罪の卵

山田ポミエ

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第三話 ひみつ

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「…このことはおばさんにも、誰にも秘密だぞ」

いいな?とにいちゃんに念を押され、コクコク首を縦に振り頷く。あの日母親達が帰ってきて留守を自分と共に預かってくれた事に感謝されていたにいちゃんは、表面上では微笑んでいたが、親達が背を向けると苦い顔をしていた。そんなにいちゃんをよそに、自分はにいちゃんと二人だけの約束ができて、それが何だか特別なようで嬉しかった。

その日から姉ちゃんが部活でいなくて親もいない時に、二人だけの秘密の時間が始まった。にいちゃんから勉強を教えて貰う、そう言えば何も怪しまれなかった。

女の子の格好をしてにいちゃんとキスしたり、抱きしめあったり、それだけだが二人にとっては特別な時間、そんな関係が続く。俺はちょっとずつ、キスが上手くなっていった。

「ん、ふ、ぅ…」

今日も姉のウィッグと姉の昔の服を身につけた自分とにいちゃんは唇を重ねる。にいちゃんに唇を啄まれ、真似して啄み返してちゅっちゅと吸い合う。背中がぞわぞわしたけど、全然嫌ではなくむしろ返って胸が高鳴った。

だが、唇を吸い合ってお互いの身体を抱き合ってじゃれあったりするだけで、あの日のようににいちゃんのは口でするように言う事は一度もなかった。本当にしなくていいのだろうか。何度か聞こうと思ったけれど、聞かないほうがいい気がして聞かなかった。

ベットで二人、丸まるように横になって抱き合う。
にいちゃんのアーモンド形の綺麗な瞳を見つめると髪を撫でてくれる。心地よくて目を細めると、猫か犬みたいだと言われた。俺はペットじゃないと言い返すと、悪い、と謝ってくれた。にいちゃんが素直に謝るなんて、珍しい。

西陽に照らされたにいちゃんの顔は陰影ができ、いつもよりかっこよく見えてドキドキする。そろそろ部屋が暗くなってきたから電気をつけたほうがいいけれど、離れるのが惜しい。にいちゃんも電気を点けに行く様子はない。同じ気持ちだったら、嬉しいと思ったらにいちゃんがほんの少しだけ微笑んだ気がして心臓が破裂しそうなぐらい高鳴り、顔が耳まで赤くなるのが分かった。無性ににいちゃんが恋しくなってぎゅっと抱きつく。にいちゃんは抵抗することもなく、俺の背中に左腕を回して右手で再び頭を撫でる。

窓から差し込む夕陽が二人を照らしていた。

    ◇

夜になり、夜中になって寝ようとしてもなかなか眠れない。にいちゃんの温もりがまだ身体や布団に残っている気がして、もぞもぞと布団の中で動く。寝られないのはにいちゃんのことが名残惜しいのもあるが、クラスメイトの家に遊びに行った時に見たビデオのことを思い出していたからだった。すごいものを見せてやるというので何かと思ったら、大人の男性と女性がまぐわっている、いわゆるセックスをしている映像、AVだった。兄のを拝借してきたらしい。初めて見る映像は衝撃的だった。何たって、自分がにいちゃんにしていたことと同じことをしてるシーンがあったからだ。女性が男性の性器を舐めている場面、俺もにいちゃんにしたやつだと思った時見てはいけないものを見てしまったような気分だった。映像の二人は他にも色々な行為をしていたが女性のたわわな胸の乳首をいじっている場面を思い出す。少し自分でもいじってみた、よくわからないがちょっとくすぐったく、不思議と病みつきになる感じがある。男に乳首なんて付いている意味があるのかと思っていたけれど、男の自分でも何か感じるなんて。映像の女性は乳首を舐められたりもしていた。にいちゃんに乳首を触られて、舌で舐められる想像をした途端、身体が熱くなり下半身に熱が籠る。恐る恐る自分の性器をいじってみると気持ちが良くて身体がピクピク震えてしまう。

「ん、あ、…ふぅ」

自分はまだ射精できない。多分、もう少し経ったら出来るようになるはず。その時はにいちゃんの大きな手でされてみたい。そう思ったら何だか身体がもっと熱くなって、にいちゃんのこと想うと切なくてたまらない。何でこんなに切ないんだろう。にいちゃんの怒った顔、呆れた顔、時々見せる優しい顔、いろんな顔を思い浮かべてると恋しくなってくる。昼間、このベットで優しくキスされながら抱きしめられた事を思い浮かべるともっと身体が熱くなる。色んなにいちゃんを思い浮かべながら乳首を触り、性器を弄るとはあはあと自分の息がどんどん激しくなっていく。

「にいちゃ、にい、っ」

ワタルにいちゃん、好き、大好き。いつか自分のことも触ってくれるだろうか。そう思った途端身体がカッと熱くなる。

「んんんっーー!!」

途端に駆け上がってくる快感に声を抑えきれず、咄嗟に枕に顔を押し付けた。

「ん、ふ、あ…」

はあはあと大きく肩を揺らし息を吸う。頭が一瞬真っ白になって、高い所から突き落とされたような気分だった。頭がふわふわとしていて身体が動かない。性器を弄っていた手を少し動かすと、手のひらや性器が透明な液体で濡れている事に気づく。射精したわけではなさそうだが、自分の身体が少し大人に近づいてるんだろうかとぼんやり思った。

  ◇

今日も秘密の時間がやってきた。
にいちゃんと抱きしめ合って、唇を重ねあう。自分達のキスは触れ合ったり啄んだりするものからどんどん変化していき、舌を絡ませることが増え、唇が、舌が食べられているような錯覚に陥るようものに変わっていった。普段の大人しいにいちゃんからは考えられないような激しいくちづけに心臓が爆発しそうなぐらいドキドキした。友達が家で飼っている犬にべろべろと唇を舐められたことならあるが、全然違うものだった。相変わらずキスして抱きしめ合うだけだけれど、また身体も触り合いたい。まだ射精できない自分、それがとてももどかしく感じた。にいちゃんの手で射精してみたい。一日でも早く大人になりたいと思った頃だった。

自分たちのしていることは普通ではないと、自覚を持つようになったのは。

きっかけはクラスメイト同士が恋人同士になってクラス中で騒がれていたことだった。もちろん男子生徒と女子生徒だ。にいちゃんを好きなあまり忘れかけていた、普通は男と女が好き合うものだということを。それに気づいた時、激しく動揺している自分がいた。女の格好をしてにいちゃんと過ごしているとはいえ、自分は男だ。でも求められて素直に嬉しかったし、気持ちいいことを一緒に出来て嬉しかった。にいちゃんの特別な存在になれたようで。求められていることが子供ながらにわかって嬉しかったが、まだ幼かった自分は求められていることの本当の意味を知らなかった。

戸惑いと罪悪感。でもにいちゃんのことは大好きなままで。

自分の思い迷う気持ちを察したのか、にいちゃんが自分を求める回数が少しずつ減っていき大学受験に向けて本格的に受験勉強をし出した頃にはほぼなくなっていった。そして自分が中学に進学して射精が出来るようになった頃、にいちゃんが大学に進学すると上京したこともあって連絡する機会も、会う機会も減り、疎遠になっていった。

姉のリップをビクビクしながら塗ってはドレッサー元の位置に戻す日々はこうして終わりを告げた。
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