているみたいですね」
「繋がっている?」
訳がわからなくて、質問することしかできない。
「ええ、たしかに。あなたは事故以来、眠り続けているわけですが。夢というのは浅い眠りの時に見ることが多いんですよね」
「レム睡眠」
「そう、だからツカサ君はいつでも目が覚めそうなぐらい浅い領域にいるんです」
「どれくらい眠っていたんだろう」
「2年くらいかな」
「そっかぁ。じゃあオリンピックは終わったんだね」
「ええ、お姉さんに頼まれて私はあなたの夢に干渉しているのですが」
「姉ちゃん!?そうなんだ」
「残念ながら、事はそう簡単には進まないようですね」
彼女の目線は僕の背後に向けられる。
「え?」
振り向くと、そこには鎧のような皮膚に覆われた巨大な異形の化物が立っていた。
ネズミのような顔をしているが、その前歯は鋭く尖っており、兎のように耳がピンとたっていた。
目は退化しているのか聴覚で周囲の様子を伺っている。
「自分の夢の中で死ぬことは珍しくないですが、ここはあなたの夢の中ですから、どうなるか解りません」
「逃げよう」
「しぃー、やり過ごしましょう。幸い見えてはいないようです」
「鼻が利くかもしれませんよ」
「それでも、今動くのは得策ではありません。試したいことがあります。」
と言って彼女は建物の中に入るように促した。
玄関の鍵は開いていて、簡単に中に入ることができた。
粗末なベッドと木組みでできた椅子。
それからいくつかの本がそこにはあった。
「あなたは、ある程度ならこの夢をコントロールできるはずなんです」
そういって彼女は、ハリネズミの飼育方法という本を提示してみせた。
「ハリネズミは、大きな音が苦手」
「それから、えーと。天敵はコヨーテ」
本は日本語だったので、問題なく読むことができた。
「大きな声でコヨーテの遠吠えを再現しましょう」
「コヨーテなんて、日本にいないよ」
「そう、昔は上野動物園にもいたらしいですよ」
ペラペラと本をめくり、少女が答える。
「少し高くて細長くて哀しげな声」
「ふぁうぉーーーーん」
「ふぁぁうぉーーーん」
二人で出来るだけ高い鳴き声を再現してみる。
効果はてきめんで、巨大なネズミの化物は焦ったように壁に体をぶつにけながら走り去っていく。
「ところで、あれってハリネズミなんですか?」
「たぶん、違うと思う」
あらためて部屋の中を見渡すと、人が住んでいた形跡がまったくない。
生活感が感じられない。
「目が覚めたら最初に何がしたい?」
「わからない。でも朝ごはんを食べるかな」
「はは、そうだね」
「カボチャサラダとパンが食べたいなぁ」
「朝からそんなの食べるの?」
「メープルシロップ入りの甘いやつ。姉ちゃんがいつも買ってくる」
「朝はコーヒー?」
「コーヒーは飲めないから牛乳」
「じゃあ、早く目を覚まさないとね」
「うん、でもどうしたらいいんだろう」
「銀の鍵を探すのよ」
「銀の鍵?」
「夢から覚めるためには、必要だから」
「扉は?」
「入ってきた所じゃない?」
「それはどこにあるの?」
と話しかけると彼女はもうそこには居なかった。
彼を目覚めさせてはいけない。
これは警告だ。
人がどこにもいない街。
気候から、地中海あたりだと思う。
日本にしては湿気が少ないし、建物が平べったくて全体的に黄色っぽい。
もちろん、地理の資料集しかみたことがない僕の当てずっぽうの知識だけど。
「カタツムリの天敵はハリネズミなんだってさ」
夢の中で、少女に出会った。
「あんた、誰?」
目の前に突然現れたのではなかった。
突然この不思議な場所に現れたのは自分の方だ。
「あなたはツカサ君ですよね」
見覚えがない。
「あー、そういえば。はじめまして、なんでした。この世界はあなたが見ている夢なんですが、繋がっているみたいですね」
「繋がっている?」
訳がわからなくて、質問することしかできない。
「ええ、たしかに。あなたは事故以来、眠り続けているわけですが。夢というのは浅い眠りの時に見ることが多いんですよね」
「レム睡眠」
「そう、だからツカサ君はいつでも目が覚めそうなぐらい浅い領域にいるんです」
「どれくらい眠っていたんだろう」
「2年くらいかな」
「そっかぁ。じゃあオリンピックは終わったんだね」
「ええ、お姉さんに頼まれて私はあなたの夢に干渉しているのですが」
「姉ちゃん!?そうなんだ」
「残念ながら、事はそう簡単には進まないようですね」
彼女の目線は僕の背後に向けられる。
「え?」
振り向くと、そこには鎧のような皮膚に覆われた巨大な異形の化物が立っていた。
ネズミのような顔をしているが、その前歯は鋭く尖っており、兎のように耳がピンとたっていた。
目は退化しているのか聴覚で周囲の様子を伺っている。
「自分の夢の中で死ぬことは珍しくないですが、ここはあなたの夢の中ですから、どうなるか解りません」
「逃げよう」
「しぃー、やり過ごしましょう。幸い見えてはいないようです」
「鼻が利くかもしれませんよ」
「それでも、今動くのは得策ではありません。試したいことがあります。」
と言って彼女は建物の中に入るように促した。
玄関の鍵は開いていて、簡単に中に入ることができた。
粗末なベッドと木組みでできた椅子。
それからいくつかの本がそこにはあった。
「あなたは、ある程度ならこの夢をコントロールできるはずなんです」
そういって彼女は、ハリネズミの飼育方法という本を提示してみせた。
「ハリネズミは、大きな音が苦手」
「それから、えーと。天敵はコヨーテ」
本は日本語だったので、問題なく読むことができた。
「大きな声でコヨーテの遠吠えを再現しましょう」
「コヨーテなんて、日本にいないよ」
「そう、昔は上野動物園にもいたらしいですよ」
ペラペラと本をめくり、少女が答える。
「少し高くて細長くて哀しげな声」
「ふぁうぉーーーーん」
「ふぁぁうぉーーーん」
二人で出来るだけ高い鳴き声を再現してみる。
効果はてきめんで、巨大なネズミの化物は焦ったように壁に体をぶつにけながら走り去っていく。
「ところで、あれってハリネズミなんですか?」
「たぶん、違うと思う」
あらためて部屋の中を見渡すと、人が住んでいた形跡がまったくない。
生活感が感じられない。
「目が覚めたら最初に何がしたい?」
「わからない。でも朝ごはんを食べるかな」
「はは、そうだね」
「カボチャサラダとパンが食べたいなぁ」
「朝からそんなの食べるの?」
「メープルシロップ入りの甘いやつ。姉ちゃんがいつも買ってくる」
「朝はコーヒー?」
「コーヒーは飲めないから牛乳」
「じゃあ、早く目を覚まさないとね」
「うん、でもどうしたらいいんだろう」
「銀の鍵を探すのよ」
「銀の鍵?」
「夢から覚めるためには、必要だから」
「扉は?」
「入ってきた所じゃない?」
「それはどこにあるの?」
と話しかけると彼女はもうそこには居なかった。
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