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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない
侍女達と過ごす午後④
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そんなふうに別のことに意識を飛ばしていた私だったけれど、ふと気づく。
目の前に居るリリーとフィーネは、私の置かれている状況とかを全て知った上で、かつ、全てひっくるめた上で好きだと言ってくれていることに。
私はリンさんに対して、ルークに抱かれていることを知っても不潔とか汚いといった感情を持ったことは一度もない。そして、なるべく思考をそこに持っていかないように考えていた。考えたところで詮無き事だから。
そう思うのは、私とリンさんが同じ異世界の人間だからだと思っていた。でも、リリーとフィーネも、私がリンさんに向ける想いと同じ気持ちを私に向けてくれていたのだ。
それはバルドゥールの職務を知っているからというのもあるだろう。でも、そういったことも踏まえて彼女達は敢えて口にしたりしない。それもまた優しさなのだろう。
彼女達は同世代特有の無意味な優劣を付けたりしない。どうにもならないことを上げ連ねて、相手を蹴落とすことなんてしない。
分け隔てなく接することができる強さと、とても綺麗な心を持っていると思う。そして、そんな二人に出会えたことを今更ながら深く感謝する。
「………………ありがとうございます」
たくさんの言葉を使って、二人に今の気持ちを伝えたいと思うのに、口から出てきたのは、こんなありきたりな言葉だった。
情けないな、そんなことを思った途端、ふわりと身体が浮く感覚がする。次いで、それがスプリングの揺れだということに気付いた。
ああ、良かった。二人にちゃんと伝わってくれた。だって一度は断られたのに、今はリリーとフィーネは同時に、私の隣に腰を下ろしてくれたのだから。
「アカリ様はもう寂しくないですか?」
私を覗き込みながらそう問いかけるリリーは、無邪気な笑みを浮かべていた。
こんなふうに思ったまま口に出せるリリーの素直さが素敵だなって思う。そして、リリーの言葉を瞬時に理解して、私に伝えてくれるフィーネに感心してしまう。
「もう、寂しくなんかないです」
ありきたりな言葉より、今はこの事実を伝えるべきだろう。そう判断して、ゆっくりと噛み締めるように言葉を紡げば、二人はとても嬉しそうに笑ってくれた。けれど視界が一瞬で真っ暗になってしまった。
「ふふっ、私、とっても嬉しいですっ」
お日様の香りを近くで感じて、リリーが私に抱きついたことを知る。それにちょっと驚いてしまうけれど、やはり嬉しさの方が勝ってしまう。
ただ反対側から、慌てた様子でフィーネがはリリーを嗜める声が聞こえる。
このままで大丈夫、そう首を捻ってフィーネに目で訴えれば、彼女はちょっと不満そうな顔をしてしぶしぶ納得してくれた。その仕草もとても可愛らしい。
思わず声を上げて笑ってしまったら、フィーネは目を大きく見開いて、ゆっくりと3回瞬きをした。それからぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべリリーと同じように私をきゅっと抱きしめてくれた。
二人の温かさを全身に感じて、不意に熱いものがこみ上げてくる。
こうしてベッドで3人並んで腰かけているその姿は、あの頃私がどうあっても入れなかった光景と同じだったのだ。
時間の流れとは、時として不思議な縁を繋いでくれる。
こんな遠い世界で、しかも学生時代を通り過ぎた今になって、苦手だった同世代の輪の中に自分が入っているのだ。
心の壁を作らなければ生きていけないと思っていたはずなのに。こんなにもあっさりと壁の向こう側に辿り着くことができたのだ。
「アカリ様、大好きです」
「私も、大好きですっ」
まごついた私の手のやり場を教えてくれるかのように、リリーとフィーネはきゅっと私を抱く力を強くした。
そんな二人に応えるために、おずおずと両手を二人の背に回せば、ふわりと陽だまりのような温かい笑い声が聞こえてきた。
瞬間、色の無いはずの部屋が私の眼にはとてもカラフルに映った。
その鮮やかな色彩が眩しくて目を閉じる。チカチカとした残像が暗闇でも煌めく中、自分の言葉で誰かが笑顔になってくれる。この事実がとても嬉しかった。
そして、そうできるようになった自分が少し誇らしかった。
目の前に居るリリーとフィーネは、私の置かれている状況とかを全て知った上で、かつ、全てひっくるめた上で好きだと言ってくれていることに。
私はリンさんに対して、ルークに抱かれていることを知っても不潔とか汚いといった感情を持ったことは一度もない。そして、なるべく思考をそこに持っていかないように考えていた。考えたところで詮無き事だから。
そう思うのは、私とリンさんが同じ異世界の人間だからだと思っていた。でも、リリーとフィーネも、私がリンさんに向ける想いと同じ気持ちを私に向けてくれていたのだ。
それはバルドゥールの職務を知っているからというのもあるだろう。でも、そういったことも踏まえて彼女達は敢えて口にしたりしない。それもまた優しさなのだろう。
彼女達は同世代特有の無意味な優劣を付けたりしない。どうにもならないことを上げ連ねて、相手を蹴落とすことなんてしない。
分け隔てなく接することができる強さと、とても綺麗な心を持っていると思う。そして、そんな二人に出会えたことを今更ながら深く感謝する。
「………………ありがとうございます」
たくさんの言葉を使って、二人に今の気持ちを伝えたいと思うのに、口から出てきたのは、こんなありきたりな言葉だった。
情けないな、そんなことを思った途端、ふわりと身体が浮く感覚がする。次いで、それがスプリングの揺れだということに気付いた。
ああ、良かった。二人にちゃんと伝わってくれた。だって一度は断られたのに、今はリリーとフィーネは同時に、私の隣に腰を下ろしてくれたのだから。
「アカリ様はもう寂しくないですか?」
私を覗き込みながらそう問いかけるリリーは、無邪気な笑みを浮かべていた。
こんなふうに思ったまま口に出せるリリーの素直さが素敵だなって思う。そして、リリーの言葉を瞬時に理解して、私に伝えてくれるフィーネに感心してしまう。
「もう、寂しくなんかないです」
ありきたりな言葉より、今はこの事実を伝えるべきだろう。そう判断して、ゆっくりと噛み締めるように言葉を紡げば、二人はとても嬉しそうに笑ってくれた。けれど視界が一瞬で真っ暗になってしまった。
「ふふっ、私、とっても嬉しいですっ」
お日様の香りを近くで感じて、リリーが私に抱きついたことを知る。それにちょっと驚いてしまうけれど、やはり嬉しさの方が勝ってしまう。
ただ反対側から、慌てた様子でフィーネがはリリーを嗜める声が聞こえる。
このままで大丈夫、そう首を捻ってフィーネに目で訴えれば、彼女はちょっと不満そうな顔をしてしぶしぶ納得してくれた。その仕草もとても可愛らしい。
思わず声を上げて笑ってしまったら、フィーネは目を大きく見開いて、ゆっくりと3回瞬きをした。それからぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべリリーと同じように私をきゅっと抱きしめてくれた。
二人の温かさを全身に感じて、不意に熱いものがこみ上げてくる。
こうしてベッドで3人並んで腰かけているその姿は、あの頃私がどうあっても入れなかった光景と同じだったのだ。
時間の流れとは、時として不思議な縁を繋いでくれる。
こんな遠い世界で、しかも学生時代を通り過ぎた今になって、苦手だった同世代の輪の中に自分が入っているのだ。
心の壁を作らなければ生きていけないと思っていたはずなのに。こんなにもあっさりと壁の向こう側に辿り着くことができたのだ。
「アカリ様、大好きです」
「私も、大好きですっ」
まごついた私の手のやり場を教えてくれるかのように、リリーとフィーネはきゅっと私を抱く力を強くした。
そんな二人に応えるために、おずおずと両手を二人の背に回せば、ふわりと陽だまりのような温かい笑い声が聞こえてきた。
瞬間、色の無いはずの部屋が私の眼にはとてもカラフルに映った。
その鮮やかな色彩が眩しくて目を閉じる。チカチカとした残像が暗闇でも煌めく中、自分の言葉で誰かが笑顔になってくれる。この事実がとても嬉しかった。
そして、そうできるようになった自分が少し誇らしかった。
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