毒苺

植木みかん

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 16歳の男子としては異質かもしれないが、さえには射精経験が無かった。
 自慰自体は一度だけしたことがあるが、始終痛いだけのもので、立つことすら叶わなかった。

 それは淡泊というよりは、精神的なものが大きい。

 例え自分しかいない自室でも、直哉の与えてくれた広く豪華なそれが自分の居場所とは思えず、まるで人様の家で自慰行為をしているような後ろめたさがあるのだ。

 マンションのどの部屋も、浴室も、直哉の物という意識が強く、自慰という汚れた行為をするには抵抗があった。

「ん…っ!」

 必死に声を押し殺しながら、直哉のチェックが終わるのを待つ。

 まるで拷問に近い。

 直哉の視線と指先に、熱くなるのを抑えられない。彼に背を向いている体制であることがありがたかったが、すぐに元の姿勢に戻れば直哉にもバレてしまうだろう。

(ど…うしよう…)

 こんな自分を見られたら、きっと直哉に軽蔑されてしまう。
 冷たい視線を向けられたら、情けなくも泣いてしまうかもしれない……。
 実際すでに涙目だ。

「よかった。ちゃんと綺麗に治っているね」
「はい…。あ…、あの、僕ちょっと……友人に電話をしてきてもいいですか?」

 とにかくこの場から逃げ出したくて、さえは嘘をついた。

「それは、今じゃないと駄目なのかい?」
「大事な用件で…」
「私の話よりも?そんなに大切な友人なの?」

 数少ない友人はいるが、直哉より大切かと問われれば否だ。
 けれど、今はそれを伝える余裕など無かった。

「さえ、電話は話が終わってからにしなさい」

 声に不機嫌さを滲ませ、手首を掴まれる。逃げることも叶わなくなり、さえはパニック状態だ。

 過度の緊張で身体は震えているのに、熱は一向におさまってくれない。

「さえ?」

 後ろから腰に手を回され、そのまま直哉の腕の中に引き倒される。

「気分でも悪いの?」
「ゃぁ……ッ」

 腕の中に囚われるような体制で、背後から、先ほどの不機嫌な声とは違う優しい声音を耳元で受け、思わず声が出てしまった。それに伴い、下半身もドクンと脈打つ。

「……さえ?」
「ご……めっ…なさい」

 もう誤魔化せられないと、ポロポロ涙が零れる。
 直哉は、顔を伏せて小さくしゃくり泣きをするさえに、事情を察したようだ。

「泣かなくていいんだよ。別に普通の事なんだから」
「ふっ…ぇ…」
「大丈夫、私がしてあげようね」
「ぇ…?」

 伏せていた顔を上げると同時に、直哉の手が背後からカーゴパンツに伸ばされ、チャックを開け始めた。

 まだ上半身は裸のような格好のまま、今度は下まで脱がされ、秘所を暴かれる。

「え?……えっ?」

 何の躊躇いも無く、直哉がさえの熱に触れた。

「やっ、…く…ぅん」

 驚きに身体を動かすも、直哉にしっかりと固定された身体は、身じろぐことしか出来ない。

 両足も、膝まで下がったカーゴパンツがまるで拘束具のようにまとわりつき、上下に動かすだけで精一杯だ。

「あ、うそっ、…やぁ…んん」

 先の方を人差し指で軽くえぐるように弄られ、身体がビクビクとはねる。

「な、お……や、さんっ」

 触れられただけで流れる淫水を、まるでローション代わりだというように性器に伸ばし、扱かれる。

 未熟な自身を、直哉の長い指が触れているのだと思うと、頭がおかしくなりそうだった。

「やめっ、て…、くださ…、ぁっ…だ、め…あ、手が…汚れて…っ」

 消え入りそうな声で叫ぶが、直哉の手が止まることは無い。

 触れられていることもそうだが、自分が出したもので直哉の指が濡れていることも、死にたくなるほど恥ずかしい。

「やぁっ!…だ、だめ…やァ…くぅ…ん」

 自分が行った手淫など比べ物にならないほど、身体の熱が全て集まり、ドクドクと脈打つ。運動をした後などに起す動悸を、胸ではなく下半身に感じる。

 今、自分を支配しているのは、頭でも心臓でも無く、直哉の触れている部分だ。

「気持ちいい?」

 質問に答えられるはずもなく、頻りに頭をふって制止を願うが、直哉は別の意味にとったようだ。

「じゃあ、もっと早くしようか」

 宣言通り、長い指の動きが早くなり、触り方も今までより激しくなる。

「ぁっ……ンンっ!」

 身体の血が、脈が、集まって噴出しそうになる。

「やだっ、なにか…くっる、ゃぁ…っ、やっ…くるっ」

 何かに追い詰められているような錯覚に、怖いと叫ぶと、一瞬直哉の手が止まる。

「さえ…もしかして、射くのは初めて?」

 無理やり引き出される熱に朦朧としながらも、さえは頭を上下に振った。

「そう……可愛い」

 愛おしそうに紡がれた言葉は、さえの耳には入ってこなかった。

「も、ぅっ、……ぁぁ、だ…めっ!」
「こら。動いちゃ駄目だよ」

 溢れる淫水で直哉の手をこれ以上汚さないためにも逃げ出そうとするが、拘束が強くなるだけに終わった。

 それどころか、手の動きだけでなく、背後から耳朶を甘く噛まれ、さえは極限まで追い詰められる。

「いいよ。出してごらん、見ててあげるから」
「んぁっ、だ、…ぁっ、…め……くぅ…やぁ、――――んんっ!」

 くるっ!と思った瞬間、溜まった熱を放出するように、白濁した液体が吐き出される。

 小さな抵抗もむなしく、さえは自身のもので直哉の手を汚してしまった。

「…っ、ぁ……」

 ドロっとした液体が放たれると、強張っていた身体が弛緩し、一気に力が抜ける。

 さえはただ茫然と、直哉の背に身をもたせ、乱れた呼吸を何度も繰り返す。

「は…ぁ……っ…はぁ…」

 全てを放出したかのような絶頂間だったが、すぐには熱も呼吸も収まらず、未だドクドクと余韻を残している。
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