監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

茂栖 もす

文字の大きさ
97 / 133
◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

侍女達と過ごす午後④

しおりを挟む
 そんなふうに別のことに意識を飛ばしていた私だったけれど、ふと気づく。

 目の前に居るリリーとフィーネは、私の置かれている状況とかを全て知った上で、かつ、全てひっくるめた上で好きだと言ってくれていることに。

 私はリンさんに対して、ルークに抱かれていることを知っても不潔とか汚いといった感情を持ったことは一度もない。そして、なるべく思考をそこに持っていかないように考えていた。考えたところで詮無き事だから。

 そう思うのは、私とリンさんが同じ異世界の人間だからだと思っていた。でも、リリーとフィーネも、私がリンさんに向ける想いと同じ気持ちを私に向けてくれていたのだ。

 それはバルドゥールの職務を知っているからというのもあるだろう。でも、そういったことも踏まえて彼女達は敢えて口にしたりしない。それもまた優しさなのだろう。

 彼女達は同世代特有の無意味な優劣を付けたりしない。どうにもならないことを上げ連ねて、相手を蹴落とすことなんてしない。

 分け隔てなく接することができる強さと、とても綺麗な心を持っていると思う。そして、そんな二人に出会えたことを今更ながら深く感謝する。

「………………ありがとうございます」

 たくさんの言葉を使って、二人に今の気持ちを伝えたいと思うのに、口から出てきたのは、こんなありきたりな言葉だった。

 情けないな、そんなことを思った途端、ふわりと身体が浮く感覚がする。次いで、それがスプリングの揺れだということに気付いた。

 ああ、良かった。二人にちゃんと伝わってくれた。だって一度は断られたのに、今はリリーとフィーネは同時に、私の隣に腰を下ろしてくれたのだから。

「アカリ様はもう寂しくないですか?」

 私を覗き込みながらそう問いかけるリリーは、無邪気な笑みを浮かべていた。

 こんなふうに思ったまま口に出せるリリーの素直さが素敵だなって思う。そして、リリーの言葉を瞬時に理解して、私に伝えてくれるフィーネに感心してしまう。

「もう、寂しくなんかないです」

 ありきたりな言葉より、今はこの事実を伝えるべきだろう。そう判断して、ゆっくりと噛み締めるように言葉を紡げば、二人はとても嬉しそうに笑ってくれた。けれど視界が一瞬で真っ暗になってしまった。

「ふふっ、私、とっても嬉しいですっ」

 お日様の香りを近くで感じて、リリーが私に抱きついたことを知る。それにちょっと驚いてしまうけれど、やはり嬉しさの方が勝ってしまう。

 ただ反対側から、慌てた様子でフィーネがはリリーを嗜める声が聞こえる。

 このままで大丈夫、そう首を捻ってフィーネに目で訴えれば、彼女はちょっと不満そうな顔をしてしぶしぶ納得してくれた。その仕草もとても可愛らしい。

 思わず声を上げて笑ってしまったら、フィーネは目を大きく見開いて、ゆっくりと3回瞬きをした。それからぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべリリーと同じように私をきゅっと抱きしめてくれた。

 二人の温かさを全身に感じて、不意に熱いものがこみ上げてくる。

 こうしてベッドで3人並んで腰かけているその姿は、あの頃私がどうあっても入れなかった光景と同じだったのだ。

 時間の流れとは、時として不思議な縁を繋いでくれる。

 こんな遠い世界で、しかも学生時代を通り過ぎた今になって、苦手だった同世代の輪の中に自分が入っているのだ。

 心の壁を作らなければ生きていけないと思っていたはずなのに。こんなにもあっさりと壁の向こう側に辿り着くことができたのだ。

「アカリ様、大好きです」
「私も、大好きですっ」

 まごついた私の手のやり場を教えてくれるかのように、リリーとフィーネはきゅっと私を抱く力を強くした。

 そんな二人に応えるために、おずおずと両手を二人の背に回せば、ふわりと陽だまりのような温かい笑い声が聞こえてきた。

 瞬間、色の無いはずの部屋が私の眼にはとてもカラフルに映った。

 その鮮やかな色彩が眩しくて目を閉じる。チカチカとした残像が暗闇でも煌めく中、自分の言葉で誰かが笑顔になってくれる。この事実がとても嬉しかった。

 そして、そうできるようになった自分が少し誇らしかった。
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...