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婚約破棄が始まる
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「ヴィクトワール・エステラ公爵令嬢! 貴様とは今日で婚約破棄だ!」
王立学園の卒業パーティーで、私アルブレヒト第一王子は男爵令嬢のフアナの腰を抱いて宣言した。
私とフアナの後ろには、宰相の息子ミゲルと騎士団長の息子アントンが私たちを守るように控えている。
「婚約破棄……でございますか?」
四人と対峙するように立つヴィクトワールは、その可憐な美貌を少し曇らせて答える。まるで分からない、と言うように。
「そうだ! 貴様は私の婚約者であることを盾にして、身分の低いフアナを虐めていた! 恥ずべき行為だ」
「まあ、私がその方に虐め……でございますか? 心当たりが無いのですが……」
ますます困った顔になるヴィクトワールに、フアナが叫んだ。
「酷いです! 私のノートを破ったり、噴水に突き落としたりしたのに、覚えてもいないだなんて!」
「かわいそうに、フアナ」
優しくフアナを慰める私。
「おとなしく罪を認めなさい」
「まったくふてぶてしい女だ」
ミゲルとアントンも追い打ちをかける。
ヴィクトワールが恐る恐る問いかける。
「あの……、証拠はございますの?」
「酷ぉい!」
フアナが私に縋り付いたので断言する。
「フアナが虐められたと言っているではないか! 本人の証言が何よりの証拠だ!」
周りのギャラリーが「うわぁ」となっているが、まあいい。
「あら、本人の証言だけなのですね?」
からかうようなヴィクトワールの声にムッとするが、声を出す前にヴィクトワールの宣言が響き渡った。
「私は、フアナ様を虐めましたわ! ミゲル様とアントン様を使ってフアナ様を凌辱し、王家に嫁げない体にしましたの!」
会場に沈黙が落ち、やがて言葉の意味を理解したギャラリーが赤くなったり青くなったりし始めた。
『凌辱』の意味を知らないフアナだけが「ほら認めた~!」と喜んでいるが、ミゲルとアントンは怒りが爆発しそうな目でヴィクトワールを睨んでいる。
「荒唐無稽な事をおっしゃいますな!」
「俺が女性にそんな無体を働くか!」
ミゲルとアントンが抗議するが
「あら、本人の証言は何よりの証拠なんですのよ。おとなしく罪を認めなさいませ」
と、にっこり微笑むヴィクトワール。
「それに、私に虐められたと彼女が証言したじゃありませんの」
決して逃がさない、とその目は言っている。
……そう来たか。
五年前に婚約した時から、私はヴィクトワールの虫も殺さぬような可憐な容姿に反して容赦を知らない苛烈な性格が受け入れられなかった。
自分を貶める使用人や貴族令息令嬢には、ためらいもなく冷酷なまでの報復をする。
「あんな怖い子が婚約者なんて嫌です!」
と両親に訴えても
「頼もしいじゃないか」
「王妃になるならそれくらいじゃないと」
と、ヴィクトワールに好意的で、この縁談は私の幸せのためではなくヴィクトワールを王妃にするためだったのかと絶望した。
もしヴィクトワールがフアナを虐めたら、ノートを破るなんて生易しい事じゃなく、二度と太陽の下を歩けない目にあわせるだろう。良心の呵責など爪の先ほども感じずに。
そんな彼女は今、自分を貶めようとした私たちを笑顔で徹底的に叩き潰そうとしているのだ。
「何を怒ってるんですかぁ? ミゲル様、アントン様」
「あら、彼女は無体をされたのに怒っていないようですわね」
「「していない!」」
フアナ、君の愚かさを愛しているよ。
ミゲル、アントン、お前たちも私と同様に凡庸だ。お前たちが継ぐ地位は大きすぎる。
間もなく彼らは、自分たちの潔白と共にフアナへの虐めが無かったことを認めざるを得ないだろう。
私たちは、公爵令嬢を陥れようとした事を暴かれ、処罰される。表舞台から消え去る。
……そして、解放される。
それが、私の長い間の望みだった。
王立学園の卒業パーティーで、私アルブレヒト第一王子は男爵令嬢のフアナの腰を抱いて宣言した。
私とフアナの後ろには、宰相の息子ミゲルと騎士団長の息子アントンが私たちを守るように控えている。
「婚約破棄……でございますか?」
四人と対峙するように立つヴィクトワールは、その可憐な美貌を少し曇らせて答える。まるで分からない、と言うように。
「そうだ! 貴様は私の婚約者であることを盾にして、身分の低いフアナを虐めていた! 恥ずべき行為だ」
「まあ、私がその方に虐め……でございますか? 心当たりが無いのですが……」
ますます困った顔になるヴィクトワールに、フアナが叫んだ。
「酷いです! 私のノートを破ったり、噴水に突き落としたりしたのに、覚えてもいないだなんて!」
「かわいそうに、フアナ」
優しくフアナを慰める私。
「おとなしく罪を認めなさい」
「まったくふてぶてしい女だ」
ミゲルとアントンも追い打ちをかける。
ヴィクトワールが恐る恐る問いかける。
「あの……、証拠はございますの?」
「酷ぉい!」
フアナが私に縋り付いたので断言する。
「フアナが虐められたと言っているではないか! 本人の証言が何よりの証拠だ!」
周りのギャラリーが「うわぁ」となっているが、まあいい。
「あら、本人の証言だけなのですね?」
からかうようなヴィクトワールの声にムッとするが、声を出す前にヴィクトワールの宣言が響き渡った。
「私は、フアナ様を虐めましたわ! ミゲル様とアントン様を使ってフアナ様を凌辱し、王家に嫁げない体にしましたの!」
会場に沈黙が落ち、やがて言葉の意味を理解したギャラリーが赤くなったり青くなったりし始めた。
『凌辱』の意味を知らないフアナだけが「ほら認めた~!」と喜んでいるが、ミゲルとアントンは怒りが爆発しそうな目でヴィクトワールを睨んでいる。
「荒唐無稽な事をおっしゃいますな!」
「俺が女性にそんな無体を働くか!」
ミゲルとアントンが抗議するが
「あら、本人の証言は何よりの証拠なんですのよ。おとなしく罪を認めなさいませ」
と、にっこり微笑むヴィクトワール。
「それに、私に虐められたと彼女が証言したじゃありませんの」
決して逃がさない、とその目は言っている。
……そう来たか。
五年前に婚約した時から、私はヴィクトワールの虫も殺さぬような可憐な容姿に反して容赦を知らない苛烈な性格が受け入れられなかった。
自分を貶める使用人や貴族令息令嬢には、ためらいもなく冷酷なまでの報復をする。
「あんな怖い子が婚約者なんて嫌です!」
と両親に訴えても
「頼もしいじゃないか」
「王妃になるならそれくらいじゃないと」
と、ヴィクトワールに好意的で、この縁談は私の幸せのためではなくヴィクトワールを王妃にするためだったのかと絶望した。
もしヴィクトワールがフアナを虐めたら、ノートを破るなんて生易しい事じゃなく、二度と太陽の下を歩けない目にあわせるだろう。良心の呵責など爪の先ほども感じずに。
そんな彼女は今、自分を貶めようとした私たちを笑顔で徹底的に叩き潰そうとしているのだ。
「何を怒ってるんですかぁ? ミゲル様、アントン様」
「あら、彼女は無体をされたのに怒っていないようですわね」
「「していない!」」
フアナ、君の愚かさを愛しているよ。
ミゲル、アントン、お前たちも私と同様に凡庸だ。お前たちが継ぐ地位は大きすぎる。
間もなく彼らは、自分たちの潔白と共にフアナへの虐めが無かったことを認めざるを得ないだろう。
私たちは、公爵令嬢を陥れようとした事を暴かれ、処罰される。表舞台から消え去る。
……そして、解放される。
それが、私の長い間の望みだった。
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