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Ⅲ
しおりを挟む「麗子さんからも承諾は得ているんだけど、どうかな?」
「で、も…僕がいても……」
邪魔になるだけだ。
麗子が了承したのも、さえを思ってのことではないだろう。きっと再婚に邪魔だったから、これ幸いとばかりに直哉に押しつけたにすぎない。
そんな実の母親からも捨てられるような子供が、直哉の側にいても、お荷物になるだけ。
いや、お荷物どころか疫病神だ
「ぼ、僕は…もう義務教育も終わってますし、一人でも生きていけます。だから、気を使ってもらわなくても大丈夫です」
できるだけ明るい口調で言ってみたが、直哉は苦い顔でさえを見据える。
「義務教育が終了したからといっても、君はまだ子供だ。大人の庇護を必要とする年齢なんだよ」
「それなら…僕、母さんの所に行きますから」
嘘だった。
麗子の所になど、行けるはずがない。
けれど、それが一番直哉にとっては安心する言葉だろうと、あえて嘘を口にした。
「それも感心しないな」
「え?」
「彼女は君に暴力を奮っていただろう?」
「……!!」
思いもよらなかった事を言われ、さえは動転した。
「な、にを…?」
「私がなにも知らなかったと思うの?ここに来てからはそんな事は無かったようだけど……。さえと初めて出会った時も、うなじの下の辺りに痣が見えていたし」
「ーーーッ!!」
「さえにとっては大切な母親を、卑下する言い方はしたくないが、今の彼女には違う男性がいる。一緒になって君に暴力を奮わないとも限らない。そんな可能性があるところに、さえを送るなんて出来るわけないだろう」
「…………」
最初から、同情されていたのだろうか、可哀想な子だと。
(そっか……だから、あんなに優しかったんだ)
自分でも何にショックを受けているのか分からない。
けれど、ただ一つ言える事は、これ以上直哉に迷惑をかけたくない。
「…母さんは、ただ僕がわがままを言ったから怒っただけで、別に虐待とかじゃないですから」
一般的にみれば育児を放棄したこと自体が虐待なのだろうが、さえ自身はそれが虐待だと思ったことは無かった。愛情はすべて祖母から貰った。
不安な気持ちや寂しい感情が皆無だったわけではなかったが、それを麗子に求めたことは無い。
さえは気づいていなかったが、麗子の事を憂えていた祖母の教育が、さえの思考から、母親の情を麗子に求めるのを諦めさせていたのだ。
「えっと…だから…」
焦りで続く言葉が出てこない。
「もう痣は残ってない?」
途切れた言葉を必至に繋ぎ合わせようとしていると、急に直哉の手が伸び、着ていたシャツに触れる。
「え?え?」
「痣が残ってないか、見せてごらん」
「あ、痣なんて残ってないですから!」
十年も前の痣が未だに残るほど強く殴られていたわけではないし、さえを直哉に会わせる前にも、麗子は入念にさえの身体に痣が無いかチェックし、完璧に痣が消えてからさえを紹介していた。
「な、おやさんっ」
直哉は、捲るというよりは、指でわき腹を撫でるようにシャツを肩の辺りまで上げた。
「やっ、止めてください!」
嫌がっても許してはくれず、逃げようとするさえをソファに押し倒すような体制で、念入りに胸や腹部を見られる。まるで何かを探るように、長い指がさらけ出された肌に触れた。
「っぁ……!」
過剰なまでにビクリと身体が震えた。
慌てふためいているさえに気づいていないのか、直哉は今度はさえをひっくり返し、背や首筋付近をチックし出した。首筋やわき腹は特に駄目で、触れられるとその部分が甘い疼きのような熱を発し、下半身に落ちていく。
(う…そ…)
今まで感じたことのない刺激に、戸惑いながらも自分が直哉の指に反応していることを悟る。
(こんな…最低だ…っ!)
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