婚約破棄が始まる

あんど もあ

文字の大きさ
1 / 1

婚約破棄が始まる

しおりを挟む
「ヴィクトワール・エステラ公爵令嬢! 貴様とは今日で婚約破棄だ!」

 王立学園の卒業パーティーで、私アルブレヒト第一王子は男爵令嬢のフアナの腰を抱いて宣言した。
 私とフアナの後ろには、宰相の息子ミゲルと騎士団長の息子アントンが私たちを守るように控えている。

「婚約破棄……でございますか?」
 四人と対峙するように立つヴィクトワールは、その可憐な美貌を少し曇らせて答える。まるで分からない、と言うように。

「そうだ! 貴様は私の婚約者であることを盾にして、身分の低いフアナを虐めていた! 恥ずべき行為だ」
「まあ、私がその方に虐め……でございますか? 心当たりが無いのですが……」
 ますます困った顔になるヴィクトワールに、フアナが叫んだ。
「酷いです! 私のノートを破ったり、噴水に突き落としたりしたのに、覚えてもいないだなんて!」
「かわいそうに、フアナ」
 優しくフアナを慰める私。

「おとなしく罪を認めなさい」
「まったくふてぶてしい女だ」
 ミゲルとアントンも追い打ちをかける。

 ヴィクトワールが恐る恐る問いかける。
「あの……、証拠はございますの?」
「酷ぉい!」
 フアナが私に縋り付いたので断言する。
「フアナが虐められたと言っているではないか! 本人の証言が何よりの証拠だ!」

 周りのギャラリーが「うわぁ」となっているが、まあいい。

「あら、本人の証言だけなのですね?」
 からかうようなヴィクトワールの声にムッとするが、声を出す前にヴィクトワールの宣言が響き渡った。


「私は、フアナ様を虐めましたわ! ミゲル様とアントン様を使ってフアナ様を凌辱し、王家に嫁げない体にしましたの!」


 会場に沈黙が落ち、やがて言葉の意味を理解したギャラリーが赤くなったり青くなったりし始めた。

 『凌辱』の意味を知らないフアナだけが「ほら認めた~!」と喜んでいるが、ミゲルとアントンは怒りが爆発しそうな目でヴィクトワールを睨んでいる。

荒唐無稽こうとうむけいな事をおっしゃいますな!」
「俺が女性にそんな無体を働くか!」
 ミゲルとアントンが抗議するが
「あら、本人の証言は何よりの証拠なんですのよ。おとなしく罪を認めなさいませ」
と、にっこり微笑むヴィクトワール。
「それに、私に虐められたと彼女が証言したじゃありませんの」
 決して逃がさない、とその目は言っている。


 ……そう来たか。
 
 五年前に婚約した時から、私はヴィクトワールの虫も殺さぬような可憐な容姿に反して容赦を知らない苛烈な性格が受け入れられなかった。
 自分を貶める使用人や貴族令息令嬢には、ためらいもなく冷酷なまでの報復をする。

「あんな怖い子が婚約者なんて嫌です!」
と両親に訴えても
「頼もしいじゃないか」
「王妃になるならそれくらいじゃないと」
と、ヴィクトワールに好意的で、この縁談は私の幸せのためではなくヴィクトワールを王妃にするためだったのかと絶望した。

 もしヴィクトワールがフアナを虐めたら、ノートを破るなんて生易しい事じゃなく、二度と太陽の下を歩けない目にあわせるだろう。良心の呵責など爪の先ほども感じずに。
 そんな彼女は今、自分を貶めようとした私たちを笑顔で徹底的に叩き潰そうとしているのだ。


「何を怒ってるんですかぁ? ミゲル様、アントン様」
「あら、彼女は無体をされたのに怒っていないようですわね」
「「していない!」」

 フアナ、君の愚かさを愛しているよ。
 ミゲル、アントン、お前たちも私と同様に凡庸だ。お前たちが継ぐ地位は大きすぎる。

 間もなく彼らは、自分たちの潔白と共にフアナへの虐めが無かったことを認めざるを得ないだろう。
 私たちは、公爵令嬢を陥れようとした事を暴かれ、処罰される。表舞台から消え去る。

 ……そして、解放される。


 それが、私の長い間の望みだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

幼馴染以上、婚約者未満の王子と侯爵令嬢の関係

紫月 由良
恋愛
第二王子エインの婚約者は、貴族には珍しい赤茶色の髪を持つ侯爵令嬢のディアドラ。だが彼女の冷たい瞳と無口な性格が気に入らず、エインは婚約者の義兄フィオンとともに彼女を疎んじていた。そんな中、ディアドラが学院内で留学してきた男子学生たちと親しくしているという噂が広まる。注意しに行ったエインは彼女の見知らぬ一面に心を乱された。しかし婚約者の異母兄妹たちの思惑が問題を引き起こして……。 顔と頭が良く性格が悪い男の失恋ストーリー。 ※流血シーンがあります。(各話の前書きに注意書き+次話前書きにあらすじがあるので、飛ばし読み可能です)

処理中です...