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これが私の日課で癒し。

その日も楽しく4人でゲームをして0時には解散し、私も眠った。
時々他3人はどういう人なんだろうと思うこともあるけど、知りたいという気持ちはない。
もし、会えればまた楽しいような気もするけど、会わなくても何も変わらない。
そう思っていた。

翌日、私はいつもの時間に起きると、長い茶色がかった髪を結い、
ナチュラルメイクをして仕事に向かった。

通勤には電車を使っていたのだが、時間帯がみんな出勤する時間なので、学生から社会人までで電車内はぎゅーぎゅーになる。
最初はあまり気にしなかったのだが、男性たちが持つ鞄が体に当たったり、手が少しでも触れたり、体が当たるだけでも嫌悪感を抱く様になり、吐き気が襲ったため、今は自転車通勤に変えた。

そこまで距離も遠くないのが幸いだ。

「おはようございます」

会社内に入ると、既に何人かの社員が出勤しており、声をかけた同時に視線が集中する。
微かに私の挨拶による返答は聞こえたが、目を合わせてくれる人はいない。

私は気にすることなく自分のデスクに着くと、椅子に座り仕事の準備を始めた。

「佐山さん、おはようございます…」

すると後ろの方から、何とも言えない弱々しい声が聞こえる。
その声の人物を知っているが故に、私の気持ちは更に下がった。

「おはようございます。悠生(ゆうき)さん」

振り向くと、そこには下を向いて私につむじを見せるだけの小さな女性が立っている。
悠生さんは可愛らしい女性で、まだ入ったばかりの子なのだが、私は好いていない。
その理由もすぐに分かるだろう。

「あの…言われた資料なんですけど、まだ出来てなくて…」

「…今日の会議で必要ってお伝えしましたよね」

悠生さんは私が教育係として面倒を見ており、今日の会議では悠生さんの企画発表のために必要な資料を集め、作成することを頼んでいたのだ。
しかも頼んだのは先々週。
昨日の確認時点でも、大丈夫と言っていたにも関わらずこれだから嫌になる。

私は大きなため息と共に悠生さんに言うと、悠生さんは華奢な肩をびくっと揺らし、体の前で握られた手が見て分かるくらいに震えている。

「すみません…」

声も小さく、微かに泣いているかのようだった。

「謝っても会議はなしになりませんよ。今すぐやってください。私も手伝っ」

「ちょっと佐山さん、悠生さんが可哀想ですよ。」

これ以上怒っても仕方ないと思い、私なりに優しい言葉をかけようとした時、どこで聞いていたのか、別の男性社員が割り込んできた。

「…山口さん…いえ、私が悪いので…」

でたでた。
山口と呼ばれる男性社員が寄ってきたと同時に、次は悠生さんが山口に擦り寄るように顔を手で覆い、肩を揺らす。
まるで私が泣かしたかのようだ。
そして、悠生さんが泣いていることに気づいた他男性社員も次々と悠生さんの周りに集まりだす。

これがうちの社員内では小さな名物になっており、その名も「悠生を守り隊」と呼ばれているとか。
本当、笑える。

「あーあ、悠生さん泣いちゃったよ」
「大丈夫だよ、僕たちがいるから」
「佐山さんは言葉がキツイんだよ」
「泣かないで?僕たちが手伝おうか?」

…うざ。

「もういいです。悠生さんは会議に備えて、これを人数分コピーしておいて下さい」

もうこの状況にうんざりした私は、悠生さんを咎めることも、慰めるようなこともなく、準備しておいた会議用の別資料を渡し、コピーだけ頼んだ。
悠生さんはそれを受け取ると、ぐすぐすと鼻を鳴らし、私の目の前から去ると、悠生守り隊も一緒に消えていく。

「はぁ…」

この光景には本当にこりごりだ。
これが初めてではなく、毎日のようにこの光景は目の前に広がる。
私が何か助言しても、覚えて欲しくてした教育のための言葉も全て悪いと捉えられ、責められるのだ。
その度彼女は肩を揺らして、泣きながら被害者ぶるので腹が立つ。

そして、もう1つ。
私が悠生さんを気に入らない理由があった。

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