65 / 77
ご褒美をください
「帰るか」
「はぁい」
「私もそろそろお暇しようかな。途中までご一緒しても構わないかい?」
挨拶もすんだし、と帰る気満々の俺たちになぜかカヴァッリも着いてきた。夫人が身重のカヴァッリには今夜のパートナーもいないみたいだし、暇なのか?
「まあ……いいだろう」
「ありがとう」
結局ルキーノが許可して馬車を回すまで一緒にいることになった。俺たちを待っていた母といつの間にか戻ってきていたカミッロにも声をかけ、のんびりと廊下を歩く。
その間カヴァッリはカミッロとも親しげに会話していた。どうもルキーノとの繋がりでよく話をするらしい。
「なるほど、あなたがネロ殿の母君でしたか。では今夜は御子息の晴れ舞台、随分誇らしかったことでしょう」
「ええそうなんです。立派になってくれて本当に嬉しく思っておりますの」
しかもなんかするっと母とも仲良くなってる。デカくてイカつい割に人懐っこい大型犬みたいな奴だ。
「なんです?今日はやけに私を持ち上げるじゃないですか。煽てたってもう何も出ませんよ」
「そんなつもりはないよ。ただ……」
「ただ?」
「今日は君たちが来る前から周囲が随分君に関する話題で盛り上がっていてね。あまり気分のいいものではなかったからちょっと反抗していた」
そう言うカヴァッリはどこか拗ねたような表情だ。
カヴァッリは俺が男娼だったと知っているが、それを馬鹿にしたりはしなかった。他にもホールで俺の客だった奴をチラホラ見かけたけどそいつらも特に反応を見せない。あの世界は一夜の夢のようなもの、現実には持ち込まない。それが娼館の共通認識だ。持ち込んでくるのはそれを理解しない無粋な奴らだけ。
生まれや性別を嘲笑するのはナンセンスだし、職業もまた然り。挙句被害者であるはずの俺をまるで罪を犯したもののように悪様に言うことに我慢がならなかったとカヴァッリは言う。
「私は声が大きいだろう?ああして君のいいところを話していればある程度相殺できるんじゃないかと思ってさ。実際公爵閣下も私の話の方に興味を持ってくれたし」
「カヴァッリ様……」
「君は私の恩人だし、ルキーノは学生時代からの友人だからね」
いい奴だ。ちょっとじんときちゃった。
「あら、恩人ってなんですの?」
「おお!お聞きになりますかララサバル夫人!」
「是非」
「え、あ、ちょっと」
食いついてきた母に止める間も無くカヴァッリは夫人誘拐未遂事件のことを語り出す。俺は目をキラキラさせて聞き入る母の姿に恥ずかしいやら何やらで何も言えなくなり、無反応を貫いていたルキーノの肩に額を寄せて顔を隠した。
「随分懐かれたな」
「ありがたいことですけど、ちょっと恥ずかしいですよこれ……」
そうこうしている間に馬車の用意ができたようで俺たちはそれぞれの馬車に乗り込む。母はカミッロが家まで送り届けてくれるので安心だ。
ルキーノのエスコートで馬車に乗り込んだ時、自分の馬車に向かっていたカヴァッリが何を思ったか引き返してきた。
「大事なことを忘れるところだった!ルキーノ、ネロ殿、番成立おめでとう。君たちが伴侶として番として、終生幸福であるよう祈っているよ」
そう、人好きのする明るい笑顔で俺たちを寿いだカヴァッリ。
短い付き合いだがわかる。カヴァッリは裏表のない性格の善人だ。彼が心から祝ってくれているのがわかって、ただ素直に受け止めて俺は微笑んだ。
「ありがとうございます、カヴァッリ様」
だってやっぱり、祝ってもらえるのは嬉しい。自分がルキーノの番と認められていると思える。カヴァッリと手を振って別れた後も俺の心はじんわりと温かくて、自然と口元は笑みを刻んでいた。
「ルキーノ様、いいご友人をお持ちですね」
「そうか?煩いだけだろう」
「もー、素直じゃないったら」
学生時代からの付き合いなんて、お互いにちゃんと友情がなければ続かないもんでしょ。今世で縁はなかったけど前世ではちゃんと学校行って友達もいたから俺にもわかるよ。
素直に認めはしないだろうけど、ルキーノとカヴァッリはいい友人関係を築けているんだと思う。いいな、俺もそういう友達欲しい。そんな風に考えながら馬車に揺られていると徐々に緊張の糸が切れてきて体から力が抜ける。今はルキーノしか見てないからいいか、と俺は大きく伸びをしながら大欠伸をかました。
「ふぁ~……あふ」
「おい、はしたないぞ」
「だって疲れたんですもん」
国王陛下、王妃陛下への謁見。アマーティ侯爵親子にプロカッチーニ公爵との対面。ついでにカサヴォーラ子爵令息とその婚約者からの地味~な嫌がらせにそれに影響された周りの好奇の視線。そのどれもを取り敢えずやり過ごすことのできた俺であるが、非常に気疲れのする1日だった。
意識したらどっと体が重くなる。早く帰って広いベッドで寝たい。突如始まった俺の愚痴は屋敷に着くまで続き、御者が開けたドアをちらと見た後ルキーノに両腕を伸ばした。
「もうダメ。もう無理。指一本動かしたくない。ベッドまで抱っこしてください」
「は?嫌だが」
速攻断られたんだけど。傷付く~。
頑張った俺にご褒美くらいくださいよ、旦那様。
「はぁい」
「私もそろそろお暇しようかな。途中までご一緒しても構わないかい?」
挨拶もすんだし、と帰る気満々の俺たちになぜかカヴァッリも着いてきた。夫人が身重のカヴァッリには今夜のパートナーもいないみたいだし、暇なのか?
「まあ……いいだろう」
「ありがとう」
結局ルキーノが許可して馬車を回すまで一緒にいることになった。俺たちを待っていた母といつの間にか戻ってきていたカミッロにも声をかけ、のんびりと廊下を歩く。
その間カヴァッリはカミッロとも親しげに会話していた。どうもルキーノとの繋がりでよく話をするらしい。
「なるほど、あなたがネロ殿の母君でしたか。では今夜は御子息の晴れ舞台、随分誇らしかったことでしょう」
「ええそうなんです。立派になってくれて本当に嬉しく思っておりますの」
しかもなんかするっと母とも仲良くなってる。デカくてイカつい割に人懐っこい大型犬みたいな奴だ。
「なんです?今日はやけに私を持ち上げるじゃないですか。煽てたってもう何も出ませんよ」
「そんなつもりはないよ。ただ……」
「ただ?」
「今日は君たちが来る前から周囲が随分君に関する話題で盛り上がっていてね。あまり気分のいいものではなかったからちょっと反抗していた」
そう言うカヴァッリはどこか拗ねたような表情だ。
カヴァッリは俺が男娼だったと知っているが、それを馬鹿にしたりはしなかった。他にもホールで俺の客だった奴をチラホラ見かけたけどそいつらも特に反応を見せない。あの世界は一夜の夢のようなもの、現実には持ち込まない。それが娼館の共通認識だ。持ち込んでくるのはそれを理解しない無粋な奴らだけ。
生まれや性別を嘲笑するのはナンセンスだし、職業もまた然り。挙句被害者であるはずの俺をまるで罪を犯したもののように悪様に言うことに我慢がならなかったとカヴァッリは言う。
「私は声が大きいだろう?ああして君のいいところを話していればある程度相殺できるんじゃないかと思ってさ。実際公爵閣下も私の話の方に興味を持ってくれたし」
「カヴァッリ様……」
「君は私の恩人だし、ルキーノは学生時代からの友人だからね」
いい奴だ。ちょっとじんときちゃった。
「あら、恩人ってなんですの?」
「おお!お聞きになりますかララサバル夫人!」
「是非」
「え、あ、ちょっと」
食いついてきた母に止める間も無くカヴァッリは夫人誘拐未遂事件のことを語り出す。俺は目をキラキラさせて聞き入る母の姿に恥ずかしいやら何やらで何も言えなくなり、無反応を貫いていたルキーノの肩に額を寄せて顔を隠した。
「随分懐かれたな」
「ありがたいことですけど、ちょっと恥ずかしいですよこれ……」
そうこうしている間に馬車の用意ができたようで俺たちはそれぞれの馬車に乗り込む。母はカミッロが家まで送り届けてくれるので安心だ。
ルキーノのエスコートで馬車に乗り込んだ時、自分の馬車に向かっていたカヴァッリが何を思ったか引き返してきた。
「大事なことを忘れるところだった!ルキーノ、ネロ殿、番成立おめでとう。君たちが伴侶として番として、終生幸福であるよう祈っているよ」
そう、人好きのする明るい笑顔で俺たちを寿いだカヴァッリ。
短い付き合いだがわかる。カヴァッリは裏表のない性格の善人だ。彼が心から祝ってくれているのがわかって、ただ素直に受け止めて俺は微笑んだ。
「ありがとうございます、カヴァッリ様」
だってやっぱり、祝ってもらえるのは嬉しい。自分がルキーノの番と認められていると思える。カヴァッリと手を振って別れた後も俺の心はじんわりと温かくて、自然と口元は笑みを刻んでいた。
「ルキーノ様、いいご友人をお持ちですね」
「そうか?煩いだけだろう」
「もー、素直じゃないったら」
学生時代からの付き合いなんて、お互いにちゃんと友情がなければ続かないもんでしょ。今世で縁はなかったけど前世ではちゃんと学校行って友達もいたから俺にもわかるよ。
素直に認めはしないだろうけど、ルキーノとカヴァッリはいい友人関係を築けているんだと思う。いいな、俺もそういう友達欲しい。そんな風に考えながら馬車に揺られていると徐々に緊張の糸が切れてきて体から力が抜ける。今はルキーノしか見てないからいいか、と俺は大きく伸びをしながら大欠伸をかました。
「ふぁ~……あふ」
「おい、はしたないぞ」
「だって疲れたんですもん」
国王陛下、王妃陛下への謁見。アマーティ侯爵親子にプロカッチーニ公爵との対面。ついでにカサヴォーラ子爵令息とその婚約者からの地味~な嫌がらせにそれに影響された周りの好奇の視線。そのどれもを取り敢えずやり過ごすことのできた俺であるが、非常に気疲れのする1日だった。
意識したらどっと体が重くなる。早く帰って広いベッドで寝たい。突如始まった俺の愚痴は屋敷に着くまで続き、御者が開けたドアをちらと見た後ルキーノに両腕を伸ばした。
「もうダメ。もう無理。指一本動かしたくない。ベッドまで抱っこしてください」
「は?嫌だが」
速攻断られたんだけど。傷付く~。
頑張った俺にご褒美くらいくださいよ、旦那様。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
罪人として辺境へ送られた僕は騎士団長の腕の中でしかうまく眠れない
cyan
BL
クライスラー侯爵家のクリストフ様に婿入りすることが決まっていたエリアス・フェデラーは、兄を好きすぎるクリストフ様の妹、リリア嬢の罠にハマって婚約破棄されることになった。
婚約破棄されるくらいならまだよかったんだけど、それだけでは終わらなかった。
リリア嬢を階段から突き落とした容疑がかけられたんだ。まったく身に覚えがない。
「僕はやっていません」
エリアスの声は誰にも届かなかった。
──夢も希望も失い全てを諦めたエリアスは、辺境の地で居場所を見つけた。
※シリアスあり
※10万字ちょっと超えるくらいの作品です
※他サイトにも掲載中