初恋の終わりは

あんど もあ

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 王族執務室の内鍵をかけて、倒れこむように三人でソファーに座ると、やっとホッとできた。

「ジェ、あ、アンバー嬢のおかげで助かった。礼を言う」
「いえ、たまたまですから」
「そう言えばあんなところで何をしていたのだ?」
「アーチェリーの矢が練習場の外に飛んで行ってしまったので、被害者がいないかこっそり探してましたの」
 あの広い練習場からすら外すって、どんだけ下手くそなんだ。
「よくその腕前で敵を射ろうと思ったな……」
「背中は広いから運が良ければ当たると思ったんですが、ギリギリ左腕でしたね」
「下手すぎる……」
「褒めてくださいよ。失敗したら王子様殺害罪になる覚悟でったんですから」
「殺害されかけたのに褒めるか!」

 ジェシカとこんなにポンポン言い合うのはどれくらいぶりだろう。昔に戻ったみたいだ。
 ……そうだ。昔のジェシカはこんな娘だった。

「ジェシカは、婚約を解消して随分変わったな」
「はい。殿下の婚約者じゃなくなったので、好きな物を好き、嫌いな物を嫌いと言えるようになりましたの」
 やはり私の婚約者という立場がジェシカを抑えつけていたのか。
 今のジェシカは、私が好きになった頃のジェシカだ。

「……もう一度婚約出来ないかな」
 ジェシカの表情が消える。
 また元の生活に戻るのは大変だろう。でもジェシカなら出来るよ。

 表情を消したままジェシカが言う。
「殿下……。私は言いましたわ。好きな物を好き、嫌いな物を嫌いと言えるようになったと」
「ああ」
「嫌いな物は嫌いなんです」
 …………え? まさか「嫌い」って私の事?

「私は十年間、殿下の婚約者として厳しく教育されました。それは婚約の時に覚悟しましたし、仕方のない事と思っています」
 でも、とジェシカは続ける。
「殿下はご自分が被害者だと思っていらっしゃる。変わる私にがっかりし、そんな私をめとらなければならない自分を可哀想だと思っている。こんなはずではなかったと」
 ジェシカの目にはもう私への愛情など無かった。
「私に分かったのは、殿下には、私に寄り添う気持ちが無いのだという事でした」
 そんなつもりは……。

「ノーラ様と私を見比べてる目に気づいてないと思いましたか? 私は、陛下に殿下が婚約解消を申し出たら了承してくださるようお願いしてました」

 父上にジェシカとの婚約解消を申し出た時、あっさりと了承されたのはそれでか。
 私が過去のジェシカを追い求めている時、父上やジェシカはその先を考えていたのだ。

「これからは、好きな物だけを好きでいます」
 ああ、君が表に出さないでいたのは「好き」だけじゃなくて「嫌い」もだったんだ。

 何か言わなくては、と思った時にドアが強くノックされ、ゴルディ団長の心配する声が聞こえた。
 ジェラルドが鍵を開けてゴルディ団長に対応しているドアの隙間を抜けて、ジェシカが去って行く。

 私は、振り返ることなく歩いて行くジェシカを黙って見送るしか無かった。

 ジェシカの後を、幼い私たちが追いかけていく幻が見えた気がした。


「宝物庫を探検だ! 行くぞ!」
「はいっ! アレックス様!」
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