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夕暮れが近付き、小さな町の市場も賑わい始めている。
その中に、買い物かごを下げてる見習いシスターを見つけた。
「クリスティナ!」
「……ライアン様?」
人込みをかき分けて彼女のもとへ行く。
「ライアン様、何故ここにいるんです」
「ここがフォーン領だから? 僕、王立学園の卒業条件はもう満たしているから、卒業式まで領地で領主見習いしてるんだ」
「じゃなくって! なんで市場にいるんです!」
「クリスティナがお使いで来る時間かなあって思って。あの修道院、年配のシスターばかりだからきっとクリスティナが買い物を引き受けるだろうと思ったんだ」
「……ちゃんと仕事をしてください」
「したよ! クリスティナに会いたくて大急ぎで間に合わせた」
クリスティナが唖然としてる。
修道院に持って行く僅かな荷物の中に『穀物概論』が入ってたとルパートから聞いてる僕は強気だよ?
あ、妹が「はあ? 『穀物概論』? 有り得ないー!」と、吟味した恋愛小説詰め合わせの差し入れを用意していたからそのうち届くと思う。
「クリスティナは、修道院に行くべきです」
あの時、とにかくクリスティナと両親の距離を離そうと思った。父とルパートも賛成してくれた。
王立学園は、父とルパートが学園に事情を話して退学手続きをとった。学園でも、本来保護者が来るべき入学手続きにも説明会にも入学式にもクリスティナ一人しか来ない事に違和感を感じていたらしい。
それを聞いて、ルパートは地面にめり込みそうなほど落ち込んでたそうだ。婚約者に「子爵夫妻のクリスティナの扱いはおかしい」と何度も言われていたのに、本気にしていなかったと。
僕も、クリスティナの流行に疎い所を「世間擦れしてない」と思ってたのだから、人のことは言えない。
父が、王都から離れた治安のいい町に信頼できる小規模な修道院があるから紹介すると言い、クリスティナもルパートもその案にのった。
それがフォーン領の修道院なんだから、父もクリスティナが気に入ったようだ。
「結婚するのが幸せだと思ってるのですか?、と言ってたろう? あの子は結婚してお前に幸せにしてもらおうなんて思っていない。自分の足で立つ子だ」
お前を好きになってくれるといいな、と笑ってた。
修道院がフォーン領と聞いてクリスティナはちょっと引いてた気がする。
領主見習いの僕と見習いシスターのやりとりは、市場にいる人たちの注目を集めてたようだ。
「領主の坊ちゃん。シスターを口説くのはいけないなぁ」
八百屋の親父の軽口に笑いが起こる。
「口説いてるんじゃないよ。彼女は僕の婚約者だ。今は、お姉さんの喪中なんだ」
わあっ!、と歓声が上がった。
「ち、ちょっと! ライアン様!」
「嘘は言ってないよ」
僕たちは婚約解消の手続きをしていない。
盛り上がった領民たちは、「おめでとう!」と彼女の持っている買い物かごに果物や野菜やソーセージやお菓子を勝手に入れていく。僕がストップさせないと、彼女の治ったばかりの右腕には抱えきれない量になったろう。
ずっしりと重くなった買い物かご。
「こんなに………」
「皆、君が来た事を喜んでいるんだ」
「私、が……?」
信じられない、という顔のクリスティナ。
やがて目からポロポロと涙が零れ出した。
幸せにしたい、とか、幸せになって欲しい、なんてまだ君には言えない。
でも、そう思っている人がいるんだよ。
「……さあ、帰ろうか」
気まずそうに見守る領民たちに笑顔で手を振ると、ほっとした顔になる。
クリスティナの買い物かごを僕が持ち、ハンカチを目にあててるクリスティナの背中に腕を回して、僕たちはゆっくりと修道院に歩き出した。
その中に、買い物かごを下げてる見習いシスターを見つけた。
「クリスティナ!」
「……ライアン様?」
人込みをかき分けて彼女のもとへ行く。
「ライアン様、何故ここにいるんです」
「ここがフォーン領だから? 僕、王立学園の卒業条件はもう満たしているから、卒業式まで領地で領主見習いしてるんだ」
「じゃなくって! なんで市場にいるんです!」
「クリスティナがお使いで来る時間かなあって思って。あの修道院、年配のシスターばかりだからきっとクリスティナが買い物を引き受けるだろうと思ったんだ」
「……ちゃんと仕事をしてください」
「したよ! クリスティナに会いたくて大急ぎで間に合わせた」
クリスティナが唖然としてる。
修道院に持って行く僅かな荷物の中に『穀物概論』が入ってたとルパートから聞いてる僕は強気だよ?
あ、妹が「はあ? 『穀物概論』? 有り得ないー!」と、吟味した恋愛小説詰め合わせの差し入れを用意していたからそのうち届くと思う。
「クリスティナは、修道院に行くべきです」
あの時、とにかくクリスティナと両親の距離を離そうと思った。父とルパートも賛成してくれた。
王立学園は、父とルパートが学園に事情を話して退学手続きをとった。学園でも、本来保護者が来るべき入学手続きにも説明会にも入学式にもクリスティナ一人しか来ない事に違和感を感じていたらしい。
それを聞いて、ルパートは地面にめり込みそうなほど落ち込んでたそうだ。婚約者に「子爵夫妻のクリスティナの扱いはおかしい」と何度も言われていたのに、本気にしていなかったと。
僕も、クリスティナの流行に疎い所を「世間擦れしてない」と思ってたのだから、人のことは言えない。
父が、王都から離れた治安のいい町に信頼できる小規模な修道院があるから紹介すると言い、クリスティナもルパートもその案にのった。
それがフォーン領の修道院なんだから、父もクリスティナが気に入ったようだ。
「結婚するのが幸せだと思ってるのですか?、と言ってたろう? あの子は結婚してお前に幸せにしてもらおうなんて思っていない。自分の足で立つ子だ」
お前を好きになってくれるといいな、と笑ってた。
修道院がフォーン領と聞いてクリスティナはちょっと引いてた気がする。
領主見習いの僕と見習いシスターのやりとりは、市場にいる人たちの注目を集めてたようだ。
「領主の坊ちゃん。シスターを口説くのはいけないなぁ」
八百屋の親父の軽口に笑いが起こる。
「口説いてるんじゃないよ。彼女は僕の婚約者だ。今は、お姉さんの喪中なんだ」
わあっ!、と歓声が上がった。
「ち、ちょっと! ライアン様!」
「嘘は言ってないよ」
僕たちは婚約解消の手続きをしていない。
盛り上がった領民たちは、「おめでとう!」と彼女の持っている買い物かごに果物や野菜やソーセージやお菓子を勝手に入れていく。僕がストップさせないと、彼女の治ったばかりの右腕には抱えきれない量になったろう。
ずっしりと重くなった買い物かご。
「こんなに………」
「皆、君が来た事を喜んでいるんだ」
「私、が……?」
信じられない、という顔のクリスティナ。
やがて目からポロポロと涙が零れ出した。
幸せにしたい、とか、幸せになって欲しい、なんてまだ君には言えない。
でも、そう思っている人がいるんだよ。
「……さあ、帰ろうか」
気まずそうに見守る領民たちに笑顔で手を振ると、ほっとした顔になる。
クリスティナの買い物かごを僕が持ち、ハンカチを目にあててるクリスティナの背中に腕を回して、僕たちはゆっくりと修道院に歩き出した。
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