監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

茂栖 もす

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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

♪口付けを拒んだ対価

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 自分は今、誰かのつま先で海に蹴落とされた小石だと、思い込む。

 ぽちゃんと小さな水しぶきを立てた後は、ぶくぶくと空気を吐き出しながら、ゆっくりと水底へと沈んでいく。全ての神経を弛緩させ、徐々に強くなる水圧にゆったりと身を任せる。

 それは言葉にできない解放感だった。

 想像でしかないはずのこの感覚が、とても心地よい。ずっとずっと、このままでいたい。───………そう思っていたのに、誰かが私の肩を強く揺さぶった。



「おいっ。目を開けろ!」

 嫌だ。このまま、放っておいて欲しい。

「目を覚ませっ。戻ってこい!」

 耳元で切迫した大声を出され、更に肩を強く揺さぶられる。暗闇で受けるその衝撃はかなりのもの。

 それでも、目を開ける気にはならない。もっともっと深いところに沈みたい。

「………頼む、どこにも行かないでくれ」

 聞いているこちらの胸が痛くなるような悲しそうな声だった。

 そして温かく大きなものが私の頬を包む。次いで、私の瞼にぽたりと雫が落ちた。驚いて目を開ければ、そこには今までに見たこともない表情のバルドゥールが居た。

 それから、少しの間の後、私の頬を包んでいたのは、バルドゥールの手だったことを知る。それに戸惑いを覚えて、そっと視線を外せば、見慣れない光景に瞬きを繰り返してしまう。

 私はてっきり彼の屋敷の真っ白な牢獄に連れ戻されたのだと思った。

 けれど、ここはあの部屋じゃない。弱々しいランプの明かりで壁紙すら貼られていない剥きだしの木目の壁が見える。

 それに私が寝かされているベッドは、硬く少し動くだけでキィキィと小さな悲鳴を上げる粗末なもの。シーツの手触りも、ごわごわしている。

 ここは一体何処なのだろう?そんなことを考えていたら、大きな手が私の顎を掴み、強引に視線を戻される。 

 そして、当然のように視線がぶつかる。やるせなさと焦燥。そして、悲しみを隠すことなく、バルドゥールの金色の瞳が目の前で揺れていた。

 どうして、彼はこんな表情をしているのだろう。わからない。

 そんなことを考えながら、言葉無く彼をぼんやりと見つめていれば、不意に掠めるような口づけが落とされた。羽のように軽い口づけに、思わず目を見開けば、すぐに激しい口づけに襲われた。

「────っ嫌」

 呼吸がうまくできない息苦しさと、物のように扱われる不快さで、バルドゥールから逃れたくて強く首を振る。けれど、彼は更に激しく舌を動かす。

「舌の絡ませ方は教えたはずだ。もう一度、教えて欲しいのか?」

 突然、唇が離れたと思ったら、そんな恥辱の塊のような言葉が降ってきた。

 その言葉であの日の屈辱が蘇る。何が教えた、だ。私が覚えたのは───.........これだ。 

「─────............っ」

 口の中には歯という凶器が潜んでいる。私は手加減なしにバルドゥールの舌を噛もうとした。けれど、うまくいかず彼の唇に歯を当ててしまった。

 バルドゥールの唇から微かに血が滲んでいる。私のせいだ。私が勢い余って噛みついたから。

 ………それに気付いた途端、ぞっと寒気がした。飼い犬に手を噛まれるを本当に実践してしまったのだ。

「お前は、俺の口付けすら拒むのだな」

 押し殺した声音に、ぞっとする程の怒りが込められていた。

 私は何度も自分の言動でバルドゥールを苛立たせてきた。そして彼は隠すことなく、怒りを露わにしてきた。けれど、ここまで怒りを肌で感じることはなかった。

 やりすぎたと素直に謝罪をしなければならない。そう頭では分かっていても、もう引くに引けなかった。

「ええ。ここまでしないと分からないんですか?」

 口に出した途端、この野獣に向かって、良く言えたものだと自分に驚いてしまう。けれど、本当は恐ろしさで居てもたってもいられない。

 そんな私に向かって、バルドゥールは金色の瞳を細め、こう言い放った。

「それなら、それで良い」

 次の瞬間、素早い動きでバルドゥールは私の足の間に潜り込んだと思ったら、荒々しい手つきで夜着を捲くられ、下着を剥ぎ取られた。

 まさか噛み付いた仕返しに、ここを齧られるのか。この人なら怒りに任せてやりかねない。

 恐怖で顔が歪む。そして身動きが取れないまま、バルドゥールが私の足を大きく開き、秘所に顔を近づけた。

「────………ひぃっ……え?……あっ、ああっ」

 それは衝撃だった。けれど、痛みではなく、ぬるりとした暖かく柔らかいものだった。バルドゥールの舌が私の秘所をなぞっていたのだ。

 私自身ですら間近で見たことが無い秘められた部分を、バルドゥールが顔を密着させ、襞を開き、ゆっくりと舌を這わせている。まるで形を確認しているかのように。

「………お願い。やめて」

 今、行われているこれは、公衆の面前で口付けされるよりも、もっともっと恥ずかしいことだった。

 身体を捩り、足を閉じようとしても、バルドゥールは決して手も顔も、離してはくれない。

「唇への口付けを拒んだのだから、文句は言わせない」

 それは荒々しい口調で感情を剥き出しにしていないのに、ナイフを突きつけられたようなものだった。

 けれど、再び私の秘所に舌を這わせれば、それは全く別のものになる。いつも彼のものをねじ入れる場所をは丁寧に舐め上げられ、その上のぷくりとした花芯は軽く舌で押される。

「………ん、んんっ」

 どれだけ唇を噛み締めても、どうしたって声が漏れてしまう。そして、声を上げたと同時に、バルドゥールが更に花芯を刺激する。

 胸の先端を口に含まれた時のように舌で転がされ、何度も何度も同じ場所だけを上下に舌先で擦られる。

「……嫌、お願い。……やめて」

 無理矢理引き出される感覚は、心を丸裸にされるような恥ずかしさと屈辱だった。そして気付けば、私は顔を覆って泣いていた。

「それ程までに、嫌なのか?」

 刺激が止み、足の拘束が解かれたと思ったら、そんな質問が降ってきた。

「………怖い。……それ、怖いの」

 虚勢を張ることもできない弱々しい、でも心からの本音が口からこぼれる。 

 バルドゥールにそうされるのも、もちろん嫌だ。でもそれよりも、この感覚の先に強引に連れていかれることの方の怖かった。

 身体を丸め、子供のように泣きじゃくる私に、バルドゥールはこれ以上、刺激を与えることはしなかった。

 けれど、彼は私から離れる気配はない。そしてすぐに、腰を掴まれ仰向けにさせられると、彼のそそり立つものが、私の中心に当てがわれた。どうしてもバルドゥールは私を抱かなければ気が済まないらしい。

 深く深くバルドゥールのそそり立つものが私の中を侵していく。ゆっくりと、でも、打ち込む力は相当なもの。そして徐々に荒々しいものに変っていく。

 そして気付いてしまった。圧迫感こそ変わらないが、痛みが少ないことを。そして、それに代わり、身体の奥で疼くなにかがあることを。

 それが何か……一瞬よぎった答えにぞっとした。

 私はこんなふうに彼に抱かれているのに、身体が快感を覚えようとしているのだ。そんな自分に吐き気がした。今すぐ自分を縊り殺したくなった。
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