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◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない
王女と私の共通点①
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ピピピッとアナログな目覚まし時計の音で目を覚ます。
布団から手を出して目覚ましを止める。次いで、時計が記した時刻を確認すると、出勤時間の1時間前。
それからのろのろと布団から這い出して、いつも通り身支度を整える。着替えをして、歯磨きをして、髪の毛をとかして。
最後に、すこしばかりのお化粧の為に 鏡に映った自分に、じっと視線を合わせる。
───……お母さん。
毎朝、鏡の中に写る自分に母親の姿を重ねるのは、もはや習慣になってしまった。私は、母親にそっくりだと施設の人が言っていたから。
そして鏡越しの母親は私を殴ったりしないし、胸を抉る言葉もかけたりしない。微笑みかけてくれることもないけれど。
そこで、苦笑を浮かべてしまう。いつまでたっても、鏡に向かう私の表情は、泣き出す寸前の子供のままだったから。
その顔を見て、いつも思ってしまう。大人になるって何なのだろうと。
少なくとも、まだ鏡を見て母親を恋しいと思う自分の心は子供のままだ。すでに私は自立して、大人のいう立ち位置の責任を持っているというのに。
そんなことを考えながら、もう一度鏡を見つめた私は小さく息を呑んだ。いつの間にか鏡に映る自分の姿が変わっていたから。
真っ白な豪華な服を着て、髪をハーフアップに丁寧に結って。しかも背後の景色は、古いアパートの一室ではない。服と同じ真っ白の壁紙。
でも、不思議と怖くない。ああ、そっかと妙に納得してしまう。いや、鏡の向こうの景色の方に馴染みを覚えてしまうのはどうしてだろう。
………どうもこうもない。これは私が見ている夢なんだ。
そして、これが夢と気付いた途端、誰に呼ばれたわけでもないけれど、私は、ふっと引き寄せられるように目を覚ました。
瞼を開けた途端、見覚えのない景色が飛び込んで、身体が強張る。
ベージュピンクの壁紙を基調とした、美しい曲線を描く家具が並ぶ女の子が喜びそうな部屋。窓はあるけれど、分厚いカーテンが閉まっていて外の景色も、今の時刻も分からない。
そして、色彩を帯びたもので埋め尽くされた部屋に居ることを実感すれば、私の身体は警鐘を鳴らす。
「────うっ……っ痛いっ」
慌てて飛び起きた瞬間、くらりと眩暈を覚え顔をしかめる。一拍遅れて、足首に尖った痛みが走る。
そうだ、私、マディアスから変な薬を飲まされたんだ。眩暈はそのせいで、足首の痛みは転倒して捻ってしまった時のもの。
そして私は何故かベッドに寝かされている。今は、一体、どういう状況なのだろう。
少しでも頭を動かせば酷い眩暈に襲われる私は、蹲ったまま、ままらない頭でそこまで考える。その瞬間、聞き覚えのある声が耳朶を刺す。
「………アカリ、大丈夫?」
俯いた顔をあげれば、心配そうに私を覗き込む王女がいた。ベッドの端に腰かけて。
いつの間に?いや、ずっとここに居たのかもしれない。────ぞっとした。
意識の無い間に、この少女に見つめられていたと思ったら、不快を通り越して、悲鳴を上げたくなる。
そして身体は正直で、思うように動かないのに、必死にこの場から逃げ出そうとベッドの端へ端へと這いずってしまう。
けれど、それを王女が止めた。
「動かないで。あなた怪我をしているの。手当はしたけれど、とっても痛そうだわ」
「……怪我?……え?……この服は」
良く見れば腕にも手首にも包帯が巻かれている。
多分転んだ時に擦りむいてしまったのだろう。そして、手首の包帯は、きっと枷のせいでできた傷。
ご丁寧に手当てをしてくれたことには礼を言わなければならないのかもしれない。けれど、それより、なぜ私は色の付いた寝間着を着させられているのだろう。しかも、王女がさんざん好きな色だと言っていた水色だったことが無性に不愉快だ。
着せ替え人形のように勝手なことをされたことに、とても腹が立つ。そして、リリーとフィーネが作ってくれたあの服を返せと睨みつけてしまう。
そんな私の視線に、王女はしゅんと肩を落として呟いた。
「……あのね、私とリズが着替えさせたの。あのままじゃ手当てができなくて。あの……ごめんなさい。勝手なことをして……」
「………………」
王女は、私が意識を失う前のような高慢さは消え、年相応の少女のようだった。
いや、こちらの顔色を伺うような仕草は、もっと幼い子供のようだ。一体、どれが本当の王女なのだろう。困惑を隠せない。
そんな私の思考を読んだかのように、王女は再びポツリと呟いた。
「ごめんなさい。アカリ」
「え?」
「ねえ、私、とっても、おかしなことをしていたわよね?アカリの怪我はそのせいなんでしょ?……顔色もすごく悪い。マディアスが言ってたの……強い薬を飲ませたって……それって本当のこと?」
「…………そうです。本当です」
そしてあなたは私の大切な人を傷付けました。私を大切にしてくれる人達を危険な目に会わせました。
そう続けて言ってやるつもりだった。けれど────。
「本当に、ごめんなさい!!」
「…………っ」
勢い良く謝られて、私は言葉を失ってしまう。それに気付いていないのか、王女の勢いは止まらない。
「私、とっても気持ち悪かったでしょ?うん、わかっている。私、ちゃんと、自分がおかしいことに気付いているの。でも、おかしいことをしたのは分かっていても、何をしたのか、思い出せないの………ちょっと前から…時々あんなふうになってしまうの」
「……え?」
物凄いカミングアウトと受け、私はどうしたら良いのだろう。困惑が隠せない。
間の抜けた声を上げた後、次の言葉が見つからない私を見て、王女はとてもとても申し訳なさそうに項垂れる。良く見れば、小刻みに肩が震えている。もしかして、泣いているのだろうか。
「ナシャータ王女、アカリさまが怯えていらっしゃいます。……一度落ち着かれてください」
その声で、王女以外にもこの部屋にもう一人誰かいたことを知る。
そして、王女はゆるゆると顔を上げてリズと呼んだ。同じように私も声のする方に視線を向ければ、そこにはグレーの落ち着いたお仕着せを着た婦人がいた。多分、王女の侍女なのだろう。ちなみにカイナより年上のようだ。
そして、この状況を救ってくれたと言って良いのかわからないけれど、そのリズの提案に、王女は、そうねと言って、私にお茶を飲みましょうとほほ笑んだ。
「さ、どうぞ。アカリさま」
リズの手によってお茶が淹れられ、私にもソーサーごとお茶が渡される。
口を付けるのは何となく怖い。でも揺れる湯気から、バルドゥールの屋敷でも嗅いだことのある柑橘系の香りがする。
同じお茶がここにあるのに、今が、当たり前に過ごしていた日常ではないことに酷い違和感を覚え、手元から目をそらす。
相変わらず部屋の窓にはカーテンが引いてあるので、外の景色はわからない。
小さく息を付いて、ちらりと横を見れば、王女は猫舌なのだろうか。ふぅふぅと何度も息を吹きかけてから、お茶を口に含んでいる。
そして半分ほどお茶を飲み終えてから、カップをソーサーに戻し、私に視線を向けた。
「───………ねえアカリ、私の話を聞いてくれる?」
静かな声音には、私に拒絶されることを恐れている気配が伝わってきた。
ここで意地悪く嫌だと言ってやろうか。そんなことを考えてみる。けれど、なんとなく断るのが気が引けて、私は無言で頷いた。
そうすれば、王女はほっとしたように笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。
「私のお母様ね、側室だったの」
「…………っ!?」
さらりと紡いだ王女の言葉がとても重くて、私は食い入るように見つめてしまう。
というかこんな大事なこと、私が知ってしまって良いことなのだろうか。
後で責められたらたまったものじゃない。自己を制御できない側室の王女がこの国にいるということだけでも、極秘にしておかなければならないことのはず。
正直言って、これ以上の秘密を知るのは願い下げた。
思わず拒絶の意志を伝える為に、ふるふると首を横に振ってみる。けれど、王女はくすりと笑って私の訴えを一蹴して話を続けた。
「お父様はね、本当は私のお母様でも、亡くなった王妃さまでもなく、別の人を愛しているのよ。今でも」
「その方は、どなたと聞いても良いんでしょうか?」
もう聞いてしまったなら仕方ない。こうなったら、知りたいことを教えてもらおうと半ばやけくそになってそう問えば、王女はにっこりと笑みを浮かべて口を開いた。
「あなたと同じ、異世界の女性だったのよ。私のお父様は、時空の監視者だから」
瞬間、私は言葉にできない衝撃を受けた。
王様が時空の監視者だったこと。そして、リンさん以外の異世界の女性が近い過去に存在していたこと。このどちらに重点を置いて良いのかわからない。
でもやっぱり私は、後者の方が気になった。
「…………だった?」
掠れた声で、心のままに問えば、王女は大きく頷いた。
「そう。お父様が死なせてしまったの。そして今でもお父様はとても悔いていて……だから、少しだけその女性に似ているっていう理由で、お母様は側室に選ばれたのよ」
「そんなっ。ひどいっ」
私に柔らかい声で大丈夫と言った王様は、最低の人間だったのだ。
私を国民として認めなかった王様は、時空の監視者だった。異世界の女性を殺してしまった挙句、その代わりに似た女性を側室にするなんて。
ひどく裏切られた気持ちになる。
そんな感情から怒りに任せて声を荒げた私に、王女はきょとんと眼を丸くする。
「え?アカリ、どうしてそんなことを言うの?お母様は、とても幸せだったわ。お父様の一番は異世界の女性だったのは揺るがない。だってお父様は時空の監視者だから。それは仕方がないこと。でもね、お母様は二番目に愛されていたのよ」
そこで、うっとりと幸せそうな笑みを浮かべる王女の気持ちがわからない。
もっと言うなら、自分の母親が2番目に愛されていたことを誇らしそうにする王女の思考なんて理解ができないし、したくもない。
布団から手を出して目覚ましを止める。次いで、時計が記した時刻を確認すると、出勤時間の1時間前。
それからのろのろと布団から這い出して、いつも通り身支度を整える。着替えをして、歯磨きをして、髪の毛をとかして。
最後に、すこしばかりのお化粧の為に 鏡に映った自分に、じっと視線を合わせる。
───……お母さん。
毎朝、鏡の中に写る自分に母親の姿を重ねるのは、もはや習慣になってしまった。私は、母親にそっくりだと施設の人が言っていたから。
そして鏡越しの母親は私を殴ったりしないし、胸を抉る言葉もかけたりしない。微笑みかけてくれることもないけれど。
そこで、苦笑を浮かべてしまう。いつまでたっても、鏡に向かう私の表情は、泣き出す寸前の子供のままだったから。
その顔を見て、いつも思ってしまう。大人になるって何なのだろうと。
少なくとも、まだ鏡を見て母親を恋しいと思う自分の心は子供のままだ。すでに私は自立して、大人のいう立ち位置の責任を持っているというのに。
そんなことを考えながら、もう一度鏡を見つめた私は小さく息を呑んだ。いつの間にか鏡に映る自分の姿が変わっていたから。
真っ白な豪華な服を着て、髪をハーフアップに丁寧に結って。しかも背後の景色は、古いアパートの一室ではない。服と同じ真っ白の壁紙。
でも、不思議と怖くない。ああ、そっかと妙に納得してしまう。いや、鏡の向こうの景色の方に馴染みを覚えてしまうのはどうしてだろう。
………どうもこうもない。これは私が見ている夢なんだ。
そして、これが夢と気付いた途端、誰に呼ばれたわけでもないけれど、私は、ふっと引き寄せられるように目を覚ました。
瞼を開けた途端、見覚えのない景色が飛び込んで、身体が強張る。
ベージュピンクの壁紙を基調とした、美しい曲線を描く家具が並ぶ女の子が喜びそうな部屋。窓はあるけれど、分厚いカーテンが閉まっていて外の景色も、今の時刻も分からない。
そして、色彩を帯びたもので埋め尽くされた部屋に居ることを実感すれば、私の身体は警鐘を鳴らす。
「────うっ……っ痛いっ」
慌てて飛び起きた瞬間、くらりと眩暈を覚え顔をしかめる。一拍遅れて、足首に尖った痛みが走る。
そうだ、私、マディアスから変な薬を飲まされたんだ。眩暈はそのせいで、足首の痛みは転倒して捻ってしまった時のもの。
そして私は何故かベッドに寝かされている。今は、一体、どういう状況なのだろう。
少しでも頭を動かせば酷い眩暈に襲われる私は、蹲ったまま、ままらない頭でそこまで考える。その瞬間、聞き覚えのある声が耳朶を刺す。
「………アカリ、大丈夫?」
俯いた顔をあげれば、心配そうに私を覗き込む王女がいた。ベッドの端に腰かけて。
いつの間に?いや、ずっとここに居たのかもしれない。────ぞっとした。
意識の無い間に、この少女に見つめられていたと思ったら、不快を通り越して、悲鳴を上げたくなる。
そして身体は正直で、思うように動かないのに、必死にこの場から逃げ出そうとベッドの端へ端へと這いずってしまう。
けれど、それを王女が止めた。
「動かないで。あなた怪我をしているの。手当はしたけれど、とっても痛そうだわ」
「……怪我?……え?……この服は」
良く見れば腕にも手首にも包帯が巻かれている。
多分転んだ時に擦りむいてしまったのだろう。そして、手首の包帯は、きっと枷のせいでできた傷。
ご丁寧に手当てをしてくれたことには礼を言わなければならないのかもしれない。けれど、それより、なぜ私は色の付いた寝間着を着させられているのだろう。しかも、王女がさんざん好きな色だと言っていた水色だったことが無性に不愉快だ。
着せ替え人形のように勝手なことをされたことに、とても腹が立つ。そして、リリーとフィーネが作ってくれたあの服を返せと睨みつけてしまう。
そんな私の視線に、王女はしゅんと肩を落として呟いた。
「……あのね、私とリズが着替えさせたの。あのままじゃ手当てができなくて。あの……ごめんなさい。勝手なことをして……」
「………………」
王女は、私が意識を失う前のような高慢さは消え、年相応の少女のようだった。
いや、こちらの顔色を伺うような仕草は、もっと幼い子供のようだ。一体、どれが本当の王女なのだろう。困惑を隠せない。
そんな私の思考を読んだかのように、王女は再びポツリと呟いた。
「ごめんなさい。アカリ」
「え?」
「ねえ、私、とっても、おかしなことをしていたわよね?アカリの怪我はそのせいなんでしょ?……顔色もすごく悪い。マディアスが言ってたの……強い薬を飲ませたって……それって本当のこと?」
「…………そうです。本当です」
そしてあなたは私の大切な人を傷付けました。私を大切にしてくれる人達を危険な目に会わせました。
そう続けて言ってやるつもりだった。けれど────。
「本当に、ごめんなさい!!」
「…………っ」
勢い良く謝られて、私は言葉を失ってしまう。それに気付いていないのか、王女の勢いは止まらない。
「私、とっても気持ち悪かったでしょ?うん、わかっている。私、ちゃんと、自分がおかしいことに気付いているの。でも、おかしいことをしたのは分かっていても、何をしたのか、思い出せないの………ちょっと前から…時々あんなふうになってしまうの」
「……え?」
物凄いカミングアウトと受け、私はどうしたら良いのだろう。困惑が隠せない。
間の抜けた声を上げた後、次の言葉が見つからない私を見て、王女はとてもとても申し訳なさそうに項垂れる。良く見れば、小刻みに肩が震えている。もしかして、泣いているのだろうか。
「ナシャータ王女、アカリさまが怯えていらっしゃいます。……一度落ち着かれてください」
その声で、王女以外にもこの部屋にもう一人誰かいたことを知る。
そして、王女はゆるゆると顔を上げてリズと呼んだ。同じように私も声のする方に視線を向ければ、そこにはグレーの落ち着いたお仕着せを着た婦人がいた。多分、王女の侍女なのだろう。ちなみにカイナより年上のようだ。
そして、この状況を救ってくれたと言って良いのかわからないけれど、そのリズの提案に、王女は、そうねと言って、私にお茶を飲みましょうとほほ笑んだ。
「さ、どうぞ。アカリさま」
リズの手によってお茶が淹れられ、私にもソーサーごとお茶が渡される。
口を付けるのは何となく怖い。でも揺れる湯気から、バルドゥールの屋敷でも嗅いだことのある柑橘系の香りがする。
同じお茶がここにあるのに、今が、当たり前に過ごしていた日常ではないことに酷い違和感を覚え、手元から目をそらす。
相変わらず部屋の窓にはカーテンが引いてあるので、外の景色はわからない。
小さく息を付いて、ちらりと横を見れば、王女は猫舌なのだろうか。ふぅふぅと何度も息を吹きかけてから、お茶を口に含んでいる。
そして半分ほどお茶を飲み終えてから、カップをソーサーに戻し、私に視線を向けた。
「───………ねえアカリ、私の話を聞いてくれる?」
静かな声音には、私に拒絶されることを恐れている気配が伝わってきた。
ここで意地悪く嫌だと言ってやろうか。そんなことを考えてみる。けれど、なんとなく断るのが気が引けて、私は無言で頷いた。
そうすれば、王女はほっとしたように笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開く。
「私のお母様ね、側室だったの」
「…………っ!?」
さらりと紡いだ王女の言葉がとても重くて、私は食い入るように見つめてしまう。
というかこんな大事なこと、私が知ってしまって良いことなのだろうか。
後で責められたらたまったものじゃない。自己を制御できない側室の王女がこの国にいるということだけでも、極秘にしておかなければならないことのはず。
正直言って、これ以上の秘密を知るのは願い下げた。
思わず拒絶の意志を伝える為に、ふるふると首を横に振ってみる。けれど、王女はくすりと笑って私の訴えを一蹴して話を続けた。
「お父様はね、本当は私のお母様でも、亡くなった王妃さまでもなく、別の人を愛しているのよ。今でも」
「その方は、どなたと聞いても良いんでしょうか?」
もう聞いてしまったなら仕方ない。こうなったら、知りたいことを教えてもらおうと半ばやけくそになってそう問えば、王女はにっこりと笑みを浮かべて口を開いた。
「あなたと同じ、異世界の女性だったのよ。私のお父様は、時空の監視者だから」
瞬間、私は言葉にできない衝撃を受けた。
王様が時空の監視者だったこと。そして、リンさん以外の異世界の女性が近い過去に存在していたこと。このどちらに重点を置いて良いのかわからない。
でもやっぱり私は、後者の方が気になった。
「…………だった?」
掠れた声で、心のままに問えば、王女は大きく頷いた。
「そう。お父様が死なせてしまったの。そして今でもお父様はとても悔いていて……だから、少しだけその女性に似ているっていう理由で、お母様は側室に選ばれたのよ」
「そんなっ。ひどいっ」
私に柔らかい声で大丈夫と言った王様は、最低の人間だったのだ。
私を国民として認めなかった王様は、時空の監視者だった。異世界の女性を殺してしまった挙句、その代わりに似た女性を側室にするなんて。
ひどく裏切られた気持ちになる。
そんな感情から怒りに任せて声を荒げた私に、王女はきょとんと眼を丸くする。
「え?アカリ、どうしてそんなことを言うの?お母様は、とても幸せだったわ。お父様の一番は異世界の女性だったのは揺るがない。だってお父様は時空の監視者だから。それは仕方がないこと。でもね、お母様は二番目に愛されていたのよ」
そこで、うっとりと幸せそうな笑みを浮かべる王女の気持ちがわからない。
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