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エヴァンドロに質疑応答!
『サルビエト王国再生記』においてエヴァンドロはルキーノの敵だ。ルキーノを謀反人と決定付け、ベネディクティス家の人間全てを断頭台に送るのが彼だ。物語の主人公、悪を誅し正義を敷く未来の国王陛下。
俺はこの世界でルキーノがそうならないよう彼の出世のきっかけを潰し、丸め込むために動いてきた。
その中で主人公を取り込めばカードとして最強では?と思ったことは確かだ。でも本当にそうなるとは思ってもみなかったので俺はおおいに困惑している。
「ルキーノ様、本当にいいんですか?」
「不満か?お前が気に入らんと言うならやめても構わないが」
「そこまでは思ってないですけど……」
この戸惑いを伝えることは難しい。ルキーノは俺の言葉を聞き入れてくれるから、嫌がればこの出向も無しになるだろう。でも、彼が良かれと思ってしてくれたことを妄想にも近い心配で断るのは非常に心苦しい。
「領地に帰るまでは試用期間だ。その間にお前が見極めるといい。後は任せる」
そう言ってルキーノは俺の頭にぽんと手を置き緩く撫でる。そんな風にされてしまっては俺も頷かないわけにはいかない。
考えてみれば、目の届く場所にエヴァンドロがいるのは悪いことばかりじゃない。ルキーノの不利益になる前に俺がどうにかすればいいんだもんな。よし、頑張ろう!
まずはエヴァンドロの本音を聞いとこうかな。気を引き締めた俺は翌日護衛としてやってきた彼を連れてサロンに移動し、前のソファに座るよう促した。
「エヴァンドロ、君にいくつか質問したいんだけど」
「はい、職務上知り得た個人情報以外なら何でもお答えします」
真面目なエヴァンドロらしく一言断りを入れてから了承の返事がある。俺も今日のところは他人の個人情報はいらないので素直に頷いた。
雇用主だからと軽々しく他人の情報は売らない。それも一つのエヴァンドロの情報だ。俺はエア眼鏡をくいっとしながら面接官よろしく彼に質問を投げかけた。
「まず、ご出身は」
「王都の貧民街です」
「家族はいる?」
「血縁という意味ならいません。幼い頃に母と死別していますし、父親の素性は全く知りません。なので育った孤児院の子供たちやスタッフが俺にとっての家族ですね」
「王都警備になろうとしたきっかけは?」
「家族を養うため、ですね」
孤児院は基本的に行政が運営している福祉施設だ。なので予算は限られていて贅沢はできない。その中にも優先順位があり、貧民街に建つ孤児院など吹けば飛ぶような僅かな金しか回ってこないのだ。
市民からの寄付も同じように貧しい者しかいない場所では期待できない。エヴァンドロたち孤児はいつも生きるだけで精一杯だった。
「王都警備は平民が就ける職業としては高級取りです。俺、稼いで少しでも孤児院に金を入れたかったので。孤児院の子たちもスタッフたちも喜んでくれています」
「はぁ~、偉いねぇ」
「いえそんな」
照れたのか答えながらはにかむエヴァンドロ。本当に今日日珍しいくらいの好青年だな。野心とかないんか。
「んじゃ出世したい?偉くなってもっと沢山稼ぎたいとかない?」
「役職付きに憧れはありましたね。でも辺境伯様のところで働けるなんて出世と一緒ですよ。給金も信じられないくらいいいですし、本当に感謝しています」
「んじゃ騎士になりたいとか貴族になりたいとかないの?」
「貴族?俺が?!まさかそんな大それたこと思いませんよ!」
考えてもみなかったという風にエヴァンドロは首と手を横に振る。
「俺は自分と家族が穏やかに暮らせたらそれで十分です。高望みはしません」
嘘を言っているようには見えない。本当に彼は今の生活に満足しているのだろう。
が、そうは言っていても現実にチャンスがやってきた時にはそれを掴む男だ。油断はできない。引き続き出世を妨げ、他の貴族の目に付かないように隠さなければ。
特に彼を養子に迎えることになるアマーティ侯爵には絶対に会わせてはダメだ。
アマーティ侯爵が後ろ盾につくとヤバい。侯爵はエヴァンドロの国王への道をコンクリート舗装する男。国王の親友であり、国王の消えた恋人の存在を知る唯一の人物。顔を見せればエヴァンドロに2人の面影を見つけてしまうかもしれない。
それを回避する一番簡単な方法はひとつ。王都から離れることだ。
「領地に帰る時に着いて行く意思はある?」
「俺はネロ様の護衛です。ネロ様が領地に赴かれるのなら俺はそれに従うのみ。全てはネロ様のお望みの通りに」
胸に手を当てて頭を下げるエヴァンドロ。後ろでブリジッタとアンジェラがうんうんと頷いている。
よし、領地へ連れ帰るのは問題なさそうだな。
「孤児院の子たちからは離れることになりますが、仕送りは続けられます。次王都に来れる時に会いに行ければ十分ですから」
「エヴァンドロ……」
自分のことばっかり考えている俺に慈愛に満ちたその微笑みがグサグサ刺さる。エヴァンドロは普通にいい奴だ。こんな奴を敵視しなければいけないと思うと胸が痛い。
いや、これは考え方の問題だ。この男のいい奴成分を俺たちに有利に働くようにすればいいだけ。俺だって敵対したいわけじゃないもんね!
うんうんと割とクズいことを独りで納得して頷いてエヴァンドロを見る。その間も彼はピシッと背筋を伸ばして俺を見ていた。そのエヴァンドロにことりと首を傾げて最後の質問を投げかける。
「孤児院の子たちの面倒みてるなら子供は好きだよな?」
「はい、好きです」
躊躇なく頷くエヴァンドロ。その答えに満足して俺は立ち上がると慌ててエヴァンドロも立ち上がった。
「んじゃ行こうか。ステファノ様とジュリエッタ様にも紹介しないと」
「ステファノ様とジュリエッタ様……辺境伯様のご子息とご息女ですね」
「そ。みんな行くよ~」
「はい!」
そろそろ2人の午前の授業が終わるころだ。お茶でもしながら子供たちにエヴァンドロを紹介しようと3人を引き連れてサロンを後にした。
多分子供たちもエヴァンドロのこと気にいるんじゃないかな。その想像の通り2人は爽やか好青年エヴァンドロに興味を示し、アレコレと質問しては大いに盛り上がっていた。
俺はこの世界でルキーノがそうならないよう彼の出世のきっかけを潰し、丸め込むために動いてきた。
その中で主人公を取り込めばカードとして最強では?と思ったことは確かだ。でも本当にそうなるとは思ってもみなかったので俺はおおいに困惑している。
「ルキーノ様、本当にいいんですか?」
「不満か?お前が気に入らんと言うならやめても構わないが」
「そこまでは思ってないですけど……」
この戸惑いを伝えることは難しい。ルキーノは俺の言葉を聞き入れてくれるから、嫌がればこの出向も無しになるだろう。でも、彼が良かれと思ってしてくれたことを妄想にも近い心配で断るのは非常に心苦しい。
「領地に帰るまでは試用期間だ。その間にお前が見極めるといい。後は任せる」
そう言ってルキーノは俺の頭にぽんと手を置き緩く撫でる。そんな風にされてしまっては俺も頷かないわけにはいかない。
考えてみれば、目の届く場所にエヴァンドロがいるのは悪いことばかりじゃない。ルキーノの不利益になる前に俺がどうにかすればいいんだもんな。よし、頑張ろう!
まずはエヴァンドロの本音を聞いとこうかな。気を引き締めた俺は翌日護衛としてやってきた彼を連れてサロンに移動し、前のソファに座るよう促した。
「エヴァンドロ、君にいくつか質問したいんだけど」
「はい、職務上知り得た個人情報以外なら何でもお答えします」
真面目なエヴァンドロらしく一言断りを入れてから了承の返事がある。俺も今日のところは他人の個人情報はいらないので素直に頷いた。
雇用主だからと軽々しく他人の情報は売らない。それも一つのエヴァンドロの情報だ。俺はエア眼鏡をくいっとしながら面接官よろしく彼に質問を投げかけた。
「まず、ご出身は」
「王都の貧民街です」
「家族はいる?」
「血縁という意味ならいません。幼い頃に母と死別していますし、父親の素性は全く知りません。なので育った孤児院の子供たちやスタッフが俺にとっての家族ですね」
「王都警備になろうとしたきっかけは?」
「家族を養うため、ですね」
孤児院は基本的に行政が運営している福祉施設だ。なので予算は限られていて贅沢はできない。その中にも優先順位があり、貧民街に建つ孤児院など吹けば飛ぶような僅かな金しか回ってこないのだ。
市民からの寄付も同じように貧しい者しかいない場所では期待できない。エヴァンドロたち孤児はいつも生きるだけで精一杯だった。
「王都警備は平民が就ける職業としては高級取りです。俺、稼いで少しでも孤児院に金を入れたかったので。孤児院の子たちもスタッフたちも喜んでくれています」
「はぁ~、偉いねぇ」
「いえそんな」
照れたのか答えながらはにかむエヴァンドロ。本当に今日日珍しいくらいの好青年だな。野心とかないんか。
「んじゃ出世したい?偉くなってもっと沢山稼ぎたいとかない?」
「役職付きに憧れはありましたね。でも辺境伯様のところで働けるなんて出世と一緒ですよ。給金も信じられないくらいいいですし、本当に感謝しています」
「んじゃ騎士になりたいとか貴族になりたいとかないの?」
「貴族?俺が?!まさかそんな大それたこと思いませんよ!」
考えてもみなかったという風にエヴァンドロは首と手を横に振る。
「俺は自分と家族が穏やかに暮らせたらそれで十分です。高望みはしません」
嘘を言っているようには見えない。本当に彼は今の生活に満足しているのだろう。
が、そうは言っていても現実にチャンスがやってきた時にはそれを掴む男だ。油断はできない。引き続き出世を妨げ、他の貴族の目に付かないように隠さなければ。
特に彼を養子に迎えることになるアマーティ侯爵には絶対に会わせてはダメだ。
アマーティ侯爵が後ろ盾につくとヤバい。侯爵はエヴァンドロの国王への道をコンクリート舗装する男。国王の親友であり、国王の消えた恋人の存在を知る唯一の人物。顔を見せればエヴァンドロに2人の面影を見つけてしまうかもしれない。
それを回避する一番簡単な方法はひとつ。王都から離れることだ。
「領地に帰る時に着いて行く意思はある?」
「俺はネロ様の護衛です。ネロ様が領地に赴かれるのなら俺はそれに従うのみ。全てはネロ様のお望みの通りに」
胸に手を当てて頭を下げるエヴァンドロ。後ろでブリジッタとアンジェラがうんうんと頷いている。
よし、領地へ連れ帰るのは問題なさそうだな。
「孤児院の子たちからは離れることになりますが、仕送りは続けられます。次王都に来れる時に会いに行ければ十分ですから」
「エヴァンドロ……」
自分のことばっかり考えている俺に慈愛に満ちたその微笑みがグサグサ刺さる。エヴァンドロは普通にいい奴だ。こんな奴を敵視しなければいけないと思うと胸が痛い。
いや、これは考え方の問題だ。この男のいい奴成分を俺たちに有利に働くようにすればいいだけ。俺だって敵対したいわけじゃないもんね!
うんうんと割とクズいことを独りで納得して頷いてエヴァンドロを見る。その間も彼はピシッと背筋を伸ばして俺を見ていた。そのエヴァンドロにことりと首を傾げて最後の質問を投げかける。
「孤児院の子たちの面倒みてるなら子供は好きだよな?」
「はい、好きです」
躊躇なく頷くエヴァンドロ。その答えに満足して俺は立ち上がると慌ててエヴァンドロも立ち上がった。
「んじゃ行こうか。ステファノ様とジュリエッタ様にも紹介しないと」
「ステファノ様とジュリエッタ様……辺境伯様のご子息とご息女ですね」
「そ。みんな行くよ~」
「はい!」
そろそろ2人の午前の授業が終わるころだ。お茶でもしながら子供たちにエヴァンドロを紹介しようと3人を引き連れてサロンを後にした。
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