玉の輿だったはずなのに!

木島

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ドキドキの大夜会

 エヴァンドロという新たな仲間(?)をゲットし、次に俺が挑むのは大夜会だ。
 国王陛下主催、シーズンの最後に王宮で行われる最大の夜会。そこで上位貴族は国王陛下に拝謁する栄誉をいただける。今年何か大きな功績を上げた者や結婚した者は絶対にご挨拶しなければならないシステムらしい。

 つまり、上位貴族であり新婚の俺もこの国の最高権力者に挨拶しなきゃいけないということなのだ。

 そんなん普通に考えて無理じゃない?だって王様だよ?数ヶ月前まで男娼やってた平民が会える人じゃないんだって。付け焼き刃の貴族仕草と数えるほどの夜会経験で太刀打ちできるとは思えない。何度かルキーノに訴えていたがさすがに許してはもらえなかった。しかもその後に公爵閣下にもご挨拶の予定があるそうだ。始まる前から死にそう。

「まあ……どうしても見知らぬアルファが大勢いるところが恐ろしいと言うなら考えなくもないが。体調不良とでも言えばなんとか……」

 でも誘拐事件が起きた後、俺のメンタルを心配したルキーノは歯切れ悪くそう言った。
 貴族社会にはアルファが多い。俺が不慣れな場所で見知らぬアルファに取り囲まれて不安定になることを懸念しているのだろう。何とも言いにくそうなのは、夜会の相手が相手だから。
 国王陛下主催の夜会を欠席するなんてよっぽどのことだ。陛下からの心象が悪くなるのを承知で言ってくれるルキーノの姿に泣き言なんて言ってる場合じゃないと彼の腕を掴んで首を横に振った。

「待って、頑張る。俺頑張ります」
「無理をして会場で倒れたり暴れられても迷惑なのだが」
「ううん。ルキーノ様がいてくれれば多分、大丈夫。その代わり、ちゃんとできたらいっぱい褒めてください」
「……そうか。わかった」

 若干疑わしそうな視線を向けられはしたが、ルキーノは一応納得をしてくれた。

「本当に無理なら言え。夜会などどうとでもなる」
「ありがとうございます……」

 俺の頭をくしゃりと撫でながらのその言葉が胸がじんわりと暖かくなる。ルキーノのためにもちゃんと頑張らないとな。
 大夜会まではあと少し。マナーとダンスのレッスンを集中してやって、夜会の数日前に大夜会に相応しい煌びやかな衣装が届いてと日々緊張は増していった。
 そして夜会当日。家でいっとういい馬車に乗り、やってきました王宮。
 あ、因みにエヴァンドロはお留守番ね。

 すごい!夜なのに昼みたいにキラッキラ!オイルランプのシャンデリアでこんなに明るくなるなんて信じられない!みんなの顔めっちゃよく見える~!凄い視線刺さる~!

「ゲ、ゲロ吐きそう……腹痛い……」
「おい、少しは取り繕え駄犬が」
「いややっぱ無理、無理よりの無理。帰りたい……!」
「大丈夫と言ったのはお前だぞ」
「そうですけどぉ」

 無事に王宮の敷地内には入れた。使用人の案内を受け、高らかに名前を呼ばれて大広間に足を踏み入れたのは数分前のことだ。王宮の広間はヴェルサイユ宮殿もかくやという華やかさで、招待客もそれはそれは多い。完全に怖気付いた俺はお揃いの夜会服を着たルキーノの腕に子コアラのようにしがみついて歩いていた。
 この手を離してなるものか。1人になった瞬間に俺は死ぬ。

 って、これ2ヶ月前にもやったな?全く成長してねぇ~。

「もう、横でそんなに緊張されたら私もつられてしまうわ。ネロ、リラックスよリラックス」

 その後ろから聞こえるのは穏やかで可愛らしい母の声。顔だけを後ろに向けると、夜会用の華やかな深緑色のドレスを身に纏った母がおっとりと微笑んでいた。

「母さんは落ち着いてるね……」
「私は初めてじゃないもの」
「そうでした、男爵夫人」
「ふふふ」

 母とは王宮に来て偶々遭遇したわけじゃない。王都に拠点を持つ男爵家として招待されている母を、ルキーノが共に行こうと誘ったのだ。
 理由は俺だ。母には物慣れない俺のサポートと言ったが、実際は俺がアルファたちに囲まれて取り乱した時に支えてもらうため。実の母であれば任せるに値すると思ったのだろう。ルキーノもちらと母に視線をよこし一声かける。

「世話をかけるな、夫人」
「いいえ、ありがたいことですわ。今年は私もララサバル男爵の名代となりますもの。正直1人では少し不安でしたの」

 そう言う母の隣に立つのはミケランジェロではない。あいつはまだ病院にいるし、退院していても歩けないから夜会には出られない。独りで大夜会に挑まねばならなかった母にとってもこの誘いは渡りに船だったらしい。

「エスコートをこんなにお若い方にお願いするのも何だか申し訳ないけど、どうぞお願いしますね」
「お任せくださいマダム。ご夫君様のご母堂をエスコートを任せていただけるなど、部下にとってこの上ない誉でございます」
「まあ、そう言っていただけると嬉しいわ」

 ミケランジェロの代わりにころころと笑う母をエスコートしているのはルキーノの側近兼従者のカミッロ。彼はベネディクティス家の傍系一族で父親が男爵位を持っている。ここに参加する権利があるというわけだ。

「カミッロ、母さんのことよろしくね。母さんちょっと抜けたとこあるから心配でさ」
「あら、そんなことないわよ」
「ふふ、お任せを。最後までお側に侍らせていただきますよ」

 冗談めかしてカミッロが笑う。
 いつもはルキーノの背後で存在感を薄めているが、今日ばかりは彼もキラキラしている。アッシュブロンドの短い髪を後ろに撫で付け、すっきりした飾り気の少ない黒の夜会服を着たカミッロはまさに紳士って感じだ。
 因みにカミッロはルキーノより年上の38歳。何故かまだ未婚である。ふむ、悪くない。

「ネロは今日陛下にご挨拶できるのよね。頑張ってね」
「う……うん。緊張するけどね」

 国王陛下への挨拶は位の高い者から順。ベネディクティス家は辺境伯家なので侯爵家の挨拶が終わってすぐだろう。辺境伯は伯爵位の中での特別だからね。

「ベネディクティス辺境伯ご夫夫、どうぞこちらへ」

 程なくして声をかけられた俺たちは母に見送られて国王夫妻にご挨拶に向かう。
 ううう、緊張する……胃がキリキリするよぉ。

 そしてその後のことは全く記憶にない。気が付いたら陛下への挨拶は終わっていて、水の入ったグラスをルキーノに手渡されているところだった。

「おい。おい……ネロ」
「ッハ?!終わった?!」
「全くお前は……」

 目開けたまま気絶してた気分だ。王様の顔さえ覚えてない。エヴァンドロの父親なんだからどんな感じの人か見ておきたかったんだけどな……自分のノミの心臓が悔しい。そんな俺の姿をルキーノは呆れ顔で眺めていた。






 
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