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後編
「やった!」
飛び上がるパトリシアに
「やったな! パーちゃん!」
「しかし、我々が触っても何ともなかったのに何故……」
「あの火花は何ですか?」
と、次々と声が掛けられる。
「あれは、杭に雷の魔法陣を書き込んでいるんです。魔素に反応して、杭や鉄線が魔素を感じたら雷が落ちるのと同じ攻撃をします」
スツールに落ち着いた所で、パトリシアは説明する。
「へぇー。すごいねパーちゃんは」
「いえ、ラルフ様が魔獣を沢山仕留めて魔素を解析させてくださったおかげです!」
「あ、あのさ、リシャールにはそういう事を頼まなかったの?」
「リシャール様は、私の研究に興味は無いですから」
「じ、じゃあどんなデートをしたの?」
(昔の男が気になるタイプか……)
身を乗り出すラルフの姿に、意外な一面があったのだと気付く騎士たち。
「デートと言えるのか……。王宮の部屋でお茶をして、リシャール様が欲しい物を言って、帰ってから私が作って、それが完成したら渡す時が次のお茶会、という感じでしたね」
「何だそれは! パーちゃんを食い物にしてるだけじゃないか!」
「いえ、他に共通の話題が無いと言うか……。なんせ、趣味が研究、特技が発明、という人間なもので、普通の令嬢みたいな反応が出来なくて」
満開の花畑に連れて行ってもらった時、花よりトンボの交尾に夢中になった事はさすがに黒歴史の自覚があるので言わない。
不自然に目を逸らすパトリシアに、ラルフの誤解は固まった。
「パーちゃんは、今までどんなのを発明したの?」
「10歳の時に『お湯の温度が変わらないティーポット』を発明して、リシャール様の婚約者になりました」
「ああ! うちにもあるよ。パーちゃんが発明したのか」
「はい。それから、リシャール様のリクエストで、塗ればガングロになるファンデーションとか、アヒル口になる口紅とか、涙袋が出来るアイクリームとか」
「……何か、流行の変遷を見ているようだ」
「てか、王家の人たちって結構流行り物好き?」
「ニキビ跡が消えるクリームを頼まれたすぐ後に、私が魔獣にハマりまして。いつまでたっても作らないので、私の心変わりに気づいたんでしょうね」
「そんな物作らなくていいよ!」
「いいえ、作ります」
ガーン!、という顔になるラルフ。
「その、私ってコミュニケーション能力が無いと言うか、物事を言葉通りに受け取るしかできないと言うか……」
(自覚があったんだ!)
「辺境に来て気付いたんです。リシャール様は『ニキビ跡』と言いましたが、きっと『傷跡』を消してほしかったんだと」
「ああ、ここの騎士団の奴らは傷だらけだな」
「リシャール様は、卒業後宮廷騎士団に入団が決まっていました。素直に『傷跡』とは言えなかったのでしょう」
辺境の騎士たちは傷だらけだ。魔素を含んだ傷は跡を残すから。傷跡は勲章みたいなものだが、引きつって痛むし、女性騎士は内心では顔の傷を気にしているだろう。
「傷跡が無くなるクリームか……。パーちゃんと婚約破棄だなんて、なんて愚かな男だと思っていたが……」
「リシャール様は痴漢ではありません!」
『痴漢』が『馬鹿な男』の意味で使われているのだろうと悟った皆であった。
その時、鶏が今までよりけたたましく鳴いた。必死に逃げようとしてバタつく勢いが前回より大きい。
皆が魔の森を見ると、ゆっくりと森から現れたのは体長2メートルほどのクマ型魔獣だった。大物の登場に、さすがに皆が息を呑む。
毛の色がまだらとなり、手には血がこびりついた巨大な爪が存在を主張している。
皆はまた剣を抜いて、パトリシアを守るように前に立つ。
パトリシアはかぶりつきを諦めて、騎士たちの隙間から窺った。
ズンズンと近づいて来たクマ型魔獣は、魔獣よけ柵の電撃を受けて一瞬驚くが、電撃はクマ型魔獣を怒らせただけだった。
怒った魔獣はその手を柵に振り下ろし、歪んだ柵がそのまま破壊されて乗り越えられるかと皆が身構えた時、魔獣は小さな光の粒となって消えた。
残された者たちに沈黙が落ち、歪んだ柵だけが確かに魔獣がいた事を証明している。
「ふむ……。実験は成功ですが、物理的攻撃に弱いですね。ここは杭打ちのプロに知恵を借りて……って、ラルフ様、杭打ちのプロって何屋さんですか?」
「いやいや、それより魔獣は? どこ行っちゃったの!」
「宮廷騎士団の鍛錬場に転移してます。前にリシャール様に案内してもらったのですが、騎士の人数の割にめちゃくちゃ広いんですよ。とっても綺麗で、何でか花の咲く木が沢山植えてあったんですが、花が散ったら誰が掃除するんでしょうね」
(宮廷騎士団を見て、感想がそれ?)
「あそこなら、魔獣の一匹や二匹や三匹、暴れたって大丈夫です!」
「いやいや、宮廷騎士団の人たち今頃困ってるよ?」
宮廷騎士団の仕事と言えば、警備とか護衛とか護衛とか護衛とか。魔獣と戦った人などいないと思う。
焦っているラルフとは反対に、パトリシアは不思議そうに言った。
「何故ですか? 宮廷騎士団は国で一番強い騎士団だそうですよ」
皆の顔がスンとなり、宮廷騎士団への同情が霧散した。
「へ、へえ~。……そんな事言ってやがんだ。じゃあ放っておくか」
ラルフの言葉に騎士たちが深く頷く。
「パーちゃん、この杭をどんどん作ってくれ。俺たちはこの杭を領地中に打ち込むぞ! いや、その前に国王の認可と使用許可がいるか」
「おまかせください! 婚約破棄をされた時に、魔獣よけ石と魔獣よけベルと一緒に認可をもらっておきました!」
ポケットからクチャクチャになった紙を取り出して見せびらかす。
「おお! よくやったパーちゃん! 認可があれば堂々と魔の森と領地の間に杭を打てる! これは、魔の森に接している全ての領地、他国の領地にも売れるぞ。もちろん、利益はちゃんとパーちゃんに還元するから、本でも魔道具でも何でも好きな物を買うといい!」
(うわぁ、他国に出た魔獣までも宮廷騎士団の鍛錬場に届ける気か)
騎士たちは遠い目をするが、パトリシアは「好きな物を買っていい」の言葉にほわわわと夢心地だ。
「お、お金をもらえるんですか! じゃあ、王都で私を心配している父と母と弟と妹に、贈り物を買えますか? 四つ!」
「もちろんだ! 四つなんてみみっちいこと言わず、荷馬車一杯になるくらい買え! 一緒に手紙も添えて……、いや、いっそのこと一緒に王都に届けに行くか。俺もパーちゃんのご家族と会いたい」
「ラルフ様……!」
「パーちゃんを心配しなくていい、と教えてあげないと。俺が必ず魔獣から君を守ると」
「あ、心配は『お前のような不精者は三日で送り返される』でして……」
(そっちか!)
その頃、リシャールが突然宮廷騎士団の鍛錬場に現れた魔獣と死にもの狂いで戦っているという事は、誰もが忘れ去っていた。
飛び上がるパトリシアに
「やったな! パーちゃん!」
「しかし、我々が触っても何ともなかったのに何故……」
「あの火花は何ですか?」
と、次々と声が掛けられる。
「あれは、杭に雷の魔法陣を書き込んでいるんです。魔素に反応して、杭や鉄線が魔素を感じたら雷が落ちるのと同じ攻撃をします」
スツールに落ち着いた所で、パトリシアは説明する。
「へぇー。すごいねパーちゃんは」
「いえ、ラルフ様が魔獣を沢山仕留めて魔素を解析させてくださったおかげです!」
「あ、あのさ、リシャールにはそういう事を頼まなかったの?」
「リシャール様は、私の研究に興味は無いですから」
「じ、じゃあどんなデートをしたの?」
(昔の男が気になるタイプか……)
身を乗り出すラルフの姿に、意外な一面があったのだと気付く騎士たち。
「デートと言えるのか……。王宮の部屋でお茶をして、リシャール様が欲しい物を言って、帰ってから私が作って、それが完成したら渡す時が次のお茶会、という感じでしたね」
「何だそれは! パーちゃんを食い物にしてるだけじゃないか!」
「いえ、他に共通の話題が無いと言うか……。なんせ、趣味が研究、特技が発明、という人間なもので、普通の令嬢みたいな反応が出来なくて」
満開の花畑に連れて行ってもらった時、花よりトンボの交尾に夢中になった事はさすがに黒歴史の自覚があるので言わない。
不自然に目を逸らすパトリシアに、ラルフの誤解は固まった。
「パーちゃんは、今までどんなのを発明したの?」
「10歳の時に『お湯の温度が変わらないティーポット』を発明して、リシャール様の婚約者になりました」
「ああ! うちにもあるよ。パーちゃんが発明したのか」
「はい。それから、リシャール様のリクエストで、塗ればガングロになるファンデーションとか、アヒル口になる口紅とか、涙袋が出来るアイクリームとか」
「……何か、流行の変遷を見ているようだ」
「てか、王家の人たちって結構流行り物好き?」
「ニキビ跡が消えるクリームを頼まれたすぐ後に、私が魔獣にハマりまして。いつまでたっても作らないので、私の心変わりに気づいたんでしょうね」
「そんな物作らなくていいよ!」
「いいえ、作ります」
ガーン!、という顔になるラルフ。
「その、私ってコミュニケーション能力が無いと言うか、物事を言葉通りに受け取るしかできないと言うか……」
(自覚があったんだ!)
「辺境に来て気付いたんです。リシャール様は『ニキビ跡』と言いましたが、きっと『傷跡』を消してほしかったんだと」
「ああ、ここの騎士団の奴らは傷だらけだな」
「リシャール様は、卒業後宮廷騎士団に入団が決まっていました。素直に『傷跡』とは言えなかったのでしょう」
辺境の騎士たちは傷だらけだ。魔素を含んだ傷は跡を残すから。傷跡は勲章みたいなものだが、引きつって痛むし、女性騎士は内心では顔の傷を気にしているだろう。
「傷跡が無くなるクリームか……。パーちゃんと婚約破棄だなんて、なんて愚かな男だと思っていたが……」
「リシャール様は痴漢ではありません!」
『痴漢』が『馬鹿な男』の意味で使われているのだろうと悟った皆であった。
その時、鶏が今までよりけたたましく鳴いた。必死に逃げようとしてバタつく勢いが前回より大きい。
皆が魔の森を見ると、ゆっくりと森から現れたのは体長2メートルほどのクマ型魔獣だった。大物の登場に、さすがに皆が息を呑む。
毛の色がまだらとなり、手には血がこびりついた巨大な爪が存在を主張している。
皆はまた剣を抜いて、パトリシアを守るように前に立つ。
パトリシアはかぶりつきを諦めて、騎士たちの隙間から窺った。
ズンズンと近づいて来たクマ型魔獣は、魔獣よけ柵の電撃を受けて一瞬驚くが、電撃はクマ型魔獣を怒らせただけだった。
怒った魔獣はその手を柵に振り下ろし、歪んだ柵がそのまま破壊されて乗り越えられるかと皆が身構えた時、魔獣は小さな光の粒となって消えた。
残された者たちに沈黙が落ち、歪んだ柵だけが確かに魔獣がいた事を証明している。
「ふむ……。実験は成功ですが、物理的攻撃に弱いですね。ここは杭打ちのプロに知恵を借りて……って、ラルフ様、杭打ちのプロって何屋さんですか?」
「いやいや、それより魔獣は? どこ行っちゃったの!」
「宮廷騎士団の鍛錬場に転移してます。前にリシャール様に案内してもらったのですが、騎士の人数の割にめちゃくちゃ広いんですよ。とっても綺麗で、何でか花の咲く木が沢山植えてあったんですが、花が散ったら誰が掃除するんでしょうね」
(宮廷騎士団を見て、感想がそれ?)
「あそこなら、魔獣の一匹や二匹や三匹、暴れたって大丈夫です!」
「いやいや、宮廷騎士団の人たち今頃困ってるよ?」
宮廷騎士団の仕事と言えば、警備とか護衛とか護衛とか護衛とか。魔獣と戦った人などいないと思う。
焦っているラルフとは反対に、パトリシアは不思議そうに言った。
「何故ですか? 宮廷騎士団は国で一番強い騎士団だそうですよ」
皆の顔がスンとなり、宮廷騎士団への同情が霧散した。
「へ、へえ~。……そんな事言ってやがんだ。じゃあ放っておくか」
ラルフの言葉に騎士たちが深く頷く。
「パーちゃん、この杭をどんどん作ってくれ。俺たちはこの杭を領地中に打ち込むぞ! いや、その前に国王の認可と使用許可がいるか」
「おまかせください! 婚約破棄をされた時に、魔獣よけ石と魔獣よけベルと一緒に認可をもらっておきました!」
ポケットからクチャクチャになった紙を取り出して見せびらかす。
「おお! よくやったパーちゃん! 認可があれば堂々と魔の森と領地の間に杭を打てる! これは、魔の森に接している全ての領地、他国の領地にも売れるぞ。もちろん、利益はちゃんとパーちゃんに還元するから、本でも魔道具でも何でも好きな物を買うといい!」
(うわぁ、他国に出た魔獣までも宮廷騎士団の鍛錬場に届ける気か)
騎士たちは遠い目をするが、パトリシアは「好きな物を買っていい」の言葉にほわわわと夢心地だ。
「お、お金をもらえるんですか! じゃあ、王都で私を心配している父と母と弟と妹に、贈り物を買えますか? 四つ!」
「もちろんだ! 四つなんてみみっちいこと言わず、荷馬車一杯になるくらい買え! 一緒に手紙も添えて……、いや、いっそのこと一緒に王都に届けに行くか。俺もパーちゃんのご家族と会いたい」
「ラルフ様……!」
「パーちゃんを心配しなくていい、と教えてあげないと。俺が必ず魔獣から君を守ると」
「あ、心配は『お前のような不精者は三日で送り返される』でして……」
(そっちか!)
その頃、リシャールが突然宮廷騎士団の鍛錬場に現れた魔獣と死にもの狂いで戦っているという事は、誰もが忘れ去っていた。
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