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かけ離れていくストーリー
ちなみにだが、この事件の裏で俺は棚ぼた的にステッラ商会を我が手に取り戻した。ラッキー。
どうやら俺が誘拐される数日前にミケランジェロが何者かに暴行を受け大怪我を負ったらしいのだ。それは冗談ではなく重症だったようで、今もまだ病院にいるらしい。腰の骨と神経をやられ、元の生活に戻ることは難しいだろうと聞いている。
現場は繁華街の路地裏。直前まで誰かと飲んでいたらしいミケランジェロは強かに酔っていたようで、抵抗できないままボコボコにされたのだそうだ。
正直、その手のトラブルは今世じゃあ割とどこにでもある。しかし被害者ミケランジェロの証言がそれを大事に変えた。
「ベネディクティス家の門番の男……あいつが俺を襲ったんだ。いや、襲うどころか、あいつは俺を殺そうとしていた!あいつを捕まえてくれ!」
もうお分かりだろう。ミケランジェロを襲った犯人は即ち俺を誘拐したあの男である。
ミケランジェロは俺の情報欲しさに酒に誘ったあの男の前で酒に呑まれ、俺のことを有る事無い事ベラベラ喋って奴のヘイトを自らに集めてしまったようだ。可哀想に。身から出た錆だな。そして自称俺の運命の番さんには傷害の容疑が一件追加されました!わっはっは地獄へ堕ちろ。
んで、その報告を受けたルキーノがミケランジェロと母さんの元へ見舞いに赴き、ミケランジェロの身体的事由を理由に退陣を迫った。『ステッラ商会の正式な跡取りは夫人の実子である我が伴侶ネロだ。これを機に権利をネロに返還し、其方は療養に専念したまえ』と。
始めは抵抗していたミケランジェロだったが、俺との正確な関係性を把握しているルキーノに耳打ちされて最終的に役職を残すことで商会長の座を譲ることに同意した。
無表情ながら機嫌の良さが伝わってくるルキーノから権利譲渡に関する証明書を手渡されたのがあの事情聴取前日のことなので、どれだけルキーノが素早く動いたのかがわかるというものだ。
「いい収入源ができた。世の中金はいくらあってもいいからな」
とはルキーノの談。ちょっとぉ、俺のためじゃないの?
という感じで俺はもう2度と戻らないと思った家業を取り返した。とはいえ俺自身はその間働きもせずに食べて寝てセックスしてただけなのでルキーノ様々である。さすがは俺の旦那様。
それも十分驚きだったのだけど、何かのスイッチが入ったルキーノのサプライズはそれだけに止まらなかった。なんと事件から3週間後のお昼過ぎ、彼は経済のハウツー本を読んでいた俺の元へ特大のサプライズと共に帰宅してきたのだった。
「本日付でベネディクティス辺境伯家での護衛任務にあたります。エヴァンドロと申します。どうぞよろしくお願い致します」
ぽろり、持っていた本が手から滑り落ちる。
「は?エヴァンドロ?!」
「王都警備から出向させた。お前の専属護衛だ。頼んだぞ」
「は?!」
「よろしくお願いします、ネロ様!」
「はぁ?!」
俺の素っ頓狂な大声に顔を顰めるルキーノ。でも貴族らしからぬ声が出たのはしょうがないと思う。一体全体何がどうなってそんなことに?事情聴取の時あんなに険悪なムードだったのに!
「お前の護衛として職務に忠実で強いアルファが必要だった。該当する中で最も適任だったのがこの男だっただけだ」
「でもだからって、わざわざ出向?」
「私自身の管理不行き届きも否定できんが、それにしても王都邸の警備は弛みすぎだ。あんなもの、誰を選ぼうが肉壁にもならん。これの方がまだマシだ」
初めて会った時や事情聴取の時のエヴァンドロの貴族に対しても物怖じせず己の職務を全うしようとするその姿勢。ルキーノの威圧に負けない強いアルファ性。それを気に入ったらしい。一連の事件で王都邸の警備たちの信頼が地に落ちた今、外部から新しい人材を登用することにルキーノの躊躇いはなかったようだ。
ちなみに王都邸の警備は俺たちが領地に戻る際に全て入れ替えられる予定だ。警備部隊長は降格、全員領地で再指導を受けることになっている。
弛んでいるのはごく一部なんだろうけどな。割を食った真面目な奴らにはちょっと同情する。
「評価していただけたこと、大変嬉しく思っております。不肖エヴァンドロ、身命を賭してネロ様をお守りいたします」
「あー、うん。よろしく……?」
急展開に頭が追いつかない。愛想笑いでエヴァンドロの爽やかな挨拶を受け止めた俺はひとまず彼の対応をブリジッタに投げた。
「ブリジッタ、細々した決まりとか邸内の案内とかしてあげて」
「畏まりました」
「よろしくお願いします、ブリジッタさん」
「一通りの案内が終わったら警備部の宿舎へ連れて行け。警備部隊長に話は通してある」
「承知いたしました。旦那様」
ではこれで、とブリジッタがエヴァンドロを伴って部屋を出る。その後ろ姿を見送ってから、俺はじっとりとルキーノを睨め付けた。
「番の側に別のアルファを置くなんて、何考えてんですか」
普通のアルファなら番のオメガに自分以外のアルファを寄せ付けたがらない。それなのにルキーノはわざわざ強いアルファを探して俺の護衛に付けたのだ。
ルキーノが何を考えているのかさっぱりわからない。所有欲とか独占欲とかないのか。そう思って問いかけるとルキーノがじっと俺を見つめた後、バカにするように鼻で笑った。
「お前は私の番。お前のフェロモンは既に私1人のものだ。フェロモンさえなければアレが我々を裏切る可能性は低い。それに……」
「それに?」
こてり、首を傾げた俺に近づいてくるルキーノ。重さを感じさせないスマートな動きで隣に腰かけた彼の口元には嘲笑のような、愉悦のような、何とも言えない笑みが浮かんでいる。
「私もお前も、アレの『弱み』を知っているだろう?十何人といる『家族』の命を握られて、それでも無体を働く気概などアレにはあるまい」
貧民街の孤児院に住む子供たち。天涯孤独のエヴァンドロにとっての家族。
俺があの場所に目をかけていることを彼もエヴァンドロも知っている。俺に何かすれば恩を仇で返すことになるし、報復に何をされるかわかったもんじゃない。ルキーノから直接言われなくてもそのくらいエヴァンドロも考えついているだろう。だからこその人選というわけだ。
それにしてももっと適任者いたんじゃない?という気持ちは胸の内にしまいこみ、半目になってルキーノを見た。
「悪趣味ですよ、旦那様」
どうやら俺が誘拐される数日前にミケランジェロが何者かに暴行を受け大怪我を負ったらしいのだ。それは冗談ではなく重症だったようで、今もまだ病院にいるらしい。腰の骨と神経をやられ、元の生活に戻ることは難しいだろうと聞いている。
現場は繁華街の路地裏。直前まで誰かと飲んでいたらしいミケランジェロは強かに酔っていたようで、抵抗できないままボコボコにされたのだそうだ。
正直、その手のトラブルは今世じゃあ割とどこにでもある。しかし被害者ミケランジェロの証言がそれを大事に変えた。
「ベネディクティス家の門番の男……あいつが俺を襲ったんだ。いや、襲うどころか、あいつは俺を殺そうとしていた!あいつを捕まえてくれ!」
もうお分かりだろう。ミケランジェロを襲った犯人は即ち俺を誘拐したあの男である。
ミケランジェロは俺の情報欲しさに酒に誘ったあの男の前で酒に呑まれ、俺のことを有る事無い事ベラベラ喋って奴のヘイトを自らに集めてしまったようだ。可哀想に。身から出た錆だな。そして自称俺の運命の番さんには傷害の容疑が一件追加されました!わっはっは地獄へ堕ちろ。
んで、その報告を受けたルキーノがミケランジェロと母さんの元へ見舞いに赴き、ミケランジェロの身体的事由を理由に退陣を迫った。『ステッラ商会の正式な跡取りは夫人の実子である我が伴侶ネロだ。これを機に権利をネロに返還し、其方は療養に専念したまえ』と。
始めは抵抗していたミケランジェロだったが、俺との正確な関係性を把握しているルキーノに耳打ちされて最終的に役職を残すことで商会長の座を譲ることに同意した。
無表情ながら機嫌の良さが伝わってくるルキーノから権利譲渡に関する証明書を手渡されたのがあの事情聴取前日のことなので、どれだけルキーノが素早く動いたのかがわかるというものだ。
「いい収入源ができた。世の中金はいくらあってもいいからな」
とはルキーノの談。ちょっとぉ、俺のためじゃないの?
という感じで俺はもう2度と戻らないと思った家業を取り返した。とはいえ俺自身はその間働きもせずに食べて寝てセックスしてただけなのでルキーノ様々である。さすがは俺の旦那様。
それも十分驚きだったのだけど、何かのスイッチが入ったルキーノのサプライズはそれだけに止まらなかった。なんと事件から3週間後のお昼過ぎ、彼は経済のハウツー本を読んでいた俺の元へ特大のサプライズと共に帰宅してきたのだった。
「本日付でベネディクティス辺境伯家での護衛任務にあたります。エヴァンドロと申します。どうぞよろしくお願い致します」
ぽろり、持っていた本が手から滑り落ちる。
「は?エヴァンドロ?!」
「王都警備から出向させた。お前の専属護衛だ。頼んだぞ」
「は?!」
「よろしくお願いします、ネロ様!」
「はぁ?!」
俺の素っ頓狂な大声に顔を顰めるルキーノ。でも貴族らしからぬ声が出たのはしょうがないと思う。一体全体何がどうなってそんなことに?事情聴取の時あんなに険悪なムードだったのに!
「お前の護衛として職務に忠実で強いアルファが必要だった。該当する中で最も適任だったのがこの男だっただけだ」
「でもだからって、わざわざ出向?」
「私自身の管理不行き届きも否定できんが、それにしても王都邸の警備は弛みすぎだ。あんなもの、誰を選ぼうが肉壁にもならん。これの方がまだマシだ」
初めて会った時や事情聴取の時のエヴァンドロの貴族に対しても物怖じせず己の職務を全うしようとするその姿勢。ルキーノの威圧に負けない強いアルファ性。それを気に入ったらしい。一連の事件で王都邸の警備たちの信頼が地に落ちた今、外部から新しい人材を登用することにルキーノの躊躇いはなかったようだ。
ちなみに王都邸の警備は俺たちが領地に戻る際に全て入れ替えられる予定だ。警備部隊長は降格、全員領地で再指導を受けることになっている。
弛んでいるのはごく一部なんだろうけどな。割を食った真面目な奴らにはちょっと同情する。
「評価していただけたこと、大変嬉しく思っております。不肖エヴァンドロ、身命を賭してネロ様をお守りいたします」
「あー、うん。よろしく……?」
急展開に頭が追いつかない。愛想笑いでエヴァンドロの爽やかな挨拶を受け止めた俺はひとまず彼の対応をブリジッタに投げた。
「ブリジッタ、細々した決まりとか邸内の案内とかしてあげて」
「畏まりました」
「よろしくお願いします、ブリジッタさん」
「一通りの案内が終わったら警備部の宿舎へ連れて行け。警備部隊長に話は通してある」
「承知いたしました。旦那様」
ではこれで、とブリジッタがエヴァンドロを伴って部屋を出る。その後ろ姿を見送ってから、俺はじっとりとルキーノを睨め付けた。
「番の側に別のアルファを置くなんて、何考えてんですか」
普通のアルファなら番のオメガに自分以外のアルファを寄せ付けたがらない。それなのにルキーノはわざわざ強いアルファを探して俺の護衛に付けたのだ。
ルキーノが何を考えているのかさっぱりわからない。所有欲とか独占欲とかないのか。そう思って問いかけるとルキーノがじっと俺を見つめた後、バカにするように鼻で笑った。
「お前は私の番。お前のフェロモンは既に私1人のものだ。フェロモンさえなければアレが我々を裏切る可能性は低い。それに……」
「それに?」
こてり、首を傾げた俺に近づいてくるルキーノ。重さを感じさせないスマートな動きで隣に腰かけた彼の口元には嘲笑のような、愉悦のような、何とも言えない笑みが浮かんでいる。
「私もお前も、アレの『弱み』を知っているだろう?十何人といる『家族』の命を握られて、それでも無体を働く気概などアレにはあるまい」
貧民街の孤児院に住む子供たち。天涯孤独のエヴァンドロにとっての家族。
俺があの場所に目をかけていることを彼もエヴァンドロも知っている。俺に何かすれば恩を仇で返すことになるし、報復に何をされるかわかったもんじゃない。ルキーノから直接言われなくてもそのくらいエヴァンドロも考えついているだろう。だからこその人選というわけだ。
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