20 / 71
箱入り神子と星空と
六
しおりを挟む
「ん……」
夜が明けて暫く経った頃、ころりころりと数度布団の中で転がってからすばるは目覚める。ごしごしと目を擦りながら辺りを見回すと、そこに広がるのは見慣れた己の部屋だった。
「あー、あのまま寝ちゃったのか」
そう言えば夢見心地に空を飛んだような気がする。すばるは昨夜のことを思い出して自然と笑みを零した。
「皓月のお陰ですね」
仕事の邪魔をしてはいけないと我儘を控えていた。だが、たまには言ってみるものだと思う。我儘を言ったお陰であんなにも美しい夜空を見られたのだから。
「さて、そろそろ起きないと……ん?」
上機嫌で朝の用意をしようと起き上がると、枕元に見慣れないものを見つけた。
「何でしょうこれ」
ことりと首を傾げ、見慣れぬ物体を手に取る。それはすばるが両の手で持てる程の大きさで、円柱形の硝子でできた入れ物だった。底と上部は金で細やかな装飾が施されており、中は何か黒いものが蠢いている。
昨日まではこんなもの無かったはずだ。すばるは中をしっかり見ようと入れ物に顔を近付けた。
「これ……」
黒い蠢きの中にきらきらと光るものがあった。見覚えのあるその光景にすばるは目を見開く。
それは昨日の夜、この目で見た物と良く似ていた。
「星が、星が中に入ってる……!」
白く、黄色く、赤く光る煌めきと黒い空間は夜空と同じだった。じっと眺めていると、星の並びが皓月が教えてくれた星座と言うものだと気付く。
「きれい……」
両の手の中に納まる硝子瓶の中に美しい光景が広がっている。
すばるは魅入られ、ほうと溜息を吐いた。
「起きていたか」
じっと硝子瓶を覗いているとすばるを起こしに来たらしい皓月が顔を覗かせる。しかしすばるは硝子の中の星に心奪われており、皓月が訪れたことに気付く様子がない。掌に乗せた硝子瓶を掲げてうっとりと目を細めている。
「すばる」
皓月の中にまた嫉妬心が首を擡げる。ずかずかと部屋の中に入ると、一心に硝子の中を見つめているすばるの横に腰を下ろした。
ぐいと肩を引き寄せて、己の身に凭れさせる。
「わっ!あれ、皓月?おはようございます」
「ああ。おはよう」
肩を寄せられてやっとすばるは皓月が来ていることに気付いたようだ。皓月の顔を見上げ驚きに目を見開いている。
「気に入ったようだな」
皓月は長い指ですばるの手の中にある硝子瓶を突き、もう一方の手で頭をそっと撫でる。夜空の詰まった硝子瓶の贈り主は皓月であったらしい。
「これ、皓月が用意してくれたんですね」
それを聞いたすばるは硝子瓶と皓月の顔を交互に見比べ、破顔した。
「とってもきれいです!ありがとう、皓月」
硝子瓶を胸に抱きしめて嬉しさを顔一面に滲ませる姿に皓月は満足げな笑みを浮かべ、ひらりと手を差し伸べる。
「貸してみろ」
「ん?」
不思議そうに首を傾げつつ素直に硝子瓶を差し出すと、それを褒めるように頬を尾が撫でる。そうして星空入りの硝子瓶を受け取ったその手は徐に金の装飾を外し始めた。
「物置にしまっていたのを思い出してな。気に入るのではと思って持ってきた」
「わぁ……!」
装飾を外すと硝子瓶の蓋が外れるようで、どういう仕組みか口の開いた瓶から中に入っていた夜空が流れ出てきた。とろとろと流れ出る星は床を、壁を、天井を埋めていき、すばるが大口を開けて呆然としている間にすっかり部屋を埋め尽くしてしまったのだった。
「すごい……凄いです皓月!何がどうなってこんな。わぁ、本当にすごい……」
「あまり外出をさせられないからな。これで、いつでも見たい時に星が見られる」
すばるはその身を包む夜空にきらきらと目を輝かせて思わず手を伸ばす。そうっと床を撫でると手で水をかくように夜空が揺れて星が動く。両手で掬い上げてみると掌の上に夜空が生まれた。触れている感覚も重さも感じないのに確かに掌の上にきらきらと星の瞬く夜空がある。
まるで星の海に漂うようなこの光景を皓月はすばるのために用意してくれたのだという。
「皓月……ありがとう」
「そうか」
皓月を見上げた星空の瞳は潤んでいた。そうして、うまく言葉にならないこの喜びを伝えるように強くその身体に抱きついた。
「すばるは、すばるは幸せ者です」
皓月の背越しに部屋中に煌めく夜空の星を見る。
昨日見た夜空がここにはある。皓月が用意したすばるのための夜空だ。その中で背を撫でる皓月の尾の感触が、頭を撫でる掌の感触がうっとりするほど心地良い。
「お前が喜ぶのなら、私も嬉しい」
「皓月……」
ほんの少し身を起こせば皓月が笑んでいるのが見えた。弓形に撓んだその黄金色の瞳はとても美しく、輝く月のようにすばるの瞳に映る。
「本当にきれい……まるで満月と星を一緒に愛でている気分です」
「月?」
そろりと皓月の頬を撫でて笑むすばるに皓月は首を傾げた。それにすばるはにこりと笑みを深くする。
「皓月のことですよ」
そう告げると、皓月は驚きで目を見開いた。
「皓月は、すばるのお月様」
愛おしそうに撫でる掌に、言葉に皓月の胸は満たされる。
月光の神である皓月が月そのものに例えられることは少なくない。だが、すばるに言われるとその言葉はまるで新しい言葉のようだった。例えようもない程の喜びが胸を満たすのを感じるのだ。
「ならばすばる、お前は私の星だ。いつでも、見えずとも傍らにいる星だ」
「じゃあ、すばるたちはいつでも一緒ですね」
皓月の返答にすばるは嬉しげに笑う。すばる甘えるようには皓月の胸に身を寄せ、皓月の贈ったすばるだけの夜空を眺めた。
二人は月と星。いつでも、いつまでもずっと一緒なのだとその時は二人共信じていた。
夜が明けて暫く経った頃、ころりころりと数度布団の中で転がってからすばるは目覚める。ごしごしと目を擦りながら辺りを見回すと、そこに広がるのは見慣れた己の部屋だった。
「あー、あのまま寝ちゃったのか」
そう言えば夢見心地に空を飛んだような気がする。すばるは昨夜のことを思い出して自然と笑みを零した。
「皓月のお陰ですね」
仕事の邪魔をしてはいけないと我儘を控えていた。だが、たまには言ってみるものだと思う。我儘を言ったお陰であんなにも美しい夜空を見られたのだから。
「さて、そろそろ起きないと……ん?」
上機嫌で朝の用意をしようと起き上がると、枕元に見慣れないものを見つけた。
「何でしょうこれ」
ことりと首を傾げ、見慣れぬ物体を手に取る。それはすばるが両の手で持てる程の大きさで、円柱形の硝子でできた入れ物だった。底と上部は金で細やかな装飾が施されており、中は何か黒いものが蠢いている。
昨日まではこんなもの無かったはずだ。すばるは中をしっかり見ようと入れ物に顔を近付けた。
「これ……」
黒い蠢きの中にきらきらと光るものがあった。見覚えのあるその光景にすばるは目を見開く。
それは昨日の夜、この目で見た物と良く似ていた。
「星が、星が中に入ってる……!」
白く、黄色く、赤く光る煌めきと黒い空間は夜空と同じだった。じっと眺めていると、星の並びが皓月が教えてくれた星座と言うものだと気付く。
「きれい……」
両の手の中に納まる硝子瓶の中に美しい光景が広がっている。
すばるは魅入られ、ほうと溜息を吐いた。
「起きていたか」
じっと硝子瓶を覗いているとすばるを起こしに来たらしい皓月が顔を覗かせる。しかしすばるは硝子の中の星に心奪われており、皓月が訪れたことに気付く様子がない。掌に乗せた硝子瓶を掲げてうっとりと目を細めている。
「すばる」
皓月の中にまた嫉妬心が首を擡げる。ずかずかと部屋の中に入ると、一心に硝子の中を見つめているすばるの横に腰を下ろした。
ぐいと肩を引き寄せて、己の身に凭れさせる。
「わっ!あれ、皓月?おはようございます」
「ああ。おはよう」
肩を寄せられてやっとすばるは皓月が来ていることに気付いたようだ。皓月の顔を見上げ驚きに目を見開いている。
「気に入ったようだな」
皓月は長い指ですばるの手の中にある硝子瓶を突き、もう一方の手で頭をそっと撫でる。夜空の詰まった硝子瓶の贈り主は皓月であったらしい。
「これ、皓月が用意してくれたんですね」
それを聞いたすばるは硝子瓶と皓月の顔を交互に見比べ、破顔した。
「とってもきれいです!ありがとう、皓月」
硝子瓶を胸に抱きしめて嬉しさを顔一面に滲ませる姿に皓月は満足げな笑みを浮かべ、ひらりと手を差し伸べる。
「貸してみろ」
「ん?」
不思議そうに首を傾げつつ素直に硝子瓶を差し出すと、それを褒めるように頬を尾が撫でる。そうして星空入りの硝子瓶を受け取ったその手は徐に金の装飾を外し始めた。
「物置にしまっていたのを思い出してな。気に入るのではと思って持ってきた」
「わぁ……!」
装飾を外すと硝子瓶の蓋が外れるようで、どういう仕組みか口の開いた瓶から中に入っていた夜空が流れ出てきた。とろとろと流れ出る星は床を、壁を、天井を埋めていき、すばるが大口を開けて呆然としている間にすっかり部屋を埋め尽くしてしまったのだった。
「すごい……凄いです皓月!何がどうなってこんな。わぁ、本当にすごい……」
「あまり外出をさせられないからな。これで、いつでも見たい時に星が見られる」
すばるはその身を包む夜空にきらきらと目を輝かせて思わず手を伸ばす。そうっと床を撫でると手で水をかくように夜空が揺れて星が動く。両手で掬い上げてみると掌の上に夜空が生まれた。触れている感覚も重さも感じないのに確かに掌の上にきらきらと星の瞬く夜空がある。
まるで星の海に漂うようなこの光景を皓月はすばるのために用意してくれたのだという。
「皓月……ありがとう」
「そうか」
皓月を見上げた星空の瞳は潤んでいた。そうして、うまく言葉にならないこの喜びを伝えるように強くその身体に抱きついた。
「すばるは、すばるは幸せ者です」
皓月の背越しに部屋中に煌めく夜空の星を見る。
昨日見た夜空がここにはある。皓月が用意したすばるのための夜空だ。その中で背を撫でる皓月の尾の感触が、頭を撫でる掌の感触がうっとりするほど心地良い。
「お前が喜ぶのなら、私も嬉しい」
「皓月……」
ほんの少し身を起こせば皓月が笑んでいるのが見えた。弓形に撓んだその黄金色の瞳はとても美しく、輝く月のようにすばるの瞳に映る。
「本当にきれい……まるで満月と星を一緒に愛でている気分です」
「月?」
そろりと皓月の頬を撫でて笑むすばるに皓月は首を傾げた。それにすばるはにこりと笑みを深くする。
「皓月のことですよ」
そう告げると、皓月は驚きで目を見開いた。
「皓月は、すばるのお月様」
愛おしそうに撫でる掌に、言葉に皓月の胸は満たされる。
月光の神である皓月が月そのものに例えられることは少なくない。だが、すばるに言われるとその言葉はまるで新しい言葉のようだった。例えようもない程の喜びが胸を満たすのを感じるのだ。
「ならばすばる、お前は私の星だ。いつでも、見えずとも傍らにいる星だ」
「じゃあ、すばるたちはいつでも一緒ですね」
皓月の返答にすばるは嬉しげに笑う。すばる甘えるようには皓月の胸に身を寄せ、皓月の贈ったすばるだけの夜空を眺めた。
二人は月と星。いつでも、いつまでもずっと一緒なのだとその時は二人共信じていた。
10
あなたにおすすめの小説
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる