竜源刀・七切姫の覚醒

嵐山紙切

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第16話 ヨヒラ島奪還に向けて、ちゃんと、訓練!

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『…………ふーふふ……ふんふん……らんらーら……ふん……ふん! ふん!!』

 鼻歌うるせえ!
 ちょっとは静かにしろよ、ナキ!

『だってぇ、楽しみなんですもん! またあの感覚が、五感が妾のものに! あ、ちゃんと訓練はしますよ。主人様と何ができて何ができないのかしっかりと調べる必要がありますからね! 節約もちゃんとしないといけませんですからね! ヨヒラ島奪還に向けて、ちゃんと、訓練!』

 とか言って身体を預けた瞬間やりたい放題やるんじゃねえだろうな。

『………………』

 答えろよ!

『良いじゃないですか少しくらいやりたいことやったって! 妾のおかげでみんな無事なんですよ! 妾ができる武器だからです! 少しぐらいご褒美があってもいいはずですよ! ご褒美、ご褒美!』

 …………僕の身体を使って何するつもりだ。

『誰かのおっぱいを揉みます』

 僕に恨みでもあるのか!

『え? でも今まで何人か胸の大きな女性を見てきましたけど、主人様、胸ばっかり見てたのに触ろうともしませんでしたよね。それって触る勇気がなかったからでしょう? 妾にはわかりますよ。できる武器ですから。そこで勇気の出ない主人様に代わり妾が身体を動かして揉みしだいてあげようとそういうわけです』

 お前が胸をもむ感覚を味わいたいだけだろうが。
 僕の腹でも揉んどけ。どうせ大体同じだろ。

『夢がないですねえ、主人様。第一、主人様のお腹そこまで出てないでしょう? 妾はあのゆたう脂肪にれてしまったのですよ』

 ふ、甘いな。
 ナキは見蕩れていただろうが、僕はちゃんと自重して目をそらすことができる男なんだぞ。

『主人様、どの口がそれを言ってるんですか。主人様が自重しないでじろじろ見てたせいで妾がよく見えたんですよ? 主人様の視界が妾の視界だってことをお忘れですか』

 ……自重などしませんでした。
 じろじろ見てました。すいませんでした。
 だって男の子だから!

『と言うことで、妾のご褒美は誰かのおっぱいを揉むことに決まったのです』

 僕の…………僕のせいなのか?
 僕のせいだな。



 この馬鹿な会話は、ネネカたちとの会話の翌朝、九の船の甲板でお届けしている。
 爽やかな朝に何をやっているんだ僕たちは。
 いや爽やかではないか。
 息を吸い込むと微かに焦げ臭さが鼻をつく。

 守護官たちの調査の結果、手足が赤い魔動歩兵はヨヒラ島の中心部に多くいて外側にはあまり見当たらず、つまり、堀を越えた侵入ではないと結論づけられた。

 ではどこから侵入したのかというのはまったく解らなかったけれど、それでも、ヨヒラ島の外を囲む堀のように広い竜の川の方が安全だとわかり、船はそこに移動して夜を明かした。

 どこよりも安全だと言われた島の中よりも外の方が安全だというのはなんとも皮肉な話。

 昨日のうちに島民を乗せた大部分の船は近くのキキョウ島へ避難していて、九の船は人が明らかに少なくなっていたけれど、どうやら、島へ入るには目を見せる検査があるらしく、魔眼のせいでコハクもシズクさんも未だ九の船に乗っていた。

 もちろん僕もそう。

 で、今日も九の船の守護官たちは逃げ遅れた島民たちを探すべく、また、妖精の華を討伐するため情報収集など準備をすべく、船をヨヒラ島の川に進め、船着き場に泊めていた。

 僕とナキはその甲板で守護官たちが出ていくのを見送っていたというわけ。

 そろそろ大半の守護官が出払ったなと思っていたところ、
「ふん! 邪魔者は消えたわ! あんた! 覚悟はできてるんでしょうね!」

 と、ネネカがやってきて言った。

「お前、今、一緒に乗ってる守護官たちのことを邪魔者って言ったのか!? 船下ろされるぞ!」
「あたしは主役なの。主役が船を降ろされるわけないでしょ! この船はあたしのなんだから」
「…………九の字のだよ」

 と、ネネカの後ろからついてきていたユラが言う。
 どうやらこの二人いつも一緒らしい。

「ユラも任務を外されたのか?」
「…………違う。回復が使えたり治療が得意な守護官はここで待機。運ばれてきた島民をここで治療する」

 任務中ってわけね。ネネカと違って。

「…………それとネネカの監視役。飛び出していかないように」
「子守って訳か」
「子守!? 子守って言ったな!」
 ネネカは憤慨して、
「あったまきた! 表に出なさい! ぶっとばしてやるから」

 ここも甲板だから一応外と言っていいと思うんだけど。

 ネネカは肩を怒らせずんずん進み、竜源装を発動させると、他の守護官たちがやっていたように、甲板から跳んでヨヒラ島に上陸した。

「あんたも早く来なさい!」
「ちょっとまて! 手合わせってヨヒラ島でやるのか?」
「あったりまえでしょ! 甲板傷つけたらエスミちゃんにこっぴどく怒られるんだから!」

 以前怒られたことがあるような言い方だった。

 それはそうと、
 僕は動かない。
 と言うより動けない。

『主人様、まだこの距離を跳べるほど竜源装使いこなせませんからね』

 ナキが耳元で言う。

 僕が困っていると、ユラが僕の様子に気づいて、
「…………できないの?」
「ええと、そう、できない」
「…………魔動歩兵と戦ったのに?」
「うん」
「…………変なの。というか、どうして魔動歩兵の竜源装を壊したのに、その竜源装は壊れてないの?」
「えっと……、特別頑丈な竜源装だから。普通の竜源装なら発動すると壊しちゃうけど」
「…………じゃあわたしがヒイロに触れたら、わたしの竜源装は壊れちゃう?」
「それはない」
「…………そう」

 ユラは言うと、僕に抱きつくように腰に手を回して、そのまま力一杯引き寄せた。
 腰が折れるかと思った。

「…………跳ぶね」

 ガクンと体が揺れて、体の中身だけがふわりと浮く気持ち悪い感覚のあと、僕たちはヨヒラ島に着地する。

「なにあんた、船から跳ぶこともできないの?」

 腰をさすっている僕を、ネネカは驚愕して見ている。

「なあんか拍子抜けなんだけど。じゃあ、昨日のは何? あんた、双子?」

 ある意味では別人だけどさ。

「船から跳べなくても手合わせはできるから気にするな」
「ほんとかしら」

 ネネカは訝しげに僕を見て息を漏らす。

「あんた絶対できるようになりなさいよね。主役のあたしと手合わせするのに船も跳べない奴だったなんてあたしが恥ずかしいでしょ」

 主役主役と言ってる方が恥ずかしいと思うのは僕だけだろうか。

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