1 / 3
前編
しおりを挟む
「ユリアナ・アロンズ子爵令嬢! 貴様とはたった今婚約破棄だ!」
王立学園の卒業パーティーで、テミス・フォーグロード公爵令息が叫んだ。テミス様の腕には、カトリーナ・トルハラン伯爵令嬢が絡みついている。
突然の婚約破棄宣言に驚いた私・ユリアナが、何も言えないでいるうちに、テミス様は言葉を続ける。
「その地味な容姿! 低い身分! 何事も凡庸で華も無く、何一つ私に相応しくなどないではないか! 汚らわしい貴様などと婚約したのは我が人生の恥だ! 二度と私の前に姿を見せるな!!」
公爵令息から放たれたとは思えない品の無い言葉に周りが凍り付くのも気づかず、テミス様は得意げに私を罵り続ける。同情の視線が集まるが、私は言い返す事なく、テミス様の言葉が途切れたところで一礼して退場した。
* * * * * * * * * *
この国では、10歳になると教会で自分のスキルを鑑定する義務がある。10歳にならなくてもスキルが発動する人もいるが、大抵は気付かないもの(例えば、男性にお菓子作りのスキルとか)なので鑑定してもらうのだ。
当然私も10歳になって教会に連れて行かれた。
結果、私のスキルは『解呪』。つまり、呪いを解くことができる! 稀有なスキルだと神父様に褒められ、
「これで困った人を助けてあげるんだ!」
と、意気揚々と帰宅した私だった。
だが、解呪しようにも、呪いをかけられた人なんて見たこと無い。そもそも、呪いってどうやってかけるの?、が普通の認識だろう。怨みがあっても、じゃあ呪いのかけ方を調べようなんてまどろっこしい事を考えないよね。
私のスキルは、出番が無いまま5年たった。
もう私のスキルを使う事は無いのだろうと思っていた15歳の私は、教会から紹介されたというフォーグロード公爵家から呼び出された。
お城のような屋敷に呆然としていると、息子が呪われたので解呪しろ、と高慢そうな公爵夫人が言った。
「テミスは公爵家の嫡子として自信と自覚を持った堂々とした息子だったのに、二ヶ月前からすっかりオドオドとした影の薄い子になってしまって。何としても元に戻してちょうだい」
話が大雑把過ぎて訳が分からないままに連れて行かれ、「友人の娘さん」と紹介されて公爵令息テミス様とお茶をする。
初めての『呪われた人』にドキドキするが、私と同年代の普通の子だった。
しっかりと手入れされて輝く金髪に、ブラウンの瞳。身につけている物はシンプルだけど質が良く、ちょっとした仕草が身分が高いであろうと思わせる。見た事無いけと、「王子様」って感じだ。
ただ、身分の低い私にまで敬語で話す。
「ユリアナさん、お茶にお砂糖を入れますか? ミルクは? どうぞお菓子も召し上がってください。あ、甘い物はお好きでは無かったですか? 先に尋ねればよかったですね。すみません」
……この態度は、あの公爵夫人には許せないわけだ。
お茶を終え、
「私には解呪できません。申し訳ありません」
と、帰ろうとしたのだが、公爵夫人は用意万端で、何とテミス様と私を婚約させた。
15歳になると貴族の子息息女は王立学園に入学して、二年間学ぶことになっている。その二年間で婚約者として近くにいながら解呪しろという事だ。権力のある人はやる事がえげつない。
「卒業までに解呪出来なかったら、仕方がないので結婚させてあげます。妻として務めながら解呪してちょうだい」
「い、いえ! 私など!」
「弁えているようね。なら、何としても解呪してちょうだい!」
弁えてると言うより、公爵夫人のいる家になんて嫁入りしたくありませんー! 何なんだ「結婚させてあげる」って!
何も知らずに私を婚約者と思ってくれてるテミス様には申し訳ないけど、私は何としても解呪して逃げる気満々だ。
そんなわけで「公爵令息テミス様の婚約者」として学園に入学した私は、当然好奇の目で見られた。中には敵意をむき出しにしてくる令嬢もいた。その筆頭がカトリーナ様だ。
カトリーナ様は身分の高さやその美貌がありながら、傲慢な性格のせいで婚約が決まらないのだと聞いた。そんな彼女が、大人しいテミス様を狙わないはずがない。
いや、狙ってくれていいのだけど、気の弱いテミス様が婚約者以外の女性のアプローチに応えるわけが無い。逆に「何あの人怖い」となって、オドオドと私の後ろに隠れるテミス様。
それを見て更にカトリーナ様がムキー!ってなる悪循環。
強気で来る者にはひたすら逃げ腰のテミス様に、周りの見る目も変わってくる。つまり、見下す。公爵家の嫡男に卑屈なまでに下手に出られるのは、心地良いのだろう。段々と周りの態度が尊大になってくる。
学園でさえこんなだ。テミス様は既に側近や公爵家の使用人には見下されていた。
使用人など、私とテミス様が応接室で話していると、
「まだ居たんですか。掃除するんで出て行ってください」
と入ってくる始末だ。そんな使用人に
「ご、ごめんね。いつもありがとう」
と私を連れて部屋を出ていくテミス様。そして私に
「気が利かなくてごめん」
と、謝る。テミス様が謝る事では無いと思うが、もしここで
「悪いのは使用人です!」
とでも言ったら
「ご、ごめん! 使用人の教育が行き届いて無くて!」
と、更に謝られるので面倒くさい。
王立学園の卒業パーティーで、テミス・フォーグロード公爵令息が叫んだ。テミス様の腕には、カトリーナ・トルハラン伯爵令嬢が絡みついている。
突然の婚約破棄宣言に驚いた私・ユリアナが、何も言えないでいるうちに、テミス様は言葉を続ける。
「その地味な容姿! 低い身分! 何事も凡庸で華も無く、何一つ私に相応しくなどないではないか! 汚らわしい貴様などと婚約したのは我が人生の恥だ! 二度と私の前に姿を見せるな!!」
公爵令息から放たれたとは思えない品の無い言葉に周りが凍り付くのも気づかず、テミス様は得意げに私を罵り続ける。同情の視線が集まるが、私は言い返す事なく、テミス様の言葉が途切れたところで一礼して退場した。
* * * * * * * * * *
この国では、10歳になると教会で自分のスキルを鑑定する義務がある。10歳にならなくてもスキルが発動する人もいるが、大抵は気付かないもの(例えば、男性にお菓子作りのスキルとか)なので鑑定してもらうのだ。
当然私も10歳になって教会に連れて行かれた。
結果、私のスキルは『解呪』。つまり、呪いを解くことができる! 稀有なスキルだと神父様に褒められ、
「これで困った人を助けてあげるんだ!」
と、意気揚々と帰宅した私だった。
だが、解呪しようにも、呪いをかけられた人なんて見たこと無い。そもそも、呪いってどうやってかけるの?、が普通の認識だろう。怨みがあっても、じゃあ呪いのかけ方を調べようなんてまどろっこしい事を考えないよね。
私のスキルは、出番が無いまま5年たった。
もう私のスキルを使う事は無いのだろうと思っていた15歳の私は、教会から紹介されたというフォーグロード公爵家から呼び出された。
お城のような屋敷に呆然としていると、息子が呪われたので解呪しろ、と高慢そうな公爵夫人が言った。
「テミスは公爵家の嫡子として自信と自覚を持った堂々とした息子だったのに、二ヶ月前からすっかりオドオドとした影の薄い子になってしまって。何としても元に戻してちょうだい」
話が大雑把過ぎて訳が分からないままに連れて行かれ、「友人の娘さん」と紹介されて公爵令息テミス様とお茶をする。
初めての『呪われた人』にドキドキするが、私と同年代の普通の子だった。
しっかりと手入れされて輝く金髪に、ブラウンの瞳。身につけている物はシンプルだけど質が良く、ちょっとした仕草が身分が高いであろうと思わせる。見た事無いけと、「王子様」って感じだ。
ただ、身分の低い私にまで敬語で話す。
「ユリアナさん、お茶にお砂糖を入れますか? ミルクは? どうぞお菓子も召し上がってください。あ、甘い物はお好きでは無かったですか? 先に尋ねればよかったですね。すみません」
……この態度は、あの公爵夫人には許せないわけだ。
お茶を終え、
「私には解呪できません。申し訳ありません」
と、帰ろうとしたのだが、公爵夫人は用意万端で、何とテミス様と私を婚約させた。
15歳になると貴族の子息息女は王立学園に入学して、二年間学ぶことになっている。その二年間で婚約者として近くにいながら解呪しろという事だ。権力のある人はやる事がえげつない。
「卒業までに解呪出来なかったら、仕方がないので結婚させてあげます。妻として務めながら解呪してちょうだい」
「い、いえ! 私など!」
「弁えているようね。なら、何としても解呪してちょうだい!」
弁えてると言うより、公爵夫人のいる家になんて嫁入りしたくありませんー! 何なんだ「結婚させてあげる」って!
何も知らずに私を婚約者と思ってくれてるテミス様には申し訳ないけど、私は何としても解呪して逃げる気満々だ。
そんなわけで「公爵令息テミス様の婚約者」として学園に入学した私は、当然好奇の目で見られた。中には敵意をむき出しにしてくる令嬢もいた。その筆頭がカトリーナ様だ。
カトリーナ様は身分の高さやその美貌がありながら、傲慢な性格のせいで婚約が決まらないのだと聞いた。そんな彼女が、大人しいテミス様を狙わないはずがない。
いや、狙ってくれていいのだけど、気の弱いテミス様が婚約者以外の女性のアプローチに応えるわけが無い。逆に「何あの人怖い」となって、オドオドと私の後ろに隠れるテミス様。
それを見て更にカトリーナ様がムキー!ってなる悪循環。
強気で来る者にはひたすら逃げ腰のテミス様に、周りの見る目も変わってくる。つまり、見下す。公爵家の嫡男に卑屈なまでに下手に出られるのは、心地良いのだろう。段々と周りの態度が尊大になってくる。
学園でさえこんなだ。テミス様は既に側近や公爵家の使用人には見下されていた。
使用人など、私とテミス様が応接室で話していると、
「まだ居たんですか。掃除するんで出て行ってください」
と入ってくる始末だ。そんな使用人に
「ご、ごめんね。いつもありがとう」
と私を連れて部屋を出ていくテミス様。そして私に
「気が利かなくてごめん」
と、謝る。テミス様が謝る事では無いと思うが、もしここで
「悪いのは使用人です!」
とでも言ったら
「ご、ごめん! 使用人の教育が行き届いて無くて!」
と、更に謝られるので面倒くさい。
56
あなたにおすすめの小説
よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて
碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。
美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。
第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
お前を愛することはないと言われたので、姑をハニトラに引っ掛けて婚家を内側から崩壊させます
碧井 汐桜香
ファンタジー
「お前を愛することはない」
そんな夫と
「そうよ! あなたなんか息子にふさわしくない!」
そんな義母のいる伯爵家に嫁いだケリナ。
嫁を大切にしない?ならば、内部から崩壊させて見せましょう
婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?
ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」
華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。
目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。
──あら、デジャヴ?
「……なるほど」
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる