贄の神子と月明かりの神様

木島

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贄の神子の誕生

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 門前払いを食らった夢見の神子の使いが目通りを願う書状を送ってきたのはその翌日のことだった。
 向こうも皇族の使い。追い返されたと素直に主の元へ戻るわけにもいかないのだろう。皓月は書状の内容に問題がないか確認し、当人であるすばるの意向を確認することにした。

「すばる、お前に会いたいという者がいるのだが、知らない人と顔を合わせることはできそうか?」
「しらないひと?」
「外から来る人間だ。多くとも二、三人で、皆私や蛍のような大人だ。顔を見て挨拶をする程度で構わないのだが……できそうか?」
「んー」

 問いかけられてすばるも首を傾げつつ腕を組んで考えている。至って真剣なのだが、幼子がやるとそれだけで何だか愛らしい。

「こうげつは?」
「無論、私も共に。不安なら私がお前を抱いていよう」

 すばるが無理だと言うなら皓月に無理強いをするつもりはない。最低限贈り物とやらを受け取って一言かけておけば向こうの顔も立つだろう。そう思っていたのだが、すばるの結論は違っていた。

「わかんない。けどね、がんばる!」

 人に会う、という初めての試みにすばるは意欲を見せた。皓月を見上げる星空の眼に恐怖はないようで、それならばと頷く。

「そうか。がんばるか。お前は強い子だな」
「あい!」

 にこっと元気よく笑って答えるすばるの頭を撫でると嬉しそうにきゃらきゃらと笑い声をあげる。今まではこの愛らしい姿を隠すことで守ってきたが、見つけられてしまったのならそうもいかない。完全に理解するには時間がかかるだろうが、己の出自とここに住む理由を教えてやらなければ。知ったうえで、どう生きるかを選ばせてやらなければならない。
 皓月はすばると視線を合わせ、ゆっくりと語りかけた。

「すばる、今から少し難しい話をするが、聞いてほしい」
「なあに?」
「お前に会いに来る人間が、どうして外からやってくるのかという理由だ」

 それから皓月はすばるが皓月に預けられることになった経緯と理由を可能な限り噛み砕いて説明した。
 すばるは昔大神様から与えられた、不思議な力を持つ特別な血筋の生まれであること。
 その力で人の痛い、苦しい、辛いことを変わってあげられること。
 変わってあげると当然すばるが痛い、苦しい、辛い思いをすること。
 それを悪い考えの人間に利用されないように皓月たちが守っていること。
 不思議な力はきちんと使い方を覚えておかないと大変なことになってしまうこと。
 そして外から来る人間はすばるが特別な人であることを知って、危ない時に助けてもらえるようにお願いにくるのだということ。

「本当ならもう少し大きくなるまでこの話はしないつもりだった。だが、知らない人間に訳の分からない話をされるのも怖いだろう?だから話しておくことにした」
「んん~?むつかしい。よくわかんない」
「だろうな、すまない」

 一通りの話をした後のすばるの反応は困惑だった。
 当然だろう。大人でもお前には不思議な力があるのだと言われて直ぐに受け入れられるものではない。体感として覚えがあればまた違っただろうが、皓月達がそうならないように細心の注意を払ってきた。
 それでもすばるは顔をシワシワに寄せながら思考し、懸命に理解しようとしている。

「んと、じゃあ、こうげつがいたい!てなたときに、すばるが『いたいのとんでけ~』したら、こうげつのいたいなくなって、すばるがいたいなるの?」
「ああ、そうだな。それに近い」
「ふぁ、すごいね」
「そう、凄いんだ」

 まるで他人事のように感嘆の声を上げているすばる。然し話の根幹である贄の血の役割に簡単にだが理解を示した。そこも含めて凄いと同意を返し、褒めるように尾で頬を撫でた。

「それ故に、多くの人間がお前を頼りにするだろう。己の身に降りかかる災いを贖ってほしいと望むだろう。お前はその中から『本当に助けなければならない相手』を選べるようにならないといけない。これはお前の身を守るためでもある」

 頬を撫でながら告げれば、真剣な顔をしてすばるは頷く。自分にとって大切な話だとわかっているのだ。

「お前の力は使えば使うほどお前自身が辛い思いをするものだ。だからこそ上手に使えるように、少しずつで構わないから訓練をしていこう」
「あい」

 すばるは嫌だとも、わからないとも言わずに皓月の提案を受け入れた。微笑みで細められた瞳が全面的に信頼しているのだと語っている。皓月はそのことに安堵しながらもどこか不安を抱く。
 この素直さがいつか彼自身を傷つけなければいいと、そう思わずにはいられなかった。

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