君が幸せになりたくなくても

あんど もあ

文字の大きさ
4 / 4

しおりを挟む
 夕暮れが近付き、小さな町の市場も賑わい始めている。
 その中に、買い物かごを下げてる見習いシスターを見つけた。
「クリスティナ!」
「……ライアン様?」
 人込みをかき分けて彼女のもとへ行く。
「ライアン様、何故ここにいるんです」
「ここがフォーン領だから? 僕、王立学園の卒業条件はもう満たしているから、卒業式まで領地で領主見習いしてるんだ」
「じゃなくって! なんで市場にいるんです!」
「クリスティナがお使いで来る時間かなあって思って。あの修道院、年配のシスターばかりだからきっとクリスティナが買い物を引き受けるだろうと思ったんだ」
「……ちゃんと仕事をしてください」
「したよ! クリスティナに会いたくて大急ぎで間に合わせた」

 クリスティナが唖然としてる。
 修道院に持って行く僅かな荷物の中に『穀物概論』が入ってたとルパートから聞いてる僕は強気だよ?
 あ、妹が「はあ? 『穀物概論』? 有り得ないー!」と、吟味した恋愛小説詰め合わせの差し入れを用意していたからそのうち届くと思う。




 
「クリスティナは、修道院に行くべきです」
 あの時、とにかくクリスティナと両親の距離を離そうと思った。父とルパートも賛成してくれた。

 王立学園は、父とルパートが学園に事情を話して退学手続きをとった。学園でも、本来保護者が来るべき入学手続きにも説明会にも入学式にもクリスティナ一人しか来ない事に違和感を感じていたらしい。
 それを聞いて、ルパートは地面にめり込みそうなほど落ち込んでたそうだ。婚約者に「子爵夫妻のクリスティナの扱いはおかしい」と何度も言われていたのに、本気にしていなかったと。
 僕も、クリスティナの流行に疎い所を「世間擦れしてない」と思ってたのだから、人のことは言えない。

 父が、王都から離れた治安のいい町に信頼できる小規模な修道院があるから紹介すると言い、クリスティナもルパートもその案にのった。

 それがフォーン領の修道院なんだから、父もクリスティナが気に入ったようだ。
「結婚するのが幸せだと思ってるのですか?、と言ってたろう? あの子は結婚してお前に幸せにしてもらおうなんて思っていない。自分の足で立つ子だ」
 お前を好きになってくれるといいな、と笑ってた。
 
 修道院がフォーン領と聞いてクリスティナはちょっと引いてた気がする。





 領主見習いの僕と見習いシスターのやりとりは、市場にいる人たちの注目を集めてたようだ。
「領主の坊ちゃん。シスターを口説くのはいけないなぁ」
 八百屋の親父の軽口に笑いが起こる。

「口説いてるんじゃないよ。彼女は僕の婚約者だ。今は、お姉さんの喪中なんだ」
 わあっ!、と歓声が上がった。
「ち、ちょっと! ライアン様!」
「嘘は言ってないよ」
 僕たちは婚約解消の手続きをしていない。

 盛り上がった領民たちは、「おめでとう!」と彼女の持っている買い物かごに果物や野菜やソーセージやお菓子を勝手に入れていく。僕がストップさせないと、彼女の治ったばかりの右腕には抱えきれない量になったろう。

 ずっしりと重くなった買い物かご。
「こんなに………」
「皆、君が来た事を喜んでいるんだ」
「私、が……?」
 信じられない、という顔のクリスティナ。
 やがて目からポロポロと涙が零れ出した。

 幸せにしたい、とか、幸せになって欲しい、なんてまだ君には言えない。
 でも、そう思っている人がいるんだよ。


「……さあ、帰ろうか」
 気まずそうに見守る領民たちに笑顔で手を振ると、ほっとした顔になる。

 クリスティナの買い物かごを僕が持ち、ハンカチを目にあててるクリスティナの背中に腕を回して、僕たちはゆっくりと修道院に歩き出した。 
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

あの素晴らしい愛をもう一度

仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは 33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。 家同士のつながりで婚約した2人だが 婚約期間にはお互いに惹かれあい 好きだ!  私も大好き〜! 僕はもっと大好きだ! 私だって〜! と人前でいちゃつく姿は有名であった そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった はず・・・ このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。 あしからず!

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

不機嫌な侯爵様に、その献身は届かない

翠月 瑠々奈
恋愛
サルコベリア侯爵夫人は、夫の言動に違和感を覚え始める。 始めは夜会での振る舞いからだった。 それがさらに明らかになっていく。 機嫌が悪ければ、それを周りに隠さず察して動いてもらおうとし、愚痴を言ったら同調してもらおうとするのは、まるで子どものよう。 おまけに自分より格下だと思えば強気に出る。 そんな夫から、とある仕事を押し付けられたところ──?

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

離婚するはずの旦那様を、なぜか看病しています

鍛高譚
恋愛
「結婚とは、貴族の義務。そこに愛など不要――」 そう割り切っていた公爵令嬢アルタイは、王命により辺境伯ベガと契約結婚することに。 お互い深入りしない仮面夫婦として過ごすはずが、ある日ベガが戦地へ赴くことになり、彼はアルタイにこう告げる。 「俺は生きて帰れる自信がない。……だから、お前を自由にしてやりたい」 あっさりと“離婚”を申し出る彼に、アルタイは皮肉めいた笑みを浮かべる。 「では、戦争が終わり、貴方が帰るまで離婚は待ちましょう。   戦地で女でも作ってきてください。そうすれば、心置きなく別れられます」 ――しかし、戦争は長引き、何年も経ったのちにようやく帰還したベガは、深い傷を負っていた。 彼を看病しながら、アルタイは自分の心が変化していることに気づく。 「早く元気になってもらわないと、離婚できませんね?」 「……本当に、離婚したいのか?」 最初は“義務”だったはずの結婚。しかし、夫婦として過ごすうちに、仮面は次第に剥がれていく。 やがて、二人の離婚を巡る噂が王宮を騒がせる中、ベガは決意を固める――。

処理中です...