お嫁に行かせていただきます

あんど もあ

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お嫁に行かせていただきます

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「私、カールの所へお嫁に行かせていただきます」

 家族揃っての夕食の席で、姉様が爆弾発言した。


 ここはベラーシュ男爵家。両親と、17歳のセラ姉様、12歳の僕・ニックと、10歳の弟アスランの五人家族。
 家を継ぐのはセラ姉様と決まっていたので、「お嫁に行く」宣言に両親が驚いている。

「カ、カールとは、エルダー男爵家のカールの事かな?」
 父様が当たり前のことを聞く。
 うちで「カール」と言ったら、隣の領のエルダー男爵家のカールしかいない。お互いにそう大きな領地では無いためお互いの家に行っても日帰りできる距離なので、昔から親しく付き合っている家だ。
 でも、姉様と恋人同士だったとは。

「カールはエルダー家の嫡男だぞ。セラの婿にはなれん」
「婿入りではなく、私があちらに嫁ぐと言ってますのよ」
「お前はこの家の跡継ぎだ」
「そんなの、ニックに継がせたらいいではありませんの。ねえ、ニック」

 いきなり振られて驚いたが、正直言ってずっとこの家で父様と母様と過ごせるなら嬉しい。
 でも、すぐに母様に否定された。

「いけません! この家を継ぐのはセラよ!」

 ちぇっ。

 とりあえず疑問を聞いておこう。
「姉様、いつの間にカール様にプロポーズされたの?」
「まだプロポーズされてませんわ。と言うか、そういう対象になってもいません」
 え?

「カールが爵位を継ぐ事になりましたの。いつまでも独身ではいられないでしょう? なら、私が嫁ぐしかありませんわ」
「……あれ? カール様の意思は?」
「カールに嫁ぎたい女性が私以外にいるわけないでしょう」
「ひでぇ」
 完全に姉様の独断だ。アスランも大笑いしてる。

 カール様は穏やかで優秀な人だ。姉様の七歳上だから、24歳か。
 ただ、無口な人だ。
 暑い日にはもう暑い事がわかっているのだからわざわざ「暑いですね」なんて挨拶をする必要なんて無い、という感じなので、よく知らない人からは「取っつきにくい」と思われるタイプだ。
 家に来ても、父様や母様とは必要な事を話しているだけ、姉様との会話は、カール様が1なら姉様が10という感じだ。
 でも、七つも年下の姉様が呼び捨てにしてるのを受け入れてくれるのだから、結構二人は相性が良いのかも。

 僕は納得したのだが、父様と母様はそうはいかない。
「駄目だ! セラを跡継ぎにするのはエレーヌとの約束だ!」
「そうよ、エレーヌ様がどれだけ悲しむか!」

 エレーヌとは、姉様を産んだ父様の最初の奥様だ。姉様が二歳の時に亡くなったらしい。
 僕とアスランと姉様は、一般的に言うところの「腹違いの姉弟」と言うやつだ。

 エレーヌさんは、亡くなる前に「セラをこの家の跡継ぎにしてくれ」と父様にお願いし、父様もそれを約束してエレーヌさんを見送ったのだそうだ。
 父様は約束を厳守すると決めて、母様はそれを知った上で後添のちぞいとなった。
 だから、僕とアスランは幼い頃から姉様が家を継ぐのだと教えられてきて、それに疑問を持ったことなど無かった。
 まさか本人が嫌だと言うなんて。

 その当人は堂々と言い返す。
「亡くなったお母様が悲しむわけ無いでしょう! お父様もお義母様も、わかっているのでしょう? お母様が『セラを跡取りに』と言い遺したのは、お父様の後添いになった継母が私を虐げたり無理な政略結婚を押しつけたりしないようにだ、って」

 え? そうだったのか。そう言えば、お話のママハハって意地悪だ。
 僕は母様が姉様にとってはママハハだとやっと気付いた。だって、お話みたいな意地悪な事なんて無かった。

「そんな心配をしたのに、こんなコブ付き男の後添いに来た女性はご自分が産んだ子供が跡を継げないのを納得して来てくれた初婚の女性で! 息子を二人も産んだ上に、三人とも分け隔てなく可愛がって育ててくれて!」
 父様も母様も言い返せない。

「いつか天国でお母様と再会したら、『ご心配いただきましたが、幸せに過ごせましたわ』と報告しますわ」
 姉様は胸を張る。


 マナーに厳しい母様が、ナプキンで目を押さえている。
 父様はまだ納得していない顔だが、間もなく陥落するだろう。

 
 姉様はきっと希望通りに突き進む。
 カール様も最初は戸惑うだろうけど、姉様を受け入れると思うんだ。




 × × × × × × × ×




モデルは、亡き母の遺言で家を継ぐ予定だったのに弟に譲って嫁いでいった祖母セツです。(貴族なんかじゃ無くて、農家です)
当然私はその時生まれていませんし、確認しようにも当事者たちは皆亡くなってしまってるので、やり取りは性格から想像した100%フィクションです。
義母は祖母に感謝していたそうで、祖母と弟たちは亡くなるまで仲良しでした。
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