甲斐性無し王子と共働き聖女

あんど もあ

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甲斐性無し王子と共働き聖女

「これをもってアイル第ニ王子と聖女ルーナの婚約が成立した。二人とも、王子として聖女として今後ますますの活躍を期待しているぞ」

 王宮の謁見の間。
 玉座に座った国王の前に立つアイル王子と聖女ルーナが「……はい」と渋々頷いた。
 そんな二人の様子に頓着せず、左右に並ぶ見届け人の貴族たちが異例の王子と平民聖女の婚約に祝福の拍手をする。
 
「なんでこんな平民と!」
 アイル王子の呟きにしては大きすぎる声は皆に聞こえないふりをされるが、一人だけ
「あなたが甲斐性無しだからです」
と答える声がした。
 たった今婚約した聖女ルーナだ。
 さすがに皆の拍手が止まる。

「甲斐性無しとは何だ!」
 ルーナに詰め寄るアイル。
「結婚しても妻を働かせないと食べていけない旦那様を、世間では甲斐性無しと言うんですよ?」
 平民の私でさえ知ってるのに、そんな事も知らないのかという目で答える聖女に、
「意味を聞いているのでは無い! 私のどこが甲斐性無しなのだ!」
と、怒るアイル王子。

「私、王子様と結婚できるって聞いて、やっと血まみれゲロまみれの職場から寿退職できると思ったんです……。なのに、結婚しても聖女を続けなくちゃいけないなんて……。共働きしなくちゃいけないくらい王子が薄給だったなんて……」

 聖女とは、傷や病を治癒する聖魔法が発現した女性の事。
 五年前に20年ぶりの聖女となった平民のルーナは、只今18歳。周りの友人たちが次々と結婚していくお年頃なのに、自分は連日治療所に医者では手に負えない病人と怪我人が運び込まれてオーバーワーク。怪我人の傷口から噴き出す血にまみれ、意識の混濁した病人の吐いたゲロをかぶる日々。
 「さっさと寿退職したいー!」が口癖となるのもむべなるかなだった。

 国唯一の聖女に退職されては困ると国王たちは第二王子との婚約を決めたのだが、ルーナの脳内はとことん平民であった。

「何を言う! 貴様には天から与えられた聖魔法があるのだから、それを使うのは聖女の義務であろう」
「じゃあ、殿下と結婚する必要は無いでしょう? ただの聖女から共働きの聖女って、家事や育児などの仕事が増えるだけじゃないですか!」

 いや、聖女を退職させないための結婚だから、と全員が思っているが口には出さない。

「貴様は……、私と婚約出来て光栄ではないのか?」
「何が光栄なんですか。貴族の御令嬢に共働きなんて出来ないから平民の私になったんでしょう?」
「そ……そうなのか……?」
 違います、とは誰も言えず、肯定されたとショックを受けるアイル王子。

「そもそも、王子ってどんな仕事をしてるんです? 私の父さんは大工をしながら母さんと私たち三人の子を養ってくれましたよ」
「ほう、大工とは給金がいいのだな」
「重い物を持ったり、高い所に上ったり、大変な仕事ですから。でも、見習い時代は給金が安くて……ああっ!」
 ルーナが気付いた。

「そうか……。“王子”は“国王”の見習い。だから給金が少ないのね」
「なるほど。……だが、国王になるのは兄だ。私は……一生見習いなのだ……」

 しょんぼりしたアイル王子にきゅんと来るルーナ。
 
「し、仕方ありませんね。私は手に職がありますから働いて助けてあげます」
「そうしてくれるか」
「で、でも、殿下も家事を覚えてくださいね。私が産休の時は殿下がするんですからね」
「かじとは何だ?」
「そこからですか!」



 無事に聖女の続行が決まって安心した国王たちが、一人、また一人と謁見の間を去っていくのに気付かず話し続ける二人だった。

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