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ペラペラとページをめくり、過去の異界人の記録を読む。
ざっと読んでわかったのはやはりこの世界はLoDの世界とリンクしていて、ゲームと似たドラゴンによる国家存亡の危機が起きているということだった。
だが100年前のオーレリアン王国はゲームそのままの道を辿ったようだが、30年前のヤカ国は違った。記録を読む限り発端はゲームと同じだが、ストーリーの中盤あたりから全く違う経過を辿っているのだ。
「オーレリアン王国とヤカ国はどっちも今平和なんだよな?」
「ええ、この異界人が関わったドラゴン退治以降どちらも安定した治世を継続させています」
「なるほど……」
ゲーム通りの道を辿ったオーレリアンも、ゲームとは違う道を辿ったヤカも危機を乗り越え平穏を取り戻している。
ということはつまり、必ずしもストーリーに沿う必要はない、ということだろうか。
そもそもLoDの配信が開始されたのは5年前のことだ。過去にこの世界に召喚された二人はゲームの存在すら知らなかっただろう。それで問題がなかったと言うなら女神が望むのはただ国や世界の危機を回避することであって、ゲーム通りに話を進めることではないと解釈できる。
「それなら俺も好きにしていい……のか?」
小さな声で独り言ちる。
ストーリーに沿う必要がないのなら、エンプリオの危機を未然に防ぐという選択もできるんじゃないだろうか。それならこの先失われるとわかっている命を話を進めるためだと見殺しにしなくてすむ。その事実は暗闇だったこの先に一筋の光明を見せた。
ちなみにだがこれは正義感とかそういう立派なものではない。ただ俺が『死ぬとわかっていて放置した』という罪悪感を背負いたくないだけだ。
「何か参考になりましたか?」
「うん、ちょっとやってみたいことができた」
「本当ですか?!」
何気なく問いかけたシグルドに俺は頷く。予想外の言葉だったのだろう、二人は驚いたように目を見開いた。
「それは、女神の使いとしてでしょうか?」
「もちろん。詳しくは殿下が戻ってきたら話すよ」
「わかりました」
俺の監督責任者は今のところアルフォンスだ。今考えたことを話すのは彼がいる時がいいだろう。俺はアルフォンスが戻るまでシグルドとアトラ君を先生にこの世界とナルグァルドの歴史の勉強を続けた。
そして日が暮れて夜の帳が下りる頃、アルフォンスが王宮での執務を終えて王太子宮へ戻ってきたとマルクスさんが教えてくれた。
「今帰った。オークラ、シグルド、変わりはなかったか……って、おお?!」
「おかえりなさい、殿下」
「おかえりなさいませ」
連絡を受けてすぐ部屋に訪れたアルフォンスは、扉を開けてすぐ目に入った光景に声を上げて一歩後退りした。
それはそうだろう。彼の目には今、シグルドが二人に見えているはずなのだから。
「おぉ……驚いた……」
「今日一日の成果です。殿下にも見てもらおうと思ってお待ちしてました」
悪戯が成功したような顔つきで笑う俺とシグルド。その顔に少し悔しそうな表情を浮かべながらアルフォンスは俺たち二人の前に歩み寄った。
そして並んで立つ俺たちを上から下まで舐めるように観察し始めたのだ。
「うん、本当によく似ている。パッと見ただけなら見間違えそうだ」
「アレ?やっぱりちゃんと見ると違いますか?」
「いや、ほとんどの奴は騙されるだろう。でも何か……オークラの方が何か足りない気がするんだよなぁ」
なんだろう、と呟きながらアルフォンスは俺とシグルドをじっと見比べる。本当にどこかに違和感があるのだろう。そうなってくると俺も俄然気になってきて、横に立つシグルドの姿をじろじろと見つめた。
「何か足りない……かぁ」
「私は気味が悪いくらい似ていると思うのですが」
前のめりで二人の視線に晒されて居心地が悪いのだろう、うんざりした様子で視線を逸らすシグルド。その横顔を見ていたアルフォンスは何かに気が付いたようで弾んだ声が漏れた。
「あ、わかった」
「えっ?ほんとですか?」
「おう。オークラ、ちょっとこっち」
「はい?」
ちょいちょいと手招きされて素直にアルフォンスに近寄る。
するとどうだろう、アルフォンスは俺の顎をその手で優しく掴んだではないか!しかも自然と至近距離で見つめ合う形になった俺の頤を、硬い皮膚に覆われた指先が突くように撫でている。
何、何だ?!
「ここ、あいつここに黒子がみっつあるんだよ。でもお前はひとつしかない。見えなかったか?」
「あ、本当ですね。気づきませんでした」
「うっ、えっ?!ほ、ほくろ?!」
顎の先っちょにある黒子。それは俺も気づいていた。ひとつだと思った黒子は実際には顎の裏に向かってあとふたつ連なっていて、俺はそこを描き忘れたらしい。完全なる凡ミスだ。
だがアルフォンスに間違い探しに正解した子供のように笑ってそこを撫でられて、俺の頭はそれどころではなくなった。
アルフォンスさん顔が近いです目が潰れてしまいます。あとそんなくすぐるみたいな触り方で顎を触るのやめてください推しにそんなことされたらオタクは息の根が止まってしまいます。
ちょっと!アルフォンス距離感おかしくない?!
ざっと読んでわかったのはやはりこの世界はLoDの世界とリンクしていて、ゲームと似たドラゴンによる国家存亡の危機が起きているということだった。
だが100年前のオーレリアン王国はゲームそのままの道を辿ったようだが、30年前のヤカ国は違った。記録を読む限り発端はゲームと同じだが、ストーリーの中盤あたりから全く違う経過を辿っているのだ。
「オーレリアン王国とヤカ国はどっちも今平和なんだよな?」
「ええ、この異界人が関わったドラゴン退治以降どちらも安定した治世を継続させています」
「なるほど……」
ゲーム通りの道を辿ったオーレリアンも、ゲームとは違う道を辿ったヤカも危機を乗り越え平穏を取り戻している。
ということはつまり、必ずしもストーリーに沿う必要はない、ということだろうか。
そもそもLoDの配信が開始されたのは5年前のことだ。過去にこの世界に召喚された二人はゲームの存在すら知らなかっただろう。それで問題がなかったと言うなら女神が望むのはただ国や世界の危機を回避することであって、ゲーム通りに話を進めることではないと解釈できる。
「それなら俺も好きにしていい……のか?」
小さな声で独り言ちる。
ストーリーに沿う必要がないのなら、エンプリオの危機を未然に防ぐという選択もできるんじゃないだろうか。それならこの先失われるとわかっている命を話を進めるためだと見殺しにしなくてすむ。その事実は暗闇だったこの先に一筋の光明を見せた。
ちなみにだがこれは正義感とかそういう立派なものではない。ただ俺が『死ぬとわかっていて放置した』という罪悪感を背負いたくないだけだ。
「何か参考になりましたか?」
「うん、ちょっとやってみたいことができた」
「本当ですか?!」
何気なく問いかけたシグルドに俺は頷く。予想外の言葉だったのだろう、二人は驚いたように目を見開いた。
「それは、女神の使いとしてでしょうか?」
「もちろん。詳しくは殿下が戻ってきたら話すよ」
「わかりました」
俺の監督責任者は今のところアルフォンスだ。今考えたことを話すのは彼がいる時がいいだろう。俺はアルフォンスが戻るまでシグルドとアトラ君を先生にこの世界とナルグァルドの歴史の勉強を続けた。
そして日が暮れて夜の帳が下りる頃、アルフォンスが王宮での執務を終えて王太子宮へ戻ってきたとマルクスさんが教えてくれた。
「今帰った。オークラ、シグルド、変わりはなかったか……って、おお?!」
「おかえりなさい、殿下」
「おかえりなさいませ」
連絡を受けてすぐ部屋に訪れたアルフォンスは、扉を開けてすぐ目に入った光景に声を上げて一歩後退りした。
それはそうだろう。彼の目には今、シグルドが二人に見えているはずなのだから。
「おぉ……驚いた……」
「今日一日の成果です。殿下にも見てもらおうと思ってお待ちしてました」
悪戯が成功したような顔つきで笑う俺とシグルド。その顔に少し悔しそうな表情を浮かべながらアルフォンスは俺たち二人の前に歩み寄った。
そして並んで立つ俺たちを上から下まで舐めるように観察し始めたのだ。
「うん、本当によく似ている。パッと見ただけなら見間違えそうだ」
「アレ?やっぱりちゃんと見ると違いますか?」
「いや、ほとんどの奴は騙されるだろう。でも何か……オークラの方が何か足りない気がするんだよなぁ」
なんだろう、と呟きながらアルフォンスは俺とシグルドをじっと見比べる。本当にどこかに違和感があるのだろう。そうなってくると俺も俄然気になってきて、横に立つシグルドの姿をじろじろと見つめた。
「何か足りない……かぁ」
「私は気味が悪いくらい似ていると思うのですが」
前のめりで二人の視線に晒されて居心地が悪いのだろう、うんざりした様子で視線を逸らすシグルド。その横顔を見ていたアルフォンスは何かに気が付いたようで弾んだ声が漏れた。
「あ、わかった」
「えっ?ほんとですか?」
「おう。オークラ、ちょっとこっち」
「はい?」
ちょいちょいと手招きされて素直にアルフォンスに近寄る。
するとどうだろう、アルフォンスは俺の顎をその手で優しく掴んだではないか!しかも自然と至近距離で見つめ合う形になった俺の頤を、硬い皮膚に覆われた指先が突くように撫でている。
何、何だ?!
「ここ、あいつここに黒子がみっつあるんだよ。でもお前はひとつしかない。見えなかったか?」
「あ、本当ですね。気づきませんでした」
「うっ、えっ?!ほ、ほくろ?!」
顎の先っちょにある黒子。それは俺も気づいていた。ひとつだと思った黒子は実際には顎の裏に向かってあとふたつ連なっていて、俺はそこを描き忘れたらしい。完全なる凡ミスだ。
だがアルフォンスに間違い探しに正解した子供のように笑ってそこを撫でられて、俺の頭はそれどころではなくなった。
アルフォンスさん顔が近いです目が潰れてしまいます。あとそんなくすぐるみたいな触り方で顎を触るのやめてください推しにそんなことされたらオタクは息の根が止まってしまいます。
ちょっと!アルフォンス距離感おかしくない?!
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