転生錬金術師令嬢は全てを識るホムンクルスなので最強ですが、残念ながら竜にしか興味がございません。

忍丸

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転生令嬢は更に高みを目指すのです。

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「賢者の石が出来て、ぬか喜びしてしまったわ……」


 私は、不貞腐れて食堂の机の上で突っ伏した。
 そんな私に、オルバは苦笑しながら声を掛けた。


「エリクサーは、一説によると賢者の石を元に作られると言われているからね。エリクサーを作る過程で、賢者の石が出来るのはごくごく当たり前のことだと思うけれど」
「でも……ちょっとショックだったの。ここまで二年も掛けたのに、まだエリクサーが出来上がらないなんて!!」


 私が落ち込んでいると言うのに、他のふたりはやたらとテンションが高い。
 カーラはひっきりなしに紅茶のおかわりを勧めてくるし、オルバも上機嫌でケーキを口に運んでいた。


「生涯を掛けて研究をするのも珍しくないのに、二年ぽっちで完成させるなんて。素晴らしいことだよ。今生きている錬金術師で、賢者の石を完成させた人はいないんじゃないかな。可愛くて、天才で、最高峰の錬金術師……。僕の娘って完璧じゃない!? やっぱり天使じゃない!?」
「ええ。お嬢様は最高で天使でございます。そして、わたくしの誇りでございます」


 けれども、次の瞬間にはオルバは表情を曇らせてしまった。


「でも……このことは、黙っておいた方がいいね。ただでさえ可愛いからね。攫われたりしたら大変だ」
「そうでございますね。このことは、わたくしたちの間だけにとどめておきましょう。賢者の石が奪われても大変ですし」


 私はコソコソと話し合っている二人を他所に、指先で賢者の石の入った瓶を突いた。


「ううむ」


 そして、少し考えこむと、瓶の蓋を開けて――中身を一気に飲み干した。
 その途端に、驚いたオルバが勢い良く立ち上がった。そのせいで、がたん、と椅子が倒れてしまった。


「どっわあああああああああああ!! ちょ、アンジェリカ!? なんで飲んだんだ!!」
「お、お嬢様。今すぐ吐き出しましょう!? いけません、お体に何があるかわかりません……!!」
「へーきよ。平気」


 私は賢者の石を吐き出させようと、背中をバンバン叩いてくるカーラを制して、自分の胃の辺りを擦った。


「元々、これはエリクサーづくりには使えないわ・・・・・
「「……へっ?」」
「この賢者の石でエリクサーを作るのに、必要な材料があるのだけれどね、それを私は使えないから」
「……ど、どう言うことかな。アンジェリカ、説明してくれないかい?」


 私は、カーラの淹れてくれたお茶をひとくち飲むと、眉を顰めた。


「この賢者の石だと、エリクサーの材料に竜の生き血と心臓が必要になるわ。巫山戯るなって感じよ」
「……ああ、そういうことかい」
「まったく。この石が出来上がるまで、そのことに気が付かなかっただなんて。迂闊だわ。こうなったら、全く別のアプローチから賢者の石を作って、別の材料でエリクサーを作れるようにしなくっちゃ……ああ、また何年掛かることやら」
「それは……残念だったね」
「お嬢様、わたくし……なんでも協力致しますからね」


 私はしょんぼりとしてしまったふたりの顔を交互に見ると、へらりと笑った。


「大丈夫。元々、賢者の石は必要だったんだから」
「アンジェリカ、それって」


 私は怪訝な表情をしたオルバの言葉を遮ると、眉を顰め、胸の前で手を組むと、大きくため息を吐いた。


「……ああでも、エリクサーが完成するまで、竜と積極的に触れ合えないなんて……私、辛い!!」
「わかった! 患者の竜をハスハス出来るように、環境を整えよう」
「もし竜が嫌がるようでしたら、わたくしが力づくにでも……!」


 ふたりは、拳を握って、私に協力すると決意を新たにしている。
 私はそっと顔を伏せると、テーブルの下でガッツポーズをした。

 ――計画通り……!!


『オイ、そこの眼鏡にメイド。お前の天使とやらが、ゲスの極まった表情を浮かべているぞ……!!』


 その時、私の隣の席で無言でケーキを貪っていたイフリートが不満そうな声を上げた。
 私は、顔中に真っ白なクリームを付けたイフリートをじろりとにらみつけると、そのほっぺたを指で突く。


「なによー。不満があるなら、すぐにでも返還の儀式をしてやろうか」
『ぐっ……それは! ちょっと待て。今はだめだ。もう少しでベリーが旬を迎えるだろう? 新物のベリーのジャムとクロテッドクリームを焼きたてスコーンに添えて食べるまでは、還してもらっては困る!』
「あらあら。イフリート様、随分と楽しみにしていらっしゃるんですねえ。今週末にでも、ベリーを摘みに行きましょうね」
『うむ。うむ!! 楽しみにしている!! 竈の火は俺様に任せておけ!!』
「はいはい」


 カーラとイフリートはにこやかに会話を交わしている。
 ……こいつ……。「私が放っておくと何をしでかすかわからないから」じゃなくて、お菓子目当てで残っているんじゃない!?

 まあ、カーラの作るお菓子はとっても美味しいから、気持ちはわからなくはないけれどね!?

 私はやれやれと肩を竦めると、びしりとイフリートを指さした。


「強面甘党……ギャップ萌えを狙おうとも、生首の時点で萌えませんからー! 残念!」
『なんのことだ! 相変わらず、お前は意味不明だな……!!』


 そして、イフリートは苦虫を噛み潰したような表情をすると、ぼそりと呟いた。


『精霊界には甘い菓子が存在しないのだ。たまに喚び出されたときぐらい、いいだろう。巷には、もっとたくさんの甘味があるそうじゃないか。いつかは、食べ歩きなるものをしてみたいものだ』
「あれ、じゃあ体も召喚する? 今なら、S級精霊と言えど楽々呼び出せるわよ」
『馬鹿者、俺様が現界すると大騒ぎになるだろう。人間の店に魔人が入れるわけもないだろうし……どこかに、いい具合に憑依できる人間がいないものか』
「じゃあ、私に憑いてみるー?」
『絶対に嫌だ。心が腐る』
「……どういうことかなああああ!?」


 私が怒りに任せて、両手でイフリートの頬をタプタプしていると、オルバが話に割り込んできた。


「ああ、そう言えば、そのベリーの話だけれどね。摘みに行くのは結構なんだけれど、今週末は駄目だよ。みんなで王都に行くからね」
「「『へっ!?』」」


 オルバは丸眼鏡の奥の瞳を柔らかく細めると、両手を組んで楽しそうに言った。


「アンジェリカも肉体年齢が七歳になっただろう? 王様に挨拶に行かなければ。ついでに、色々と手続きと観光をしてこよう。この屋敷に籠もりっぱなしもアレだしね」


 私はオルバの言葉に盛大に顔をしかめると、首を振った。


「面倒だわ。研究で忙しいの、ひとりで行ってくれる?」
「ちなみに、王都は巨竜の亡骸の上に建てられているんだよ、凄いだろう」
「行くわ。絶対に行くわ。そこは何ていうテーマパークなのかしら」
『お前は手のひら返しが高速だな!?』
「お嬢様、素敵です!」


 そんなこんなで、私たちは王都に向かうことになったのだった。

 *

 青白い月の光が照らす、私室のバルコニー。
 あまりにも月が綺麗なものだから、私はカーディガンを羽織ってバルコニーに出た。
 冷たい夜風が頬を撫で、白い髪をふわりと靡かせる。じっと大きな月を眺めていると、そこに誰かがやってきた。


「寒くないかい? 毛布でも持ってこようか」
「……オルバ、あんたは何処から私の部屋に侵入してくるのよ……。扉に鍵は掛かっていたわよね?」
「勝手知ったる我が家だからね。色んな道があるのさ」


 オルバは微笑みを浮かべると、私の隣に立った。
 そして、ふたりで暫く無言で月を眺める。すると、オルバがぽつりと呟いた。


「賢者の石、どうして飲み込んだんだい?」
「……なんとなくよ、なんとなく」
「おやおや。僕の娘は、自慢じゃないけれどとても賢くてね。意味のないことはしないんだ」


 ……バレていたか。
 私は大きくため息を吐くと、肩を竦めた。


「このままじゃあ、私は一年もしないうちに、寿命・・で死んでいたもの。寿命を延ばすためには、不老不死の素でも飲まなきゃやってられなかったのよ。仕方がないじゃない」
「……やっぱりそうか」


 オルバは苦しそうに眉を寄せると、私に向かって頭を下げた。


「ホムンクルスは、とても短命だ。人型に出来たことで、その点はクリアしていたと思っていたのだが……そうじゃなかったんだな。すまない、僕が不完全なまま生み出したせいで」
「いいのよ、もう解決したことだし。これで私は不老不死……ずっと、この姿って言うのは嫌だけど」


 私は自分の小さな手を見つめて、自嘲した。子どもの体と言うのは、余りにも非力で思いの外不便なものだ。けれど、これは我慢しなければならないだろう。その分、私には永遠の時間が約束されたのだから。
 私は悲しそうに瞼を伏せている父を見上げると、柔らかく微笑んだ。


「これでもう、オルバよりも先に死ぬことはなくなったわ。……良かったら、私が看取ってあげようか? 父さん」


 すると、オルバは何度かパチパチと目を瞬かせて――そして、顔を真っ赤にして笑った。


「……うん。うん!!」


 そして、何を思ったか、私の手を取った。


「頼むよ。……永遠の美幼女!」
「そういうとこだぞ!? 変態親父ーーーー!!」


 折角のいい雰囲気をぶち壊してくれたオルバの腹に、私は、思い切り自分の小さな拳をめり込ませたのだった。
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