【R-18】元聖騎士は帝国に完全屈服して尊厳破壊される ~「希望亭」にてご奉仕いたします~

こころ さづき

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008 元聖騎士と元王女と銀の腕輪

 ある日の「希望亭」――昼下がりの喧騒の中、私はいつもの役割を淡々とこなしていた。

 帝国兵たちの笑い声と酔いにまみれた空気が漂うこの空間で、私は何の疑いもなくその場に存在し、ただ求められるまま、帝国兵の一人に股がり、腰を振っていた。

「アリア、今日は一段と良い働きっぷりじゃないか。」

 満足げな口調で男が声をかけてくる。

「ありがとうございます、ご主人様。もっとお喜びいただけるよう、頑張ります。」

 自然と微笑みを浮かべる自分がいる。それが偽りの笑顔でないと気づいている自分がなおさら不思議だった。

 ふと、手を動かすたびに右手首に触れる銀の腕輪が小さな音を立てる。その音が、ほんの一瞬だけ遠い記憶の断片を呼び起こしそうになるが、すぐに振り払うように瞳を閉じる。

(そんなものに意味なんてない。いまの私には……)

 自分にそう言い聞かせながら、男の求めに応じて動きを激しくする。

 そのとき、不意に店の扉が重々しく開かれた。

 突然、店内から喧騒が一気に消え去る。荒々しい足音が床を踏み鳴らしながら近づいてくる。

 何かが起きたのを感じ取った私は腰の動きを止め、振り返った。その瞬間、胸の奥が軋むような鈍い痛みに襲われた。

「……離しなさい……私は――っ!」

 その声を聞いた瞬間、視界が揺れるような錯覚に陥った。脳裏に響き渡るその声――どれほどの時間が経っても忘れることができない、あの声。

「……フィーナ様……?」

 心の中でその名を呟くと同時に、銀の腕輪が妙に重く思えた。まるで、それが過去の重荷そのものを訴えているかのように。

 視線を入口に向けると、そこには帝国兵達に両腕を掴まれ、引きずられるように連れてこられるフィーナ王女の姿があった。乱れた衣服、燃えるような怒りと悲しみが混じる瞳――そのかつての堂々たる姿の面影が、胸を締めつけた。

 彼女の視線が私を捉える。その瞬間、彼女の表情は驚愕に染まった。

「アリア……どうして、こんな……!」

 その声は震え、私の胸に鋭く突き刺さる。だが、私の手首に絡む銀の腕輪を見た瞬間、彼女の目に涙が滲むのを感じた。

「おい、アリア。どうした? 続けろよ。」

 男の冷たく命じる言葉に、私は強制的に現実へ引き戻された。かすかに記憶を取り戻した今となっても、この現実が、絶望が、新たな日常が、急変するはずもなかった。

 彼女が私の腕輪を見つめ、その光を悲しげに見守るのを感じながら、私は冷たく抑えた声で呟いた。

「……王女様……私は、」

 驚きと、微かな希望をないまぜにしたような表情を浮かべたフィーナ王女に私は言葉を続けた。

「……王女様……私はもう、あなた様の騎士ではありません……。どうか、忘れてください。」

「嘘よ、アリア。あなたは私に誓ったじゃない。何があっても、私を守ると。あの銀の腕輪はその証じゃない……!」

 彼女の叫びが耳を刺した。その言葉一つ一つが、私の胸の奥深くに響いてくる。だが、私は銀の腕輪に視線を落とし、苦しみを閉じ込めるように目を伏せた。

「……その誓いは、もう…過去のものです。」

 王女の瞳に浮かぶ涙。その悲しみを直視できず、私は再び目の前の帝国兵に向き直る。

「……ご主人様……申し訳ありませんが……今日はもう……」

 絞り出すような声で、そう告げる。しかし、男は、そんな私の言葉を無視し、嘲笑う。

「何を言っているんだ、アリア? お前は、俺たちの慰み者だろう? さあ、早くしろ!」

 男が、私の腕を掴み、強引に引き寄せようとする。その力強さによって私の身体と心が揺さぶられ、今の自分の存在を、日常を、強く知覚する。

「アリア! 目を覚まして……あなたは、こんなところで終わる人じゃない!」

 フィーナ王女の叫びが遠く響くが、それは崩れ落ちる残響音のように私の心の中からも次第に消え去っていく。

 心の奥底にまだ何かが疼き、銀の腕輪がその感覚を呼び起こそうとする。だが、それすらも否定し、自分を押し殺すことでしか今の私は存在できなかった。全てを忘れて「新たな日常」を続ける。王女と別れてから、数々の絶望と悦びが心に刻みつけられた、今の私にはそれ以外の選択肢が残されていなかった。

 男は、私の表情の変化を見てとると、気を取り直して再び、私に動くように促す。私は、促されるがまま に再び腰を動かしはじめた。

「……あぁ……もっと……もっと……」

 私は、男の耳元で、そう囁く。その声は、まるで別人のように、甘く、そして、狂おしい。

 どれだけ心が疼いても、今の私にはそれ以外の選択肢が残されていなかった。そして、その日もまた、笑い声に紛れて私は薄暗い現実へと戻っていく。

(――さようなら、王女様。どうか、私を憎んでください……)

 そう心の中で呟き、私はまた日常へと戻った。右手首の銀の腕輪は、かつての力強い誓いを刻みながらも、いまはただの冷たい金属の塊として私の心を嘲笑っているようだった。それでも、それを外すことだけは決してできなかった。

「これで、いい……」

 銀の腕輪がかすかに揺れ、鈍い光を反射する中で、私は永遠に繰り返される「新しい日常」へと再び沈んでいった。
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