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Ⅱ
しおりを挟む「ごめん、なさ…い」
夜出歩いていることを知っていたのに、さえは麗子を止めなかった。幼い時から殴られた記憶しかない母親が、さえは怖かった。
けれど、自分は止めるべきだったのだ。夜忙しく働いて、麗子の側にいられない直哉の為にも。
自分が麗子を止めていれば、こんな事にはならなかったのに…。
そう思うと、さえは不甲斐なさに強く唇を噛みしめた。
「さえ、唇を噛むのは止めなさい」
直哉にたしなめられても、止めることが出来ない。
悔しさと悲しさで、どこかに力を入れていないと泣き出しそうになる。
だが、ここで自分が泣くなどお門違いもいいとこだ。
必死に我慢するさえに、直哉は小さくため息をはくと、ソファから立ち上がり、さえの横に座った。
「止めなさい。ほら、血が滲んでいるじゃないか」
親指で唇をなぞられ、そのむずがゆい感触に、やっと噛みしめるのを止める。食むのをやめても、何故か直哉の指は離れず、何度も唇の上をなぞる。
強く噛みしめたせいで血と唾液が唇に付いているだろうに、直哉は気にした風もなく、少し堅い指を往復させる。
「あ、の…なお、やさん?」
名を呼ぶと、直哉はニコリと笑って指を離してくれた。
それが寂しいような、ホッとしたような複雑な気持ちになる。
距離が縮まったことで、直哉の端正な顔が間近にあると、余計に動揺してしまう。
近くで見てもカッコいい人だと思う。自分とは全く違う体格の、大人の男の人。
(なんで、…僕…赤くなるんだろう…)
直哉が近くにいると、鼓動が早くなり、呼吸も苦しくなる。
彼は自分とは違う次元の人過ぎて、時々どう接すればいいのかわからない。
(今日は、特にドキドキする…)
どうして?
距離が近いから?
唇を触られたから?
(そうだ……直哉さん、いつもと少し雰囲気が違うんだ…)
麗子との離婚のせいだろうか?
さえの事を気にしてくれているのか、いつも以上に言葉が優しく、甘い気がする。
「…ね、…だ………さえ?聞いてる?」
「えっ?あ…ご、ごめんなさい…」
考え事をしていたせいで、直哉の話をまったく聞いていなかった。
謝罪すると、直哉は真っ直ぐな視線でさえをとらえて、思いもよらぬことを口にした。
「もしさえがよければ、このまま私と一緒に暮らして欲しいんだ」
「ぇ……?」
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