呪いの公爵令息と解呪の乙女

あんど もあ

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中編

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 一方、陰で
「あいつ、性格が変わって扱いやすくなったなー」
と笑っている側近たち。
「何か命じられても、『それ、本当にやらないといけない事ですか?』って言えば諦めるし」
「圧強めにして向かうとチョロいよな」
 笑い声がドアの向こうから漏れてくる。

 廊下でそれを聞いても
「私が不甲斐ないばかりに…」
と、怒るどころか自分を責めるテミス様。 
 そんな彼をフォローしつつ、解呪方法を探る日々だった。



 * * * * * * * * * *




「まったく、あいつは何を言ってるんだ! 婚約ならとっくに解消してるだろうが!」
 お兄様が、憤懣ふんまんやるかたない表情でパーティー会場を後にする。

 そう、呪いが解けてテミス様との婚約は解消されたので、私はパートナーをお兄様にお願いして卒業パーティーに参加していたのだ。
「私との婚約が、人生の恥だからでしょう……」
 それを聞いてますます怒り狂うお兄様と反対に、私は冷静だった。

 テミス様は……、きっと、呪いの渦中でも意識があったのだろう。不本意な婚約をする不甲斐ない自分を、カトリーナ様から逃げ回る気の弱い自分を、そんな自分をあなどって馬鹿にしている周りを、ずっと見ていたのだろう。
 怒りを爆発させたような婚約破棄を見て、私は確信を持った。

 既に婚約解消されている私でもこの扱いなら、今ごろフォーグロード公爵家の使用人たちは、側近たちはどうなっているのだろう……。
 何より、カトリーナ様が婚約者となっても公爵夫人と合うとは思えないのだが……。いや、公爵夫人と渡り合えるのは、カトリーナ様くらいか? まあ、「二度と私の前に姿を見せるな!」と言われたのだ。もう会う事も無いのだから、考えないようにしよう。



 * * * * * * * * * *



 刻々と学園の卒業が近づいて来るのに、解呪の方法はいくら調べてもわからなかった。私が調べられる事など、公爵家ではとっくに調べているはず。
 そもそも、呪われてから私の所に来るまで二ヶ月かかっている。その間に出来る事はやり尽くしたのだろう。
 つまりは、「どうやって解呪するか」ではなく、「どうやって私のスキルを発動させるか」なのだ。


「卒業パーティーのドレスを贈らせて欲しい」
と、テミス様に言われて絶望的な気持ちになった。タイムリミットが近づいてくる……。
「お、オーダーは駄目ですからね! 既製品にしてくださいね」
「ユリアナさんはいつも遠慮深いな。皆、欲しい物をはっきり言うのに」
 それはカモにされてるって言うんですよ……。あなたからプレゼントをもらった人で、あなたの誕生日にプレゼントをくれた人がいますか?、と言ったら面倒な事になりそうなので言えないけど。

 テミス様には、はっきり言った方が親切なのだろうとは思う。カフェやレストランのオーダーでさえ延々と悩む人だ。はっきりと、高価な一点物を「これが欲しい」と指定した方が無駄に時間をかけずに済む。
 でも、仮初かりそめの婚約者のためにお金を使わせたくないと思ってしまうのだ。
 なので、私の誕生日の前には、二人であれこれ相談して妥協案で決まった物をプレゼントしてもらっていた。
 だが、「妥当な物」というのは難しいのだ。「手ごろな値段で、一般的なプレゼントに好適」という物は、微妙な色違いや素材違いなどやたらと種類が多い。結局テミス様は悩みに悩む事になる。

 そんなわけで、ドレスはパーティーの一か月前に私とテミス様(&護衛二人)でお店に行って、さくっと選んだ。
 ドレスをアロンズ家に届けてもらうように手配し近くのカフェの個室に入っても、テミス様は
「やはりもっとレースを使ったあちらの方が…。いや、それより…」
と、悩み続けてる。
「私は、あのドレスで嬉しいですわ。テミス様は気に入りませんの?」
「いえ! とてもお似合いでした!」
「ならば、問題ないではありませんか」
「そうですね!」
 ……私もテミス様の扱いが上手くなった。

 お茶を飲んで落ち着いた頃、テミス様はポケットから小さなビロードの箱を取り出した。
「これは、ドレスの他に私から。あっ、本当に小さな物なので、良かったら」
と、私に向けて箱を開けてくれると、中には小さなルビーの付いた指輪。
 ……小さい。確かに小さいが、こんな真っ赤なルビーが安いわけ無いでしょう! サイズが小さい事で私をごまかせると思ったの?
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