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箱入り神子と星空と
三
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そんなすばるがある日突然皓月に強請った。外に出たいと。
「外へ、か?」
「あい。六花様にいただいた本に、夜空の星のことが書いてあったんです」
そう言うとすばるは皓月に一冊の本を差し出してきた。その本は天体の本で、すばるが開いて見せた頁には星々が美しく煌めく夜空の情景が描かれている。つい先日大蛇の呪いを贖って熱を出していた時、布団に包まってずっと読んでいた本だった。
「絵でこんなにきれいなら、この目で見る夜空はどれほどかと思って」
好奇心旺盛な年頃のすばるにとって高い空に煌めく星は例えようもなく魅力的なようだった。その大きな瞳にきらきらとした期待を込めて皓月を見上げてくる。
「それに、皓月はいつもすばるの目を星空のようだと言ってくれます。でもすばるはそれを知らないのです。だから、一度見てみたくって」
すばるは大神から星の冠位を戴いている。その証明として彼の瞳は渦巻く星の海に似た煌めく瞳を持つのだ。皓月は常日頃からそのことを誉めそやしすばるも喜んでいたのだが、本を読んでいる時に思ったのだ。そもそも己は本物をちゃんと見たことがないと。
その様子に皓月はちらりと窓の外に視線をやった。そしてあることに気付く。
「ああ……ここから空は、あまり見えなかったな」
「そう!ご神木は枝が湖いっぱいに伸びてるでしょ?葉っぱも多いから覗いてみてもお星さまなんてちょっとしか見えなくて」
今ようやっと気付いたかのように呟く皓月にすばるも力強く頷いた。
神域に生い茂る木々は生命に満ち満ちていて巨大だ。枝ぶりも良く、隙間から光は届くが空は小さく切り取られたまだら模様。すばるの望む満天の星空はこの屋敷からでは見えなかった。
「わかった。今日の仕事が終わったら出かけよう」
ならばすばる第一主義の皓月だ。大凡滅多にないすばるからの本気のお強請りに寧ろ気合いが入り、望むものを見せてやろうと二つ返事で了承した。
「やったあ!さすがは皓月!大好き!」
そう声をあげると、すばるは満面の笑みを浮かべて皓月の首に飛びついた。皓月はその身体をしっかりと受け止めて抱き抱える。
するときゅう、とすばるの腕の力も強まった。
「楽しみにしてるから、早くお仕事終わらせてくださいね!」
一度強く皓月を抱きしめると、すばるは頬を摺り寄せて笑った。その表情は実に嬉しそうで、皓月の心までもが高揚してくる。
「任せておけ。夕方までには終わらせよう」
皓月は嬉しげに微笑んでいるすばるの頭を撫で、三本の尾全てでその顔や身体を撫でまわした。
「ふ、あはは、皓月!こそばゆい!」
くすぐったそうに、楽しそうに笑う様を見て皓月の胸は満ちる。
愛らしい、愛おしい、とその想いばかりが皓月の胸を満たした。
「蛍に軽めの弁当でも作るよう言付てくれ」
「あい」
名残惜しそうに頬を一撫ですると皓月はその身体を離した。すばるもぴょい、と飛び跳ねるように皓月の腕から離れると蛍のいる厨へと駆けて行く。
本当に待ち遠しいのだろう。滅多に走ったりしないすばるが駆けて行く。その後ろ姿に皓月は己の頬が緩むのを感じた。
「本当にお前は愛らしい」
そう呟くと皓月はかわいい神子の願いを叶えるため、さっさと仕事を終わらせようと腕まくりをして文机に向き直る。そうして宣言通り日が暮れ始めたころに仕事を終わらせた皓月がすばるを探して部屋を出ると、すでに蛍から弁当を預かったすばるは執務部屋の前の濡れ縁に座っていた。
ぷらぷらと足を遊ばせながら籠に入った弁当を両手で大事そうに抱え、今か今かと皓月を待っている。
「待たせた」
「皓月!ううん、大丈夫。そんなに待ってないです」
皓月が姿を現すとすばるの表情はぱっと華やいだ。籠を片手に持ち直すと空いた手を差し出して皓月の手を引く。
すばるは夜に外出すると聞いた蛍によって冷えないようにと脚絆を履かされ、いつもの装束の上にふわふわの襟巻と厚手の道中着を着せられている。それがいつもより少し着ぶくれていてまた愛らしさを誘った。
「皓月、はやく」
早く早くと急かす小さな手が皓月の手を懸命に引っ張る。期待に胸を弾ませ興奮に僅かに紅潮した頬で見上げる子供の仕草は、誰でなくとも胸を締め付けられる破壊力だろう。
勿論皓月も例外ではない。
「俺も行きたかったけど、お邪魔になっちゃいそうだから今度にしますねー」
皓月の肩がぷるぷる震えている。蛍には後姿だけでも彼の今の感情が容易に想像できたが、皓月はご丁寧にも振り返ってくれた。
「ああ、そうしてくれ」
「ブッ!皓月さん、顔めっちゃ怖え。ヤバい」
いつも冷静でつんとした印象の皓月の顔が緩みに緩みまくっている。もはや別人級ににっこにこだ。すばると暮らし始めてからどんどん表情豊かになっていく姿に蛍はげらげらと笑い、それにむっとした皓月に頭を叩かれた。
「いてっ」
「人の顔を見て笑うとは何事だ。不愉快極まりない」
「だぁって、あの鉄面皮がここまで変わったのかと思うと感慨深くって」
「感慨深い態度ではなかったように思うが?」
めちゃくちゃ笑ってただろうが、と先程の笑顔の欠片もない無表情で蛍の丸い耳を抓る。その遠慮も何もない手に痛いと叫んで泣いていると、その声を聞きつけて三人の元へと向かってくる足音がひとつ。
「皆様、そのようなところで一体何の騒ぎでございますか?」
「篝ちゃん!」
本日の勉強と昼寝の時間を終えた篝が三人揃って濡れ縁で賑やかにしている様子に首を傾げる。その姿を見て、蛍の顔色がさっと変わる。
「あっ、やっべ見つかった」
「蛍、何ぞその言い草は!われを仲間外れにして何を企んで……ああーっ!」
思わず漏れた言葉に長い髪を揺らして足音荒く近寄って行けば、二人の陰に隠れていたすばるの姿が篝にも見えてくる。その明らかに外出着とわかる装いに状況を察し、茜色の瞳をきらきらと輝かせてすばるの元へと駆け寄った。
「お出かけ!お出かけでございますね!すばる殿、どちらへお行きになるのですか?」
「はい!今日はお星さまを見に行くんです!」
「お星さまを……それはようございます」
駆け寄ってきた篝に元気いっぱいに答えるすばる。
外出、しかも急を要するものではない。その答えに篝は嬉しげに目を細め、籠を握るすばるの手に己の手を重ねた。
「是非われも共連れてくださいませ!」
「えっ」
案の定一緒に行くと言い始めた篝に蛍は天を仰ぎ、皓月は顔を顰める。篝には申し訳ない話だが、初めから皓月はすばると二人で外出する心積もりだったのだ。それを察した蛍は篝が部屋に籠っている間に弁当とすばるの身支度を済ませ、送り出してしまおうと思っていた。
だが残念ながらそれは失敗に終わってしまったようだ。
「すばる殿?」
「えっと……」
どうするべきか、困ったすばるは助けを求めるように大人たちを見上げる。
「駄目、駄目っすよ嬢ちゃん。今日は皓月さんと神子さんの二人で行くんすから!」
「そうだぞ篝。邪魔をするな」
「邪魔とはなんという言いざま!われもすばる殿の初めてのお出かけをこの目に焼き付けとうございます!」
駄目だと正面切って言われても篝は納得がいかない様子だ。ずいとすばるに顔を寄せ、切実な表情で同意を求めた。
すばるの視界を篝の綺麗な茜色が占拠して、目がちかちかと眩しい。
「すばる殿、すばる殿はいかがです?われもお供してようございますよね?」
「すばる、この小娘のことは放っておけ。私と二人で行こう」
「もー!皓月殿!邪魔をしないで下され!」
「邪魔をしているのはお前だ」
皓月も篝も一歩も譲る気はないようだ。ばちばちと視線で火花を散らし、互いに威嚇し合う。子供の我儘に同じように真剣になって接する皓月の態度は平等であると言えるのかただ大人げないだけなのか。
絶対後者だろうなと蛍はちょっと引いた。皓月はすばるのお願いを独り占めしたいだけだ。
「あー、もしもしお二人さん?喧嘩してないでちゃんと神子さんの意見聞いたげてくださいよ?」
口を挟む切欠を探しておろおろしているすばるを見かねて助け舟を出すと、はっとした二人は直ぐに口を噤んですばるに視線を向ける。
「ええと」
篝が外に行きたいと言えたことを喜び、その喜びを共有したいと思っていることはわかっている。すばるにはその気持ちがありがたいしとても嬉しい。
けれど今日は皓月と二人だけで行きたかった。己の初めては、皓月と共有したかった。
「篝ちゃん、ごめんなさい。今日は皓月と二人で行かせて」
そっと篝の手に触れて申し訳なさそうに告げる。
「そんなぁ……」
「次は一緒に行きましょう?それじゃあ駄目?」
「いえ、そのようなことは断じて!」
悲痛な声を上げて項垂れた篝に次の約束を提案するとしょぼくれていた顔がぱっと華やいだ。篝は感情が隠せない性分なので表情がころころと変わる。それが彼女の可愛いところだとすばるは微笑ましい気持ちになった。
因みにその背後で蛍はほっと胸を撫で下ろしている。篝も一緒にとなればその後皓月に何を言われるか分かったものではない。八つ当たりで四つに分かれた尻尾をぎちぎちに堅結びされるのは御免だった。
「ううん、なれば仕方ございませぬ。今日のところはお見送りさせていただきまする」
すばるの提案を呑んだ篝はそう言って一歩後ろへ下がり、蛍の隣に並ぶ。すばると篝は皓月を見上げ、話は終わったと小さく頷いた。それに皓月も頷き返す。
「ではすばる、行くぞ」
「あい」
差し出された硬く大きな手を握りすばると皓月は外へ出る。
外は夕焼けから夜の様相を示し始めていて、東の空は暗い色に染まっていた。
「外へ、か?」
「あい。六花様にいただいた本に、夜空の星のことが書いてあったんです」
そう言うとすばるは皓月に一冊の本を差し出してきた。その本は天体の本で、すばるが開いて見せた頁には星々が美しく煌めく夜空の情景が描かれている。つい先日大蛇の呪いを贖って熱を出していた時、布団に包まってずっと読んでいた本だった。
「絵でこんなにきれいなら、この目で見る夜空はどれほどかと思って」
好奇心旺盛な年頃のすばるにとって高い空に煌めく星は例えようもなく魅力的なようだった。その大きな瞳にきらきらとした期待を込めて皓月を見上げてくる。
「それに、皓月はいつもすばるの目を星空のようだと言ってくれます。でもすばるはそれを知らないのです。だから、一度見てみたくって」
すばるは大神から星の冠位を戴いている。その証明として彼の瞳は渦巻く星の海に似た煌めく瞳を持つのだ。皓月は常日頃からそのことを誉めそやしすばるも喜んでいたのだが、本を読んでいる時に思ったのだ。そもそも己は本物をちゃんと見たことがないと。
その様子に皓月はちらりと窓の外に視線をやった。そしてあることに気付く。
「ああ……ここから空は、あまり見えなかったな」
「そう!ご神木は枝が湖いっぱいに伸びてるでしょ?葉っぱも多いから覗いてみてもお星さまなんてちょっとしか見えなくて」
今ようやっと気付いたかのように呟く皓月にすばるも力強く頷いた。
神域に生い茂る木々は生命に満ち満ちていて巨大だ。枝ぶりも良く、隙間から光は届くが空は小さく切り取られたまだら模様。すばるの望む満天の星空はこの屋敷からでは見えなかった。
「わかった。今日の仕事が終わったら出かけよう」
ならばすばる第一主義の皓月だ。大凡滅多にないすばるからの本気のお強請りに寧ろ気合いが入り、望むものを見せてやろうと二つ返事で了承した。
「やったあ!さすがは皓月!大好き!」
そう声をあげると、すばるは満面の笑みを浮かべて皓月の首に飛びついた。皓月はその身体をしっかりと受け止めて抱き抱える。
するときゅう、とすばるの腕の力も強まった。
「楽しみにしてるから、早くお仕事終わらせてくださいね!」
一度強く皓月を抱きしめると、すばるは頬を摺り寄せて笑った。その表情は実に嬉しそうで、皓月の心までもが高揚してくる。
「任せておけ。夕方までには終わらせよう」
皓月は嬉しげに微笑んでいるすばるの頭を撫で、三本の尾全てでその顔や身体を撫でまわした。
「ふ、あはは、皓月!こそばゆい!」
くすぐったそうに、楽しそうに笑う様を見て皓月の胸は満ちる。
愛らしい、愛おしい、とその想いばかりが皓月の胸を満たした。
「蛍に軽めの弁当でも作るよう言付てくれ」
「あい」
名残惜しそうに頬を一撫ですると皓月はその身体を離した。すばるもぴょい、と飛び跳ねるように皓月の腕から離れると蛍のいる厨へと駆けて行く。
本当に待ち遠しいのだろう。滅多に走ったりしないすばるが駆けて行く。その後ろ姿に皓月は己の頬が緩むのを感じた。
「本当にお前は愛らしい」
そう呟くと皓月はかわいい神子の願いを叶えるため、さっさと仕事を終わらせようと腕まくりをして文机に向き直る。そうして宣言通り日が暮れ始めたころに仕事を終わらせた皓月がすばるを探して部屋を出ると、すでに蛍から弁当を預かったすばるは執務部屋の前の濡れ縁に座っていた。
ぷらぷらと足を遊ばせながら籠に入った弁当を両手で大事そうに抱え、今か今かと皓月を待っている。
「待たせた」
「皓月!ううん、大丈夫。そんなに待ってないです」
皓月が姿を現すとすばるの表情はぱっと華やいだ。籠を片手に持ち直すと空いた手を差し出して皓月の手を引く。
すばるは夜に外出すると聞いた蛍によって冷えないようにと脚絆を履かされ、いつもの装束の上にふわふわの襟巻と厚手の道中着を着せられている。それがいつもより少し着ぶくれていてまた愛らしさを誘った。
「皓月、はやく」
早く早くと急かす小さな手が皓月の手を懸命に引っ張る。期待に胸を弾ませ興奮に僅かに紅潮した頬で見上げる子供の仕草は、誰でなくとも胸を締め付けられる破壊力だろう。
勿論皓月も例外ではない。
「俺も行きたかったけど、お邪魔になっちゃいそうだから今度にしますねー」
皓月の肩がぷるぷる震えている。蛍には後姿だけでも彼の今の感情が容易に想像できたが、皓月はご丁寧にも振り返ってくれた。
「ああ、そうしてくれ」
「ブッ!皓月さん、顔めっちゃ怖え。ヤバい」
いつも冷静でつんとした印象の皓月の顔が緩みに緩みまくっている。もはや別人級ににっこにこだ。すばると暮らし始めてからどんどん表情豊かになっていく姿に蛍はげらげらと笑い、それにむっとした皓月に頭を叩かれた。
「いてっ」
「人の顔を見て笑うとは何事だ。不愉快極まりない」
「だぁって、あの鉄面皮がここまで変わったのかと思うと感慨深くって」
「感慨深い態度ではなかったように思うが?」
めちゃくちゃ笑ってただろうが、と先程の笑顔の欠片もない無表情で蛍の丸い耳を抓る。その遠慮も何もない手に痛いと叫んで泣いていると、その声を聞きつけて三人の元へと向かってくる足音がひとつ。
「皆様、そのようなところで一体何の騒ぎでございますか?」
「篝ちゃん!」
本日の勉強と昼寝の時間を終えた篝が三人揃って濡れ縁で賑やかにしている様子に首を傾げる。その姿を見て、蛍の顔色がさっと変わる。
「あっ、やっべ見つかった」
「蛍、何ぞその言い草は!われを仲間外れにして何を企んで……ああーっ!」
思わず漏れた言葉に長い髪を揺らして足音荒く近寄って行けば、二人の陰に隠れていたすばるの姿が篝にも見えてくる。その明らかに外出着とわかる装いに状況を察し、茜色の瞳をきらきらと輝かせてすばるの元へと駆け寄った。
「お出かけ!お出かけでございますね!すばる殿、どちらへお行きになるのですか?」
「はい!今日はお星さまを見に行くんです!」
「お星さまを……それはようございます」
駆け寄ってきた篝に元気いっぱいに答えるすばる。
外出、しかも急を要するものではない。その答えに篝は嬉しげに目を細め、籠を握るすばるの手に己の手を重ねた。
「是非われも共連れてくださいませ!」
「えっ」
案の定一緒に行くと言い始めた篝に蛍は天を仰ぎ、皓月は顔を顰める。篝には申し訳ない話だが、初めから皓月はすばると二人で外出する心積もりだったのだ。それを察した蛍は篝が部屋に籠っている間に弁当とすばるの身支度を済ませ、送り出してしまおうと思っていた。
だが残念ながらそれは失敗に終わってしまったようだ。
「すばる殿?」
「えっと……」
どうするべきか、困ったすばるは助けを求めるように大人たちを見上げる。
「駄目、駄目っすよ嬢ちゃん。今日は皓月さんと神子さんの二人で行くんすから!」
「そうだぞ篝。邪魔をするな」
「邪魔とはなんという言いざま!われもすばる殿の初めてのお出かけをこの目に焼き付けとうございます!」
駄目だと正面切って言われても篝は納得がいかない様子だ。ずいとすばるに顔を寄せ、切実な表情で同意を求めた。
すばるの視界を篝の綺麗な茜色が占拠して、目がちかちかと眩しい。
「すばる殿、すばる殿はいかがです?われもお供してようございますよね?」
「すばる、この小娘のことは放っておけ。私と二人で行こう」
「もー!皓月殿!邪魔をしないで下され!」
「邪魔をしているのはお前だ」
皓月も篝も一歩も譲る気はないようだ。ばちばちと視線で火花を散らし、互いに威嚇し合う。子供の我儘に同じように真剣になって接する皓月の態度は平等であると言えるのかただ大人げないだけなのか。
絶対後者だろうなと蛍はちょっと引いた。皓月はすばるのお願いを独り占めしたいだけだ。
「あー、もしもしお二人さん?喧嘩してないでちゃんと神子さんの意見聞いたげてくださいよ?」
口を挟む切欠を探しておろおろしているすばるを見かねて助け舟を出すと、はっとした二人は直ぐに口を噤んですばるに視線を向ける。
「ええと」
篝が外に行きたいと言えたことを喜び、その喜びを共有したいと思っていることはわかっている。すばるにはその気持ちがありがたいしとても嬉しい。
けれど今日は皓月と二人だけで行きたかった。己の初めては、皓月と共有したかった。
「篝ちゃん、ごめんなさい。今日は皓月と二人で行かせて」
そっと篝の手に触れて申し訳なさそうに告げる。
「そんなぁ……」
「次は一緒に行きましょう?それじゃあ駄目?」
「いえ、そのようなことは断じて!」
悲痛な声を上げて項垂れた篝に次の約束を提案するとしょぼくれていた顔がぱっと華やいだ。篝は感情が隠せない性分なので表情がころころと変わる。それが彼女の可愛いところだとすばるは微笑ましい気持ちになった。
因みにその背後で蛍はほっと胸を撫で下ろしている。篝も一緒にとなればその後皓月に何を言われるか分かったものではない。八つ当たりで四つに分かれた尻尾をぎちぎちに堅結びされるのは御免だった。
「ううん、なれば仕方ございませぬ。今日のところはお見送りさせていただきまする」
すばるの提案を呑んだ篝はそう言って一歩後ろへ下がり、蛍の隣に並ぶ。すばると篝は皓月を見上げ、話は終わったと小さく頷いた。それに皓月も頷き返す。
「ではすばる、行くぞ」
「あい」
差し出された硬く大きな手を握りすばると皓月は外へ出る。
外は夕焼けから夜の様相を示し始めていて、東の空は暗い色に染まっていた。
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