殲滅のソティス~新米の宇宙艦隊参謀は戦局不利な最前線でいつも大変~

武田 信頼

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SECTION:2 『へいわ』に捧げる戦争神話<新興宗教ではありません>

第十二話:新任地

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             ※※ 12 ※※


 その足で、軍病院にヒクマ提督とトクノ参謀長のお見舞いに行ったあたしとマナ中佐は、両人がすこぶる元気そうなので胸をで下ろした。さらに、あたしが今回、中尉に昇進し、情報参謀兼副官の辞令が下りたことを知らせると、トクノ参謀長は自分のことのように喜んで、有り難くも〈?〉司令部幕僚としての心得こころえまで教示してくれたのだった。
 その翌日、金筋一本に桜章さくらしょう二つ。
 新しい中尉の階級章を付け、参謀飾緒しょくちょを右肩からったあたしは、気分一新とした清々すがすがしい思いで、宇宙艦隊総司令本部に出頭した。しかし、清涼な気分も、言い知れぬ不安に取って代わるのにさほど時間は掛からなかった。
 第九独立分遣艦隊司令部のオフィスがどこを探しても見当たらないのだ。
 外周方面軍管区のオフィスをたずね歩き、果ては一階ロビーのインフォメーション下士官に所在を確かめたものの、結局判らず仕舞じまいだった。やがて、数時間の奮闘虚しく徒労に終わり、万策尽きてロビーの待合席で途方に暮れていたところを、偶然イリアさんに声をかけられ、理由わけを話すとくすくす笑いながら教えてくれたんだ。でも、この時点で何かいやーな予感はあったんだよね。誰も知らない艦隊名。
 いすれにしろ、あたしは納得の出来ぬまま、一抹の不安を抱きつつも、とにかく司令部があるという横須賀基地へ向かうべく、機上の人となった。



 万華鏡のように輝くマリンブルーの東京湾を眺めるのもつかの間、定期便の輸送機が有視界飛行状態の横須賀基地に緩やかに着陸ランニングした。

 「あちぃー」

 空調の効いた機内から、滑走路に降り立ったあたしは、エンジン熱と日差しで焼けたアスファルトの上でいぶされながら、艦隊司令部を目指して歩き出した。とはいえ、とてもつもなく広大な基地を、しかも地図に不案内なあたしは、何処どこから探したものだと、あれこれ思考をめぐらしていると、丁度、駐機場エプロンの端を、ビニール袋を下げた男が歩いているのが見えた。
 その軍人は、よっぽど暑いのか、上着はTシャツ一枚に宇宙軍のスラックス。見るからに貧相でだらしない中年士官風だった。階級や所属はわからない。頼りなさそうだけど、一応聞くだけ聞いてみるか。
 
「あのぉ……」
「はあ、何か?」

 男はあたしに視線を向ける。無精髭ぶしょうひげと、とろ~んとした目つきが、ますます声を掛けたことを後悔させた。

「あのぉ、貴官は第九独立分遣艦隊の司令部が何処にあるのか、ご存知ですか?」
「……?」

 男は眼をパチクリさせる。

「あ、あの……、第九……」
「あ~、あ~」

 突然、あたしの言葉をさえぎって奇声を上げ、ぽんっと手鼓を打つ。どういう過程を経て、何を納得したのか、さっぱり理解できないけれど、思い当たる節があったらしい。男は満面の笑みをたたえて語り始めたのね。

「久しぶりに真っ当な名前を聞いたから何処のことかと思ったよ。ははは、ついておいで、案内するから」

 男は嬉しそうに口笛を吹きながら歩き出した。あたしは一瞬、あっけに取られてしまったが、見失わないよう急いで追いかける。

「あ、あの、ここに来るまでの間、色々な人にたずねて回ったのですが、全員といっていいほど、第九独立分遣艦隊のことを知りませんでした。一体、どんなところなんですか?」

 男に並んで歩くと、今まで一番疑問だったことを聞いてみた。何となくだけど、この中年士官なら知っていそうな気がしたからなのね。しかし、あたしの質問が聞こえなかったのか、それともわざと無視したのか、どちらでも取れるような、にこやかな笑顔で前方を指差した。

「あれが司令部だよ」

 その指先には築何十年なのか分からないほど、おんぼろな二階建て木造建築物。艦隊名が書かれたプレートもなく、一見ただの倉庫にしか見えない。ただ、玄関先に立っている前時代の遺物と言うべき赤錆あかさびびた郵便受けだけが、人の存在を健気けなげに主張していた。

(……へ? ここがホントに司令部!?)

 呆然と眺めているあたしを男は全く意に介せず、陽気に玄関をカラカラと開ける。

「ただいまー」

 男は軽やかな声で帰宅を告げると、あたしの方へ振り向き手招きをした。

「司令部に用があるんでしょ。入りなよ」

 ショックなあまり、硬直かたまってしまったまま、男の無邪気な笑顔にさそわれて、ふらふらっと中へ入る。すると、奥から仔猫のような、ちまっとした女の子が現れたんだ。

「提督ぅ~、遅いよぅ……。ルイ、三十分も待ったんだよォ」
「ごめん、ごめん」

 女の子は男の腕にからみつき、男は、はにかんで頭をいている。見た感じ、仲良し親子みたいで微笑ほほえましく思えるのだが、今のあたしは愕然がくぜんとしていた。

(……ええ、と。今、この子、『提督』って言わなかった?)

「はれぇ~、このお姉さん、お客さん?」

 その間延まのびな声で、ハッと我に返る。あたしは、今までの悪夢のような出来事を払拭ふっしょくするかのように、びしっと敬礼をして配属の報告をした。

「外周方面軍、第九独立分遣艦隊情報参謀、および艦隊司令官副官を拝命しました、トウノ・サユリ中尉であります」
「報告、ご苦労様。僕が司令官のクサカ・ショウゴだ。で……」

 提督は密着している女の子の頭をなでる。

「あたしはぁ、クサカ・ルイっていいま~す。司令官付従卒です。階級は上等兵曹でぇ~す」

 彼女は、あたしの腕を取って、ぶんぶんっと振り回し、ニパっと笑顔を見せた。

「こう見えても、一応二十歳はたちなんですよォ」

 しかし見た目は十二歳前後の少女にしか見えない。

(……と、ということは、まさか?)

  言葉を探しながら見つからず、直言する。

「ええと……グリューンエルデの方ですか?」

 二人の顔が瞬間、強張こわばる。が、あたしも同類なのだ。

「すいません。あたしもグリューンエルデ出身です。見た目はよく中学生と間違われますが、新東大文科Ⅲ類出身で動員将校の二十二歳です」 

 あたしは、ははは……と作り笑いをした。                                                                                    
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