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結果的に、ジャンヌは女優になれませんでした。
真面目にチョイ役を演じ、翌月の稽古にも決して遅刻しなかったジャンヌは、見事に次の公演では準ヒロインにキャスティング。
……でしたが、他の劇団員に「伯爵様の愛人になったおかげね」(きっと実際にはもっと下品で露骨な言葉で)と笑われて、カッとなって近くにあった果物ナイフでその女性に切り付けたのです。
相手は右腕をかする軽傷でしたが、警備隊に拘束された女優ジャンヌの醜聞はあっという間に王都中に広まりました。
被害者の女優は、私の謝罪と旦那様の用意した見舞金に恐縮して許してくれたのでジャンヌは罪に問われずにすんだのですが、王都では顔が知られているジャンヌは親戚を頼って遠くの町へ行ったのでした。
全てが終わって、私と旦那様はやっと落ち着いてお茶を飲んでいました。
「『お前と違って、ジャンヌには才能がある』でしたっけ。結局、ジャンヌの才能を潰してしまいましたのね」
「いや、それはジャンヌが」
「あなたは、私がどれだけジャンヌが他の劇団員から疎外されないように気を遣って推していたか知らないのね」
食事に誘う時はジャンヌだけじゃなく他の団員やスタッフも誘い、高級なレストランではなくカジュアルだけど皆が普段行く店より少し高い店にする。
差し入れをする時は全員の分を用意。でも中身はジャンヌの好きな物。
皆を応援しているけど、ジャンヌは私の推しなのよ~!、とさりげなくアピール。
だから、ジャンヌは私の推しだと皆に認識されても敵意を持たれる事は無かった。
エレーヌ夫人が、私がルネの後援をしたいと言った時にあっさり了承したのは、ルネが独立しても自分とは顧客が被らないと知っていたからだ。私だってそれを分かって申し出た。
「敵を作らない」は最低限の配慮。
それをあなたはレストランだドレスだパーティーだ家だと金をかけるだけで、全然配慮しなかった。
ジャンヌも、それらを享受するだけで周りからどう見られているか考えもしなかった。まあ、若い女性なら舞い上がるのも仕方ありません。
「悪女の女優を愛人にした伯爵として、あなたまで有名になられて」
ふぅ、とため息を吐くと、旦那様は慌てて聞いてきた。
「お、お前の愛人はどうしている」
「ルネは縫製工房を持ちました」
「店はまだなのか。お前だって愛人の夢を叶えていないだろう」
「叶えてますわよ。ルネの夢は、オートクチュールではなく平民の着る既製品のデザイナーですから」
自分のデザインした服を、色違いサイズ違いでたくさん作って、王都中の洋服屋に置いてもらう。お店を持ってお客が来てくれるのを待つのではなく、どのお店に行っても自分の服が売られている事がルネの夢だ。
ドレープやプリーツ、ギャザー、ラッフルなど、あらゆる技術を身に付けて平民の服に生かせるようになりたいとエレーヌ夫人の店で修行していたのだ。
経理担当者の報告では、今ルネはお針子の一人といい感じになっているそうだが、資金返済の目処が立つまでは自分は「伯爵夫人の愛人」だからと仲が進展する事は無いそうだ。ちょっと真面目すぎないかしら。
ちなみにルネの店の営業と配達は、結婚して子供も出来たから俳優を辞めたいと言っていた劇団員をスカウトした。彼のルックスとファンあしらいで慣れた話術で、ルネの服の取扱店は増え続けている。
「人によって夢は違いますわ。いかに叶えてあげるか、それが後援者の器量というもの」
舞台で輝いていたジャンヌは、もうどこにもいない。
「そうしてみると、あなたにはまだ愛人は早過ぎたようですわね」
真面目にチョイ役を演じ、翌月の稽古にも決して遅刻しなかったジャンヌは、見事に次の公演では準ヒロインにキャスティング。
……でしたが、他の劇団員に「伯爵様の愛人になったおかげね」(きっと実際にはもっと下品で露骨な言葉で)と笑われて、カッとなって近くにあった果物ナイフでその女性に切り付けたのです。
相手は右腕をかする軽傷でしたが、警備隊に拘束された女優ジャンヌの醜聞はあっという間に王都中に広まりました。
被害者の女優は、私の謝罪と旦那様の用意した見舞金に恐縮して許してくれたのでジャンヌは罪に問われずにすんだのですが、王都では顔が知られているジャンヌは親戚を頼って遠くの町へ行ったのでした。
全てが終わって、私と旦那様はやっと落ち着いてお茶を飲んでいました。
「『お前と違って、ジャンヌには才能がある』でしたっけ。結局、ジャンヌの才能を潰してしまいましたのね」
「いや、それはジャンヌが」
「あなたは、私がどれだけジャンヌが他の劇団員から疎外されないように気を遣って推していたか知らないのね」
食事に誘う時はジャンヌだけじゃなく他の団員やスタッフも誘い、高級なレストランではなくカジュアルだけど皆が普段行く店より少し高い店にする。
差し入れをする時は全員の分を用意。でも中身はジャンヌの好きな物。
皆を応援しているけど、ジャンヌは私の推しなのよ~!、とさりげなくアピール。
だから、ジャンヌは私の推しだと皆に認識されても敵意を持たれる事は無かった。
エレーヌ夫人が、私がルネの後援をしたいと言った時にあっさり了承したのは、ルネが独立しても自分とは顧客が被らないと知っていたからだ。私だってそれを分かって申し出た。
「敵を作らない」は最低限の配慮。
それをあなたはレストランだドレスだパーティーだ家だと金をかけるだけで、全然配慮しなかった。
ジャンヌも、それらを享受するだけで周りからどう見られているか考えもしなかった。まあ、若い女性なら舞い上がるのも仕方ありません。
「悪女の女優を愛人にした伯爵として、あなたまで有名になられて」
ふぅ、とため息を吐くと、旦那様は慌てて聞いてきた。
「お、お前の愛人はどうしている」
「ルネは縫製工房を持ちました」
「店はまだなのか。お前だって愛人の夢を叶えていないだろう」
「叶えてますわよ。ルネの夢は、オートクチュールではなく平民の着る既製品のデザイナーですから」
自分のデザインした服を、色違いサイズ違いでたくさん作って、王都中の洋服屋に置いてもらう。お店を持ってお客が来てくれるのを待つのではなく、どのお店に行っても自分の服が売られている事がルネの夢だ。
ドレープやプリーツ、ギャザー、ラッフルなど、あらゆる技術を身に付けて平民の服に生かせるようになりたいとエレーヌ夫人の店で修行していたのだ。
経理担当者の報告では、今ルネはお針子の一人といい感じになっているそうだが、資金返済の目処が立つまでは自分は「伯爵夫人の愛人」だからと仲が進展する事は無いそうだ。ちょっと真面目すぎないかしら。
ちなみにルネの店の営業と配達は、結婚して子供も出来たから俳優を辞めたいと言っていた劇団員をスカウトした。彼のルックスとファンあしらいで慣れた話術で、ルネの服の取扱店は増え続けている。
「人によって夢は違いますわ。いかに叶えてあげるか、それが後援者の器量というもの」
舞台で輝いていたジャンヌは、もうどこにもいない。
「そうしてみると、あなたにはまだ愛人は早過ぎたようですわね」
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