勇者の末裔である私は、恋する心を捨てました。

茂栖 もす

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旅の再開

それは今でも苦手なもので

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※今回のお話はグロい(虫さん)の描写があります。
 苦手な方はご注意くださいm(_ _"m) 


================



「いやぁぁぁぁっ!!」

 辺り一面木々に覆われているこの場所で、私の悲鳴だけが無駄にこだまする。

 自分で言うのもなんだけど、どっから出したと聞きたくなるくらいのものすごい声量だ。

 見苦しい言い訳だけれど、こんな状態なら、悲鳴の一つも上げたくなる。だって、気付けば私達は魔物というか、虫の化け物に取り囲まれていたから。

 それだけでも切羽詰まった事態であるけれど、でも、それだけではない。

 この魔物というか、虫、相当ヤバイ。精神的に。

 だって、私の……いや、クウエットよりも背丈があり、しかも紫色と黄色の横じま模様というファンキーな配色。あと、カシャカシャと動く無駄に多い触覚というかお手々。

 これはまさに、絶叫するに値する魔物。いや、多分、ただの虫であっても、絶叫もの。ファーブルさんだって、これには愛着を持つことができないだろう。

「姫さま、動かないでくださいっ。すぐに片付けますっ」

 両手に剣を構え、カーディルは庇うように私の前に立つ。すぐにクウエットも同じように大剣を構える。

 2人とも、とても頼もしい。素敵、カッコいい。そして図々しくも、お願い急いでと懇願したくなる。 

 が、そこでしてはいけない想像をしてしまった。

 ………剣で切り裂かれる芋虫のすがたを。

 それはまさに阿鼻叫喚の図。

「いやぁぁぁぁあぁぁぁっ!!」

 気付けば私はさっきよりも大きな声で悲鳴を上げていた。

 視界の端に、え?だから、すぐに片付けるって言ってるじゃん?と訝しそうに眉を寄せるクウエットの姿が見える。でも、今、それを説明している余裕はない。

 そして、私の悲鳴は無駄に魔物というか、虫の化け物を煽ってしまい、そいつらはじりじりと距離を詰めてくる。お願いっ、その足、うごうごさせないでっ。本当にきしょいからっ。

 しかも、虫の化け物の一匹が威嚇しているのかわからないけれど、なんかゲロった。

「ひぃいいいっ、いやぁあああー!」

 それをうっかり見しまった私は、混乱を極めた。そして、ここがどこの世界で何をしているのか、まったくわからなくなってしまった。

 その結果、私は1つ目のやらかしをしてしまった。

「ファレンお願い、燃やしてっ!リジェお願いっ、そいつら光で消して!!」

 以前、私はファレンセガとリジェンテのことをそう呼んでいた。
 
 もう一人の私が、2人のことをどう呼んでいたかなんて知らないのに。

「え?ちょ、ちょっと待って、今なんて……」
「リエノーラさま、わたくしのこと、今なんとお呼びに……」

 案の定、二人は知らない言葉を聞いたかのように、何度も目をぱちくりさせている。

 でも、これまた私には説明している余裕なんてない。そして、間合いを詰められたカーディルとクウエットは、同時に地を蹴り、芋虫に向かって剣を振り上げた。

 数秒後にどうなるかは、もう言わなくてもわかる。

 頼まれたって見たくはない光景になること間違いない。

「いやぁああああっ!!」 

 私はその場にへたり込んで、全力で叫んだ。

 リベリオが言っていた。魔法は、心の力。祈りと願い。そして意志の強さが魔力の源となると。だから、強く念じれば、必ず応えてくれると。

 私はその言葉を思い出して、両手を振り上げ、芋虫に向かってダイレクトに念じる。これ以上、こっちに来ないでと。

 ───そして、それは叶ってしまった。

 カシャカシャという触覚が動く音と重なるように、ピシピシという尖った音が森に響き渡る。次いで、辺り一帯が冷たい空気に包まれた。

「……あ」

 短い言葉を吐いた私の視界に移るのは、氷漬けになった虫の化け物達。

 動かなくはなったけれど、きしょくさは、変わらない。いや、初めて見る虫の氷漬けに、不快さマックスだ。

 そして、今日は晴天。溶けたらこれ、どうなる?という考えがふとよぎる。そして、がっつりと魔物と目が合ってしまった。ちなみにその色は澱んだ赤。まだ生きている証拠。

「いやぁあっー、今すぐ砕け散って!!」 

 そう叫びながら、心から願った。強く、とっても強く。それは、意志と感情をないまぜにした、自分の中に生まれた特別な力。

 そして湧き出た力をそのまま、氷漬けになった虫の化け物達にぶつければ、ふさぁっーと、シロップの無いかき氷になった魔物たちは風になびいて、何処かに消えていった。

「……よ、良かったぁ」

 座り込んだまま脱力した私は、そのままの体勢で、ほっと息を付く。

 ………でも、2秒後に、私は自分が2つ目のやらかしをしてしまったたことに気付いてしまった。
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