銀狼領主と偽りの花嫁

茂栖 もす

文字の大きさ
33 / 38
ほつれていく糸

あの日あの時のすれ違い②

しおりを挟む
 クリフはダンスが踊れないだけで私が舞踏会に出たくないとゴネたことに驚いてるけれど、私にとったら結構なことだった。

 なにせ、フランクに舞踏会を開くなんていうから、ダンスは踊れて当然だと思っていたし、もし踊れないのを素直に伝えて、あらぬ疑いを持たれたら……なんてことは口に出せない私は、言いたい言葉を全て胸の内に隠して、こくりとうなずいた。

 瞬間、部屋の空気が緩んだのが、はっきりとわかった。

「なーんだ。ははっ」

 クリフはソファの背もたれに身体を預けて、気の抜けたような、ほっとしたような、肩透かしを喰らったような、そんな間の抜けた笑い声を立てた。

「そんなこと気にしてたなんて、全然気付かなかったよ。おかしなところを気にするんだね。サーヤは」

 その言葉に、ちょっと拗ねたい気持ちになる。でも、幼稚な態度で全員を困らせてしまっていた私は、やっぱりこれも無言のまま頷くことにした。

 そんな中、私とクリフの様子を見守っていたアーシャは、突然目を丸くして叫んだ。

「っていうか、領主様、今、それ知ったんですか!?」
「え?アーシャは知ってたの?」
「はいっ。ジークから聞いて……私てっきり領主様もご存知だと思ってました。だから、メイド仲間と一緒に大喜びしてたんですよ」

 そこで思いだした。
 舞踏会の中止を直談判しようとクリフを探している最中に、目にしてしまった私の噂話を。でもあれは陰口なんかではなかったのだ。

 どうやら私はこれも勘違いをしていたらしい。

 でも盗み聞ぎして、勝手にへそを曲げてしまっていたことは、恥ずかしくて言えない。それより、もう一つ、誤解を解いておこう。

 別にわざわざ言わなくても良いことかもしれないけれど、今、すぐ目の前で私が踊れないことをクリフ伝えなかったジークが、アーシャに怒られている。別の話題を振ればこのお説教は終わってくれるかもしれない。

「……あの、もう一つ聞いて欲しい事があります」

 ちょっと悩んだけれど、もういいや、言っちゃえと勢いのまま口を開いた。

「私、ザイルといちゃいちゃなんてしていませんっ」

 一気に言い切った私に、3人同時に息を呑む。

「ザイルの一方的な話も、強引なところもすごく嫌でした。だからザイルの唇が私の手の甲に触れた瞬間こうして殴ろうと思っていました」

 そう言って私は、自分の手をぎゅっと丸めて拳を作ってみせる。瞬間、部屋中に三人の大爆笑が響いた。

「それ見物だったな。ま、本当にそんなことしたらザイルをぶっ殺してたけどね」
「花嫁様、見かけによらず勇ましいお方だったんですね」

 クリフとジークはそう言って再び声を上げて笑ったけれど、頬を膨らましてしまった人が一人いた。

「ええええ?何ですか、それ?ズルいですっ。私も見たかった!」

 あの場にいなかったらしいアーシャだけが、ものすごく悔しがっている。でもあの場に居た私達3人は彼女に細かく説明できない。だってこれこそ【今だから笑って話せること】というものだから。

 いつの間にか部屋の空気が暖かくなっている。それは室温ではなく、心で感じる温度が。それはきっと喧嘩をしたわけではないけれど、仲直りというものができたからなのだろう。

 ほんの少し前、全てを憎んで大っ嫌いだと心の中で叫んでいた私が、今こんな気持ちでクリフ達と向き合うことができるなんて想像すらしてなかった。

 思わず口元が綻んでしまう。そんな私に、ジークは小さく咳払いをして口を開いた。

「話はつきませぬが、そろそろお休みいただかないとお身体に障ります」

 確かにジークの言うことはもっともだ。そして、今度はクリフもごねることはしなかった。けれど───。

「そうだね、じゃ、サーヤ寝ようか」
「え!?」

 さらりと口にしたクリフの言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。ニュアンス的には一緒に寝ようと聞こえてしまう。それはちょっとというか、かなり困る。

 びくりと体を強張らせた私に気付いたジークは、慌ててクリフの方を向く。

「恐れながら領主さま」
「なんだ?まさか別の部屋で寝ろなんていうんじゃないよね」
「いいえ、寝間着を後ほどアーシャに運ばせますので、就寝は少しお待ちください」
「ああ、寝間着はいらない。このまま寝るよ」
「かしこまりました」

 ………やっぱりズレていた。期待した私が間違っていた。
 わずかな可能性を賭けて、ちらりとアーシャに視線を移せば、彼女は両手を頬に当て、きゃぁきゃぁと独り悶えていた。

 さっきまで悔しがっていたのに、今はくねくねと忙しそうだ。………そっとしておこう。

 そしてクリフはこの場を締めくくるセリフとさらりと口にした。

「じゃ、二人ともおやすみ」

 まるで自分の部屋にいるかのように、クリフはソファに腰かけたまま、ひらひらと手を振りジークとアーシャを見送った。そしてすぐに、くるりと私に視線を向けた。

「サーヤ、寝る時間が、だいぶ遅くなっちゃったね。僕は早く起きるけど、君はゆっくり寝ててね。あ、なるべく静かに起きるつもりだけど、もし起こしちゃったらごめんね」

 そこは気を遣うところなのだろうかと首を捻ってしまう。

 そして私はどうやらクリフと一緒に寝ることは避けられない状況のようだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...