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第四話 高速令嬢執行
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リリアーナの策略によって、エドワードは完全に窮地に立たされた。流された噂は、王宮内にも広がり、エドワードの立場を危うくしていた。「不貞」「王家の財産横流し」「隣国の間者との共謀」…真偽不明の情報が飛び交い、王族内でもエドワードを次期国王として推す声は、急速に小さくなっていった。
さらに追い打ちをかけるように、リリアーナは、王宮内での影響力を強めていく。彼女が支援する劇団の公演は連日満員となり、リリアーナをモデルにした「悪役令嬢」は、民衆の喝采を浴びていた。その「悪役令嬢」が、エドワードをモデルにした「愚かな王子」をやり込める姿に、人々は溜飲を下げ、リリアーナへの支持は日増しに高まっていった。
そして、決定的な出来事が起こる。エドワードの父である国王が、体調を崩し、床に伏せるようになったのだ。これを機に、王位継承問題が、一気に表面化した。エドワードの失脚を目論む勢力は、リリアーナが提示した「証拠」を利用し、「エドワード王子は、王家に仇なす男爵令嬢と通じ、王家の財産を私的に流用した」と、声高に主張し始めた。
もはや、エドワードに残された道は一つ。自ら、リリアーナに「婚約破棄」を申し出ることだった。そうすることで、少なくとも「悪女に捨てられた悲劇の王子」という、同情の余地がある立場を、辛うじて確保できるかもしれない。
エドワードは、リリアーナに謁見を申し込んだ。場所は、王宮の一室。窓の外には、リリアーナが手配した「触れ役」の声が、かすかに聞こえてくる。まるで、エドワードの運命を嘲笑うかのように。
エドワードは、部屋に入るなり、リリアーナの前で跪き、懇願した。
「リリアーナ様…!どうか、どうか、婚約破棄を…あなたの方から申し出てください…!この通りです…!」
リリアーナは、エドワードを冷ややかに見下ろしていた。その瞳には、侮蔑と、そしてわずかな哀れみが混じっている。
「…随分とお変わりになられましたわね、エドワード殿下。以前の、傲慢な態度は、どこへやら…」
「申し訳ございません…!これまでの私の無礼、…どうか、お許しください…!」
「あら、許しを請うなんて、らしくないですわ。…まあ、よろしい」
リリアーナは、エドワードの懇願を、わざとらしく、ゆっくりと遮った。
「…婚約破棄を、そんなに望まれるのでしたら、…仕方ないですわね」
リリアーナは、窓辺の机に歩み寄り、引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。それは、あらかじめ用意していた「婚約破棄合意書」だった。実は、リリアーナは、エドワードが自ら「婚約破棄」を申し出るように、裏で手を回していたのだ。王位継承問題を利用し、エドワード派の貴族たちを懐柔、あるいは脅迫し、彼らがエドワードに「進言」するよう仕向けたのだ。つまり、エドワードは、リリアーナの手のひらの上で踊らされていたに過ぎない。
「ですが…」
リリアーナは、合意書をエドワードの目の前にかざしながら、勿体ぶったように言った。
「これにサインをして頂く前に…一つ、条件がございます」
「じょ…条件…でございますか…?」
「ええ…」
リリアーナは、エドワードに顔を近づけ、彼の耳元で、囁くように言った。
「…この私、リリアーナ・フォン・シュヴァルツヴァルトを…生涯、恨まないと…誓ってくださるかしら?」
エドワードは、リリアーナの言葉に、一瞬、息を呑んだ。しかし、すぐに、縋るような目でリリアーナを見上げ、震える声で答えた。
「…お誓い、いたします…」
「よろしい」
リリアーナは、満足げに頷くと、合意書をエドワードの前に差し出した。
「エドワード殿下、サインを。インクは乾きやすいので、お早く」
「…御忠告、感謝いたします、リリアーナ様」
エドワードは、震える手でペンを握り、合意書にサインをした。その手は、恐怖と絶望、そしてリリアーナへの複雑な感情で、小刻みに震えていた。
さらに追い打ちをかけるように、リリアーナは、王宮内での影響力を強めていく。彼女が支援する劇団の公演は連日満員となり、リリアーナをモデルにした「悪役令嬢」は、民衆の喝采を浴びていた。その「悪役令嬢」が、エドワードをモデルにした「愚かな王子」をやり込める姿に、人々は溜飲を下げ、リリアーナへの支持は日増しに高まっていった。
そして、決定的な出来事が起こる。エドワードの父である国王が、体調を崩し、床に伏せるようになったのだ。これを機に、王位継承問題が、一気に表面化した。エドワードの失脚を目論む勢力は、リリアーナが提示した「証拠」を利用し、「エドワード王子は、王家に仇なす男爵令嬢と通じ、王家の財産を私的に流用した」と、声高に主張し始めた。
もはや、エドワードに残された道は一つ。自ら、リリアーナに「婚約破棄」を申し出ることだった。そうすることで、少なくとも「悪女に捨てられた悲劇の王子」という、同情の余地がある立場を、辛うじて確保できるかもしれない。
エドワードは、リリアーナに謁見を申し込んだ。場所は、王宮の一室。窓の外には、リリアーナが手配した「触れ役」の声が、かすかに聞こえてくる。まるで、エドワードの運命を嘲笑うかのように。
エドワードは、部屋に入るなり、リリアーナの前で跪き、懇願した。
「リリアーナ様…!どうか、どうか、婚約破棄を…あなたの方から申し出てください…!この通りです…!」
リリアーナは、エドワードを冷ややかに見下ろしていた。その瞳には、侮蔑と、そしてわずかな哀れみが混じっている。
「…随分とお変わりになられましたわね、エドワード殿下。以前の、傲慢な態度は、どこへやら…」
「申し訳ございません…!これまでの私の無礼、…どうか、お許しください…!」
「あら、許しを請うなんて、らしくないですわ。…まあ、よろしい」
リリアーナは、エドワードの懇願を、わざとらしく、ゆっくりと遮った。
「…婚約破棄を、そんなに望まれるのでしたら、…仕方ないですわね」
リリアーナは、窓辺の机に歩み寄り、引き出しから一枚の羊皮紙を取り出した。それは、あらかじめ用意していた「婚約破棄合意書」だった。実は、リリアーナは、エドワードが自ら「婚約破棄」を申し出るように、裏で手を回していたのだ。王位継承問題を利用し、エドワード派の貴族たちを懐柔、あるいは脅迫し、彼らがエドワードに「進言」するよう仕向けたのだ。つまり、エドワードは、リリアーナの手のひらの上で踊らされていたに過ぎない。
「ですが…」
リリアーナは、合意書をエドワードの目の前にかざしながら、勿体ぶったように言った。
「これにサインをして頂く前に…一つ、条件がございます」
「じょ…条件…でございますか…?」
「ええ…」
リリアーナは、エドワードに顔を近づけ、彼の耳元で、囁くように言った。
「…この私、リリアーナ・フォン・シュヴァルツヴァルトを…生涯、恨まないと…誓ってくださるかしら?」
エドワードは、リリアーナの言葉に、一瞬、息を呑んだ。しかし、すぐに、縋るような目でリリアーナを見上げ、震える声で答えた。
「…お誓い、いたします…」
「よろしい」
リリアーナは、満足げに頷くと、合意書をエドワードの前に差し出した。
「エドワード殿下、サインを。インクは乾きやすいので、お早く」
「…御忠告、感謝いたします、リリアーナ様」
エドワードは、震える手でペンを握り、合意書にサインをした。その手は、恐怖と絶望、そしてリリアーナへの複雑な感情で、小刻みに震えていた。
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