殲滅のソティス~新米の宇宙艦隊参謀は戦局不利な最前線でいつも大変~

武田 信頼

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SECTION:2 『へいわ』に捧げる戦争神話<新興宗教ではありません>

第十一話:第三次クセノパネス計画

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              ※※ 10 ※※


 数年前、突然起きたこの戦争は少女時代を過ごしたグリューンエルデの陥落で始まり、たったひとりの肉親もその戦火で消えた。当時、新東京大学文科Ⅲ類に籍を置いていたあたしは、地球連合政府の怠惰な対応と単一国家が形成されてすでに久しく外敵という存在を考慮しなくなった地球人の「たかが一辺境」という、おざなりな態度に憤りを感じずにはいられなかった。
 そして大学を卒業後、研究を断念して地球連合宇宙軍に入隊したのだった。その戦争をあたしなりに決着つけるために。だから今はあたしの過去を呼び戻させるようなものに関わりたくない。

「クセノパネス計画、中尉は知ってるかしら?」
「エゼリン博士っ!?」

 クルスヤマ提督が、あわててそれを制しようとする。が、イリアさんは首を横に振った。

「中尉は、もはや同志です。少なくとも、それらに関わりのある人間です。だからこそ閣下は第九独立分遣艦隊に異動を命じたのでしょう?」
「う、うむぅ……」

 クルスヤマ提督はうなりながらナガス本部長に視線をうながす。本部長は無言でうなずいた。両人の了承を得たイリアさんはゆっくりと話を続けた。

「クセノパネス計画……人類が居住可能な惑星を探索し、テラ・フォーミングする計画。さらに宇宙歴203年から二十三年間打ち立てられた第二次クセノパネス計画、一般では緑化に成功したグリューン・エルデへの人類初、太陽系外移民計画といわれてる。それは事実に違いないけど、この計画にはもうひとつの極秘計画もあったの」

 クルスヤマ提督とナガス本部長は、緊張と不安で顔が強張っている。対してイリアさんは何処どこまでも穏やかな笑顔を絶やさない。

「つまり、中尉のお父様……トウノ博士をプロジェクト・リーダーとした、いわゆるロストテクノロジーである、古代ソティス文明の実用化計画」

(……そうだったんだ)
 
「最初はグリューンエルデから偶然出土した遺跡と西暦1968年にコンゴ盆地で発掘され長年忘れられていた謎の遺跡が類似しているとトウノ博士が目を付けたわ。
 今まで西アフリカのドゴン族の伝承でしかなかった古代ソティス文明と合わせて科学的に解析し、地球外生命体飛来説を立証したの。
 もちろん過去にも似たような説を唱える学者は沢山いたわ。宇宙考古学の始祖といわれるスイスのデニケン、アメリカのカール・セーガン、そしてイギリスの天文学者で人類学者のロバート・テンプル……。だけどトウノ博士は考古学史上初の科学的にかつ論理的に提唱した地球外生命体飛来説も学会からは全く相手にされなかったわ。
 そもそも宇宙考古学の根本理念として高度な文明を持つ宇宙人が地球へ訪れた可能性があるという仮説を前提にした理論など、くだらないSF小説だ、と罵る学者が半数以上だった。結局トウノ博士は学会を追われる形で地球を去りグリューンエルデに移住したわ」

 あの頃のことは、あたしもよく憶えている。お父さんに手を引かれながら、あちこちの発掘現場に行ったものだ。まるで浜辺で貝殻を探すように、あたしが遺物の破片やらを見つけ出してくると、いつもにっこり微笑んで頭をでてくれた。

(あの頃には、もう戻れない……)

「もし、その高度な文明を解析し、実用化にこぎ着けることが出来れば……。その後、軍部とある民間企業が合同で極秘にグリューン・エルデに研究所を設立した。そして、様々の分野の研究者が赴任ふにんしてきたわ。わたくしもその一人だけど――」

 イリアさんは、くすり、と笑って肩をすくめた。でも次の瞬間、すぐに顔が引き締まった。

「――その研究も戦争の勃発とグリューン・エルデの陥落によって断念せざるを得なかった。その後は戦争の激化とともにプロジェクトそのものも忘れられてたけど、今回のウォルク星系から遺跡が出土したという報告により、再発動することになったわ」

 イリアさんは、あたしの手を両手で包み込むようにひしっとにぎる。

「だから、中尉にも協力してほしいの」

 ワイン・パープルの瞳が、あたしをまっすぐに見つめていた。思わずうなずくあたし。

「で、でも小官は今ではもう……。それに何をすれば……」

 
(今更なにを? 宇宙考古だなんて、あたしにはすでに終わったこと……。でも、何故? どうして、こんなに迷うの?)

 揺れ動く不安定な心を見透かすような、イリアさんの瞳を、あたしは直視する勇気が持てず、眼をらしてしまった。

「この戦争で、お父上の夢と中尉の夢が失われた気持ちを理解したつもりでいってるの。……先ほどオレミン中佐から中尉のことを伺ったわ」
「えっ、マナ少佐……、いえ中佐から?」

 ふいに慣れ親しんだ人の名前が出てきて、思わず視線を上げた。

「ええ、中佐はグリューン・エルデ駐在時代からの友人なの」

 エリアさんは少しはにかむ。

「まあ、それで……、さっきここ本部長室で少しお話したの。『トウノ少尉ってどんな人?』って。そうしたらこういったわ。『少尉は普通の女の子よ。でも、どんなに高い難関や、強い圧力の中、決して自分の弱さに負けない子。RS-7宙域ポイントで、あれだけのことをしてのけるだなんて、ね』と、笑いながら話してくれた」

 イリアさんは再度あたしの手を握る。

「その時、確信を持ったの。中尉となら、このたび発動される第三次クセノパネス計画の成功を」

「……第三次クセノパネス計画?」

 あたしはつぶやく。

「そう。中尉と、中尉のお父上の夢を受け継いだ計画。そして、この戦争を終わらせるためのグリューン・エルデ奪還計画」

「……戦争を終わらせる?」

 イリアさんは大きくうなずき、握った手に強く力が入る。

 あたしは何も考えることが出来なくなった。ただ、ポカリと空いた心の空洞にイリアさんの穏やかな声が響くだけだった。瞳にたまり、ほおに流れる涙をぬぐい、あたしは、ただこくりとうなずいた。
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