18 / 74
外に出よう
しおりを挟む
ナニーの態度は非常にわかりやすいものだったが、気付いてないだけで似たような感情を俺に抱いている奴は他にもいるだろう。でも、何もされない限りは俺も何もしないつもりだ。スマートじゃないもんね。
「ここ、ね。おにわ。おかあさまがね、とってもすきだったの」
「わぁ……!」
ジュリエッタに手を引かれて案内された中庭はそれは見事だった。
綺麗に整備されていながらも自然な成長を感じさせる木々や花々。芽吹の季節を体現するように緑は青々と鮮やかで色鮮やかな花が咲き誇っている。
その中央に建てられた真っ白なガゼボとのコントラストに俺はほうと溜息をついた。
「素敵なお庭ですね……お母様はお花がお好きだったんですか?」
「うん。いつもね、ここでおちゃしてた。わたしもいっしょだったよ」
「ここはお母様との思い出の場所なんですね」
「うん」
母との思い出を語るジュリエッタは嬉しそうだ。
彼女が母を失ったのは2歳の頃。まだまだ甘えたい年頃の彼女は数少ない自分が覚えている優しい母の記憶を拙い言葉で教えてくれる。
「おかあさま、おおきなバラのはながすきだったの。わたしにもね、バラのはなみたいにすてきなきふじんになるのよっていつもいってた。たくさんなでてくれたよ」
「そうなんですね」
きっと寂しいだろうに、俺を受け入れて思い出を共有してくれるジュリエッタ。こんなにも優しくて素直な、何の罪もない子が殺されるなんて納得できない。絶対に処刑回避だと、ジュリエッタとお茶をしながら俺は決意を新たにした。
「お嬢様、そろそろ午後のお勉強の時間ですよ。後夫様とは十分お話ししましたでしょう?さあ、ばあやと一緒に参りましょうね」
「もうだめ?わかった……」
お茶を一杯とケーキをひとつ食べ終えた頃にナニーがジュリエッタの後ろからにこやかに笑ってそう告げる。時間にしておよそ30分。お茶の時間ってこんなに短いもんなの?きょとんとしてナニーを見ると彼女の目の奥は全く笑っていなかった。
これはアレだな。俺にジュリエッタを近づけたくないんだな。
「またおちゃしようね。やくそく」
「もちろんです。楽しみにしていますね」
ここで食い下がってもいいことはなさそう。素直に席を立つジュリエッタを見送り、俺は1人ガゼボに残った。次の約束をして名残惜しそうに去っていくジュリエッタと軽蔑するような目を向けてきたナニーとは対照的だ。
2人の姿が見えなくなってからふぅと溜息をつき、そばで控えているブリジッタとアンジェラを見る。
「俺ってやっぱり歓迎されてない感じ?」
「我々の教育が行き届いておらず申し訳ありません」
揃って深々と頭を下げられた。うん、否定はしないのね。
「いや、わかるよ。俺がどういう人間か知ってたらいい顔しない人はいるよね。俺だって思うもん。分不相応だってさ」
気にしてないと言って笑うと2人は更に頭を下げる。そんなに気に病まないでいいのに。囲われる愛人ならともかく、伯爵家当主の伴侶に元男娼はまずない。俺だって未だに不思議だもん。みんなの反応が普通で、ルキーノが変わってるんだよ。
「俺はさ、ルキーノ様が望む働きができる伴侶になれたらいいとは思ってる。でもそれ以上を望む気はないんだ。過度な贅沢したいわけじゃないし、権力がほしいとかもない。たださ、衣食住に困らずに穏やかに暮らしていけたらそれでいいんだ」
「ネロ様……」
これは俺の本音だ。生涯の番を得て穏やかで平穏な暮らしをしたい。それだけ。
ただ、そのためにしなければならないことが平穏とは程遠いことが問題なんだけど。
「そう言えばさ、一般的には貴族の夫人って自分で外に買い物に出たりするの?」
「基本的には必要なものがあれば商人を屋敷に呼びますわ。持参できないものであれば使用人が買いに参りますよ」
「何かご入用ですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、ただ外に出てみたいなって。俺、10年以上外に出られなかったからさ」
欲しいのは『もの』というか『人』と『情報』なんだけど、それは言えない話だ。それにただ外に出たいのも嘘じゃない。
高級娼館と言えど娼館は娼館。商品が逃げ出すのを防ぐため俺たちに許された外出は花街の極限られた範囲だけだった。少し悲しそうにそう言うと、アンジェラは気遣わしげな顔を向けてきた。ブリジッタは相変わらず無表情だ。
「まあ、無理は言わないよ。できるなら出てみたいなってだけでさ」
10年以上娼館の中しか知らない俺が1人で彷徨くのは貴族街でも流石に無理がある。護衛付きでもいいから外に出る練習をしていかないと、主人公や傭兵オメガを探しに行くことは難しいだろう。俺の控えめな要求にブリジッタは少し考え込むように黙っていたが、しばらくしてゆっくりと口を開いた。
「外出自体は禁止されておりませんし、貴族でも自ら店舗に向かわれることは特段珍しいことではありません。ただ、護衛は必要ですし移動は基本的に馬車を使用します。平民街のように自由に街を歩くことは難しいとお考えください」
「じゃあ護衛がいれば行っても構わない?」
「はい。旦那様の許可は必要ですが」
「やった。今度聞いてみよ」
よし、言質は取ったぞ。早速ルキーノにおねだりだ!
「ここ、ね。おにわ。おかあさまがね、とってもすきだったの」
「わぁ……!」
ジュリエッタに手を引かれて案内された中庭はそれは見事だった。
綺麗に整備されていながらも自然な成長を感じさせる木々や花々。芽吹の季節を体現するように緑は青々と鮮やかで色鮮やかな花が咲き誇っている。
その中央に建てられた真っ白なガゼボとのコントラストに俺はほうと溜息をついた。
「素敵なお庭ですね……お母様はお花がお好きだったんですか?」
「うん。いつもね、ここでおちゃしてた。わたしもいっしょだったよ」
「ここはお母様との思い出の場所なんですね」
「うん」
母との思い出を語るジュリエッタは嬉しそうだ。
彼女が母を失ったのは2歳の頃。まだまだ甘えたい年頃の彼女は数少ない自分が覚えている優しい母の記憶を拙い言葉で教えてくれる。
「おかあさま、おおきなバラのはながすきだったの。わたしにもね、バラのはなみたいにすてきなきふじんになるのよっていつもいってた。たくさんなでてくれたよ」
「そうなんですね」
きっと寂しいだろうに、俺を受け入れて思い出を共有してくれるジュリエッタ。こんなにも優しくて素直な、何の罪もない子が殺されるなんて納得できない。絶対に処刑回避だと、ジュリエッタとお茶をしながら俺は決意を新たにした。
「お嬢様、そろそろ午後のお勉強の時間ですよ。後夫様とは十分お話ししましたでしょう?さあ、ばあやと一緒に参りましょうね」
「もうだめ?わかった……」
お茶を一杯とケーキをひとつ食べ終えた頃にナニーがジュリエッタの後ろからにこやかに笑ってそう告げる。時間にしておよそ30分。お茶の時間ってこんなに短いもんなの?きょとんとしてナニーを見ると彼女の目の奥は全く笑っていなかった。
これはアレだな。俺にジュリエッタを近づけたくないんだな。
「またおちゃしようね。やくそく」
「もちろんです。楽しみにしていますね」
ここで食い下がってもいいことはなさそう。素直に席を立つジュリエッタを見送り、俺は1人ガゼボに残った。次の約束をして名残惜しそうに去っていくジュリエッタと軽蔑するような目を向けてきたナニーとは対照的だ。
2人の姿が見えなくなってからふぅと溜息をつき、そばで控えているブリジッタとアンジェラを見る。
「俺ってやっぱり歓迎されてない感じ?」
「我々の教育が行き届いておらず申し訳ありません」
揃って深々と頭を下げられた。うん、否定はしないのね。
「いや、わかるよ。俺がどういう人間か知ってたらいい顔しない人はいるよね。俺だって思うもん。分不相応だってさ」
気にしてないと言って笑うと2人は更に頭を下げる。そんなに気に病まないでいいのに。囲われる愛人ならともかく、伯爵家当主の伴侶に元男娼はまずない。俺だって未だに不思議だもん。みんなの反応が普通で、ルキーノが変わってるんだよ。
「俺はさ、ルキーノ様が望む働きができる伴侶になれたらいいとは思ってる。でもそれ以上を望む気はないんだ。過度な贅沢したいわけじゃないし、権力がほしいとかもない。たださ、衣食住に困らずに穏やかに暮らしていけたらそれでいいんだ」
「ネロ様……」
これは俺の本音だ。生涯の番を得て穏やかで平穏な暮らしをしたい。それだけ。
ただ、そのためにしなければならないことが平穏とは程遠いことが問題なんだけど。
「そう言えばさ、一般的には貴族の夫人って自分で外に買い物に出たりするの?」
「基本的には必要なものがあれば商人を屋敷に呼びますわ。持参できないものであれば使用人が買いに参りますよ」
「何かご入用ですか?」
「そういうわけじゃないんだけど、ただ外に出てみたいなって。俺、10年以上外に出られなかったからさ」
欲しいのは『もの』というか『人』と『情報』なんだけど、それは言えない話だ。それにただ外に出たいのも嘘じゃない。
高級娼館と言えど娼館は娼館。商品が逃げ出すのを防ぐため俺たちに許された外出は花街の極限られた範囲だけだった。少し悲しそうにそう言うと、アンジェラは気遣わしげな顔を向けてきた。ブリジッタは相変わらず無表情だ。
「まあ、無理は言わないよ。できるなら出てみたいなってだけでさ」
10年以上娼館の中しか知らない俺が1人で彷徨くのは貴族街でも流石に無理がある。護衛付きでもいいから外に出る練習をしていかないと、主人公や傭兵オメガを探しに行くことは難しいだろう。俺の控えめな要求にブリジッタは少し考え込むように黙っていたが、しばらくしてゆっくりと口を開いた。
「外出自体は禁止されておりませんし、貴族でも自ら店舗に向かわれることは特段珍しいことではありません。ただ、護衛は必要ですし移動は基本的に馬車を使用します。平民街のように自由に街を歩くことは難しいとお考えください」
「じゃあ護衛がいれば行っても構わない?」
「はい。旦那様の許可は必要ですが」
「やった。今度聞いてみよ」
よし、言質は取ったぞ。早速ルキーノにおねだりだ!
127
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる