監禁された私には、時空の監視者の愛情は伝わらない

茂栖 もす

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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない 

♪その瞳は、唇よりも雄弁に語るから③

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 裁判官が判決を言い渡すかのように、抑揚のない声でそう言ったバルドゥールだけれど、その舌遣いはとても優しいものだった。けれど、私はたくさんの『どうして?』を抱えている。

 私はずっとバルドゥールが私に快感を与えるのは、その方がお互いの負担を減らすためだと思っているから。はっきり言って潤滑油を使わない代わりにそうしていると思っている。

 そして、今の私のそこは、潤滑油など必要がないほど潤っている。有り余るほどに。だから、これ以上私に快感を与える必要などない。

 なのに…………どうして?

「あっ、ああっ…………んっ、はぁ…………んっ」

 『どうして』を抱えていても、身体はとても正直だ。

 バルドゥールの優しい舌遣いで、私は自分の意志とは関係なく、あられもない声を出してしまうし、身体を逸らしてしまう。

「そうか、アカリはこうするのも、良いのか」

 舌の刺激が止まったと思った途端、そんな言葉が飛んできた。

「違っ─────…………んっ、ああっ、あんっ」

 どうしたって、そうだと言えない私は、違うとしか言えないのに。なのにバルドゥールは、それすら否定するかのように、先ほどよりも強く刺激する。

 ただ、それは一瞬ではなかった。舌先に力を入れ、バルドゥールは私の花芯を弄ぶ。そして私は、再び絶頂を迎えてしまった。

「アカリ」 

 目を閉じて荒くなった息を沈めていれば、暗闇の中で、私の名を呼ぶ甘い声がする。

 胸に抱えていた不安が少しだけ消えてほっとしたのもつかの間、彼の熱いものが、私の中に埋め込まれた。

 いささか乱暴に入れられたそれは、すぐに動き出すのかと思った。けれど、バルドゥールは私に覆いかぶさったまま、動かない。そしてその表情はとても苦しそうだった。

「バルドゥールさん、あの…………」
「動くなっ」

 いつもと違う彼の様子に、身じろぎをしながら問いかければ、厳しい声で止められてしまった。今度は、びくりと身体が震える。

 そうすれば、バルドゥールはくっと短く呻いだ。けれどすぐに、何かを堪えるかのように、短く息を吸って吐く。

 それを繰り返した後、私にこう囁いた。

「すまない、アカリ…………今は、動かないでくれ。…………今、少しでも動けば、すぐにでも果ててしまいそうだ。────…………っ、アカリ、言ってるそばから動くな」
「ご、…………ごめんなさい」

 反射的に謝ってしまったけれど、私は上の空だった。

 だって、今、口にしたバルドゥールの言葉がとんでもないものだったから。

 でも駄目だ。頭の中で反芻すれば、彼よりも先に私の方が果ててしまう。だから心を無にして、彼が動くまで私は石のようにじっとしていなければならない。

 そう思っていても、やっぱり彼のものを受け入れてしまっている以上、どうしたってそこに意識が向いてしまう。

 いつもより硬さも質量もある熱いもの。そして、バルドゥールの意思とは関係なく、ぴくぴくと動くそれは、ただ受け入れているだけでも、私の中を刺激する。

「…………んっ、はぁ…………んっ」

 唇を噛み締めていたはずだったけれど、堪えきれず、声を漏らしてしまった。それは自分でも驚くほど、鼻にかかった甘いものだった。

「…………っ、くそっ」

 私が声を上げた途端、バルドゥールはそんな悪態を付いて身を起こした。そして私の腰を掴んだ。

「そんな声を出されたら、堪えきれないっ」

 吐き捨てるように言われたその言葉は、私を拒むものとは真逆のものだった。

 その証拠に、バルドゥールは私の腰を掴んだまま、ぐっと最奥を抉るように動かす。

「あっ…………んっ、ああっ……んんっ」

 たったそれだけの動作でさっきよりも、もっと甘い声を出してしまう自分が恥ずかしい。

 そして、あまりの恥ずかしさで顔を横に向けようとすれば、バルドゥールの声で引き留められてしまった。

「アカリ」

 たったそれだけで、視線を彼に戻してしまう。そして彼と視線が絡み合えば、再びトクンと心臓が撥ねる。

 …………なんていう目で私を見ているのだろう。

 その金色の瞳は、少し潤んでいた。薄暗い灯りの中、彼の瞳はより一層輝きを増す。言葉は無くても強く、強く私に訴えてくる。

 こっちを見てくれ。どうか気付いてくれ、と。

 それが不満や私に改善を求めるものならば、私は真摯に受け止めることができるし、精一杯、彼が望むように努力しようとも思う。

 けれど、彼が気付いて欲しいのは、彼自身が持つ気持ち。そこに私に向けての要求はない。ただただ、気付いて欲しいと訴えているだけなのだ。

 それは私が一番、あり得ないと思っている感情。たった一人の身内にすら貰ったことがないもの。

 駄目だ。自分の気持ちの整理すら付いていない私が、そんなもの、受け取る資格はない。

 そう思った。けれど、それは声に出して言うことができなかった。

 最奥を抉るように動いたバルドゥールのそれは、私の中を何度も往復し、次第に激しさを増していく。

「あっ…………んんっ、…………だめっ、そんな…………ああっ」

 一つの結論に達しようとしていた私の思考は、バルドゥールによって打ち砕かれてしまった。

 そして一度砕かれてしまった思考は元に戻ることは無く、私は彼の猛々しいそれに貫かれれ何も考えることができなくなってしまった。
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