玉の輿だったはずなのに!

木島

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ご褒美をください

「帰るか」
「はぁい」
「私もそろそろお暇しようかな。途中までご一緒しても構わないかい?」

 挨拶もすんだし、と帰る気満々の俺たちになぜかカヴァッリも着いてきた。夫人が身重のカヴァッリには今夜のパートナーもいないみたいだし、暇なのか?

「まあ……いいだろう」
「ありがとう」

 結局ルキーノが許可して馬車を回すまで一緒にいることになった。俺たちを待っていた母といつの間にか戻ってきていたカミッロにも声をかけ、のんびりと廊下を歩く。
 その間カヴァッリはカミッロとも親しげに会話していた。どうもルキーノとの繋がりでよく話をするらしい。

「なるほど、あなたがネロ殿の母君でしたか。では今夜は御子息の晴れ舞台、随分誇らしかったことでしょう」
「ええそうなんです。立派になってくれて本当に嬉しく思っておりますの」

 しかもなんかするっと母とも仲良くなってる。デカくてイカつい割に人懐っこい大型犬みたいな奴だ。

「なんです?今日はやけに私を持ち上げるじゃないですか。煽てたってもう何も出ませんよ」
「そんなつもりはないよ。ただ……」
「ただ?」
「今日は君たちが来る前から周囲が随分君に関する話題で盛り上がっていてね。あまり気分のいいものではなかったからちょっと反抗していた」

 そう言うカヴァッリはどこか拗ねたような表情だ。
 カヴァッリは俺が男娼だったと知っているが、それを馬鹿にしたりはしなかった。他にもホールで俺の客だった奴をチラホラ見かけたけどそいつらも特に反応を見せない。あの世界は一夜の夢のようなもの、現実には持ち込まない。それが娼館の共通認識だ。持ち込んでくるのはそれを理解しない無粋な奴らだけ。
 生まれや性別を嘲笑するのはナンセンスだし、職業もまた然り。挙句被害者であるはずの俺をまるで罪を犯したもののように悪様に言うことに我慢がならなかったとカヴァッリは言う。

「私は声が大きいだろう?ああして君のいいところを話していればある程度相殺できるんじゃないかと思ってさ。実際公爵閣下も私の話の方に興味を持ってくれたし」
「カヴァッリ様……」
「君は私の恩人だし、ルキーノは学生時代からの友人だからね」

 いい奴だ。ちょっとじんときちゃった。

「あら、恩人ってなんですの?」
「おお!お聞きになりますかララサバル夫人!」
「是非」
「え、あ、ちょっと」

 食いついてきた母に止める間も無くカヴァッリは夫人誘拐未遂事件のことを語り出す。俺は目をキラキラさせて聞き入る母の姿に恥ずかしいやら何やらで何も言えなくなり、無反応を貫いていたルキーノの肩に額を寄せて顔を隠した。

「随分懐かれたな」
「ありがたいことですけど、ちょっと恥ずかしいですよこれ……」

 そうこうしている間に馬車の用意ができたようで俺たちはそれぞれの馬車に乗り込む。母はカミッロが家まで送り届けてくれるので安心だ。
 ルキーノのエスコートで馬車に乗り込んだ時、自分の馬車に向かっていたカヴァッリが何を思ったか引き返してきた。

「大事なことを忘れるところだった!ルキーノ、ネロ殿、番成立おめでとう。君たちが伴侶として番として、終生幸福であるよう祈っているよ」

 そう、人好きのする明るい笑顔で俺たちを寿いだカヴァッリ。
 短い付き合いだがわかる。カヴァッリは裏表のない性格の善人だ。彼が心から祝ってくれているのがわかって、ただ素直に受け止めて俺は微笑んだ。

「ありがとうございます、カヴァッリ様」

 だってやっぱり、祝ってもらえるのは嬉しい。自分がルキーノの番と認められていると思える。カヴァッリと手を振って別れた後も俺の心はじんわりと温かくて、自然と口元は笑みを刻んでいた。

「ルキーノ様、いいご友人をお持ちですね」
「そうか?煩いだけだろう」
「もー、素直じゃないったら」

 学生時代からの付き合いなんて、お互いにちゃんと友情がなければ続かないもんでしょ。今世で縁はなかったけど前世ではちゃんと学校行って友達もいたから俺にもわかるよ。
 素直に認めはしないだろうけど、ルキーノとカヴァッリはいい友人関係を築けているんだと思う。いいな、俺もそういう友達欲しい。そんな風に考えながら馬車に揺られていると徐々に緊張の糸が切れてきて体から力が抜ける。今はルキーノしか見てないからいいか、と俺は大きく伸びをしながら大欠伸をかました。

「ふぁ~……あふ」
「おい、はしたないぞ」
「だって疲れたんですもん」

 国王陛下、王妃陛下への謁見。アマーティ侯爵親子にプロカッチーニ公爵との対面。ついでにカサヴォーラ子爵令息とその婚約者からの地味~な嫌がらせにそれに影響された周りの好奇の視線。そのどれもを取り敢えずやり過ごすことのできた俺であるが、非常に気疲れのする1日だった。
 意識したらどっと体が重くなる。早く帰って広いベッドで寝たい。突如始まった俺の愚痴は屋敷に着くまで続き、御者が開けたドアをちらと見た後ルキーノに両腕を伸ばした。

「もうダメ。もう無理。指一本動かしたくない。ベッドまで抱っこしてください」
「は?嫌だが」

 速攻断られたんだけど。傷付く~。
 頑張った俺にご褒美くらいくださいよ、旦那様。



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