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転生令嬢は竜にしか興味がございません。
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晴れ渡った青空の下、黒竜が横たわる直ぐ横に、オルバは調合のための道具を並べた。
研究室には戻らず、ここで直接調合をするらしい。
メイドのカーラは、せっせと研究室から材料を運び出している。
用意された簡易テーブルの上には、錬金術のための材料が山盛りになっていた。
そこには、大量の薬草やら鉱石、宝石類、何かの鱗やしっぽ、羽――その他には、見るからに貴重そうな材料も混じっていた。
流石、自称天才錬金術師オルバ。ホムンクルスを造り出すだけのことはある。
ひととおりの材料を取り揃えているようだ。
「僕は、竜や幻獣と呼ばれる生き物の治療を生計を立てているだろう? 彼らには金銭の代わりに、貴重な素材を提供してもらっていてね。ここには、人里では中々手に入らない素材が大量にある。思う存分使ってくれていいよ」
オルバはそう言うと、椅子を二脚置いて、その中の一脚に座った。そして、カーラが用意したお茶を片手に、ニコニコと私を眺めた。
私は大量に積まれた材料と、調合に取り掛かろうともしないオルバを見比べて、首を傾げた。
「――どうしたの? 教えてくれるんじゃないの?」
すると、オルバは肩を竦めて言った。
「僕に君に教えられることがあると思うかい?」
――君は、全てを識るホムンクルスだろう?
オルバはそう言って、楽しそうに笑った。
……そんなこと言われても。
私は自分の体を見下ろして、大きく嘆息した。
「私、そんなに色んなことに詳しい自覚がないんだけれど……」
「当たり前だよ。ホムンクルスとは言え、人間の形をとっている以上は、ありとあらゆる知識を常に知覚していたらパンクしてしまう。君はまだ、己の持つ知識を知りたいと意識していないだけさ」
「ふうん」
そこで私は、意識を自分の内に向けた。イメージは端末でデータベースにアクセスするような感じ。そして、この世界の全てが蓄積されているというそれから、望んだ知識を引き出す――。
その瞬間、目の前に幾重にも重なったウィンドウが出現して、私を取り巻いた。
見たこともない言語、見たこともない景色、見たこともない知識――ああ、心臓の音がうるさい。
けれども驚きはしたものの、頭の隅ではどこか冷静な自分もいた。だって、それらは自分の中にあった知識なのだ。元々持ち得たものに、驚く必要はない――。
――ホムンクルスは、神の持つ情報を覗き見ることが出来る。
システムウィンドウは、人間が知りうるはずのない情報を、望めば簡単に教えてくれる。勿論、それはこの世界の神の本位ではないだろう。
――いつか、神様から天罰が下るかもしれないなあ。
そんな風に思いながら、私はウィンドウに触れようと手を伸ばした。どうもそれはこの場に存在している訳ではないらしい。手が通り抜けてしまった。けれども、ウィンドウに触れたつもりで動かすと、それは私の意のままに動いてくれた。まるで、気分はタブレットやタッチパネル。私は必要な知識を求めて、己の中にある情報に向かい合った。きっと、この中に私の求める答えがあるのだと信じて。
……………………ない!!
私は、カッと目を見開くと、驚愕の表情を浮かべてオルバに言った。
「……どうしようオルバ。今、私が最も必要としている知識がないわ」
「えっ!?」
私の言葉にオルバは青ざめると、苛立ち混じりに自身の頭をグシャグシャに掻き混ぜた。
「なぜだ!? ホムンクルスは、この世界のあらゆることを識っている筈だ……! いや、実際にホムンクルスを造ることを成功したという実例は限りなく少ない。全てを識っているだなんて、嘘だったということなのか……!?」
「きっとそうよ。そんな話、眉唾ものだったんだわ。だって、おかしいもの!」
私は拳を握ると、ショックを受けているオルバに向かって言った。
「どこにも『竜を心ゆくまで愛でる方法』とか、『竜ハーレムを築く方法』とか『竜をハスハスする一番いい方法』がないなんて――!!」
「んなもんあるかーい!!」
オルバは、ずびし、と軽快に私の胸を手の甲で叩くと、次の瞬間には頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
わお、関西弁。オルバってもしかして、関西出身なのかしら……?
異世界にも関西が! 新発見……! なんて思いながら、そこらへんに落ちていた棒でオルバを突く。徐に脇の下を突くと、「あひん」なんて変な声を上げるものだから、ちょっと引いた。
すると、オルバは涙目のまま私をキッと睨みつけた。
「勝手に刺激して、勝手に引かないでくれる!? それに、君が個人的に竜を愛でるのは全く構わないけれど、それをホムンクルスが所持する知識に求められても困るから!」
「えー。なにそれー。全然役に立たないじゃん。つまんない」
「君の中には、世界の真理やら究極の魔法、果ては世界を破壊できるほどの、危険な知識が詰まっているはずだ。役に立たないことはない!」
私はぜいぜいと息を荒げているオルバを見つめると、ふんと鼻で笑った。
「あなたは、道端の石ころひとつにどれだけ興味が持てるの?」
「――は?」
オルバは私の言葉が理解できないのか、間抜けな顔で私を見つめている。
だから、私はまるで子どもに言い聞かせるように、言葉を選んで言った。
「世界の真理? 究極の魔法? 世界の破壊……? そんなもの、どうでもいいわ。転生して竜のいる世界に来た。竜――私の全てを注ぐに値する存在がここにいる!! それ以外のものに、なんの価値もないわ。私の興味、好奇心を引くのは竜のみ。――つまり」
そして、私は大きく胸を張って言った。
「竜に関係ある知識以外は全部クソってことよ!」
「才能の無駄遣い――!!」
オルバは頭を抱えると、地面を指でなぞり始めた。
私はそんなオルバの前に回り込むと、しょんぼりしている顔を見つめる。そして、静かな口調で尋ねた。
「……オルバ。もしかして、あなた私が得た知識を使って、何か悪いことでもしようと企んでいたの……!?」
そうでもなければ、これほど落ち込む必要はないだろう。
私の中に眠るあらゆる知識。確かに、自身の内に意識を向けると、とんでもないものが紛れ込んでいるのがわかる。それこそ、世界が滅びかねないものから、あらゆる病気を治癒する方法まで様々だ。
その時、私は胸が痛いことに気が付いた。
この変態眼鏡で、お調子者で――今生の父が、万が一にでも世界のためにならないことを、私の持つ知識を使って成そうとするのならば……私は、一体どうすればいいのだろう。
するとオルバは、目を固く瞑って何やら考え込むと、へらりと気の抜けた笑みを浮かべて言った。
「そういや、理想の美少女を造るために、ホムンクルスの研究を始めたんだった。知識とかどうでも良かったわ! あはははは!!」
テヘペロと言わんばかりの父に、私はガクッと気が抜けてしまって、苦笑いを浮かべる。
「拍子抜けしている僕の娘が可愛い件」なんて言って興奮で頬を染め、目をキラキラさせている父の表情からは、嘘偽りは感じられない。私はため息を吐くと、オルバに重ねて尋ねた。
「……私の出来栄えはどうですかね、お父様」
「最高! アンジェリカは天使!」
「「イエーーイ!!」」
二人で、手を合わせて笑い合う。
……内心、ちょっと安心したのは、内緒だ。
『とんでもない、似たもの親子だな……』
「全然似てませんし!?」
黒竜の呆れ混じりの言葉には、全力で否定したけれどね。
研究室には戻らず、ここで直接調合をするらしい。
メイドのカーラは、せっせと研究室から材料を運び出している。
用意された簡易テーブルの上には、錬金術のための材料が山盛りになっていた。
そこには、大量の薬草やら鉱石、宝石類、何かの鱗やしっぽ、羽――その他には、見るからに貴重そうな材料も混じっていた。
流石、自称天才錬金術師オルバ。ホムンクルスを造り出すだけのことはある。
ひととおりの材料を取り揃えているようだ。
「僕は、竜や幻獣と呼ばれる生き物の治療を生計を立てているだろう? 彼らには金銭の代わりに、貴重な素材を提供してもらっていてね。ここには、人里では中々手に入らない素材が大量にある。思う存分使ってくれていいよ」
オルバはそう言うと、椅子を二脚置いて、その中の一脚に座った。そして、カーラが用意したお茶を片手に、ニコニコと私を眺めた。
私は大量に積まれた材料と、調合に取り掛かろうともしないオルバを見比べて、首を傾げた。
「――どうしたの? 教えてくれるんじゃないの?」
すると、オルバは肩を竦めて言った。
「僕に君に教えられることがあると思うかい?」
――君は、全てを識るホムンクルスだろう?
オルバはそう言って、楽しそうに笑った。
……そんなこと言われても。
私は自分の体を見下ろして、大きく嘆息した。
「私、そんなに色んなことに詳しい自覚がないんだけれど……」
「当たり前だよ。ホムンクルスとは言え、人間の形をとっている以上は、ありとあらゆる知識を常に知覚していたらパンクしてしまう。君はまだ、己の持つ知識を知りたいと意識していないだけさ」
「ふうん」
そこで私は、意識を自分の内に向けた。イメージは端末でデータベースにアクセスするような感じ。そして、この世界の全てが蓄積されているというそれから、望んだ知識を引き出す――。
その瞬間、目の前に幾重にも重なったウィンドウが出現して、私を取り巻いた。
見たこともない言語、見たこともない景色、見たこともない知識――ああ、心臓の音がうるさい。
けれども驚きはしたものの、頭の隅ではどこか冷静な自分もいた。だって、それらは自分の中にあった知識なのだ。元々持ち得たものに、驚く必要はない――。
――ホムンクルスは、神の持つ情報を覗き見ることが出来る。
システムウィンドウは、人間が知りうるはずのない情報を、望めば簡単に教えてくれる。勿論、それはこの世界の神の本位ではないだろう。
――いつか、神様から天罰が下るかもしれないなあ。
そんな風に思いながら、私はウィンドウに触れようと手を伸ばした。どうもそれはこの場に存在している訳ではないらしい。手が通り抜けてしまった。けれども、ウィンドウに触れたつもりで動かすと、それは私の意のままに動いてくれた。まるで、気分はタブレットやタッチパネル。私は必要な知識を求めて、己の中にある情報に向かい合った。きっと、この中に私の求める答えがあるのだと信じて。
……………………ない!!
私は、カッと目を見開くと、驚愕の表情を浮かべてオルバに言った。
「……どうしようオルバ。今、私が最も必要としている知識がないわ」
「えっ!?」
私の言葉にオルバは青ざめると、苛立ち混じりに自身の頭をグシャグシャに掻き混ぜた。
「なぜだ!? ホムンクルスは、この世界のあらゆることを識っている筈だ……! いや、実際にホムンクルスを造ることを成功したという実例は限りなく少ない。全てを識っているだなんて、嘘だったということなのか……!?」
「きっとそうよ。そんな話、眉唾ものだったんだわ。だって、おかしいもの!」
私は拳を握ると、ショックを受けているオルバに向かって言った。
「どこにも『竜を心ゆくまで愛でる方法』とか、『竜ハーレムを築く方法』とか『竜をハスハスする一番いい方法』がないなんて――!!」
「んなもんあるかーい!!」
オルバは、ずびし、と軽快に私の胸を手の甲で叩くと、次の瞬間には頭を抱えてしゃがみこんでしまった。
わお、関西弁。オルバってもしかして、関西出身なのかしら……?
異世界にも関西が! 新発見……! なんて思いながら、そこらへんに落ちていた棒でオルバを突く。徐に脇の下を突くと、「あひん」なんて変な声を上げるものだから、ちょっと引いた。
すると、オルバは涙目のまま私をキッと睨みつけた。
「勝手に刺激して、勝手に引かないでくれる!? それに、君が個人的に竜を愛でるのは全く構わないけれど、それをホムンクルスが所持する知識に求められても困るから!」
「えー。なにそれー。全然役に立たないじゃん。つまんない」
「君の中には、世界の真理やら究極の魔法、果ては世界を破壊できるほどの、危険な知識が詰まっているはずだ。役に立たないことはない!」
私はぜいぜいと息を荒げているオルバを見つめると、ふんと鼻で笑った。
「あなたは、道端の石ころひとつにどれだけ興味が持てるの?」
「――は?」
オルバは私の言葉が理解できないのか、間抜けな顔で私を見つめている。
だから、私はまるで子どもに言い聞かせるように、言葉を選んで言った。
「世界の真理? 究極の魔法? 世界の破壊……? そんなもの、どうでもいいわ。転生して竜のいる世界に来た。竜――私の全てを注ぐに値する存在がここにいる!! それ以外のものに、なんの価値もないわ。私の興味、好奇心を引くのは竜のみ。――つまり」
そして、私は大きく胸を張って言った。
「竜に関係ある知識以外は全部クソってことよ!」
「才能の無駄遣い――!!」
オルバは頭を抱えると、地面を指でなぞり始めた。
私はそんなオルバの前に回り込むと、しょんぼりしている顔を見つめる。そして、静かな口調で尋ねた。
「……オルバ。もしかして、あなた私が得た知識を使って、何か悪いことでもしようと企んでいたの……!?」
そうでもなければ、これほど落ち込む必要はないだろう。
私の中に眠るあらゆる知識。確かに、自身の内に意識を向けると、とんでもないものが紛れ込んでいるのがわかる。それこそ、世界が滅びかねないものから、あらゆる病気を治癒する方法まで様々だ。
その時、私は胸が痛いことに気が付いた。
この変態眼鏡で、お調子者で――今生の父が、万が一にでも世界のためにならないことを、私の持つ知識を使って成そうとするのならば……私は、一体どうすればいいのだろう。
するとオルバは、目を固く瞑って何やら考え込むと、へらりと気の抜けた笑みを浮かべて言った。
「そういや、理想の美少女を造るために、ホムンクルスの研究を始めたんだった。知識とかどうでも良かったわ! あはははは!!」
テヘペロと言わんばかりの父に、私はガクッと気が抜けてしまって、苦笑いを浮かべる。
「拍子抜けしている僕の娘が可愛い件」なんて言って興奮で頬を染め、目をキラキラさせている父の表情からは、嘘偽りは感じられない。私はため息を吐くと、オルバに重ねて尋ねた。
「……私の出来栄えはどうですかね、お父様」
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