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後編
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「そのネックレスは、三代前の当主が遊びで水神様の巫女に手を出した代償に妻に贈られた物ですわ。当主夫人がしっかりした人でしたので、ネックレスの禍々しさに気付いて決して誰かが身に付けないよう人目につかぬ所に保管しましたの」
唖然としている新しい母。
「他にも、四代前の当主が手を出した女流画家が恨みを込めて描いた絵と、先先代が捨てた愛人が自殺する直前に先先代へ贈った櫛。これらを『家宝』と呼んでいます。どれも、一目見たら心惹かれずにいられない素晴らしい家宝ですわ。お母様が女主人となったので、後ほど差し上げますね」
そんな嫌そうな顔をしないでください。
「つまり、この家の当主には女性にだらしない人が多かったという事です。あ、お父様もそうでしたから、現在進行形ですね」
笑ってしまいそうになりますが、何とか堪えます。
「ではお父様、もっと大事な事をお母様に言って無いのですか? 呪いの影響なのか、この家の女主人は短命だと」
お二人とも固まりました。お父様、忘れてましたわね。
「そんなわけ!………」
言い返そうとした新しい母が、私の母が亡くなっている事を思い出したようです。
新しい母に説明してあげます。
「私の母は、娘時代は男まさりと言われるくらい元気で、それで望まれてこの家に嫁ぎましたの。母は元気に私を産んで、父はそんな母を大切にして。祖父母は幼い私に、お前の代にはもうこの家の呪いは消えるだろうと言っていたものです」
でも、そうは上手く行かなかったんですよね……。そんな事で許される呪いでは無かったようで。
「残念ですが、祖父母が不慮の事故で亡くなり、それから母は病の床につき、父は外に女性を作りました。やだ、お二人の方がよくご存知ですよね」
そして、二人で享楽的に過ごしているうちに、父は母の事も伯爵家の家宝の事も忘れてしまったのでした、と。まあくだらない。
だから、父が二人を家に連れて来た時、新しい母が「自分が女主人だ」と言った時、とても驚きましたのよ。
私はもう跡継ぎでも女主人でもないんだ!、と。
せっかくなので、近いうちにこの家を出て母方の祖父母のもとへ行き、そこから嫁ぐつもりです。母が亡くなる前に、個人資産が私に入るように手続きしてくれましたので経済的な心配はありませんし。
ああ、なんという開放感。
「さあ、私はもう寝るので出て行ってください」
「ま、待ってよ、あたしの首のウロコはどうなるの!」
「どうって……、どうせ短命なら考えても仕方ないのでは? あと何年生きられるか分かりませんけど」
悩むだけ無駄です、と笑うと
「笑い事じゃないわ!」
と怒鳴られました。
私は笑顔を崩さず新しい母に答えます。
「……私は何年も一人で泣きました。あなたたちが二人で笑って母の死ぬのを待っている時」
「………」
母がいなくなってしまう事に、この家に押し潰されそうな事に、怯えて悲しんで恐怖しても、誰にも頼れなかった。
私には、男に弄ばれ、裏切られ、男が妻と一緒に笑っているのを呪わずにいられなかった女たちの気持ちが痛いほど分かります。
今、初めてこの家の呪いに感謝して言います。
「あなたたちも同じ思いをすれば?」
唖然としている新しい母。
「他にも、四代前の当主が手を出した女流画家が恨みを込めて描いた絵と、先先代が捨てた愛人が自殺する直前に先先代へ贈った櫛。これらを『家宝』と呼んでいます。どれも、一目見たら心惹かれずにいられない素晴らしい家宝ですわ。お母様が女主人となったので、後ほど差し上げますね」
そんな嫌そうな顔をしないでください。
「つまり、この家の当主には女性にだらしない人が多かったという事です。あ、お父様もそうでしたから、現在進行形ですね」
笑ってしまいそうになりますが、何とか堪えます。
「ではお父様、もっと大事な事をお母様に言って無いのですか? 呪いの影響なのか、この家の女主人は短命だと」
お二人とも固まりました。お父様、忘れてましたわね。
「そんなわけ!………」
言い返そうとした新しい母が、私の母が亡くなっている事を思い出したようです。
新しい母に説明してあげます。
「私の母は、娘時代は男まさりと言われるくらい元気で、それで望まれてこの家に嫁ぎましたの。母は元気に私を産んで、父はそんな母を大切にして。祖父母は幼い私に、お前の代にはもうこの家の呪いは消えるだろうと言っていたものです」
でも、そうは上手く行かなかったんですよね……。そんな事で許される呪いでは無かったようで。
「残念ですが、祖父母が不慮の事故で亡くなり、それから母は病の床につき、父は外に女性を作りました。やだ、お二人の方がよくご存知ですよね」
そして、二人で享楽的に過ごしているうちに、父は母の事も伯爵家の家宝の事も忘れてしまったのでした、と。まあくだらない。
だから、父が二人を家に連れて来た時、新しい母が「自分が女主人だ」と言った時、とても驚きましたのよ。
私はもう跡継ぎでも女主人でもないんだ!、と。
せっかくなので、近いうちにこの家を出て母方の祖父母のもとへ行き、そこから嫁ぐつもりです。母が亡くなる前に、個人資産が私に入るように手続きしてくれましたので経済的な心配はありませんし。
ああ、なんという開放感。
「さあ、私はもう寝るので出て行ってください」
「ま、待ってよ、あたしの首のウロコはどうなるの!」
「どうって……、どうせ短命なら考えても仕方ないのでは? あと何年生きられるか分かりませんけど」
悩むだけ無駄です、と笑うと
「笑い事じゃないわ!」
と怒鳴られました。
私は笑顔を崩さず新しい母に答えます。
「……私は何年も一人で泣きました。あなたたちが二人で笑って母の死ぬのを待っている時」
「………」
母がいなくなってしまう事に、この家に押し潰されそうな事に、怯えて悲しんで恐怖しても、誰にも頼れなかった。
私には、男に弄ばれ、裏切られ、男が妻と一緒に笑っているのを呪わずにいられなかった女たちの気持ちが痛いほど分かります。
今、初めてこの家の呪いに感謝して言います。
「あなたたちも同じ思いをすれば?」
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