選ばれたかった。

ゆら

文字の大きさ
2 / 2
第2章

遅すぎた告白

しおりを挟む
再会は、拍子抜けするほど普通だった。
駅前のコーヒーショップ。
平日の昼下がり。
青春なんて、どこにも残っていない場所。

私は結婚指輪をしていた。
それはもう、体の一部みたいに馴染んでいて、
特別な意味を主張することもなく、
ただ静かに、そこにあった。

「変わらないな」

あなたはそう言ったけれど、
それはたぶん、願望だ。
変わらないわけがない。
私はもう、誰かの隣を“選ばれて”生きている。

少し遅れて、あなたが本題に入った。
雑談の皮を何枚も剥がしたあとで。

「ずっと、言えなかったことがある」

その声は、
あの放課後より、ずっと低くて、
ずっと重かった。

私は黙って、カップを持ち上げた。
逃げる準備じゃない。
受け止める覚悟をするため。

「…今度さ、飲みにでもいかないか」

これは不倫になるだろうか、
ふと頭をよぎった夫の存在。
それ以上に、目の前にいるこの男の現在に興味を惹かれたことが事実だった。

「…うん、また連絡する」

何かが始まりそうな気配のなかに
危うさがあった。
本当に、それでいいんだろうか。
今度は、私が選ぶ番だ。



結局、2人で歩く夜の繁華街。
少し蒸した温風が2人の間を通り抜けていく。
ノースリーブを着たいくらいだったけど、
今日は露出を控えた。
なんだか落ち着かなくて。

再会の日のように、取り留めのない雑談が繰り返えされる。
私は、何を求めてここに来たのか。
彼は、何も考えて私をこの場に誘ったのか。


適当な居酒屋に入ってもうすぐ2時間がたとうとしている。
いい感じに酔いも回ってきた。
あの頃の、青春の影もない2人だったけど、
あいつが結婚したとか、あの子に子どもが生まれたとかそんな話しがやけに楽しかった。

「それだけ、歳とったんだね~」

「俺たち、何年会ってなかったんだろうな」

その言葉に今までの自分の人生がさっと脳裏に過ぎた。

少しの沈黙の間、
落ち着いた低めの声が


「俺さ……」

一瞬、言葉が止まる。
あの時と同じ“間”。
でも今回は、誰も止めなかった。

「本当は、お前が好きだった」

遅すぎた告白は、
綺麗でも、劇的でもなかった。
ただ、現実みたいに生々しかった。

「先輩のこと好きだって言ったのも、
半分は本当で、
半分は逃げだった」

私は、驚かなかった。
たぶん、どこかで分かっていたから。

「お前が近すぎて、
失うのが怖くて、
選ばないって選択をした」

“選ばない”を、
そんなふうに言い換える人になったんだ、と
少しだけ思った。

「結婚したって聞いた時、
やっと気づいた」

その言葉に、
胸の奥がかすかに疼いたけれど、
もう、痛みにはならなかった。

「遅いよ」

それだけ言った。
責める声でも、
優しい声でもなかった。

あなたは、うなずいた。

「分かってる。
今さら何かを望んでるわけじゃない」

でも、目は正直だった。
もし私が、
ほんの少しでも揺らいだら――
そんな期待が、まだ残っていた。

私は、指輪に触れた。
見せつけるためじゃない。
確認するため。

「私はね」

静かに言った。

「あなたに愛されたかった時間を、
ちゃんと終わらせたの」

あなたが、
選ばなかった時間。
私が、選ばれなかった時間。

「今の人は、
迷わず私を選んだ」

その一言で、
あなたの後悔は完成した。

「……そっか」

それだけ言って、
あなたは視線を落とした。
もう、逃げ場のない後悔の仕方だった。

店を出る時、
あの頃みたいに並んで歩いた。
でも、影は重ならなかった。

別れ際、
あなたは言った。

「幸せになれよ」

私は、ちゃんと笑った。

「もう、なってる」

嘘じゃなかった。
それが、
あなたに向けた最後の答えだった。

あの青春は、
触れられなかったからこそ、
ずっと疼いていた。

でも今は、
触れられなかったことごと、
私の人生の一部として、
静かにしまわれている。

あなたは、
遅すぎた告白を抱えて生きる。

私は、
選ばれた現在を抱えて、帰る。

それだけの違いが、
あの頃の私たちには、
どうしても越えられなかった


選ばれなかった私より、
選ばなかったことを一生抱えて生きるあなたのほうが、
ずっと孤独だ。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...