1 / 2
前編
しおりを挟む
なぜか、俺の記憶には丸いケーキがあった。
母さんの作るケーキは長い四角の箱で作るので、俺は丸いケーキなんて食べた事が無いのに。
幼い頃は、丸いケーキが食べたいと駄々をこねた。
「丸いって林檎みたいなの?」
「違う! 丸くて平らで真っ白で赤い実が載ってて切ると三角なの!」
うん、分からんw 母さんも困惑しただろう。
田舎の農家の幼児にすぎない俺は、文句を飲み込んで大人しく母さんの作った木の実入りのケーキを食べるしかなかった。
そんな俺が15歳になり配達で大きな町に遠出した時、町のケーキ屋に丸いケーキがあるのを見つけた。
実在するんだ……!
なら、俺のあのケーキもどこかにあるんじゃないか? いや、自分で記憶にあるケーキを作ればいいじゃないか!
そう気づいた俺は、速攻そのケーキ屋に雇ってもらえるよう直談判し、快諾された。
強引に家は弟に任せる事にして家を出た俺は、お店に住み込みのケーキ職人見習いとなった。
そして今、俺は赤ん坊の泣き声が響き渡る中を、小麦粉を運んで計って卵を割っている。
「……いやにあっさりと受け入れてくれたとは思ったけど」
「悪いねぇ。とにかく人手が欲しくて」
小さなケーキ屋は忙しかった。
実は店長の奥さんが子供を産んだばかりで、家の事もお店の事も手が回らない状況だったのだ。
「いえいえ、大丈夫ですよー。俺ん家じゃ、姉ちゃんたちが何度も里帰り出産してるから慣れてます」
むしろ、ギャン泣きの赤ん坊をあやしたり、ありあわせの物でスープを作っただけで感謝してくれる奥さんに驚きだ。
「姉ちゃんたちが奥さんみたいだったらいいのに!」
と言ったら店長は大笑いしたが、うちの姉ちゃんたちは「弟と書いて下僕と読む」という人たちなんだよ……。
そんなわけで、家の事もしつつ仕事を教えてもらう楽しい日々が過ぎていく。
俺はその日々の中で、俺の覚えている丸いケーキが前世の記憶ではないかと気づいた。
ここに来るまで丸いケーキを見たことがないのに、泡立て器でホイップするとか、生クリームでスポンジをぐるっとデコレーションするのって、どこかで映像を見た記憶がある。きっと、前世の俺が見たのだろう。見ただけでやった事は無いので、実際の腕前はヘロヘロだが。
しかし、記憶とは違ってここのケーキは高さが低い。記憶ではぶ厚いスポンジの間に赤い果物が挟まっているのに。
もしかして、小麦粉の種類が違うのでは?と、気づいた。ここの小麦粉は小麦をそのまま挽いたやつで、小麦の殻が入っている。
俺が小麦粉を目の細かいふるいにかけて殻を取り除くと、見覚えのある小麦粉が現れた。
それでケーキを作ったら大きく膨らんだ。俺も店長もびっくりだ。
俺は、小麦粉の業者に「最初から殻無しの小麦粉はできないか」とお願いしてみた。配達の青年は困った様子だったが、「やってみます」と約束してくれた。
数か月後、彼は見事に期待に答えてくれた。
そして、「これ、すごく売れてます!」と喜んでた。
その一方、いつまでも生クリームのデコレーションが下手な俺は、記憶にあるクルクル回る台付きのお皿があれば……と、楽することを考えた。
鍛冶屋に行って、「仕組みは全然分からないんだけど、こういうの作れない?」と言ったら、気難しそうなおじさんが「作れん訳がねえ」と引き受けてくれた。
出来たクルクルお皿を届けに来たおじさんは、「これ、別の店でも買いたいって言われたんだ。たくさん作って他の町の店でも売ろうと思うんだが、いいか?」と何故か俺に聞いてきた。
「俺は、こういうのを作ってって言っただけで、作ったのはおじさんだろ? 自由にしていいよ」
クルクルお皿はあっという間に普及したらしい。
クルクルお皿のおかげもあって生クリームのデコレーションも絞り出しも上手くなり、だいぶ理想のケーキに近づいた俺は18歳になった
そんな俺に店長が、店長が修行した王都の店で俺も修行してはどうかと勧めてくれた。相手の店も了承してるそうだ。
俺は大喜びで王都行きを決めた。
三年の間に店長にはもう一人子供が増えていた。お店を発つ時、子供たちが両足にしがみついて泣いてくれた。
母さんの作るケーキは長い四角の箱で作るので、俺は丸いケーキなんて食べた事が無いのに。
幼い頃は、丸いケーキが食べたいと駄々をこねた。
「丸いって林檎みたいなの?」
「違う! 丸くて平らで真っ白で赤い実が載ってて切ると三角なの!」
うん、分からんw 母さんも困惑しただろう。
田舎の農家の幼児にすぎない俺は、文句を飲み込んで大人しく母さんの作った木の実入りのケーキを食べるしかなかった。
そんな俺が15歳になり配達で大きな町に遠出した時、町のケーキ屋に丸いケーキがあるのを見つけた。
実在するんだ……!
なら、俺のあのケーキもどこかにあるんじゃないか? いや、自分で記憶にあるケーキを作ればいいじゃないか!
そう気づいた俺は、速攻そのケーキ屋に雇ってもらえるよう直談判し、快諾された。
強引に家は弟に任せる事にして家を出た俺は、お店に住み込みのケーキ職人見習いとなった。
そして今、俺は赤ん坊の泣き声が響き渡る中を、小麦粉を運んで計って卵を割っている。
「……いやにあっさりと受け入れてくれたとは思ったけど」
「悪いねぇ。とにかく人手が欲しくて」
小さなケーキ屋は忙しかった。
実は店長の奥さんが子供を産んだばかりで、家の事もお店の事も手が回らない状況だったのだ。
「いえいえ、大丈夫ですよー。俺ん家じゃ、姉ちゃんたちが何度も里帰り出産してるから慣れてます」
むしろ、ギャン泣きの赤ん坊をあやしたり、ありあわせの物でスープを作っただけで感謝してくれる奥さんに驚きだ。
「姉ちゃんたちが奥さんみたいだったらいいのに!」
と言ったら店長は大笑いしたが、うちの姉ちゃんたちは「弟と書いて下僕と読む」という人たちなんだよ……。
そんなわけで、家の事もしつつ仕事を教えてもらう楽しい日々が過ぎていく。
俺はその日々の中で、俺の覚えている丸いケーキが前世の記憶ではないかと気づいた。
ここに来るまで丸いケーキを見たことがないのに、泡立て器でホイップするとか、生クリームでスポンジをぐるっとデコレーションするのって、どこかで映像を見た記憶がある。きっと、前世の俺が見たのだろう。見ただけでやった事は無いので、実際の腕前はヘロヘロだが。
しかし、記憶とは違ってここのケーキは高さが低い。記憶ではぶ厚いスポンジの間に赤い果物が挟まっているのに。
もしかして、小麦粉の種類が違うのでは?と、気づいた。ここの小麦粉は小麦をそのまま挽いたやつで、小麦の殻が入っている。
俺が小麦粉を目の細かいふるいにかけて殻を取り除くと、見覚えのある小麦粉が現れた。
それでケーキを作ったら大きく膨らんだ。俺も店長もびっくりだ。
俺は、小麦粉の業者に「最初から殻無しの小麦粉はできないか」とお願いしてみた。配達の青年は困った様子だったが、「やってみます」と約束してくれた。
数か月後、彼は見事に期待に答えてくれた。
そして、「これ、すごく売れてます!」と喜んでた。
その一方、いつまでも生クリームのデコレーションが下手な俺は、記憶にあるクルクル回る台付きのお皿があれば……と、楽することを考えた。
鍛冶屋に行って、「仕組みは全然分からないんだけど、こういうの作れない?」と言ったら、気難しそうなおじさんが「作れん訳がねえ」と引き受けてくれた。
出来たクルクルお皿を届けに来たおじさんは、「これ、別の店でも買いたいって言われたんだ。たくさん作って他の町の店でも売ろうと思うんだが、いいか?」と何故か俺に聞いてきた。
「俺は、こういうのを作ってって言っただけで、作ったのはおじさんだろ? 自由にしていいよ」
クルクルお皿はあっという間に普及したらしい。
クルクルお皿のおかげもあって生クリームのデコレーションも絞り出しも上手くなり、だいぶ理想のケーキに近づいた俺は18歳になった
そんな俺に店長が、店長が修行した王都の店で俺も修行してはどうかと勧めてくれた。相手の店も了承してるそうだ。
俺は大喜びで王都行きを決めた。
三年の間に店長にはもう一人子供が増えていた。お店を発つ時、子供たちが両足にしがみついて泣いてくれた。
310
あなたにおすすめの小説
他国ならうまくいったかもしれない話
章槻雅希
ファンタジー
入り婿が爵位を継いで、第二夫人を迎えて後継者作り。
他国であれば、それが許される国もありましょうが、我が国では法律違反ですわよ。
そう、カヌーン魔導王国には王国特殊法がございますから。
『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
魅了魔法の正しい使い方
章槻雅希
ファンタジー
公爵令嬢のジュリエンヌは年の離れた妹を見て、自分との扱いの差に愕然とした。家族との交流も薄く、厳しい教育を課される自分。一方妹は我が儘を許され常に母の傍にいて甘やかされている。自分は愛されていないのではないか。そう不安に思うジュリエンヌ。そして、妹が溺愛されるのはもしかしたら魅了魔法が関係しているのではと思いついたジュリエンヌは筆頭魔術師に相談する。すると──。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる