131 / 133
◆◇第一幕◇◆ 時空の監視者の愛情は伝わらない
あなたに背を向ける痛み
しおりを挟む
自分の意志で立ち上がり、バルドゥールに背を向けた途端、私は振り返って、彼の胸に飛び込みたい衝動に駆られた。
やっぱり嫌だと。離れたくないと、子供のように泣きじゃくりながら、彼に助けてと縋りつきたかった。
……でも、できない。
だってバルドゥールは、怪我を負っている。それは私のせい。私を守ろうとしたせいで。
そんな彼に、私は無理難題を言えるわけがない。それに何より、彼の元から去ることを選んだのは他ならぬ自分自身。
だから絶対に、振り返るわけにはいかない。振り返ってはいけないのだ。
「アカリ」
そう自分に言い聞かせて、一歩踏み出した途端、バルドゥールが私の名を紡ぐ。ありったけの感情を凝縮した声音で。
それを無視して更に一歩進めば、心の中の大切な何かをむしり取られてしまったような気がした。
私と王女が並んで歩き始めれは、騒がしかったこの部屋は、一気に静寂に包まれる。
「───………アカリさま」
扉へ向かう途中、フェイネが今にも泣きそうな声で私の名を呼ぶ。
良く見ればリュクスもエルガーも同じ表情を浮かべている。もっと言うならば、衛兵達はとても戸惑っていて、複雑な表情を浮かべている。
そんな彼らに向かい、私はにこりと笑みを向ける。そうすれば、時空の監視者達は更に顔を歪めてしまった。
上手く笑えなかったのだろうか。少し不安になる。ただ、フェイネやエルガーがそういう表情を浮かべるのは、なんとなくわかる。
けれど、リュクスまでそんな顔をするのは予想外だった。できれば彼だけは、なんでもないといった感じで笑っていてほしかった。
「アカリ、よそ見をしないでっ」
突然、横から鋭い声がしたかと思えば、力任せに腕を引かれてしまった。
ただでさえ、足枷を付けられ歩きにくいのに、そうされればよろめいてしまうのは仕方がない。
ふらついた足を踏ん張り、なんとか体勢を維持した途端、今度は王女は私の腕に自分の腕を絡ませる。……とても、歩きにくい。
私の足に嵌められている枷は鎖が付いているけれど、その長さは肩幅もない。
しかも今まで来たことも無い裾の長い服を着ている状態で。それだけでも歩行が困難だというのに、王女ががっしりと腕を絡ませているせいで、スカートの裾を持ち上げることもできない。まさに三重苦。
でも、私は躓くことなどできるわけがない。凛とした態度でいなければならない。
バルドゥールに強引な約束を取り付け、自分から王女と共にここを去ることを選んだのだ。なのに、大転倒などしたら、元も子もない。間違いなくあの人はここへ駆けつけてしまうだろう。
ただ、大切なあの人をいとも簡単に傷つけた王女の手が、自分に触れていることに得も言われぬ不快感を持つ。今すぐ突き飛ばしたい衝動に駆られる。
「アカリ、私、あなたと一緒に居ることができて、とっても嬉しいわ」
感情を逆なでするような、王女の鈴を転がしたような笑い声が耳朶を刺す。
その声は、うっとりとした甘えにも似ていて、どことなく母の声にも似ている。
……ああ、また捕まってしまった。
逃げて逃げて、やっと見つけた自分の居場所が奪われてしまったような気がしてならない。そして、憂鬱で絶望的な気分が体中に広がる。
再び、身体がくらりと揺れる。胸の中にある黒い感情が暴れ出す。それは懐かしさにも似た恐怖。
「さぁアカリ、出口はこっちよ」
王女は自分の腕を私の腕に絡めたまま、軽く引く。
そして私は王女に引きずられるように、この暖かく優しかった空間から外に出る。王女にとったらそこは出口かもしれないけれど、私にとったら地獄の入口だ。そんなことを思いながら。
されるがまま、庭園の中にある渡り廊下を歩いていたけれど、私はもう限界だった。
「ナシャータさま、少し離れていただけますか?」
ピタリと足を止めて、きつい口調でそう言った私に、王女はきょとんと眼を丸くした。
「なぜ?」
まるで理解できないといった感じのその表情を見て、思わずその頬を張り倒したくなる。でも、前後には衛兵がいるし、すぐ隣にはマディアスがいる。
「とても、歩きにくいからです」
端的に説明した後、これ見よがしに両手の枷を王女に見せつければ、何故か王女は信じられないといった表情に変わった。
「どうしてアカリにこんなものを付けているの!?誰がっ。酷いっ」
「………はぁ?」
もう、王族相手だから不敬は許されないといった感情など捨てて、露骨に顔をしかめてみる。
でも、王女はそんな私を捨て置いて、マディアスにきつい口調で詰め寄った。
「アカリのこれ、今、すぐに外してちょうだいっ」
金切り声を上げる王女を見て、マディアスは困惑した表情を浮かべる。
その気持ちは良くわかる。だって、王女は私が枷を嵌められた経緯をちゃんと見ていたはずなのに、今の態度は、初めて知ったようなそれ。しかも、演技ではなく、本気のご様子だ。
……この少女、やっぱり、おかしい。言葉を選ばずに言うなら、狂っている。
理解できない王女の言動に、ぞわりと怖気が走る。視界の端に、見てはいけないものを見てしまったような表情を浮かべる衛兵たちの姿が映る。
けれど、マディアスだけは至って冷静だった。
「もちろん、すぐに外します。ただ王女、一旦、ここで別行動にしましょう」
「嫌よっ。私、アカリとずっと一緒にいるわっ。ねえ、それよりも前に、アカリの枷を外してあげてっ」
駄々をこねる子供のように、王女は今にも地団駄を踏み鳴らさんばかりの勢いだ。
でも、そういう王女の仕草は慣れているのだろう。マディアスは苦笑を浮かべながら膝を折り、王女と視線を合わせる。
「王女、私の言うことを聞いてください。あなたがここに居るのがわかれば、後々厄介なことになるでしょう?今日はこっそり見るだけと約束したのをお忘れですか?」
「嫌っ。私、誰に何て言われたって良いわっ」
「………困りましたね。ああ、そうです、そうです。王女、仕立て屋がそろそろ到着されますよ。お揃いのドレスをお作りになられるのでしょう?生地だけでも選んでおかなければ、完成までにお時間が掛かってしまいますよ?」
瞬間、王女は、あっと短く声を上げた。そしてすぐさま、笑顔になる。
「そうね、そうだったわ。じゃあ、アカリ。私はドレスの生地を選んでくるから、ちょっとここでお別れね。でも、安心して、すぐにまた会えるから。でも、何色のドレスにしようかしら?………ねえ、アカリは何色のドレスが好き?私は───」
「王女、水色でいかがでしょうか?あなたの一番好きなお色をお揃いで、お作りなさい」
不可解な王女の問い掛けを遮ったのは、マディアスだった。
きっと、このまま王女を放置していたらいつまで経ってもここから動かないと判断したのだろう。そして、その切り出し方は正解だったようで、王女は素直にマディアスの言葉に頷き、パタパタとどこかへと消えて行った。
それからすぐ、厄介事が一つ片付いたといった感じで息を付いたマディアスは、次に私に目を向ける。
その視線は王女に向けるものとは真逆の汚らしいものをみる目つきだった。
「さて、と。───…………連れていけ」
「………………っ」
押し出されるように歩き始めた瞬間、私は石畳の段差に足を取られ、派手に転倒してしまった。
慌てて身を起こそうとしたけれど、足首に激痛が走り、うっと呻いてしまう。こんな時まで私の足を引っ張る枷が憎らしい。
そんなみっともなく崩れ落ちたままの私に、マディアスは侮蔑の視線を投げる。
「ったく、一人で歩くことすらできないんですか?私は時空の監視者と違ってあなたを抱きかかえて運ぶような悪趣味はことはしませんよ」
意地悪く私を見下ろすクズ野郎に、思わず唾を投げつけたくなる。
でもその瞬間、少し離れた場所でのんびりと歩いてくる、揃いのお仕着せを身に付けた侍女達を視界に納めた。
マディアスは私を拘束するのを極秘にしたいのは、もう間違いない。
なら、ここで誰かに目撃されたなら───そう思った時には、私は肺いっぱいに空気を吸い込んでいた。
「すいませっ────……痛っ」
露骨な舌打ちが聞こえた途端、頭部に衝撃が走る。次いで感じる、頭皮の痛み。少し遅れて、マディアスが力任せに私の髪を掴み上げたのを知った。
「小娘が、いちいち腹の立つことをしてくれますね」
更に髪を掴まれ、私は不本意ながら膝立ちを強要される。
そしてマディアスは、私の髪を掴んだまま、空いている方の手で懐から小さな小瓶を取り出した。そしてそれも器用に片手で開ける。
「殺さないよう、傷つけないよう、私も、そこそこ気を使っていましたが、もう面倒です。さっさとこれを飲んでください」
口元に小瓶を近づけられれば、刺激臭が鼻を突く。
クズ野郎が持参したものなど、ロクなもんじゃないことに気付いている私は、誰が飲むものかと睨みつけて頑として口を開けることはしない。
でも、いきなり鼻を押さられてしまえば、呼吸は不可能で、あっという間に息苦しくなる。
「───………はぁ……っ!?」
酸素を肺に送りこみたくて、無意識に口を開けてしまったその拍子に、マディアスは薬品の入った小瓶を私の口にねじ込んだ。そして勢い良く瓶の中身を注がれ、私は反射的に飲み込んでしまう。
時すでに遅いと思っても、嫌だと首を振り、マディアスから距離を取ろうともがく。ただ、その拍子にバルドゥールから贈られた髪飾りが、するりと髪から抜け石畳に落ちてしまった。
カシャンと冷たい金属音を立てて床に叩きつけられてしまったそれを取り上げようと、必死に手を伸ばす。
けれど、視界がぐにゃりと歪む。次いでみるみるうちに暗闇に包まれてしまい………………私は意識を失ってしまった。
やっぱり嫌だと。離れたくないと、子供のように泣きじゃくりながら、彼に助けてと縋りつきたかった。
……でも、できない。
だってバルドゥールは、怪我を負っている。それは私のせい。私を守ろうとしたせいで。
そんな彼に、私は無理難題を言えるわけがない。それに何より、彼の元から去ることを選んだのは他ならぬ自分自身。
だから絶対に、振り返るわけにはいかない。振り返ってはいけないのだ。
「アカリ」
そう自分に言い聞かせて、一歩踏み出した途端、バルドゥールが私の名を紡ぐ。ありったけの感情を凝縮した声音で。
それを無視して更に一歩進めば、心の中の大切な何かをむしり取られてしまったような気がした。
私と王女が並んで歩き始めれは、騒がしかったこの部屋は、一気に静寂に包まれる。
「───………アカリさま」
扉へ向かう途中、フェイネが今にも泣きそうな声で私の名を呼ぶ。
良く見ればリュクスもエルガーも同じ表情を浮かべている。もっと言うならば、衛兵達はとても戸惑っていて、複雑な表情を浮かべている。
そんな彼らに向かい、私はにこりと笑みを向ける。そうすれば、時空の監視者達は更に顔を歪めてしまった。
上手く笑えなかったのだろうか。少し不安になる。ただ、フェイネやエルガーがそういう表情を浮かべるのは、なんとなくわかる。
けれど、リュクスまでそんな顔をするのは予想外だった。できれば彼だけは、なんでもないといった感じで笑っていてほしかった。
「アカリ、よそ見をしないでっ」
突然、横から鋭い声がしたかと思えば、力任せに腕を引かれてしまった。
ただでさえ、足枷を付けられ歩きにくいのに、そうされればよろめいてしまうのは仕方がない。
ふらついた足を踏ん張り、なんとか体勢を維持した途端、今度は王女は私の腕に自分の腕を絡ませる。……とても、歩きにくい。
私の足に嵌められている枷は鎖が付いているけれど、その長さは肩幅もない。
しかも今まで来たことも無い裾の長い服を着ている状態で。それだけでも歩行が困難だというのに、王女ががっしりと腕を絡ませているせいで、スカートの裾を持ち上げることもできない。まさに三重苦。
でも、私は躓くことなどできるわけがない。凛とした態度でいなければならない。
バルドゥールに強引な約束を取り付け、自分から王女と共にここを去ることを選んだのだ。なのに、大転倒などしたら、元も子もない。間違いなくあの人はここへ駆けつけてしまうだろう。
ただ、大切なあの人をいとも簡単に傷つけた王女の手が、自分に触れていることに得も言われぬ不快感を持つ。今すぐ突き飛ばしたい衝動に駆られる。
「アカリ、私、あなたと一緒に居ることができて、とっても嬉しいわ」
感情を逆なでするような、王女の鈴を転がしたような笑い声が耳朶を刺す。
その声は、うっとりとした甘えにも似ていて、どことなく母の声にも似ている。
……ああ、また捕まってしまった。
逃げて逃げて、やっと見つけた自分の居場所が奪われてしまったような気がしてならない。そして、憂鬱で絶望的な気分が体中に広がる。
再び、身体がくらりと揺れる。胸の中にある黒い感情が暴れ出す。それは懐かしさにも似た恐怖。
「さぁアカリ、出口はこっちよ」
王女は自分の腕を私の腕に絡めたまま、軽く引く。
そして私は王女に引きずられるように、この暖かく優しかった空間から外に出る。王女にとったらそこは出口かもしれないけれど、私にとったら地獄の入口だ。そんなことを思いながら。
されるがまま、庭園の中にある渡り廊下を歩いていたけれど、私はもう限界だった。
「ナシャータさま、少し離れていただけますか?」
ピタリと足を止めて、きつい口調でそう言った私に、王女はきょとんと眼を丸くした。
「なぜ?」
まるで理解できないといった感じのその表情を見て、思わずその頬を張り倒したくなる。でも、前後には衛兵がいるし、すぐ隣にはマディアスがいる。
「とても、歩きにくいからです」
端的に説明した後、これ見よがしに両手の枷を王女に見せつければ、何故か王女は信じられないといった表情に変わった。
「どうしてアカリにこんなものを付けているの!?誰がっ。酷いっ」
「………はぁ?」
もう、王族相手だから不敬は許されないといった感情など捨てて、露骨に顔をしかめてみる。
でも、王女はそんな私を捨て置いて、マディアスにきつい口調で詰め寄った。
「アカリのこれ、今、すぐに外してちょうだいっ」
金切り声を上げる王女を見て、マディアスは困惑した表情を浮かべる。
その気持ちは良くわかる。だって、王女は私が枷を嵌められた経緯をちゃんと見ていたはずなのに、今の態度は、初めて知ったようなそれ。しかも、演技ではなく、本気のご様子だ。
……この少女、やっぱり、おかしい。言葉を選ばずに言うなら、狂っている。
理解できない王女の言動に、ぞわりと怖気が走る。視界の端に、見てはいけないものを見てしまったような表情を浮かべる衛兵たちの姿が映る。
けれど、マディアスだけは至って冷静だった。
「もちろん、すぐに外します。ただ王女、一旦、ここで別行動にしましょう」
「嫌よっ。私、アカリとずっと一緒にいるわっ。ねえ、それよりも前に、アカリの枷を外してあげてっ」
駄々をこねる子供のように、王女は今にも地団駄を踏み鳴らさんばかりの勢いだ。
でも、そういう王女の仕草は慣れているのだろう。マディアスは苦笑を浮かべながら膝を折り、王女と視線を合わせる。
「王女、私の言うことを聞いてください。あなたがここに居るのがわかれば、後々厄介なことになるでしょう?今日はこっそり見るだけと約束したのをお忘れですか?」
「嫌っ。私、誰に何て言われたって良いわっ」
「………困りましたね。ああ、そうです、そうです。王女、仕立て屋がそろそろ到着されますよ。お揃いのドレスをお作りになられるのでしょう?生地だけでも選んでおかなければ、完成までにお時間が掛かってしまいますよ?」
瞬間、王女は、あっと短く声を上げた。そしてすぐさま、笑顔になる。
「そうね、そうだったわ。じゃあ、アカリ。私はドレスの生地を選んでくるから、ちょっとここでお別れね。でも、安心して、すぐにまた会えるから。でも、何色のドレスにしようかしら?………ねえ、アカリは何色のドレスが好き?私は───」
「王女、水色でいかがでしょうか?あなたの一番好きなお色をお揃いで、お作りなさい」
不可解な王女の問い掛けを遮ったのは、マディアスだった。
きっと、このまま王女を放置していたらいつまで経ってもここから動かないと判断したのだろう。そして、その切り出し方は正解だったようで、王女は素直にマディアスの言葉に頷き、パタパタとどこかへと消えて行った。
それからすぐ、厄介事が一つ片付いたといった感じで息を付いたマディアスは、次に私に目を向ける。
その視線は王女に向けるものとは真逆の汚らしいものをみる目つきだった。
「さて、と。───…………連れていけ」
「………………っ」
押し出されるように歩き始めた瞬間、私は石畳の段差に足を取られ、派手に転倒してしまった。
慌てて身を起こそうとしたけれど、足首に激痛が走り、うっと呻いてしまう。こんな時まで私の足を引っ張る枷が憎らしい。
そんなみっともなく崩れ落ちたままの私に、マディアスは侮蔑の視線を投げる。
「ったく、一人で歩くことすらできないんですか?私は時空の監視者と違ってあなたを抱きかかえて運ぶような悪趣味はことはしませんよ」
意地悪く私を見下ろすクズ野郎に、思わず唾を投げつけたくなる。
でもその瞬間、少し離れた場所でのんびりと歩いてくる、揃いのお仕着せを身に付けた侍女達を視界に納めた。
マディアスは私を拘束するのを極秘にしたいのは、もう間違いない。
なら、ここで誰かに目撃されたなら───そう思った時には、私は肺いっぱいに空気を吸い込んでいた。
「すいませっ────……痛っ」
露骨な舌打ちが聞こえた途端、頭部に衝撃が走る。次いで感じる、頭皮の痛み。少し遅れて、マディアスが力任せに私の髪を掴み上げたのを知った。
「小娘が、いちいち腹の立つことをしてくれますね」
更に髪を掴まれ、私は不本意ながら膝立ちを強要される。
そしてマディアスは、私の髪を掴んだまま、空いている方の手で懐から小さな小瓶を取り出した。そしてそれも器用に片手で開ける。
「殺さないよう、傷つけないよう、私も、そこそこ気を使っていましたが、もう面倒です。さっさとこれを飲んでください」
口元に小瓶を近づけられれば、刺激臭が鼻を突く。
クズ野郎が持参したものなど、ロクなもんじゃないことに気付いている私は、誰が飲むものかと睨みつけて頑として口を開けることはしない。
でも、いきなり鼻を押さられてしまえば、呼吸は不可能で、あっという間に息苦しくなる。
「───………はぁ……っ!?」
酸素を肺に送りこみたくて、無意識に口を開けてしまったその拍子に、マディアスは薬品の入った小瓶を私の口にねじ込んだ。そして勢い良く瓶の中身を注がれ、私は反射的に飲み込んでしまう。
時すでに遅いと思っても、嫌だと首を振り、マディアスから距離を取ろうともがく。ただ、その拍子にバルドゥールから贈られた髪飾りが、するりと髪から抜け石畳に落ちてしまった。
カシャンと冷たい金属音を立てて床に叩きつけられてしまったそれを取り上げようと、必死に手を伸ばす。
けれど、視界がぐにゃりと歪む。次いでみるみるうちに暗闇に包まれてしまい………………私は意識を失ってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
答えられません、国家機密ですから
ととせ
恋愛
フェルディ男爵は「国家機密」を継承する特別な家だ。その後継であるジェシカは、伯爵邸のガゼボで令息セイルと向き合っていた。彼はジェシカを愛してると言うが、本当に欲しているのは「国家機密」であるのは明白。全てに疲れ果てていたジェシカは、一つの決断を彼に迫る。
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる