それは思い出せない思い出

あんど もあ

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後編

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 着いた王都のケーキ屋は大きかった。ケーキ職人が何人もいる。
 オーナーを始め皆の俺を目が怖い気がする。やはり王都のお店は厳しいんだな。

 ……と思っていたら、並んで鍋をまぜまぜしてカスタードを作っていた同僚に
「お前って、今の小麦粉やケーキターンテーブルを発明したんだって?」
と言われて「はぁ?」となった。

「いや無い無い。こういうのが欲しいって言っただけ! 俺に発明なんて出来ない! 大体ケーキターンテーブルって? 俺、今までクルクルお皿って呼んでたよ!」
 周りにいた人たちが吹き出した。

 俺は理想のケーキが作りたいだけのヤツだと分かってもらえたらしい。
 ケーキの事を先輩たちに相談したら、俺が覚えている赤い果実は苺という物だと教えてもらった。だが、旬は春で、高価な果物らしい……。前世の俺は金持ちだったのか。

 春だけじゃなく、一年中手に入って安価な赤い果物は無いだろうか……。
 休みのたびに王都の店を探して回ったが、ちょうどいい物は見つからない。 

 そんなある日、俺は花屋の薔薇に気が付いた。
 王都で女性に贈る花は薔薇が定番だそうで、花屋には一年中薔薇があふれている。
 お茶にしたりジャムにしたりする人もいるそうだ。なら、ケーキにもできるのでは……?

「すみません」
 俺は、目の前のちょっと寂れた花屋に入った。若いお兄さんが出てくる。
「あの、申し訳ないんですが花が開き過ぎて売り物にならない赤い薔薇を安く売ってもらえないでしょうか」「はい?」
「ケーキを作りたくて」

 俺はたくさんの薔薇を抱えて帰った。

 営業後のお店で、先輩たちに見守られながら試作させてもらう。
 薔薇のコンポートをスポンジに挟んで、ケーキの上に花びらを散らす。夢のように綺麗なケーキが出来た。
 だが、中身はスポンジがコンポートの水分を吸ってグチャグチャだった……。
 見かねてコンポートの得意な先輩が協力してくれる事になった。水分を閉じ込めたゲル状になるように、食べて美味しい味になるように、何度も試作してくれる。

 俺は何度も花屋に通った。
 花屋のお兄さんは、母親が亡くなって花屋を引き継いだばかりなのだそうだ。
「俺と同じ見習いなんですね!」
 勝手に親近感。お兄さんもちょっと身近に感じてくれてる気がする。

 ある時、開いた薔薇が無かったのだろう 「これは売り物でしょう」という薔薇を提供された。
 遠慮してもお兄さんに手渡される。
「あのっ、このケーキが店頭に並んだらこの花屋の薔薇を使用していると表示してもいいですか?」
「その日を楽しみにしてます」

 「その日」は先輩の頑張りで思ったより早く来た。 

 発売された薔薇のケーキは、美しさと美味しさで大人気になった。一気にお店の看板商品だ。
 約束通りケーキに使用している花屋の名を表示したため、お兄さんの花屋にもお客が来ているそうだ。
「赤い薔薇のケーキと一緒に渡すように、赤以外の色々な薔薇を組み合わせた花束が好評なんです」
だって。こんな発想が出来るのに、何で閑古鳥が鳴いていたんだろう。お店も何だか綺麗になって、リボンやペーパーの種類が増えてる。

 先輩には貴族のスポンサーが付いて、その人の領地にお店を開くことになった。「第二の王都」と言われている都市らしい。
 これを機に恋人にプロポーズして、無事一緒に行ってもらう事になったらしい。
「薔薇のケーキはお前が考えた物なのに、すまない」
と言われたが、
「俺は考えただけで、実現化したのは先輩でしょう?」
と喜んで祝福した。

 俺の理想のケーキを作るために協力してもらっただけでもありがたい人たちが、それで幸せになるなんて最高だ。
 先輩が「本格的な冬が来て移動できなくなる前に」と店を辞めて間もなく、王都は雪に包まれた。

 南の村で生まれた俺には、初めての雪景色だ。

 ふと思いつき、裏庭のローズマリーの小枝を三本切って良く洗い、水気を切って上下逆さにして粉砂糖を振りかける。雪の積もったモミの木の完成だ。
 それを薔薇のケーキの真ん中に刺す。
 モミの木付き薔薇のケーキをオーナーも同僚も面白がってくれたので、店頭のショーケースに飾った。

「嘘っ! 何でクリスマスケーキ!?」

 店に戻ろうとしたら後ろから声が聞こえた。

 くりすますけーき

 そうだ、そんな名前だった。
 最後のピースがカチリと嵌まった。
 思い出が流れ込んで来る。

 俺たちの結婚して初めてのクリスマスイブは日曜日だった。これからは、クリスマスが終わってもそれぞれの家に戻らなくていい。俺たちは家でクリスマスを楽しむ計画にした。11月末から家にクリスマスツリーを飾って盛り上がる。プレゼントはお互いに内緒だ。
 本番の12月24日。昼過ぎに二人で買い物に出掛けた。
 まずは妻のお気に入りのケーキ屋で苺の載った小ぶりなクリスマスケーキを購入し、次はチキンだ、いや日本人なら唐揚げだ、などと言いながら歩いていたら、ふざけたクラクションを鳴らしながら猛スピードで走り過ぎようとした車が中央分離帯に接触した反動で歩道の俺たちに突っ込んできた。

 横たわった俺が最期に見たのは、タイヤに踏み潰されたケーキの箱だった……。


 ゆっくりと振り返ると、両手を口にあてて目を見開いてケーキを凝視している懐かしい女性。
 俺は声を掛けた。


「やっと会えた」
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