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旅の再開

隠されていた気持ち

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 突然ですが、ダイヤモンドダストというのをご存知でしょうか?

 それは、極寒の時期にいくつもの気象条件が揃ったときだけに出現する、大変綺麗な自然現象の事。

 もっと詳しく説明すると、空気中の水蒸気が細かい氷の結晶となり、空中で日光に反射してキラキラと輝く現象のこと。気象学では【細氷】と呼ぶらしい。

 ちなみにスターダストは星屑のこと。

 ダストって塵とがゴミっていう意味もあるけれど、前に綺麗な言葉がくっつけば、180度変化するんだなぁってしみじみと感じてしまう。

 さて今、私は、そんな極寒の地でしか見ることができないそれを、目にしている。

 率直に申し上げて大変、綺麗た。もうめっさ綺麗だ。
 歌の一つでも口ずさみたいくらいに、幻想的な光景だ。

 ぽかんと空を見上げて、私はそんなことをぼんやりと考えている。

 ……なぜならやらかしてしまった事実をしっかり飲み込んだ私は、視線を皆んなの方に向けることができないから。とどのつまり、現実逃避をしているのだ。

 でも視線は痛いほど感じている。ヒリヒリと肌に突き刺さっている。

 ま、まぁね。パニック状態になって、以前の仲間の愛称で呼んじゃうわ、覚えていないはずの仲間の魔法属性を口にするわ、そんでもって一人暴走して氷結魔法かましてしまうわ……うん、コレどうやって誤魔化そう。

 ふぁさぁーと肩までしかない髪が靡く。

 マリモがちょいちょいと前足で私の膝を突っついてくる。うん、このままではいけないのは、わかってる。

 わかっているけれど、どうしたら良いんだコレ?

 とうとう困りかねて、こっそり溜息を付いた瞬間、ぞっとするほど冷たい声が耳朶を刺した。

「そこのあなた、そろそろ、こっちを見てくれないかしら?」 
「……っ」
 
 ファレンセガのその声に、びくりと身体が跳ねる。

 そして声のする方に目を向ければ、腕を組み、じっと私を見つめるファレンセガ。残りの3人も、私から視線を外すことはしない。

 揃いも揃って、恐ろしい程に他人を見る目つきだ。あとここ、辺りの木々が無くなって、森の中でぽっかりと穴が開いたような空間になってしまっている。

「ねぇ私さぁ、あなたと会話をしても、ずっと続かなかったわよね。それってなんでかわかる?互いに自分のこと教えるつもりがないからよ。………はっ、そりゃぁ、続くわけがないわよね」

 茶化すような口調とは裏腹に、怖いほどの強さで私を見つめる。でも、ぽってりとした官能的な唇は微かに震えている。

 ファレンセガの言う通りだ。療養に充てていた日々、いつも目が合えば慌てて逸していた。お互いに。

 なのに今のファレンセガは私を射抜くように見据えている。逃げるなと。

「記憶、もう戻っているんでしょ?」

 咄嗟に首を横に振った私に、顔を歪めた。

「なら、こう言えばわかる?もともと記憶なんてないんでしょ?他人の身体を乗っ取ったんだからね。私、あの子が氷結魔法を使ったところなんて見たことないものっ。それにファレンって誰?私、一度もあの子から、そんなふうに言われたことないんだけどっ」
「…………」
「あんた一体、何者なの!?何が目的で、リエノーラの身体を乗っ取ったの!?」
 
 悲痛な叫び声に息を呑む。

「私達のリエノーラを返してっ」

 その言葉を受けて、全身を貫くものは、恐怖でも怒りでもない。───歓喜と悲しみだ。

 同じだったのだ。何一つ変わらなかったのだ。

 リベリオの言う通り、根底にあるものは一緒だった。

 ここにいる人達は、もう一人の私を大切に思っていてくれたのだ。そしてこの言葉通り、もう一人の私と共にいることを強く望んでくれていたんだ。

 とても、嬉しかった。でも、悲しかった。

 この言葉をもう一人の私ではなく、私が聞いてしまった事実に。

 くしゃりと顔が歪んでしまう。そしてファレンセガも、私と同じように顔を歪めた。

「どんなに嫌われていても、例えあの子が私達を恨んでいても、私にとってあのこはかけがえのない存在なのっ。あんたじゃないっ。私達に必要なのは、あの子なのっ」

 憎しみの言葉を吐かれて、その表情はぎらぎらと怒りの色を滲ませているというのに、私にはなんだか泣き叫んでいるようにみえる。

 思わず、名を呼び泣かないでと手を伸ばしたくなる。

 でも、まるでそれを拒むかのように、ファレンセガは更に大きく悲痛な声を上げた。

「あの子をどこにやったの!?今すぐ、この身体から出て行ってっ」

 掴みかからんばかりににじり寄られ、思わず後退する。

 視界の端に、オロオロとするリジェンテが見える。言葉こそ出していないけれど、ファレンセガと同じ表情を浮かべているクウェットが見える。

 そして、静かな眼差してじっとこちらを見つめる、あなたが見える。

 でも、だれもファレンセガを止めない。止めようとしない。 

 だから私は詰め寄られて、その分だけ後退して……───凍結魔法でここいら一体の木々をなぎ倒してしまったその先には、大きな池があった。

 でも、私は背後に何があるかなんて気付いていない。ただ、押されて、追い詰められた分だけ後ろに足を向けてしまい……。

「危ないっ」
「へ?───………う、わぁっ」

 クウエットのその尖った声が耳朶を刺した瞬間、私の身体は重心を失い───真っ逆さまに池へと転落してしまった。
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