《完結》拾った仔犬に魔女はおいしく食べられる。ドSの執着が凄すぎて泣きそうです。【R18】

月影ほとり

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 ただの気まぐれで拾った仔犬。その仔犬に、私は頭を悩まされている。





「連れないですね、僕がいるのに、1人で楽しんでたんですか……?」

 綺麗な顔が、私を見下ろして笑っている。
 すこーしだけ乱れている私を簡素なベッドに押し倒して馬乗りになったリトは、中々見ない悪い顔で私の耳元に顔を寄せた。

「魔女さんをそんな風にしたのは僕なんだから、言ってくれれば良かったのにーー」

 どうして今、こんなことになっているのだろうーー。





「リトを拾ってから6年。もう18歳だし、1人でも生きられるだろう。そろそろ人里に降りた暮らしを考えてみてはどうだ?」

 人里離れた山間の簡素な小屋で私と向き合うのは、10人に聞いたら10人が綺麗だと頷きそうな中性的な美しい顔を持つ青年。
 どこかすましたリトの顔は、けれど明らかに動揺と焦燥を隠せていない。
 そもそもマトモな身寄りもない上に、6年暮らした場所を突然追い出されそうになれば焦るのも無理はなかろうて。

「私は魔女だが鬼じゃない。人里で暮らせるような目処がつくまでは置いてやる。が、そろそろその心づもりでいてくれと言うことだ」
「本気で言ってます? ズボラすぎて傷んだ食材を気づかず食べてお腹壊したり、気づけばゴミに埋もれる生活能力ゼロの魔女さんが、今更この快適な暮らしから抜け出せると?」
「う、うるさいぞ、居候のくせにっ!!」

 少し持ち直したのか、小憎たらし気に笑うリトが腹立たしい。

「この家のすべてを完璧に回してるのは僕ですよ。温かくて栄養のある美味しいご飯も、清潔な家や衣服も、きめ細やかな配慮も全部。そんな僕がいなくなって、この生活に慣れ切った魔女さんが生きられると思います? 今度こそゴミに埋もれて死にますよ」
「お、お前が来る前はそれでやってたんだよ!!」

 ほっとけ! と目を吊り上げれば、リトはその美しい眉間に微かなシワを寄せて、苛立たし気に髪を掻き上げた。
 絵になり過ぎて腹立つな。そんなどうでもいいことを考える私に、いくらか温度の下がったリトの声が降ってくる。

「今更になって僕を捨てるんですか」
「こんなに大きくなるまで拾い育ててやっただけありがたいと思え!」

 拾った時は見下ろせたのに、今や私が見上げるほどに大きくなっているのも無駄にしゃくに障る。

「それは感謝してますけど……」
「わかったなら……っ」
「僕、何かしましたか」
「えっ!」

 じっとその美しい顔に見つめられて、私はしどろもどろに視線を揺らした。
 私がどうしてこんなにも動揺して、有能な世話係を野へと解き放ちたがっているのか。
 それは、天使か精霊かと見まごうような目の前の美しい青年に、夜な夜なおかずにされていることに頭を悩ませているから。

 大きくもない小屋の中、寝ている私の背後から聞こえる衣擦れの音と押し殺した声。
 自身で致しているらしいそんな気配と声に気づいてしまってからは、連日寝不足不可避である。
 おかげでニキビが3つもできてしまった。

 リトが心身共に成長してそういうことが必要なお年頃であるのもわかるけれど、いくら周りにおかずが私しかいないからって見境がなさ過ぎる。
 消去法でおかずにされる私の気持ちも考えて欲しい。
 とは言えいくら私でもまさかそんなことを口にすることはできず、うぐぐと口ごもりながら視線を揺らす。

「最近ぎこちないし、視線も逸らすし、僕のことが嫌いになりましたか」

 そう言って、リトの顔面に免疫がなさそうな者なら卒倒しそうな破壊力の顔で見つめられる。
 やめてくれ。そんな雨に濡れ捨てられた(捨てるんだけど)仔犬みたいな目で私を見るんじゃない!! まるで私が悪者みたいじゃないか!!

「と、とにかく、都合が変わったんだ! 出て行く目処は考えておいてくれ!!」

 リトの顔を見れないまま、叫んだ私は背を向ける。
 しーんと静まり返った背後に、突然と出て行けまではさすがに言い過ぎたかな。いやでも私の安眠がな、とか思っていたら、背後からぎゅうと抱きしめられて仰天した。





 えぇっ!?
 まさかの泣き落とし!? なんて思わずと目を見開いて身じろぎするも、回される腕は微塵も弛まない。

「ちょちょちょ、何す……んっ!? んんっ!!」

 抗議の声はアゴに添えられたリトの大きな手に、左上を向かされた先で塞がれた唇の中に消えた。
 いつの間にコイツはこんなに力が強くて身体が大きくなったのか。人形みたいに可愛い可愛い男の子だったのに。

「んっ、んんっ!」

 雑用で鍛え上げられたらしい顔とは違う逞しい胸板に抵抗するもびくともしない。
 あれ、私そんなにこき使いましたっけ。おっかしいな。

「……勝手にキスしてすみません」
「んなっ!?」

 二の句が継げない私だが、謝るくらいなら最初からしないで頂きたい。

「……でも、たとえ魔女さんに恨まれることになっても、僕は魔女さんから離れることはもうできないんです」
「んぅっ!?」

 え、そんなに夜のおかずないの!? 大丈夫だって! 人里行けば色々あるから!! なんて言葉は再び塞がれた唇で発することはできなかった。
 そうこうしてたら徐々に小屋の壁に押し付けられて、足の間に割り込んだ長い脚に逃げ場を失う。
 例の最中は知らないが、おおよそ見たことのない熱を帯びたリトの瞳に私は恐れ慄いた。

「え、ちょっ、リ……っ!?」
「……それに、魔女さんに出て行けと言われた僕はもう魔女さんの弟子でもないので、言いつけを聞く必要、ないですよね?」

 鼻がつきそうなほど近くで見据えられて、美しい顔が見たこともないほど悪く歪む。
 対する私はそんな顔を呆然と見つめて、まるで蛇に睨まれたカエルの如くに固まっていた。

 え? え? お前誰だ? お前ってそんなだったっけ? 嘘だろ? あんな純真でひたむきだったじゃん! 何そのギラついた目! 仔犬じゃなくて、狼じゃん!!

「あの、ご、ごめん、一方的ではあったと思うから、ひ、ひとまず話し合、んぅっ!?」

 アゴを捕らえられたと思った次の瞬間には、再び唇を塞がれた。
 背後は壁、足の間にはリトの脚。逃げ場がない。

「んんっ!」

 私のアゴを掴むリトの腕を両手で掴むのに、マジでびくともしない。まさかダラダラ引きこもり筋力ゼロ生活のツケがこんな事態を生むなんて。少しくらい筋トレしとけばよかったのか。

「……舌出して下さい」
「んあっ!? んっ!!」

 グリとリトの脚がロングスカート越しに私の脚の付け根を擦り上げる。思わずと反応してしまった私の開いた唇を、リトは見逃しはしなかった。
 口内に舌が入ってくる。縮こまった私の舌を絡め取って、歯列をなぞり、漏れた水音と息苦しさにぞわぞわと背筋が震えた。

「んっ、んぅっ、んんっ!」
「可愛い。いい匂い。甘い。柔らかい」

 や、やめて。そんな単語並べないで。言われる度にどこかの奥がむず痒くて、落ち着かないからやめてくれっ!

「や、やめ……っ」

 思わずと声に出ていた心の声に、リトがピタリとその動きを止めた。

「……魔女さん、好きです」

 溢れるように囁かれた声に、まだ返事ができない。
 うん、まぁ、人として(魔女だけど)好かれてるのは知ってる。おかずにされるくらいだし。さすがに嫌いな相手はおかずにはならんだろう。

「魔女でも、歳を取らなくても、ズボラでも、口悪くても、家事力ゼロでも、僕は魔女さんが好きなんです」

 並ぶ単語に力の限りに物申したい。全部事実ではあるけれど。

「……捨てられるくらいならと思いましたけど、でも、やっぱり魔女さんを傷つけたくはないんです」

 いや、すでにキスされちまってるがな。
 と思わず突っ込まずにはいられない。

「僕に触られるの……嫌ですか?」
「え!? い、いや……」
「………………っ」
「…………な、訳ではない……」
「えっ」

 バカか私。いや多分バカだ。大馬鹿だ。
 だって思わずとおうむ返しをしたら、そんな傷ついた顔するからっ!
 なんならそのまま絶望してどこか遠くに行きそうな勢いの顔するからっ!!
 私だって鬼じゃない。数年世話され……育ててやった情くらいはある。リトを傷つけたい訳ではないんだ。
 ないんだけど、親愛と情愛は違うって知ってるか?

「魔女さんっ!」

 ぱぁと先ほどまでとは別の意味合いで頬を染める、かつて拾った仔犬に抱きつかれながら、私はハァとため息を吐く。
 億劫がらずに、いたいけな青少年のこっち方面にも気を遣うべきだったかと、頭痛がした。




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