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前編
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「レアリゼ・ケインズ公爵令嬢! 貴様とは婚約破棄だ!」
王立学園にアントワーヌ王太子の声が響き渡る。
王太子の前に立つレアリゼは、周りの生徒にくすくす笑われて小さくなった。
レアリゼは何とか声を出す。
「ア、アントワーヌ様。場所をわきまえてご発言ください。ここは皆の学びの場です」
どうせ国王の決めた婚約を勝手に破棄など出来ない事は誰にでも分かっている。王太子はレアリゼを貶めたいだけだ。自分を取り巻く華やかな少女たちと一緒に、優秀なだけで愛らしさのかけらも無い婚約者を馬鹿にするイベントだ。
だから、周りの生徒たちもこの見せ物を気軽に楽しむ。婚約者から振り向いてもらえないあわれな公爵令嬢の姿を。
今日の婚約破棄の理由は、レアリゼの提出したレポートが「特A」の判定を受けたから。
「なぜお前は婚約者を引き立てようとしない。女のくせに男より良い成績だなどと、そんな婚約者を持った私が笑われるということが何故分からぬ」
……分からない。
自分が悪いの?
何が悪いの?
泣けばいいの?
縋り付けばいいの?
とりあえず謝っておこう。
「申し訳ありませんでした」
頭を下げたレアリゼの前をアントワーヌと取り巻きの令嬢たちが通り過ぎて行く。
「みじめねぇ」
「そこまでしても愛されないなんて」
きゃっきゃと楽しそうにレアリゼをけなす声が遠ざかって行く。
公爵令嬢というだけで王太子の婚約者の座についた少女をあざ笑いながら。
12歳でアントワーヌの婚約者になってから、レアリゼはずっと彼に嫌われている。
レアリゼは彼の思う「女の子」では無いらしい。
女の子というものは、本よりもお花やお菓子を喜び、読書する時間より髪を巻く時間を楽しむものなのだそうだ。
アントワーヌの言葉に一喜一憂し、決して言い返したりしない。彼の寵愛を受けるために美しくあろうと努力して当然なのだと。
「まったく、なぜお前は婚約者の気を引くことも出来ないのだ」
アントワーヌとの婚約解消を相談した父は、レアリゼに失望したと告げる。
「どうしてあなたには可愛げがないのかしらねぇ」
母は、心底不思議そうだ。男性に依存して生きるのを当然として生きてきた彼女には、レアリゼが理解できないようだ。
兄はレアリゼを無視する。王太子から何度も婚約破棄を宣言される妹が恥ずかしいらしい。
こういう場合、街の読み物では優秀な第二王子が不遇な婚約者に思いを寄せるものだが、現実ではレアリゼは第二王子の目の上のたんこぶだ。レアリゼがいなければ、自分はアントワーヌを蹴落として王太子の座につけるのにと。
彼には敵意を持たれても、決して好意は持たれていない。
どこにも味方のいないレアリゼは、婚約者の座にしがみつくしか無かった。
何故か「お前の使い道を見つけてやった」とアントワーヌに恩着せがましくこれからは自分の分のレポートもやるように言われ、レアリゼはそれから王太子のレポートも書くようになった。自分のレポートより彼のレポートが高得点になるように気をつけて。
その間にもアントワーヌに何度も婚約破棄宣言をされ、それを上手くいなしつつ何とか無事に王立学園を卒業し、アントワーヌとレアリゼはその立場からしてはささやかに結婚した。
そして、初夜に宣言される。
「お前を愛する事は無い。お前の子供になど王位を継がせるものか」
薄笑いと共に。
予想は出来ていたのでダメージは無かったが、これで城の人たちのレアリゼへの対応が「愛されない妻」「嫌われ妻」「日陰の妻」となり、堂々と侮っていい存在となった。
レアリゼは、アントワーヌに放置されるのだからと国務に勤しんだ。
王太子妃の仕事ばかりでなく、結婚しても愛人たちと戯れるのに忙しいアントワーヌの仕事もこなした。
「そこまでなさらなくても……」
と、最初は遠慮していた事務官たちだが、
「私には出産の予定もありませんから」
とレアリゼが言うと、それもそうだとどんどん仕事を運ぶようになった。
「お世継ぎも産めぬ穀潰しには、食事の分くらい働いていただかないとですからな」
と、笑いながら。
そして、アントワーヌは時々「婚約破棄」の代わりに今は「離縁」をレアリゼに突きつける。
それをレアリゼがいなすのも見慣れた風景と化していた。
王立学園にアントワーヌ王太子の声が響き渡る。
王太子の前に立つレアリゼは、周りの生徒にくすくす笑われて小さくなった。
レアリゼは何とか声を出す。
「ア、アントワーヌ様。場所をわきまえてご発言ください。ここは皆の学びの場です」
どうせ国王の決めた婚約を勝手に破棄など出来ない事は誰にでも分かっている。王太子はレアリゼを貶めたいだけだ。自分を取り巻く華やかな少女たちと一緒に、優秀なだけで愛らしさのかけらも無い婚約者を馬鹿にするイベントだ。
だから、周りの生徒たちもこの見せ物を気軽に楽しむ。婚約者から振り向いてもらえないあわれな公爵令嬢の姿を。
今日の婚約破棄の理由は、レアリゼの提出したレポートが「特A」の判定を受けたから。
「なぜお前は婚約者を引き立てようとしない。女のくせに男より良い成績だなどと、そんな婚約者を持った私が笑われるということが何故分からぬ」
……分からない。
自分が悪いの?
何が悪いの?
泣けばいいの?
縋り付けばいいの?
とりあえず謝っておこう。
「申し訳ありませんでした」
頭を下げたレアリゼの前をアントワーヌと取り巻きの令嬢たちが通り過ぎて行く。
「みじめねぇ」
「そこまでしても愛されないなんて」
きゃっきゃと楽しそうにレアリゼをけなす声が遠ざかって行く。
公爵令嬢というだけで王太子の婚約者の座についた少女をあざ笑いながら。
12歳でアントワーヌの婚約者になってから、レアリゼはずっと彼に嫌われている。
レアリゼは彼の思う「女の子」では無いらしい。
女の子というものは、本よりもお花やお菓子を喜び、読書する時間より髪を巻く時間を楽しむものなのだそうだ。
アントワーヌの言葉に一喜一憂し、決して言い返したりしない。彼の寵愛を受けるために美しくあろうと努力して当然なのだと。
「まったく、なぜお前は婚約者の気を引くことも出来ないのだ」
アントワーヌとの婚約解消を相談した父は、レアリゼに失望したと告げる。
「どうしてあなたには可愛げがないのかしらねぇ」
母は、心底不思議そうだ。男性に依存して生きるのを当然として生きてきた彼女には、レアリゼが理解できないようだ。
兄はレアリゼを無視する。王太子から何度も婚約破棄を宣言される妹が恥ずかしいらしい。
こういう場合、街の読み物では優秀な第二王子が不遇な婚約者に思いを寄せるものだが、現実ではレアリゼは第二王子の目の上のたんこぶだ。レアリゼがいなければ、自分はアントワーヌを蹴落として王太子の座につけるのにと。
彼には敵意を持たれても、決して好意は持たれていない。
どこにも味方のいないレアリゼは、婚約者の座にしがみつくしか無かった。
何故か「お前の使い道を見つけてやった」とアントワーヌに恩着せがましくこれからは自分の分のレポートもやるように言われ、レアリゼはそれから王太子のレポートも書くようになった。自分のレポートより彼のレポートが高得点になるように気をつけて。
その間にもアントワーヌに何度も婚約破棄宣言をされ、それを上手くいなしつつ何とか無事に王立学園を卒業し、アントワーヌとレアリゼはその立場からしてはささやかに結婚した。
そして、初夜に宣言される。
「お前を愛する事は無い。お前の子供になど王位を継がせるものか」
薄笑いと共に。
予想は出来ていたのでダメージは無かったが、これで城の人たちのレアリゼへの対応が「愛されない妻」「嫌われ妻」「日陰の妻」となり、堂々と侮っていい存在となった。
レアリゼは、アントワーヌに放置されるのだからと国務に勤しんだ。
王太子妃の仕事ばかりでなく、結婚しても愛人たちと戯れるのに忙しいアントワーヌの仕事もこなした。
「そこまでなさらなくても……」
と、最初は遠慮していた事務官たちだが、
「私には出産の予定もありませんから」
とレアリゼが言うと、それもそうだとどんどん仕事を運ぶようになった。
「お世継ぎも産めぬ穀潰しには、食事の分くらい働いていただかないとですからな」
と、笑いながら。
そして、アントワーヌは時々「婚約破棄」の代わりに今は「離縁」をレアリゼに突きつける。
それをレアリゼがいなすのも見慣れた風景と化していた。
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