呪いの公爵令息と解呪の乙女

あんど もあ

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前編

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「ユリアナ・アロンズ子爵令嬢! 貴様とはたった今婚約破棄だ!」

 王立学園の卒業パーティーで、テミス・フォーグロード公爵令息が叫んだ。テミス様の腕には、カトリーナ・トルハラン伯爵令嬢が絡みついている。

 突然の婚約破棄宣言に驚いた私・ユリアナが、何も言えないでいるうちに、テミス様は言葉を続ける。
「その地味な容姿! 低い身分! 何事も凡庸で華も無く、何一つ私に相応しくなどないではないか! 汚らわしい貴様などと婚約したのは我が人生の恥だ! 二度と私の前に姿を見せるな!!」
 公爵令息から放たれたとは思えない品の無い言葉に周りが凍り付くのも気づかず、テミス様は得意げに私をののしり続ける。同情の視線が集まるが、私は言い返す事なく、テミス様の言葉が途切れたところで一礼して退場した。



 * * * * * * * * * *



 この国では、10歳になると教会で自分のスキルを鑑定する義務がある。10歳にならなくてもスキルが発動する人もいるが、大抵は気付かないもの(例えば、男性にお菓子作りのスキルとか)なので鑑定してもらうのだ。
 当然私も10歳になって教会に連れて行かれた。
 結果、私のスキルは『解呪』。つまり、呪いを解くことができる! 稀有けうなスキルだと神父様に褒められ、
「これで困った人を助けてあげるんだ!」
と、意気揚々と帰宅した私だった。

 だが、解呪しようにも、呪いをかけられた人なんて見たこと無い。そもそも、呪いってどうやってかけるの?、が普通の認識だろう。怨みがあっても、じゃあ呪いのかけ方を調べようなんてまどろっこしい事を考えないよね。
 私のスキルは、出番が無いまま5年たった。

 もう私のスキルを使う事は無いのだろうと思っていた15歳の私は、教会から紹介されたというフォーグロード公爵家から呼び出された。


 お城のような屋敷に呆然としていると、息子が呪われたので解呪しろ、と高慢そうな公爵夫人が言った。
「テミスは公爵家の嫡子として自信と自覚を持った堂々とした息子だったのに、二ヶ月前からすっかりオドオドとした影の薄い子になってしまって。何としても元に戻してちょうだい」

 話が大雑把過ぎて訳が分からないままに連れて行かれ、「友人の娘さん」と紹介されて公爵令息テミス様とお茶をする。

 初めての『呪われた人』にドキドキするが、私と同年代の普通の子だった。
 しっかりと手入れされて輝く金髪に、ブラウンの瞳。身につけている物はシンプルだけど質が良く、ちょっとした仕草が身分が高いであろうと思わせる。見た事無いけと、「王子様」って感じだ。
 ただ、身分の低い私にまで敬語で話す。
「ユリアナさん、お茶にお砂糖を入れますか? ミルクは? どうぞお菓子も召し上がってください。あ、甘い物はお好きでは無かったですか? 先に尋ねればよかったですね。すみません」
 ……この態度は、あの公爵夫人には許せないわけだ。

 お茶を終え、
「私には解呪できません。申し訳ありません」
と、帰ろうとしたのだが、公爵夫人は用意万端で、何とテミス様と私を婚約させた。
 15歳になると貴族の子息息女は王立学園に入学して、二年間学ぶことになっている。その二年間で婚約者として近くにいながら解呪しろという事だ。権力のある人はやる事がえげつない。

「卒業までに解呪出来なかったら、仕方がないので結婚させてあげます。妻として務めながら解呪してちょうだい」
「い、いえ! 私など!」
わきまえているようね。なら、何としても解呪してちょうだい!」
 弁えてると言うより、公爵夫人あなたのいる家になんて嫁入りしたくありませんー! 何なんだ「結婚させてあげる」って!

 何も知らずに私を婚約者と思ってくれてるテミス様には申し訳ないけど、私は何としても解呪して逃げる気満々だ。


 そんなわけで「公爵令息テミス様の婚約者」として学園に入学した私は、当然好奇の目で見られた。中には敵意をむき出しにしてくる令嬢もいた。その筆頭がカトリーナ様だ。
 カトリーナ様は身分の高さやその美貌がありながら、傲慢ごうまんな性格のせいで婚約が決まらないのだと聞いた。そんな彼女が、大人しいテミス様を狙わないはずがない。
 いや、狙ってくれていいのだけど、気の弱いテミス様が婚約者以外の女性のアプローチに応えるわけが無い。逆に「何あの人怖い」となって、オドオドと私の後ろに隠れるテミス様。
 それを見て更にカトリーナ様がムキー!ってなる悪循環。

 強気で来る者にはひたすら逃げ腰のテミス様に、周りの見る目も変わってくる。つまり、見下す。公爵家の嫡男に卑屈なまでに下手に出られるのは、心地良いのだろう。段々と周りの態度が尊大になってくる。

 学園でさえこんなだ。テミス様は既に側近や公爵家の使用人には見下されていた。

 使用人など、私とテミス様が応接室で話していると、
「まだ居たんですか。掃除するんで出て行ってください」
と入ってくる始末だ。そんな使用人に
「ご、ごめんね。いつもありがとう」
と私を連れて部屋を出ていくテミス様。そして私に
「気が利かなくてごめん」
と、謝る。テミス様が謝る事では無いと思うが、もしここで
「悪いのは使用人です!」
とでも言ったら
「ご、ごめん! 使用人の教育が行き届いて無くて!」
と、更に謝られるので面倒くさい。
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