【R-15】【二章完結】世界最強の爆乳魔術師のお姉さんは今後生涯、最愛の少年ご主人様の奴隷です

こころ さづき

文字の大きさ
43 / 54
第ニ章:氷の騎士と解釈違いの英雄

021 絶望の中の光

しおりを挟む
 絶対的な死の恐怖を前に、外交官としての虚飾も、男としての矜持も、全てが剥がれ落ちた。ゲルハルトは床に這いつくばったまま、まるで壊れた人形のように、わななく唇で必死に言葉を紡ぎ始めた。その瞳は焦点が合わず、ただ目の前の男の足元だけを見つめている。

「は、話します…! 何でもお話いたしますゆえ…!」

「手短にな」

 ガイルの冷たい声が、鞭のようにゲルハルトを打つ。

「全ては…数ヶ月前、我らが英雄、アルディバルド様が『奇跡の帰還』を果たされた、あの日から始まったのでございます…」

 ゲルハルトの声は恐怖で震え、語尾は上擦っていたが、それでもなお、染みついた芝居がかった口調は抜けきらなかった。その様が、かえって彼の必死さと哀れさを際立たせていた。
 戦死したはずの英雄が蘇った。その熱狂の渦の中心に、常に寄り添うように佇む、一人の少女がいたという。長い黒いローブに身を包み、片目には眼帯。その幼い見た目とは裏腹に、その瞳は奈落の底を覗き込むように昏く、誰もがその異質な存在に畏怖を覚えた。

「あ、アルディバルド様は、まるで何かに取り憑かれたかのように変わってしまわれました…。あの方の側に、一人の得体の知れない童女殿が片時も離れずに控えるようになってからでございます。『戦時国民貢献法』も、『登録環』も、おそらくは全て、あの童女の入れ知恵に相違ありません…! 国民は英雄の帰還に浮かれておりますが、我々のような城の上層部の人間は皆、本当の支配者はあの童女の方だと、薄々感づいております…!」

 恐怖に駆られ、ゲルハルトは堰を切ったように喋り続ける。その言葉が、リゼットの耳に突き刺さった。彼女の顔から、さらに血の気が引いていく。

「そ、そして…つい最近のことでございます…」

 ゲルハルトの声が、ひときわ大きく震えた。彼は、おそるおそる、ガイルの背後で息を殺しているリゼットの方を盗み見た。

「そちらにおられる騎士様…ちょうど貴女様のような、黒髪に、氷のような青い瞳を持つ、騎士の男が国内に潜伏しているところを捕らえまして…」

「――兄様ッ!!」

 リゼットの口から、悲鳴とも絶叫ともつかない声が迸った。彼女は椅子から転げ落ちるように立ち上がろうとしたが、その足はもつれ、セレスティアの腕の中に崩れ落ちる。

「兄様…! 生きて…生きて、おられたのですね…!」

 その瞳には、今まで宿っていた絶望を焼き尽くすほどの、激しい光が灯っていた。だが、その光は、ゲルハルトの次の言葉によって、より深く、昏い絶望へと突き落とされる。

「は、はい…。ですが、その男が捕らえられてから、例の童女殿は英雄様の側を離れ、王宮の地下へと引きこもってしまわれた、と…。そこで何かよからぬことを行っているという噂でございますが、その…具体的な内容は、私のような下級の外交官には、何一つ…」

「なんだと…?」

 ガイルの低い声が、部屋の空気を凍らせた。
 彼の脳裏を灼くのは、死霊とされ、その魂を弄ばれた姉の姿。

「ご主人様」

 セレスティアは、絶望に打ちひしがれるリゼットを支えながら、ガイルに自分の考えを伝える。

「そのネクロマンサーの行動…何か目的があるかも知れません。捕らえた聖騎士を生かしておく…。それも、代々強力な聖なる力をその身に宿した、アークライト家の騎士を…。これは、単に魂を弄ぶためだけではない。もっと大きな…何か邪悪な『儀式』のためではないでしょうか…」

 セレスティアの言葉は、部屋の空気に、単なる怒りとは質の違う、より冷たく、底知れない恐怖をもたらした。それは、獲物を嬲り殺しにする遊戯よりもさらに冒涜的な、魂そのものを別の何かに変質させるための、あまりにも残酷な目的を示唆していた。

 そのガイルの緊迫した空気を敏感に感じ取ったのか、ゲルハルトは泡を食って命乞いをする。

「わ、私が知っているのはここまででございます! 本当です! どうかお信じください!」

 ガイルは、もはや何の価値もなくなった男を一瞥すると、その首筋に容赦なく手刀を叩き込み、意識を刈り取った。

 リビングには、リゼットの荒い呼吸と、セレスティアが彼女をなだめる囁きだけが響いていた。
 兄が生きている。その事実は、リゼットにとって、地獄に差し込んだ一筋の蜘蛛の糸だった。だが、その糸は、ネクロマンサーという名の毒蜘蛛が張った、あまりにも残酷な罠へと繋がっていた。

「いったい、どうすれば…」

 リゼットは、セレスティアの腕の中で、か細く呟いた。

「兄様は生きている…だというのに、私は…この呪いの環に縛られたまま、何も…!」

 その、あまりに痛切な魂の叫び。

「いいえ、リゼット様。道は、ありますわ」

 セレスティアは、絶望に打ちひしがれるリゼットの肩を強く掴むと、リゼットの瞳を、真っ直ぐに見つめながら自らの首を指差した。

「この『登録環』に込められた、あまりにも残酷な呪いの仕組みの裏をかくのです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...