玉の輿だったはずなのに!

木島

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カサヴォーラ家の事情

 とりあえず、領地に行っても王都の状況を把握できるようにしなければならない。主人公がいなくても裏で重大なイベントが起きるかもしれないし、それを知らないばっかりに気づいたらピンチ!みたいなことになっては困る。
 ルキーノに聞けば良い?彼の配下の斥候を借りる?でもそんなことをしたら他ならぬルキーノに疑われてしまうかもしれない。

 俺が個人的に動かせるのは『俺最優先』で働いているらしいブリジッタとアンジェラの2人だけ。エヴァンドロの所属は王都警備だし、ここでの雇用主はルキーノだ。完全に俺側とは言えない。さてどうするか。

「あ、いるじゃん。いいこと考えた。ブリジッタ~、アンジェラ~、エヴァンドロ~」

 部屋の隅と扉の外に控えていた3人を呼ぶ。速やかにやってきた3人を代表して声をかけたのはエヴァンドロだ。

「何でしょうネロ様」
「ちょっとステッラ商会とミケランジェロの見舞いに行くから準備して~」
「お見舞いですか?あの男の?」
「ではお見舞いの品は夫人のお好きなものでよろしいですわよね?男爵も夫人が喜んでくだされば嬉しいでしょう」
「いいよ、よろしく」
「えっ?」

 見舞いと聞いて眉を顰めるブリジッタに見舞いの品に母の好みを優先するアンジェラ。その口ぶりに目を丸めているエヴァンドロを尻目に俺はニヤニヤと笑う。

「クソ野郎の情けない顔見てやろ。傷口に塩塗ってやる」
「ネ、ネロ様、他家の当主にそのような言い方は」
「ああ、彼に対してはいいんです。問題ありません」
「そうですわ。これでよろしいんですの」
「ええ……?」

 怪我人を全く労わる様子のない俺たちにエヴァンドロはおろおろしている。事情を知らないとそうなるよね。

「まあいろいろね、あるのよ。確執ってやつ」
「は、はぁ……」

 ブリジッタとよくわかってないエヴァンドロを引き連れて馬車に乗り、道すがら俺とミケランジェロの色々を教えてあげた。
 話が進むにつれてどんどん表情が曇っていくエヴァンドロ。正義の主人公エヴァンドロには刺激の強い話だったかな。

「さいっっっていですねそいつ。え?ネロ様よく冷静に付き合えますね。俺だったら無理ですよ。多分会うたびぶん殴ります」
「会うたびって」
「それだけのことをしていると思います」

 割と強火な反応だ。爽やか好青年の顔が怒りに顰められる様子に俺は妙に感心してしまう。顔のいい男は怒っても顔がいいなと。

「俺もまだ怒ってるよ。だからちまちま嫌がらせしてる」

 怪我で再起不能になってもざまあみろとしか思わなかった。奴が大きくした家業の商会は丸ごと取り戻したが、これでチャラとも考えてない。まだまだ搾取するつもりでいる。なにせ俺は悪役の伴侶なので遠慮はありませんよ。

 これはまだ誰にも言ってないけど、子のいないララサバル男爵家も将来的に俺がもらってやろうと計画してる。もし俺に子供が生まれたら男爵位をあげるのだ。
 だってステッラ商会は俺の商会で、今やベネディクティス辺境伯家の傘下に入っている。ミケランジェロに後継がいなければうちに口を出す権利がある。それにララサバル男爵夫人は俺の母なんだし、何もおかしなことはないと思う。

「俺の手が必要な時はいつでも仰ってください。王都警備も力になれることがあると思います」
「ふふ、ありがとう」

 俺の身の上話を聞いてまた一段エヴァンドロとの距離が縮まった気がする。彼の目に一層の熱意が見える。
 そんなエヴァンドロを伴ってミケランジェロのいる病院へ。ミケランジェロの見舞いでは非常に有用な話し合いが成されたと思う。ついでにカサヴォーラ子爵子息の非常にセンシティブな情報までゲットできたのは行幸だったな。あとでルキーノに報告しよう。

「ただいま戻りました~」
「お帰りなさいませ。旦那様がお戻りになったら執務室へと仰っておりましたよ」
「ルキーノ様が?わかりました」

 イラーリオに出迎えられ執務室へ向かう。そこにはルキーノと共にカミッロもいて、話とはカサヴォーラ子息と婚約者の調査報告のようだった。
 ルキーノは執務机の椅子に座り、俺は応接テーブルのソファに腰掛ける。カミッロは立ったまま報告を始めた。

 カサヴォーラ子爵子息とその婚約者はあの日花街で起きた騒動を小耳に挟み、興味本位で父親の執務室にあった報告書を盗み見たそうだ。そして被害者がベネディクティス辺境伯夫夫と知った。
 普通はそこで『あっ、触れちゃダメなヤツ』となるはずなのに彼らはそうしなかった。被害者である俺がどんな人間かを調べ、元男娼という経歴を知った子息が夜会で噂を流したと言うのだ。勿論親には内緒で。

「じゃあ結局カサヴォーラの次男の独断だった、ってこと?」
「そのようです。当主は事態を把握して色をなくしていましたよ」
「当然だな。このようなあからさまな敵対行為、派閥の長であるアマーティ侯爵からの印象も悪かろう」

 アマーティ侯爵家とプロカッチーニ公爵家は古くからの政敵である。それぞれの派閥に所属する貴族たちも互いを意識し、隙あらば蹴落とそうとしていることに間違いはない。今回のこともプロカッチーニ公爵派閥で公爵に次ぐ力を持つベネディクティス家に打撃を与え、評判を落とすことが子息の目的だったようだ。
 ベネディクティス家は辺境を守ると共にイ・プルームとの交易を独占している。アマーティ侯爵は以前からイ・プルームとの交易を拡大したいと望んでいるらしく、カサヴォーラの次男的にはダメージを与えて我が家に付け入る隙が作れるのではと考えたらしい。

「私がカサヴォーラの者ならば例の件を完全秘匿し、ベネディクティス家に恩を売る方が余程効果があると判断するがな。調べ通りあまり出来のいい男ではないようだ」
「自身の短慮で自らの首を絞めているのです。婚約者まで巻き込んで、阿呆と言って差し支えないでしょう」
「辛辣~」

 澄まし顔で阿呆と言うカミッロがおかしくてケラケラ笑う。でもその通りかも。

 カサヴォーラの次男はあまり優秀ではないと評判らしい。学生時代から授業態度も生活態度も悪かったので早々に後継候補から完全に外された。代わりにと与えられた事業もうまく回せず火の車。自分では立て直せないと悟っていたにも関わらずプライドが邪魔をして子爵や兄に助けを求められず、失敗を隠すために借金を重ねていたとか。
 窮地に立たされていた次男にとって、ベネディクティス家の災難は自分の株を上げるチャンスに見えたのだろう。俺たちの立場を悪くしてアマーティ侯爵に評価されたかった。
 まあそんな杜撰で安易な計画うまく行くはずないわけで。子爵はカミッロに詰められ次男のやらかしに顔色をなくし、派閥には何の影響も与えられていない。

「しかも資金繰りのために借りてた金の出所がうちでしょ?顔色変えるわけだよねぇ」

 そう、カサヴォーラの次男の借金はステッラ商会の金融部門からだった。今日ミケランジェロにそれを聞いてあの時婚約者がそそくさと逃げた理由を理解したのだ。

「嵌めようとした相手から金を借りているわけですからね。それは都合も悪くなるでしょう」
「詰めが甘いにも程がある。喧嘩を売るなら相手を徹底的に調べてからやるべきだ。そうすることで初めて勝ち筋が見えるというのに」
「全くもってその通りです」

 ルキーノの言葉にうんうんと頷くカミッロ。本人のいないところでめちゃくちゃ言われている。株を上げるどころか大暴落させた男なのだから当然か。
 カサヴォーラの次男はこの先どうなるんだろうな。噂はこの先も独り歩きしていくだろうし、彼の力では収束もできないだろう。どう責任を取らされるかが気になるところだ。






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